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君と子孫を残したい  作者: 丸山ウサギ
第四章 バグザード(ナウム動乱:後編)
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一話 しらないもの①

 周囲には諦められていたのじゃろうなぁ。

 わしも、戦士としてランマウに赴く覚悟はできていたのじゃ。

 五百も生きておれば生に対する執着などないわい。

 しかし、それは叶わなんかった。

 一人前でないわしは、良くて本につく虫と同じなのじゃろう。

 


 男のような言葉遣い。

 年齢と共に長くなっていく尻尾。

 そんなわしとツガイになろうと言うものは誰一人としておらん。



 ロウフォドリーにとって、子供と言うものは様々な角度から眺める綺麗な石であるという。

 ロウフォドリーにとって、男と交わす愛はひどく純粋で、狂おしい程に尊いものであるという。

 しかし、わしはそんなものは知らん……。



 ロウフォドリーの女は男の命を喰らい、一人前となる。

 

 

 そして今、そんなわしの前に、一人の男が現れたのじゃ。

 五百と十年待ったわしの……、わしだけの男じゃ。




 ◇ ◇ ◇




 俺はコアの服をはだけ胸部を開き、内部の機械部分を調査する。

 リノちゃんはバグザードコアの前で作業をしているそんな俺を、じっと見つめていた。

 クエリでコアのデータを吸い出そうと試みるのだが……。



「だめだな、厳重にデータがロックがされている。しかし、コイツはとんでもなく古いな」

「バグザードは神話にも名前が出ていると言うたじゃろう」



 神話に名前が出てくるというのも頷ける。

 これは第一世代、恐らく人を超越した”人”を作り出そうとした最初期のプロトタイプなのだろう。

 俺がデータで持っている第一世代機の設計図より古い。

 以前少し調べたバグザードは第三世代だった。コアのプロテクトが厳重ならバグザードの方から調べた方が手掛かりがつかめるかもしれないな。

 俺はバグザードコアの服を正すと、リノちゃんは彼女の栗色の髪をブラシですいていく。



「リノちゃん、この子は普段バグザードから取り外されている状態なのかい?」

「そうじゃ、そのくだりは神話として残されておる。バグザードはとてつもなく古い重偶像騎士シーエイゼなのじゃ、古には神として崇められておった。度々癇癪をおこして、他の神と争いを起こしていたという。アッシネ山脈の一部が欠けているのは、バグザードが蹴り飛ばしたせいだと言われておるのじゃよ。その後、暴れる神に手を焼いた神官が、バグザードが寝ている間に心と体を引き離したという。今目の前にあるのが、その”心”じゃよ」



 バグザードは第三世代機。手動操縦でも動くように設計はされている。

 シエリーゼの様にコアが無くても操縦方法を知っていれば昔でも問題なく動いたはずだ。



「なるほど、そんな神話があるのか。トートが怖がる訳だぜ。……それじゃ心と体を一緒にするとどうなるんだい? 何度か過去に試した人がいたんじゃないか?」

「うむ。心を乗せた途端に、暴れだすという言い伝えであってな。いくつかの戦でバグザードが使われたという記録が残っているのじゃ。じゃからバグザードの字名は”狂乱”なのじゃよ。……戦いでは勝利を必ず収めるが、自軍も少なくない被害を受ける。余談じゃがそんなバグザードを戦で使う古の国は、民の信頼を失い衰退していったと伝えられるのじゃ」



 コアの意識は今は覚醒していない。

 本体に乗せた際に何か仕掛けがしてあるのかもしれないな。

 やっぱりバグザードの方を調べるのが早いか。



「……リノちゃんはこのバグザードコアをどうしたいんだい?」

「神話にはもう一つある。バグザードは心優しき神であったという言い伝えじゃ。本来の心を取り戻せば、世界を救う神になるという言い伝えじゃよ。わしはその伝説の再現をしてみたいと思うのじゃ。……こんな時代だからのぅ」



 そう言うとリノちゃんは、バグザードコアの頭を優しく撫でる。



「この通り、コアは人の形をした人形じゃ。しかし幼い子供の姿でもある。わしはな、この子にも心があると思うのじゃよ」

「ああ、封印処置がされているが。生きてるぜこの子は」

「そうか、起こしてやることはできぬか? わしは変わらぬのは孤独だけじゃと言ったがの、この子も五百年の間変わってはおらぬ。わしの目の前でこのように沈黙を続けているだけじゃ」



 なんとなく分かるなその気持ち。

 リノちゃんにとっては昔からの”大切な人”なのかもしれない。



「一応データリンクしたから総当たりで解除プログラムを流してみるよ」

「おお、なんと! それでは動くのか?!」

「ん~分からないな。クエリ次第だけど……、明日かもしれないし、ずっとこのままかもしれない」



 リノちゃんは顔をほころばせる。そういえばリノちゃんはあまり笑わないよな。

 バグザードコアを起動させることが出来れば、彼女の孤独が少しだけ埋まるのかもしれない。



「ちょっと頑張ってみるよ。だけどリノちゃん、恐らくだけどコイツはバグザードの本当のコアじゃないな」

「なんじゃと、それはまことかッ?」

「作られた世代が違うからね。他にも理由があるけど、後からバグザードに乗せられたのかもしれないよ」

「むぅ、その情報だけでも衝撃的すぎるわい。まぁ、コアの方はゆっくりとで良いぞ? 妖精の鱗粉に対する対抗策が急務じゃからな」

「わかったよ。リノちゃん」



 リノちゃんは嬉しそうに笑みを浮かべると、もう一度バグザードコアをなでる。

 きっとこの子も目覚めるのを待ってるのかもしれないな。

 なんとなく二人を見つめていると、そんな風に感じ取れたのだった。




 ◇ ◇ ◇




 俺とリノちゃんはいつもの工房に戻ると、一室にこもり今後の行動方針をまとめることにした。



「うむ、オフスよ何か方針があれば聞いておこうと思うのじゃ、何か用意できるものがあるやもしれぬからな」



 目の前にはリノちゃんが用意してくれた甘いお菓子に、リノちゃんのいれてくれたお茶がある。

 ロウフォドリーのお菓子は非常に美味しいとアイリュから聞いているので、食べてみるのが楽しみだぜ。

 お菓子を少し我慢して、俺はリノちゃんに思い描いていた計画を素直に話してみる。



「リノちゃん。この前のブルツサルみたいな妖精の鱗粉に対抗しようと思ったら、先ず”魔力”が大量に必要になるよ。そうでないと必要な量の虚子エレボスが発生させられない。偶然かもしれないけどヒェクナーに搭載した新旧の動力炉の同時運用はなかなか良かったんだ。もの凄い魔力が得られたよ。まずはそれを再現して”魔力”を得る事を目標にしようと思う。次に虚子エレボス発生器だな、この星の今の技術では再現不可能だ。何となくだけど、俺はこの世界の魔術ガルで応用できるんじゃないかと思っている。要は魔力(霊子エネルギー)の変質だからな」



 俺は目の前のピンク色の焼き菓子を一つ手に取り口に入れる。

 サクサクで、中はホロホロ舌で溶けるような感触。仄かにバニラのような甘い香りがする。

 お茶で飲み干すと思わず笑みがこぼれるほど、香りがリフレインしてきた。

 なるほど、これはアイリュが絶賛するわけだ。



「ふむ、なるほどのぅ。それでは早速スケジュール調整とある程度の研究員、作業員の手配をしておこうかの」



 手元の紙にメモを書くと、リノちゃんはしきりに工数計算を始める。



「あと一つだけ」

「なんじゃの?」



 リノちゃんは、身を乗り出し俺の顔をまじまじと見てくる。

 机の上に大きな胸が乗っているのだが、本人は気が付いていないのか?

 すごい強調されていて目のやり場に困るんだが……。



「ブ、ブルツサルを俺にくれないかな?」

「くれも何も、トートから勝ち取って既にお主のモノじゃろう。しかしあんな残骸をどうするんじゃ? 駐騎場に置いてはあるが」

「ほら、他にも駐騎場とかには色々偶像騎士(シエイゼ)の残骸があるだろ? あれで一機、重偶像騎士シーエイゼを組み上げようと思うんだ。実験機が必要だろう?」

「ブルツサルのメインコアはないぞ? 痕跡から見て、あのブルツサルは偶像巨人スヴィッグじゃろう。仮に重偶像騎士シーエイゼを作れても動かせんぞ。どうするんじゃ?」

「バグザードと同じ操縦桿での動作方式にするよ。実験機でテストして問題がなかったら。オーヴェズを改修してそれを手順化しようと思う。オーヴェズは装甲が無いからやりやすいだろ?」

「なるほどのう。オフスならば制御も自前で作れてしまう訳か。まぁ、手順化までやらねば新技術は売れんな。それも手配しておくとしよう」



 リノちゃんは、また紙に思いついたアイディアなどを書き留めている。



「そうだ、リノちゃんちょっと個人的なお願いがあるんだけどいいかい? 俺、リノちゃんをもっと理解したいんだ」

「なんじゃ?」



 リノちゃんはジト目で俺を見据える。



「……わしの胸ばかり見おってからに」



 さっきの目線、完全に気が付かれてるじゃねぇか。



 だけど、俺のお願いは真面目な動機だ。……と思う。

 もしかしたら、少しだけ不純な動機なのかもしれない。

 リノちゃんの胸から目を逸らし、そんな事を俺は思っていた。




 ◇ ◇ ◇




 リノちゃんはティーカップの赤い液体に口をつける。

 顔をしかめ、鼻をつまみそのまま一気に飲み干した。

 これは俺の体内にある治療用のナノマシンを移植する行為だ。

 ティーカップの中には俺の血が少量注がれていた。



「飲み干したぞ? お主のお願いはこれでよいのか?」

「ああ、ありがとう。ナノマシンが定着するまでは数日かかるはずだ。あとこれを着けておいてくれ」

「ん? なんじゃこれは?」



 それは俺が設計して実体化させた霊子機器の詰まったチョーカーだ。

 リーヴィルの左目と同じように簡単な通信機能と治療用ナノマシンの制御機能が備えてある。

 クエリがラピスにインストールされていないと、この世界の人類は自身の生体機能を十分に活用できない。

 それを補うのも目的だ。

 それに、いつでもリノちゃんが近くに感じられるというのは、俺にとって安心感があるのだ。



「これを首に巻いておいてくれ。ナノマシンの安定化とリノちゃんの声を俺に届けられるようになるんだ」

「ふむ、神代の技術か? 身につけるクエリ殿と言うところかの?」

「まぁ、そう言う感じかな? クエリに話しかければ答えてくれるかもしれないな。ちなみに俺から十キロが有効圏内だ」



 リノちゃんはチョーカーを首に巻く。

 俺のラピスとリンクして、リノちゃんの生体基礎情報が流れ込んでくる。

 これでリーヴィルのジケロスの情報、マイシャのエランゼの情報、リノちゃんのロウフォドリーの情報が手に入ったわけか。

 得られた情報を元に、リノちゃんのチョーカーのプログラムを更新しておく。

 いざという時に、役に立つだろう。



「心得たのじゃ、これでわしもお主の眷属と言うわけじゃの」

「眷属?」

「ニーヴァは伴侶に血を与え、眷属にするという。わしもお主の眷属になるのかと思ったのじゃが……」

「眷属なんて大げさな物じゃないよ。リノちゃんへの恩恵は、自分自身が本来持つ生体機能の活性化さ。怪我や病気をしたときの治りが早かったり、痛みが軽減されたりとかそんなことが出来るんだよ」

「うむ、素晴らしい贈り物ではないか」



 リノちゃんは俺に微笑んでくれる。



「でもさ、眷属って言い方をするなんてちょっと変じゃないか? リノちゃんは俺の眷属になる覚悟をしてたみたいじゃないか」

「そうじゃよ? 血を与えると言う事はニーヴァの婚姻の誓いでもあるのじゃ」



 マジか?! そうだったのか……。

 リノちゃんはその言葉に付け加える。



「わしはお主といつまでも一緒でありたいと思うのじゃよ。心地よい距離を保ちながらな」



 違う。俺はそう思う。

 リノちゃんの祈りは俺に届いていた。



 『自分一人で沢山祈り続けるより、時として他人の祈りも力になるものじゃ』



 そう彼女は祈っていた。

 それは俺とリノちゃん自身に向けられた祈りだった。

 リノちゃんは自分自身が抱えている悩みに、気がついて欲しいんじゃないのか?



「リノちゃん。俺は聞こえていたよ。宇宙そらで、君の祈りを。だから俺は……」

「なればこそじゃ、今はこのままでよいとは思わんか」



 ……まだその時じゃないのかもしれない。

 時間をかけないと俺の声はまだ彼女に届かないのだろう。

 リノちゃんは、制服のスカートのポケットから何かを取り出す。



「のう、オフスよ。わしも贈り物をしようと思うのじゃ」



 リノちゃんが手を広げると、細工がされた金属製の首飾りが俺に手渡される。

 精緻な細工がされており、首紐の部分は二重の金属の鎖が絡み合っていた。



「首飾りかい?」

「うむ、ロウフォドリーの首飾りじゃ。妻となると決めた者は未来の夫に首飾りを送るのじゃよ。まぁエランゼの様に、婚約の証じゃと思えば良かろう」

「リノちゃんそれって……」

「勘違いするでないぞ? わしはマナフォドリーを裏切ることはできん。じゃがわしは、いつかお前がわしの夫となる男だと思うておる。そう言う事じゃ」

「嬉しいよリノちゃん、大切にする」



 俺はそれを早速首に首に着ける。

 それを見たリノちゃんはすぐに俺が見ても分かるほど、顔を赤くした。

 そして目を細め笑う。



「お主はそれを身に着けているだけで良い。それ以上は知らなくて良いのじゃ」

「わかったよ、リノちゃん」

「うむ! 明日からわしの個人授業じゃぞ? ビシビシ行くから覚悟せい?」

「ああ、助かるよ。リノちゃん先生」



 リノちゃんは満足そうだ。

 なんとなく、俺もリノちゃんとのこの距離が心地よく感じる。

 焦らなくても良いのかもしれない。

 そんな風に、今は思えた。


2020/7/14 誤字修正しました。

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