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君と子孫を残したい  作者: 丸山ウサギ
一章 シエリーゼ (帰還編)
3/184

零話 西暦二千三百年

 この広い宇宙で。

 俺は独りぼっちなのかもしれない。

 だけど、俺はまだ見ぬ君と子孫を残したいと思う。



 

 ◇ ◇ ◇




 エロのない人生ほど虚しいものは無い。

 明日から夏休み、俺は帰宅後自分のベッドに仰向けになり、空中に浮かぶホログラフ端末を長時間指先で操作しながら何度目かのため息をついていた。

 ホログラフの画面には”未成年閲覧禁止”の文字が大きく映し出されている。

 いや、確かにそういう動画を閲覧しようとしたけど……、そうなんだけど!



「はぁ……」



 ため息をついても結果は変わらない。

 でもそれも今日までだ。

 俺は明日で十六歳となる。十六歳となれば立派な成人だ。

 二百年ほど前は二十歳で成人だと言われていたが、それは産業革命や情報革命時代の話。

 それから素材革命、宇宙革命、生体革命といくつもの革命が起こっている。

 西暦二千三百年の今では十六歳が立派な成人なのだ。

 成人さえしてしまえば、忌まわしいこの規制の嵐から逃れることができるだろう。

 特にエロの規制に関しては父親がうるさい。

 何かと『想像力を育め』とか『イメージは地球を救う』とか言ってくる割には、エロに関しての規制は非常に厳しいのだ。

 いやほんと、同年の友達なんかは異性のガイノイドなんか普通に持ってたりする。

 メイドさん遊びやらいろんな意味で、自分よりワンランク上の生活を満喫してる話はそれこそ飽きるほど聞かされているのだ。



「うわぁぁッ! 俺もメイドさんごっごしてぇぇぇ!!!」



 抑えきれない感情を爆発させベッドで一人叫ぶ。すごい虚しい。

 理由は分かっているんだ。

 こんな悶々とした青春なんて、同じ年で誰も体験したこと無いんじゃないか?

 解脱して悟りでも開けてしまいそうだ。

 俺には彼女が欲しくても出来ない。

 どうも俺は本音がストレートすぎるようだ、加えてお調子者の要素もあるのだろう、まったく女子は寄り付かない。

 まぁ、他にも生まれ的な理由があるんだけどさ。

 見た目は一応それなりだとは思っている。

 しばらくするとドタドタと足音がして自室のドアが開き、三つ下の妹が入ってきた。



「この変態兄貴め、タヒね!」



 扉があいた瞬間、要領よくまとまった簡潔なセリフと共に扉が勢いよく締まる。

 妹も多感なお年頃なのだろうか、いや俺もだいぶ多感だよ?信じてよ?

 ちきしょう。明日は、成人の日。

 成人文化センターで成人の手続きをする日。

 こんな悶々とした日も今日限りだと思えば、なんだか笑って許せるような気がなんだかしてきた。

 こんな苦い思い出も、いつかは甘い思い出に変わっていくはずだ!

 だが慌てるな俺の青春、明日からの生活が激変するのは間違いないだろう、その前にいつもの日課を終わらせるとしようか。



 思い立った俺は鍵のかかった机の引き出しから一抱えほどある箱を取り出す。

 この中に俺だけのメイドさんが入っているのだ。

 正確に言うと、メイドさんになる予定の身長十五センチほどのアンドロイドの素体だ。

 もう少し正確に言うとコイツはまだ仮組状態の未完成品だ。

 学業目的で買ってもらった金属対応3Dプリンターで、こつこつパーツを生成してきた。

 もちろん設計は完全オリジナル。

 エロがなければ俺が創ればいいんじゃん! やべ俺天才。



 端末から二百年前の旧文学の資料を引っ張り出してくる。

 この資料のファイル群はドウジン、とかライトノベルとか言われていた旧社会の遺品だ。

 こういう旧時代の文学作品には規制はかからないのだろう。

 俺はその手の資料をネットワークから大量に発掘している。

 長く読み続けられるものは時代が変わっても面白いってことだよな。

 資料を基に造詣や動きをチェックする。

 ふむ、今日は最後に残っていた右手の調整をするか。

 俺は箱から出したメイド一号(仮)に通信フォーカスを合わせ、起動パスワードを唱える……。



三国一ミクニハジメ



 これは俺の名前だ。

 三国一サンゴクイチなんてちょっとかっこいいだろう? なんて思ってた時期も過去にはありましたさ。

 パスワードは心で唱える。口に出す必要は無い。

 生体革命の一環で、俺たちの体には”ラピス”と呼ばれる結晶体が胸骨のあたりにインプラントされている。

 小指の先ほどの大きさで、青いガラス玉のような物だ。

 これはコンピュータの役割をしていて、中に閉じ込められた光の反射で演算が行われている。

 大昔でいうスマートフォンの役割をしてくれているのだ。

 こんな便利なものが昔は体の外にあったなんて不便すぎるよな?

 イメージするだけで、人の心と情報が結びつく、それがラピスだ。



 パスワードの通信を受けたメイド一号(仮)は体を少し震わせスタンバイモードに入った。

 さっそく自分の右指と連動させ、動きを調整する。これもラピスを介しての動作だ。

 少し前の世代はラピスへの信号送信は脳波や神経信号を拾うというシステムだった。

 しかし最近は人の”魂”を直接読み取る仕組み”霊子変換システム”へと進化している。

 だからなのかも知れないが、今の時代は”霊子革命時代”なんて言われはじめてるのだ。



 実は明日の成人文化センターの手続きもそんな革命の産物だ。

 成人の手続きとは”人の魂のコピー”を取り政府が認証する手続きなのだ。

 成人の正式な手続きを経てラピスの制限が解かれ、俺たちは物質社会から情報社会へ身をゆだね、大人になっていく。

 ゆくゆくは昔の映画の様に、最近実用化に入った量子コンピュータの中で生活する人類も現れるんじゃないだろうかと思う。



 魂のコピーを取るなんて、ちょっと怖いよな。

 政府は魂のコピーは身体的な影響は全くないと言っているし、事故が起こったなんて聞いたこともない。

 ただ遠くの国では魂を汚す行為だと紛争になったって話は聞くけどね。



 ひとしきりメイド一号(仮)の調整を終えると、部品パーツの不具合を確かめた。

 そばにある金属3Dプリンターにラピスで追加で作成するパーツの情報を入力する。

 これで明日の朝にはパーツが出来上がってるはずだ。

 造形と動きはほぼ今日で完成したとして、後は中枢コアの作成が残っているなぁ。

 コアの作成は専門の技術が必要で、まだその部分には手を付けていない。

 早く動かしたいし……。しかたない、明日の文化センターに行った後、安物のコアをジャンクで買って組み込むか。



「はぁ、結局、お前は成人前には完成しなかったな」



 明日完成させてやるよ、そう思いながらメイド一号(仮)をの頭をなで、箱に収める。

 今日はもういい時間だ、明日また頑張ろうか。

 片づけを終えベッドに横になると、俺はすぐに眠りに落ちて行った。




 ◇ ◇ ◇




 俺は夢を見ていた、ひどく長い夢を見ているようだった。

 いや、今が夢だと思っている自分は、今夢を見てる自分なのか? それとも、今起きてる自分なのか?

 あれ、なんだか良く分からねぇ。

 今の俺は広いコクピットの中にいる、座席以外は周囲が見渡せるモニターになっているのだろうか。

 景色が……、星々が……、前から後ろへと流れていく。



『ああ、急がないと』



 ん、俺の声か? 急に前方が青く光りだすと周囲の景色がぐにゃりと歪み湾曲し始めた。



『時間がないんだ』



 自分の声は酷く焦っているように思えた。そして強い意志を持ってその決意を実行に移そうとしている。

 焦りを感じる人物は自分自身なのだ、だから感じ取れる確かな感覚だ。

 前方が青く光ると、次第に周囲の世界は惨く湾曲し、世界は後方から漆黒に染まっていく。

 俺は自分の鼓動が激しくなってくるのを感じる。

 やがて前方に小さな光が見える以外はすべて暗黒に染まっていった。

 俺の心は焦りで塗りつぶされる。

 あぁ、こんな光景は見たくなかったんだ。

 どこかで間違えてしまったんだ。

 早く、急がないと……。

 まだ、間に合うはずだ。

  


『キィーン!』



 頭の中に耳鳴りのような金属音が流れてきた。

 その音は次第に鼓膜が張り裂けそうな程の音量になると、俺の存在は音そのものになっていた。

 俺は世界のあらゆるすべてに存在し、全てを知覚し、俺という意識は既にそこには無かった。



 そしてその瞬間、俺は夢から現実へと目が覚めていた。




◇ ◇ ◇




「兄貴~、ご飯だよ~」

 


 一階から聞こえてくる妹の声が、寝ぼけた俺に現実を知らせてくれる。

 なんだろう、すごく焦りを感じさせる夢だったと思う。

 体がだるい。

 えっと今の時間は? やばい、もう受付が始まってる時間じゃないか。



 上半身を起こし、3Dプリンターを確かめると造形作業は終わっていた。

 素早く起きて着替えながら、先ほどの夢をもう一度思い出してみる。

 あれ? もう思い出せなくなっている……。まぁ、夢だしな。



 夢は自分自身が自分自身に見せるものだと、霊子学の授業で習った事がある。

 あんな夢を見るなんて、普段父さんが言うように進路決定をまじめに考えてなかった俺の焦りなのか?



 身支度を整えると部屋の扉を開け、リビングに降りて行く。

 途中で工事現場の徐行常識や作業灯等が置いてあるが気にしない。

 これらはが家の大切な家具の一つなのだ。



「お? 新しい工事用マットが増えてるな」



 ひとり呟いてみる。

 この工事現場用品は母さんの趣味だ。

 なんでも工事現場用品は”かわいい”物らしく、我が家は母さんの集めた”かわいい”物であふれかえっている。

 母さんは日曜大工が趣味で、いつも我が家は改装中だ。



 リビングに付くと自分以外の家族三人がそろっている。

 俺以外はすでに食べ終えてしまったようだ。



「ハジメ、早く食べて出かけないと、成人登録に間に合わなくなるぞ?」



 野太い声が響いてくる。

 角刈り黒ぶちメガネで厳つい顔立ち、タンクトップがはち切れそうなマッチョ。

 ニッカボッカを履いた職人風の男が俺の父、三国泰平ミクニタイヘイだ。



 こんな姿でも、世界のメガコーポレーション『クエリ重工』に勤務する上級研究員を務めている。

 マッチョなのは、母さんと付き合うようになってから一念発起して肉体改造したらしい。

 母さんとはいつも新婚生活のようにラブラブで、見ているこっちが恥ずかしい。

 ちなみに服装は完全に母さんの趣味だ。



「私、もう部活に出かけるから~。あと兄貴お土産よろしく~」

「俺はそんなに遠くに行くわけじゃないぞ?」



 軽い口調で身支度を整えてるのは、妹の三国小道ミクニコミチだ。

 母さんと同じ趣味で、我が家の工事現場化現象の要因の一つになっている。



「あらあら、コミチ? 慌てちゃだめよ? 行く途中で怪我とかしないようにね? あとハジメ、夏休み初日だからってのんびりしてちゃダメよ?」

 


 あらあら口調の小柄な女性が”かわいい物が大好き”な母親の三国小春サンゴクコハルだ。

 妹とたわいもない話を続けている。

 そんないつもの家族を眺めながら、俺は席に着き朝食をとり始めた。



「ハジメ、進路はちゃんと決めたのか?」

「う、いや、まだあんまり」



 不意に父さんから声を掛けられ、食事がのどにつっかえる。

 進路。

 事前にアンケートは提出してあるけど、実際のところは”魂”をスキャンしての判定結果ですべてが決まる。



 実際アンケート通りに希望がかなったなんて話を、まったくと言っていい程聞かない。

 そこまで考えて少しうつむくと、父さんが声をかけて来てくれる。



「正直に言ってくれてでうれしいぞハジメ、だがお前はもう少し強い思いを持て。誰かの為でも、自分の為でも良い。どんな時でも強い意志を持つんだ。それが力になる」

「分かったよ父さん」



 俺の軽すぎる返事が気に触ったのか、父さんは拳を握り締め興奮し始めた。

 プルプルと震えた上腕筋がみるみる盛り上がっていく。



「いや、分かってなぁぁいっ! 思いとは力なぁのだ、お前にも心が焦がれる衝動があるはずだっ! お父さんがお前ぐらいの年にはもうぅ……」

「知ってるって、もうそれ何回目の話だよ!」



 興奮した父さんは背中と大胸筋に力を入れて大きく上半身を膨らませはじめた。

 慌てて妹が制止の声をあげる。



「ちょっとお父さん、興奮しないでよ!」



 時すでに遅く、筋肉でミチミチに膨らんでいたタンクトップは音をたてながら破れてく。



「あらあら、結婚記念のタンクトップが台無しだわ~。」

「母さん、こ、これは違うんだっ! そう、これは教育の一環なんだっ!」



 コミチも事の重大さを悟ったのか、目を見開いた。

 結婚記念だって? 俺は思わずコミチと顔を見合わせる。



「も~しょうがないわね。お父さん? ケミカルアンカーの刑で許してあげるわ~」



 柔らかい口調の母さんだが、目元が笑っていない。



「コミチ、た、助けてくれ」

「ご、ごめん父さん、私部活あるからっ!」



 コミチはすがる父さんを払いのけ、玄関へ向かって行ってしまった。

 俺はケミカルアンカーの刑という聞きなれない単語に背筋が寒くなるのを感じ、急いで朝食を口の中に詰め込むと温いお茶で飲み下す。

 きっとケミカルアンカーなる品も、母さんの大好きなかわいいものグッズに違いない……。

 


「お、俺も出かけてくるよ!」

「待てハジメ! ……いや、行けッ! ハジメ! いいか、強い意志、強い思いだ! 絶対に忘れるんじゃないぞッ!」

「いってらっしゃ~い。今夜は大型の台風が来るらしいから~、早めに帰ってくるのよ~」



 大柄な父さんは小柄な母さんに組み敷かれ、ぺちぺちとお尻を叩かれている。まるで乗馬だなぁ。

 


「行ってきます!」



 勢いよく飛び出すと、蒸し暑い日差しの中空を仰ぐ。

 建設中の第四軌道エレベーターが高層ビルの陽炎でゆれていた。

 俺は公営バスに乗り込み、俺は成人文化センターへ向かっていった。




◇ ◇ ◇




 成人文化センター前まで来たとき、暑さを忘れるぐらい見たくない顔を見てしまった。

 やべ、あいつ俺と同じ誕生日だったんだっけ。

 俺と同じ制服姿。

 金色の長い髪に切れ長の目、すらりとした手足に肉付きのいい体。

 超が付くほどの美人。

 ただ俺はコイツが苦手なのだ。



 コイツは同学年の”Iris00456” 通称イリスって呼ばれてる。

 いつも俺に突っかかってくる嫌な女だ。

 彼女は優秀な人々の遺伝子を掛け合わせて生まれた人工人類アーティフィシャルマインカイン

 ちなみに”Iris00456”っていうのは彼女の本当の名前だ。

 政府が管理するお墨付き、同級生じゃなければ話かけられないような存在ってわけだ。

 制服から見える足のラインが特に俺好みなんだが……。

 中身は味気ない、ゴムの塊のようなそんな存在だ。

 はぁ~。だまってりゃ美人なんだけどな~。



「おや? お調子者で女性の天敵ミクニ君じゃないか? 君も成人登録なのかい? 君が成人できるなんて思っても見なかったよ、とりあえずオメデトウ!」

「はいはい、そりゃありがとさん。記念にこの後どこか二人でデートでもど~だい?」



 俺はいやらしい手つきをさせ、イリスへにじり寄る。

 イリスは俺の仕草に顔を真っ赤にさせてた。



「ふッ! ふざけるのも大概にしてくれ! 君のような……、くっ! デートだなんてごめんだよ。そんなのダメに決まっているだろう、旧人類の分際でさ!」

「おいおい、ちょっと待ってくれよ。俺は有り余っているこの気持ちを君と共有したいだけなんだ。そう、俺はそんな自然の摂理に従って生まれた”旧”人類だよ? エリート”クローン”のイリスさんとはわけが違う」

「この下種が!! ミクニッ!」



 イリスは顔をさらに真っ赤にして詰め寄ってくる。

 スッと俺のすぐ前まで近づくと俺の右足を踏みつけ、左肩を強く押した。

 俺は受け身を取れずに後ろに盛大にひっくり返る。



「わわっ、いってぇ!」



 やべ、彼女が格闘プログラムを受講してるの忘れてたよ。



「クローンだと?! 取り消せ! ミクニ!」



 イリスの形相は鬼気迫る勢いだ。

 イリスは倒れた俺を足蹴にしてくるが……、実は全然違うことを考えていた。

 もうちょっとでスカートの中が……。しかし、この状態もなかなか……。



「なんだ? 急にいやらし笑い方をしてッ!」



 俺はあるアイディアを思いついて、さらにニヤリと笑う。

 


「ア~そうそう、俺この後成人登録だったんだナー。配偶者希望欄にイリスさんの名前書き込みたいナー。イリスさん美人だからナー。仕方ないナー」

「くっ! 私を脅そうというのか?!」

「ソンナコトナイヨー?」



 慌てるイリスを横目に、俺は起き上がると埃をはたいてイリスに向き直る。

 イリスは顔を真っ赤にさせて、こちらを睨み続けてきた。

 俺みたいな旧人類はもう少数派だ。

 俺に彼女ができない生まれ上の理由は、優秀とされている人工人類アーティフィシャルマインカインではなく、恋愛結婚から生まれた旧人類だということだ。

 しかし潜在的に霊子が強いとされている旧人類に対し、政府はその保護措置として成人手続きに”配偶者希望欄”を設けている。



 だけど、俺は誰かの名前を書くつもりはない。

 三国家男子の家訓は「女性に好かれろ」だからな!

 これに大きく逆らうと父さんに殺されかねん。マジで。



「好きにするがいい! 私は知らないッ!」



 大声で叫ぶとそのまま大股で立ち去って行ってしまった。

 はったりが効いたのか?

 ふっふっふ……、ケンカ売ってきたのはそっちだろう? イリスさん?

 でもホントは美人なイリスさんとは仲良くなりたいんだけどねぇ。

 絶対いい体してるはずだし!



 まぁ酷い事言ったのはお互い様だけよな。実際クローンは言い過ぎたかもしれない。

 一応後でちゃんと謝っておくか。

 イリスの背中を見ながら俺はそんなことを考えていた。




 ◇ ◇ ◇




 成人文化センターの中は外の蒸し暑さとは別世界だった。

 熱くもなく寒くもない丁度いい温度と、さわやかな香りであふれている。

 リラクゼーション効果を狙ったものかな? などと思いつつ、受付を済ませる。

 受付嬢は空中ホログラフ端末で俺の事前情報を確認してくれた。

 その後、手続きが行われるスキャニング室まで案内してくれる。



「ミクニハジメさんは、どんな進路をお望みでいらっしゃいましたか? 事前にいただきました調査シートを元に、これからの人生において最適なあなたの進路をご用意させていただきますよ?」

「え? ああ、適当に頼むよ!」



 『お望みでいらっしゃいましたか?』とかすでに希望は過去形な感じしかしないんですけど。

 定型文な受付嬢の言葉に俺は大人な対応でさらっと答える。

 俺の進路ねぇ。



「霊子スキャンにかかる時間は約十五分程度となります。その際、個人差によりますが軽い浮遊感を感じる場合がございます。また登録の後の手続きとしまして……」



 俺は受付嬢の説明を聞き流し、俺は出かける前父さんの言っていた言葉を思い出していた。



『強い意志を持て』



 父さんは努力し、メガコーポレーションの上級研究員として就職した。

 俺はそんな父に対して尊敬と憧れを持っている。

 でも、俺は決められた手続きで俺は大人になっていく。

 そう、これは仕方のない事なんだ。



「……それではこちらの水薬をお飲みになっていただいて、その後こちらに着替えていただきます」

「あ~、はいはい」



 神経を落ち着かせるという薬を飲み、来ているものを全部着替え、白い施術着になり部屋に入る。

 部屋の中は霊子共振装置が鎮座している。

 何ともまぁ大掛かりな装置だ。

 スキャニング台に乗り仰向けに寝転ぶと、先ほどの薬のせいなのか意識がまどろんできた。

 大きなあくびが出てくる。



「ふぁぁぁ~」




『キーン!』



 あくびをすると耳鳴りだ。

 あれ、これは朝の夢で聞いた音だな。

 稼働のブザーが室内に響き渡り、装置がゆっくりと低い音を立てて稼働し始める。



 俺は意識がもうろうとし始める。

 そういえば夢で見てた自分は、何か強い意志を持っていたな……。

 何をしようとしていたのかは、夢だから分からない……。

 


『……ハジメ、思いは力になる』



 え、父さんの声か、俺の……思い……。



 やっぱり……、俺だし、へへっ……。ほら……自分に素直にならなきゃ……。



 かわいい女の子に囲まれて……ハーレムとか…いいよな? うひひ……、普通そう思うよな……?



 素直すぎる欲求を夢想する。

 それは、絶対にかなわないはずの夢。

 どこにもあるはずのない世界。

 俺は、意識を、ゆっくりと手放す。



 そして俺は、この世で目を覚ますことは二度と無かった。


初投稿です。

なろうの使い方が分からないので、間違ってるかもしれません。すみません。

大分見てくださる方が増えたので、アクセス解析とかちゃんと見るようになりました。

この文章を見ている方々に、特別な時間が訪れる事を願っております。

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