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君と子孫を残したい  作者: 丸山ウサギ
二章 オーヴェズ (ティアレス辺境編)
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四話 山獣①

 今の俺の霊子エネルギーなんてそんなに多くはない、宇宙そらにいた俺と違う、でもやることはあんまり変わらないだろう?

 ただ守りたいものが違うだけだ。なら、何も怖いことは無いじゃないか。

 覚悟を決めると不思議と頭が冴てくる。まるで宇宙そらで戦っていた時の様だ。

 ……さてと。



「今日はここまでです。見に来て下さってありがとうございました」



 俺はオーヴェズの肩から村の人たちに、御礼を述べる。

 村の人が解散し始めていた。

 口々に御礼やねぎらいの言葉をいただく。

 こういうのも悪くないな……。



『キィーン』



 やる事は決まっているさ、原因を探る。対処する。只それだけだ。

 俺がそう決意すると、周囲の人たちから霊子の輝きが強く見え始める。

 運命が改竄される瞬間なのだろうか。



 まず、情報が欲しいな。



『クエリ、皆の運命が尽きるまでどのらくいありそうだった?』

≪同調していないので推定となりますが、おそらく二時間後となります≫

『行動するにしても、あまり時間が無いな……、クエリ、シエリーゼにアクセスしてくれ。上空からの画像が見れるか?』

≪はい、軌道上からの画像を視覚情報に加算します≫



 オーヴェズはゆっくりと膝をつき、アイリュが操縦席から声をかけてきた。



「じゃあ私も、一回戻るね?」



 もう少し情報が欲しい、アイリュに全部話すか? アイリュには霊子の光が見える。俺は彼女は巻き込みたくない、要点だけ聞くか。



「アイリュはちょっとだけ待ってくれないか?」



 俺は自分の考えに苦笑すると操縦席に体を滑り込ませ、アイリュのいる席に体を押し込む。



「ちょっとオフス! 狭いよ!」

「大事な事だ、ちょっと教えてくれ」

「何よ?」



 俺はサブモニターにクエリを介して、霊子に異変があった人たちの写真を並べる。



「オーヴェズってこんなこともできるの?」

「なぁ、アイリュ。この人たちに共通の事ってあるか? 場所とか時間とか生まれとか」

「え? 村の北側の人たち……、かな?」

「それかもな」



『クエリ、村の北側で動くものをピックアップしてくれ』



「ねぇオフス、どうしたの?」



 俺はアイリュが不安にならないように気を遣う。



「幸せになる方法を探してるのさ」



≪北、二キロに動体反応、数、二≫

『上空からの画像拡大できるか?』



 俺の視覚に見える画像には、村を見渡せる山の裾で大きな獣らしき動きが二つ見える。これは大きな犬なのか? 昨日マフルが言ってた山獣ってヤツだよな。大きさは四メートルくらいあるだろう。おいおいコイツに噛まれたら痛いじゃすまないぞ?



『クエリ、この山獣はどっちへ向かっている?』

≪地形からの予測ルートを表示します≫



 視覚情報に台風の予測ルートの様に示される到着地点は村の北側だ、到着時刻もほとんど符合する。コイツだろう間違いない。

 気が付くとアイリュは照れた感じで俺を覗き込んできた。



「ええと、それは誰と幸せになるのかな?」



『キィーン』



 あぁ、”誰と”か、俺はそんな風に考えたことは無かったのかもしれない。

 俺が必死に戦って、勝って、得られたものは、幸せになれるかもしれない権利だけだったんだ。

 当たり前だけど一人では幸せになれないんだな。

 俺はもっとちゃんと勝った後の事も考えないといけなかったんだ。

 今更だよな。



「村の皆とだよ。ありがとうなアイリュ。アイリュはきっと幸せになれる」



 俺はアイリュの頭を抱え優しく額にキスをする。



 今は午後三時くらいか、夕方の五時位にあの獣が来るという事か。

 オーヴェズはどうする? 俺と同調しないし電力変換機もまだ修復が終わっていない。

 ここで皆を守ってもらうのがいいか。

 今から行って対処して、二時間もあれば帰ってこれる。

 一人で戦う方が気も楽だ。俺はずっとそうしてきた。



「アイリュ、ちょっと行ってくる。たぶん夕飯までには帰る」



 オーヴェズに獣の予想ルートを入力すると、俺は操縦席に刺さっている古い剣を引き抜きオーヴェズから飛び降りる。



「ちょっと! オフス! どうしちゃったの!?」

「夕飯までに俺が帰らなかったら、その後どうするかはオーヴェズに聞いてくれ。オーヴェズ、頼んだぞ!」

 


 オーヴェズは答えない、相変わらず俺には不愛想な奴だぜ。

 俺は構わず走り出す。



『クエリ、上空から俺のルートをサポートしてくれ、目標はさっきの獣だ』

≪はい、移動ルートを視覚情報に加算します≫

『それとクエリ、俺を一時的にパイロット化する。まだ本調子じゃないけど、できるよな?』



 俺は五年間でシエリーゼの構造を調べ尽くした。

 シエリーゼと、そのパイロットは同一人物ではあるが別存在でもある。実際は精神と肉体が乖離しているのだ。

 クエリが以前ややこしい言い方をしていたのはこの為だ。



 シエリーゼは機械生命体だ。知覚や演算能力は人間のそれをはるかに超えている。そこに人の心が宿っているのだ。

 肉体と言う人間の枷から離れた新しい人類はそれについて行けず、あらたに精神という殻をまとった。



 シエリーゼという次元寄生体と戦うために生まれた機械生命体、それと同じくオフスの体も戦うために作られている。

 機械と肉体の違いはあるが設計の基本理念は同じだ。俺の肉体は精神を凌駕しすぎている。

 精神と肉体との仲介をクエリが行っている程に。



≪はい、一時的にハジメの精神を自閉モードへ移行します。地上適応が未完了の為、予想活動時間は約二時間です≫



 二時間もあれば十分だ。

 精神と肉体が乖離していく。俺の心は冷たく凍てつき、魂から霊子エネルギーを生む存在ではなく、戦う為の存在と化していく。視野が広がり、音が冴え、時間の進みが遅く感じられる。

 まるで自分が自分じゃない様だ。俺は俺自身の操縦者パイロットとなっていった。

 意識が希薄になる為、魂が生み出す霊子エネルギーは使えなくなるが、今は殆どないのだから気にすることは無いだろう。

 俺は自分の新たな感触を確かめると森の中を跳ね、矢のように駆け抜けていった。




 ◇ ◇ ◇




 「もう、ホントになんなのよ」



 私は、オーヴェズから降りるとハッチを閉める。

 二十年ぶりに動くオーヴェズは以前のようにピカピカでなかったけれど、乗ってみた感じは変わっていなかった。

 私の元にオーヴェズは帰ってきてくれたんだ。それに何となくお兄ちゃんに似ているオフスも側にいてくれる。

 心の中に欠けていた物がすべて埋まったような、もっとそれ以上の幸福感が私を包んでいる。

 先ほど額にキスされたことを思い出すと自然と頬が熱くなり、顔がにやけてくるのが分かった。

 しばらくの間、私はオーヴェズを見上げ先ほどの余韻に浸っていた。

 オーヴェズも私を見てくれているような気がする。

 すると後ろから足音が聞こえ、マフルがこちらに駆け寄ってくる。

 


「アイリュ! ちょっと問題が起きた! 自警団で手分けしてるんだが村の皆に伝えてくれ、”石蔵”に集合だ!」

「え? 何? どうしたの?」

「オフスはどうした?」

「ちょっと前にどこか行っちゃったけど」 

「そうか」



 村には石造りの収穫物を収める大きな蔵がある。石蔵と呼ばれていて何かあったときはそこに避難するようになっている。

 息を切らせているマフルの顔は至って真剣な表情だ、その雰囲気から軽い問題ではないことが分かる。



「昨日言っていた山獣の足跡なんだが、どうやら山獣ではない様なんだ。足の形から見て狼の魔獣だ、山獣なら追い払えばいいだけだが、魔獣となるとそうはいかない」

「え? 嘘! こんな人里近くに魔獣なんて現れないわ。それに魔獣の足跡なんて山獣の足の大きさと全然違うじゃない」



 魔獣は生存圏確保のために一匹で行動している。その巨体は歩くだけで周囲の藪や枝を払いその存在感を周囲に残す。

 自然に親しむイーブレ村の住人なら魔獣と山獣の跡など見間違えるはずがない。



「見間違えたのは魔獣の子供の足跡だ、歩幅や跳ねた足跡の付き方が違う。間違いない、俺もさっき見てきた。アイリュは村の皆に知らせてきてくれ。魔獣は人を恐れない、自分たちが人より強いのを知っている」

「嘘よ! ホントに子供なの? この時期に山獣と間違うような小さな魔獣の子供が一匹でうろついている訳ない」



 本当なら大変だ。さっきまでの嬉しい気持ちがどこかに吹き飛んでしまっている。嘘であってほしい。

 だってさっきオフスは私が幸せになれるって言ってたのに。



「ああ、だから問題なんだ。子供は親と一緒に行動する。恐らく三匹はいるだろう」



 そんな! 



 クォォォォォォン



 急にオーヴェズは巨体を唸らせるとギシギシと立ち上がり始める。



「オーヴェズどうしたの?! どこか行くなら私も乗せなさい! ちょっと! オーヴェズ!!」



 オーヴェズは私の言葉が聞こえないのか、それとも無視しているのか分からない。

 全く私には反応していなかった。オーヴェズは地響きを立て一人歩き始める。



「だめだアイリュ!」

「オーヴェズが! オフスだって居ないの!」

「オーヴェズなら平気だ、オフスだってきっと逃げた。俺も会ったら伝えておく!」



 今は少しの時間でも惜しいのだろう、マフルは凄い表情で私を見ている。



「しっかりしろアイリュ! 子供連れは気性が荒い。皆に伝言を頼む! 奴らは行動範囲が広い! こっちが見つけたという事は、もう奴らは村を見つけている!」



 魔獣三匹なんて、村は壊滅的な被害を受けるだろう。



「マフル。……石蔵に集合だよね。分かった。皆に声をかけてくる」

「ああ、俺はここから遠い西側から南に行く、奴らが活発になる日没まで時間がない、頼んだ」

「分かった、私は東側から北に回るね」



 私は東へ走り出しながらオフスの事を考えていた。

 オフスはやっぱり嘘つきだ。

 


 ”アイリュはきっと幸せになれる”



 あの言葉は私とオフスの事ではないんだ。オフスは逃げてしまったのかもしれない。そう考えると涙が出てきた。

 畑のあぜ道を走りながら叫ぶ。



「皆! 石蔵まで逃げて!」



 畑を興す人々がこちらを振り返る。



「石蔵まで逃げて! 魔獣よ! みんなに伝えて!」



 悔しかった。オフスは嘘つきだ。他の言葉も嘘だったんだ。

 あの時オフスはなんて言っていただろう。



 ”共通の事ってあるかい? …………それかもな”



 あ……、北だ。あの時オフスはこの事を言っていたのかな。

 立ち止まり村の北側を振り向く。

 オーヴェズが村の北側をゆっくりと進むのが遠目で見える。

 だけど、村の東側はもうすぐだ。



 ”村の皆とだよ”



 私はオフスの言葉をもう一度思い出すと、村の北にまっすぐ走り出した。

 走りながら私は村の皆に声を掛けて回る。

 北の入り口付近まで来た時、共有井戸で野菜を洗うアクリャを見つけた。



「アクリャー!」

「どうしたの~? アイリュ」



 私は駆け寄ると、早口でまくし立てる。



「村が魔獣に目を付けられたわ、すぐ暗くなる。石蔵に逃げて!」

「え? 何て?」




”ウォォォォーン”



 地響きのような獣の鳴き声が遠くから木霊してくる。

 私とアクリャはハッとして目を見合わせる。




「マフルも今皆に連絡してる。後で石蔵で落ち合えるわ! なるべく皆にも伝えて!」



 私はそれだけ伝えると駆け出し、周りに声を掛けながら自分の家まで走り抜ける。

 家に入るとかまどの火を消し、避難準備をする父さんと母さんが見えた。



「アイリュ無事か?! すぐに石蔵に逃げるぞ。あそこは頑丈で広い」



 父さんが強く声を掛けてくる。



「まだ、私、村の東側に、伝えに、行って、ないわ」



 ハァハァと息を継ぎながら答え、私の山狩り用品が収められている棚まで歩く。

 オーヴェズは付近には見えなかったが、その駆動音は北の森から聞こえてきていた。



「大丈夫だ、東側はもう伝えてある。もう避難は始まっているだろう。私達もすぐに行くぞ!」



 私は棚から自分の山刀を手に取ると、なるべく明るい口調で話した。

 お父さん、お母さんには心配させたくない。



「ごめん! もうちょっとだけ、私、オフスに伝えないと」

「だめだ、アイリュ!」



 私は玄関を飛び出して叫ぶ!



「大丈夫! 私にはオーヴェズもついてるわ」



 本当は今のオーヴェズは私の言う事は聞いてくれないし、不安もある。

 だけどそれより大切な人を失いたくないんだ。

 私はオーヴェズの跡を追いかけ、森の中へ入っていった。


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