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君と子孫を残したい  作者: 丸山ウサギ
第六章 ラーゲシィ(イチゴの花の偶像騎士)
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九話 立ち上がる力②

 室内に大きな戦闘音が響き渡る。殺意がこちらに向かってくる。反射的に魔剣カーパを抜くと俺の腕に強い衝撃が走り、甲高い金属音が響き渡った。

 俺は魔剣を握る手にさらに力を込める。



「オフスッ!! 目覚めたのじゃな?!」



 リノちゃんの叫び声が聞こえて来る。俺はどうしたんだ? 神に会ってから……、それから? 魔剣を握る手は光に包まれ、肉体が自分の意思とは関係なく半分霊化しているのが分かった。

 受け止めた魔剣の先から、強烈な憎悪と身の毛のよだつ殺気が体中に纏わりつく。すぐ目の前には目を血走らせたトートが刃を向けていた。



「ようやく起きたかッ! オフスゥッ!! 決着をつけようぜぇ」

「願い下げだ! 目覚めにお前の顔を見るなんて最悪だよッ!」



 無理な態勢から力任せに剣を翻すと、受け止めていたトートの魔剣をはじき返した。そのままシーツを投げつける。するとトートは空中で翻るシーツを横一文字に両断した。

 そのわずかな隙に、俺はベッドから飛び起きるとリノちゃんを庇って剣を構える。



「オフス……。いい! みなぎってくるぞぉ! お前を隅々まで切り裂いてやる。楽しみだぁ、へへ、ハハハハッ」

「舐めるなよトート。前の俺とはちょっと違うぜ?」



 状況について考えをめぐらす。恐らく俺の寝ている間に、トートがナウムまで到達してしまったのだろう。この男の狙いが俺ならば、俺がコイツに勝ちさえすれば状況が変わるはずだ。

 しかし目の前にいるトートの顔色は口からよだれをたらし、明らかに異常な雰囲気を放っている。



「残念だぜぇ? これでお前の顔を思い出さなくて済むと思うとなッ」



 そう言うとトートはこちらに踏み込んできた。俺は咄嗟に剣を翻すと、重いトートの剣をはじき返す。そのまま袈裟に切りつけるが、トートに難なく受け止めてしまった。



「甘いな! お前の剣にはあくびが出る。どうした? あの時のお前とは違うのだろう?」

「そう焦るなよッ!」



 トートの剣を捌きながら自分を中心に陣符を開放する。一瞬だけ逆巻く烈風を発生させる物だ。だが隙を作るには十分すぎる。

 部屋中の物が風に吹き飛ばされ、風の中心にいる俺とリノちゃん以外が猛烈な風にあおられる。

 俺は近くのテーブルをトートへ向かって蹴り飛ばすと、奴の死角へと回り込もうとする。しかしトートはテーブルごと叩き切ると返す刀で俺へと切りつけてきた。

 


「力がッ、正義なのだ! 俺様に倒されて、それを証明して見せろッ」



 俺はトートの剣を正面から受け止める。この男に小細工は通用しない。純粋に力と技で押すしかない。そう覚悟を決めると、矢継ぎ早に魔剣を振るう。



「力は力だ! 正義なんかじゃない! お前のような私念の戦いに正義なんかない!」



 トートと剣を交える度に、以前の戦いの記憶が蘇ってくる。だが、以前戦ったトートの方が確実に強かった。



「俺様を否定するのか? ならばお前は何のためにその力を振るう? 何のためにその剣を振るうのだ! 正義はいいぞ?! そう言いさえすればすべてが許されるのだからな!」

「お前はッ! その正義とやらでどれだけの人を苦しめて来たんだよッ」

「お前も俺様と同じだッ! 振るう剣は暴力以外の何物でもないッ」



 少し距離を取るとトートは魔剣を大きく振りかぶり斬撃波を飛ばす。俺は突進しながら瞬間的に”壁”の陣符を取り出すと、その斬撃波をかき消した。

 驚くトートに突進し魔剣を振るう、態勢を崩したトートを俺は部屋の隅へと追いやった。



「人は力を使う、だけどそれは人の尊厳を守るためだ。人は人らしくあろうとしている。その為に寄り添いあおうとしているッ」



 人と人が触れ合える温かみが、俺の生きる力だ。



「そんな生ぬるい話など知らんなッ! 力を持たない者などどうでもいい。大人しくしていろォッ!!!!」



 俺の剣をトートが受け止める。だが力任せに押し込んだ。



「力を持たない人がどうでもいいんじゃない! 全てが大事だからこそ、誰かを否定するな! 例え自分を否定されたとしてもなッ! それがわかってから力を語れ! わかってないならそれは単なる傲慢だ!」

「偽善者め! 俺様に理念を押し付けるんじゃないッ!」



 トートが大きく息を吐くと剣が唸り声をあげる。それはトートの必殺の一撃だ。その剛剣が俺の魔剣カーパを弾き、返す刀で俺の首筋へと振り下ろされる。



「大気よ、氷結せよ。命を奪え。重唱、凍傷フロストバイド!!」

「ガハッ!!」



 リノちゃんの発動させた魔術がトートを襲う。

 凍てつく空気が爆ぜるように何回も周囲に立ち込めるとトートが苦痛に顔をゆがめた。俺はトートの剣を身をひるがえして躱す。

 トートは冷凍庫の中から出て来たかのように、体中に氷の結晶がこびりついていた。そのままトートは床を転がるように窓際までかけ抜けると、息つく間もなく窓から飛び降りる。



 俺とリノちゃんが慌てて窓から見下ろすと、トートが潰れるように地面に着地し、ラーゲシィの腕に隠れる子供達へ向かおうとしているところだった。



「まずいのじゃ!!」



 俺はその光景を目にし、反射的に窓から飛び降りたのだった。

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