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君と子孫を残したい  作者: 丸山ウサギ
第六章 ラーゲシィ(イチゴの花の偶像騎士)
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六話 神の座④

 アイリュは扉の前で不機嫌をな様子を見せていた。口をへの字に曲げると大きくため息をこぼす。



「もう! オフスったらホントに自分の事しか考えてないんだから……」



 まだオフスが扉の向こうに消えてから数秒も経っていない。不満げなアイリュをリノミノアが諭す。



「あやつも言っておったじゃろう? 次元寄生体に対抗する手段を探すためだと。自分の事で動く男ではない事くらいアイリュも知っておるじゃろうに。今はガマンなのじゃよ」

「そうかもしれないけれど……」

「なに、何かトラブルがあったとしても、いつも最後は全て解決するに決まっておる。心配し過ぎじゃ」



 リノミノアの言葉にアイリュは言葉を強くする。



「ちょっと! 何かトラブルが起こるってもう決まってるの!?」

「いつもそうじゃろう?」

「そうだけど~、あぁ、なんだか胃が痛くなってきたわッ」



 そう言ってアイリュは眉間にシワを寄せるともう一度深いため息をつく。しばらくすると、建物全体が細かく振動しているような感覚が伝わってきた。



「何事じゃ?」



 アイリュの抱えたコンセプシオンから言葉が発せられる。



「ハイ。霊子誘因装置が起動しました。これでオフス様と皆様の言う”神”との対話が可能になります」

「いよいよなのじゃな」



 アイリュはポーチからクエリドールを取り出すとコンセプシオン見比べる。



「そういえばコンセプシオンって、クエリちゃんと話し方が似てるよね」

「いいえ、私はクエリほど高性能ではありません。演算ロジックそのものが違います」



 リノミノアもクエリドールとコンセプシオンを見比べはじめた。



「しかしコンセプシオンの説明の方が分かりやすいのじゃな」

「確かに、クエリちゃんは何言ってるか分からない時があるよね。でも、クエリちゃんの方が凄いんだ。じゃあクエリちゃん、オフスは今どうなっているの?」



 クエリドールがしゃべりだす。



「はい。現在オフスは相互作用における認識の頸木から解き放たれました。唯我の時空間を構築し量子状態にて霊子サーバへと連結しています」

「言っている事がさっぱり分からんのう。コンセプシオンならどう表現するのじゃ?」

「ハイ。現在オフス様はこの世界に存在しておりません」

「ちょっと! どういう事よ!」



 コンセプシオンを両手で握りしめ、アイリュは大声を上げる。



「神と対話するためには、神の目線に立つ必要があります。ありていに言えば神の元に旅立ったと……」

「それじゃオフスは死んじゃったって事?! 何よそれ!」

「心配はありません。霊子サーバとの交信が終了すれば現世へ回帰するでしょう」



 アイリュがコンセプシオンをぶんぶん振り回していると、リノミノアのチョーカーに通信が入ってくる。



「むむ、大婆様からじゃな?」



 チョーカーに指をあて受信すると、普段のレグティアとは違い少々慌てた声が聞こえてくる。



「リノミノアか?! オフスのクエリが応答しないんぬ! どうしたんぬかッ?! 地上で不味い事が起こったんぬ。至急戻ってくるんぬ。詳細は……」



 言葉が終わる前に今度は建物の内部にけたたましい音が鳴り響く。



「こ、今度は何事じゃ?!」

「はい。これは警報です。設備全体の警戒レベルが最大に引き上げられました。霊子サーバの量子空間内に、異なる波動が介入した可能性があります」



 そうクエリドールが答えると。アイリュの振り回しているコンセプシオンをリノミノアは掴み上げる。



「分かりにくいのじゃ、コンセプシオン! 簡単に説明するのじゃ」

「……」

「壊しちゃったのかな……」



 コンセプシオンはわずかに沈黙していたが、中央の青い球が次第に点滅し始める。



「すみません。ネットワークを切断し自己を再起動していました。現在外部より不正に霊子サーバの操作が行われています」

「どういう事なの?」

「ハイ。ありていにいえば霊子サーバに外部からの攻撃が加えられています」

「霊子サーバに、じゃと?」



 ハッとして、アイリュは閉ざされた扉を振り返る。



「オフスは?! オフスはどうなの?」

「霊子の場が不安定です。非常に危険な状態です」



 すると、足音がして入り口の方からビュアレズがこちらに走ってくる。



「皆さん撤退しましょう! 廃棄してあった外の偶像騎士シエイゼが動き出しています!」

「恐らく乗っ取られたのでしょう」



 答えるコンセプシオンを掴みながらアイリュは質問を続ける。



「誰に?! いいえ。それよりもオフスを助けないと! ここを開けて!」

「霊子誘因装置が起動しています。内部は量子状態です。実行できません」



 アイリュはコンセプシオンをリノミノアに押し付けると、クエリドールを掴み強い口調で命令する。



「クエリちゃん、開けなさい! オフスを助けないとッ」

「はい。私の権限でロックを解除します」

「アイリュ。まさかあの中に飛び込むのか?!」



 霊子の充満する霊子サーバの部屋を思い出し、リノミノアは体を震わせる。



「オフスをこのままにはしておけないでしょ! クエリちゃん! まだ開かないの?!」

「はい。まもなくゲートが開きます。……アイリュ、オフスを強くイメージしてから中を覗いてください」



 クエリドールがアイリュの肩に乗るとゆっくりと扉が開き始める。

 そして中を覗き込むとアイリュが想像していた通りに、オフスが霊子サーバの前で倒れていた。アイリュは安堵すると同時に、倒れているオフスの元へ駆けよろうと一歩踏み込む。

 しかし凄まじい霊子エネルギーの奔流が肌を焼くようにアイリュに纏わりついた。



「起動中の霊子サーバに近づくのは危険です」

「アイリュ待つのじゃ!」



 コンセプシオンとリノミノアの言葉を無視し、アイリュは意を決すると中に入っていく。

 リノミノアはアイリュを止めようと手を伸ばすが、あまりエネルギー密度に本当的に体がすくみあがった。

 中へと踏み込むアイリュの体には、膨大な霊子がまとわりつき、静電気を受けたかのように髪の毛や服が逆立ち始める。何とかたどり着くとアイリュはオフスを抱え上げた。



「捕まえたッ! 放さないわよ」



 意識の無いオフスを引きずりアイリュは入り口まで戻っていくが、霊子エネルギーが体を蝕み途中で片膝をついてしまう。



「アイリュ! バカ者め、無茶をしおってッ」



 リノミノアはアイリュの様子を見て中に飛び込むと、二人を力任せに部屋の外へ引きずり出した。

 部屋の外に出るなり、アイリュはオフスの肩を揺らす。



「オフス! 起きてよッ」



 抱えられたままのオフスは未だに目が覚めていない、それどころか全身がぼんやりと光り輝き、今にも消えてなくなってしまいそうだった。



「クエリちゃん! オフスを目覚めさせるためにはどうすればいい?」

「はい。霊子サーバから距離を取る事を推奨します」



 ビュアレズはアイリュに代わってオフスを背中に背負う。



「早くここを出ましょう!」



 ビュアレズはそう言うと、皆を促すように走りだした。

 警報の鳴る遺跡を後にし皆で外に出ると、街中で倒れ込んでいたはずの人型作業機が錆びついた音を立てて動き回っていた。

 アイリュに握られたコンセプシオンが警告を発する。



「皆さん、人型作業機は我々を排除しようとしています。捕まらないように気を付けてください」



 動いているのは五体ほどいるだろうか、建物を壊しながら進む姿にリノミノアは思わず声をあげた。



「凄いのじゃ! 古代の偶像騎士シエイゼが本当に動いておる!」

「オフスみたいな事言ってないで! 逃げるわよ!」



 遠くの建物の影から、ビュアレズの部下の一人が手招きしているのが見える。急いで合流するとその部下の案内で走り出す。



「こっちです。他の二人は巨人の注意を引き付けています」



 そのまま廃墟を駆け抜けるが、人型作業機の足音が真っすぐこちらに近づいてくるのが聞こえる。振り向くと後ろに人型作業機の姿が見え、相手もこちらにを見ているようだった。

 人型作業機は真っすぐに向かってくる。その動作はゆっくりだが、必死で逃げなければ追いつかれてしまう。



「逃げ道は無いの?!」



 アイリュはコンセプシオンを握り締めながら叫ぶ。



「ハイ、迂回しましょう。手前の角を右に曲がってください」



 皆で右へ曲がると、建物を突き破って行く手を塞ぐように別の人型作業機が姿を見せる。



「こっちじゃなかったの?! コンセプシオンッ!」

「ネットワークと切り離されていますので、判断を誤ったようです」



 元来た道を慌てて戻るが、先ほどの人型作業機が瓦礫をまき散らしながら追いかけてきた。

 避けるように別の通路へと駆け込む。



「急いでリノちゃん!」

「息が……、上がって、もう、ダメじゃ……」



 アイリュがリノミノアの手を引こうとすると、すぐ目の前にもう一機、建物を壊しながら人型作業機が姿を現した。

 降り注ぐ瓦礫を避けながら後ずさるが、アイリュは足首を捻って倒れてしまう。

 ビュアレズやリノミノアも瓦礫を避け切れず、地面に倒れていた。ビュアレズに背負われていたオフスも地面に倒れ伏している。

 通路は塞がれ、もうどこにも逃げ道は無い。



 アイリュが顔をあげると、人型作業機がこちらを見つめていた。姿形は偶像騎士シエイゼと似ているが、受ける印象は冷たいものだった。そして人型作業機はその手を振り上げ、アイリュを押しつぶそうとしてくる。

 その最中、アイリュは最も心を寄せる男の名を口にした。



「助けて、オフス……」



 何か問題が起きても、オフスは周りに大きな迷惑をかけながら解決してしまう。

 そんなオフスをアイリュは良く思っていなかった。自分はもっとオフスの為に何かできるのではないかと思ってしまうのだ。

 でも、もう限界だ。そしてこんな状況になって、またもオフスに頼ってしまう。

 絶望的なこの状況でも、オフスなら何とかしてくれるのではないかと、そう思ってしまうのだ。



 アイリュの小さな声に答えるように、オフスが淡く輝く……。するとアイリュが手に握るコンセプシオンが声を発した。



「クルペン内部にて”掃除機”の使用制限が解除されました」



 棒状だったコンセプシオンが縦に割れ、内部の複雑な構造をのぞかせる。それに合わせて肩に乗っていたクエリドールが話し始めた。



「アイリュ、最優先事項を実施します。現在多連装|虚子≪エレボス≫レーザーを準備中。先端の照準を標的に合わせてください、こちらで補正します」



 アイリュは直感的にコンセプシオンを三体の巨人に向ける。



 次の瞬間、コンセプシオンから幾筋もの黒い光が打ち上げられた。それはアイリュがフォーナスタで見た偶像巨人スウィッグを倒した黒い雨のような光だった。

 黒い光は人型作業機に衝突すると質量があるかのようにその巨体を穿ち、弾き飛ばす。そのまま二機の人型作業機は仰向けに倒れ込んだ。

 先ほど命中しなかった黒い光が空中で軌道を変えると、残りの一機に降り注ぎ粉々に粉砕していく。



「凄いのじゃ……、アイリュ」



 リノミノアは埃まみれになりながら、その光景を見つめ呟いた。

 動く人型作業機がいなくなるとアイリュはふと我に返る。回りを見回すと、ビュアレズもリノミノアも動ける程度には元気なようだった。



「残りの二人を探してここを出ましょう!」



 アイリュはそう言って倒れ込んだままのオフスを見つめる。オフスは先ほどと変わらずぼんやりと光り輝いていた。



 もしかしたら、またオフスに助けられたのかもしれない。

 オフスは他人のためにいつも無理をする。こんな状態でも私たちのために無理をしているのではないかと思うと、アイリュは少しだけ悲しかったのだった。



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