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君と子孫を残したい  作者: 丸山ウサギ
第六章 ラーゲシィ(イチゴの花の偶像騎士)
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五話 ナウム地下遺跡③

 仄かに光る幻想的な光景を見ながら休息を取る。

 リノちゃんはランチボックスをからサンドイッチを取り出し、俺に手渡してくれた。



「オフスの分じゃよ。卵たっぷりサンドじゃな」

「ありがとう、リノちゃん」



 エリアスナスさんの作ってくれたサンドイッチをかじりながら、もう一度通路を見渡す。



「まるで結晶のトンネルの中を歩いてるみたいだな。どやってこの遺跡は作られたんだ?」



 継ぎ目のない壁や天井を見ながらリノちゃんに尋ねる。



「元は手掘りの坑道じゃよ。深層に向けて何本かこのような坑道が掘られておる。周囲が硬化し、十年程でこのように結晶化してしまうのじゃ」



 やっぱりこの遺跡には俺の思っていた通りの物があるのかもしれない。



「それじゃあ深層ってどんな場所なんだ?」

「深層は金属で構成されているのじゃ。古くは金属の鉱山として利用していた事もある。じゃが今は危険なので立ち入り禁止となっておるのじゃ。まぁ、見てのお楽しみじゃよ」



 俺達の会話にアイリュがつまらなそうにため息をつく。



「遺跡ってもっとワクワクするところかと思ってたけど、ホントにただ歩いているだけね」

「そう思うならば魔物の大掃除をした甲斐があるというものじゃよ。本来ここはのんびり昼食を取れるような場所ではないのじゃ、危険に満ちた場所なのじゃぞ?」



 そう言ってリノちゃんは食べ終わった俺に、今度はゴルダの種を手渡してくれる。



「美味そうなゴルダの種だな!」



 この独特の異臭が食欲をそそるのだ。

 皮を剥いて食べようとすると、クエリからメッセージが送られてくる。



”ご主人様。アクセスポイントへの同期が完了しました”



 まじか?! これでこの遺跡の真相が分かるかもしれない!



”こちらのパーソナルコードを要求しています。強引にセキュリティを突破しますか?”

『いや、素直にコードを渡してくれ、いきなりケンカを売っても仕方ないからな』

”はい、そのように致します”



 コンマ何秒かでレスポンスが帰ってくる。返信されたコードを読み解くに、どうやら相手はこの遺跡の人工知能らしい。大当たりだぜ!



『クエリ、続いて遺跡が持っている公開データを取得してくれ』

”はい、そのように致します”



 しばらくして遺跡が持つ大量の情報が俺に開示されてきた。ここから先は気を引き締めないといけないぞ。

 


「ねぇオフス。突然黙ってどうしたの?」



 得られた情報は大量だ。クエリに手伝ってもらわなかったら意識が飛んでいたかもしれない。俺は頭の中で情報を整理しながら二人に話し出す。



「大恒星船団所属、……コンセプシオン級二番艦クルペン」

「クルペン? コンセプシオン?」



 得た情報は名前だけじゃない、その歴史や構造なども全て手に取るように分かる。



「今この遺跡の情報を読み解いているんだ……。コンセプシオン、それがこの遺跡の名前だ」



 俺には感じられる。この地下に巨大な構造物が埋まっているのだ。



「おそらく深層と呼ばれているのは船だと思う……。はるかな昔、同じ名前の船が何隻もこの星にやってきたんだ。きっと多くの魂を乗せてここまで来たんだろう」



 俺の話を聞いてアイリュは首をかしげる。



「船? この辺に海なんて無いわよ?」

「星の海を渡る船だよ。神々と人の魂をこの星まで運んできた船の、そのうちの一隻だ」

「星の海じゃと? オフスがやってきたという星の彼方か?」

「ああ……、そうだ」

「凄いのじゃ! いったいどのような神がいるのじゃ?」

「この船はジーランディアという名の神を運んでいたらしい」



 俺は遺跡のデータを基に霊子サーバの名前を口にする。



「なんと! 一回目の神魔蹂躙戦争で滅びた神じゃな! 失われた有翼人が崇めていたという伝承がある。神が大地に降臨して間もなく起こった大戦じゃ。もっと他には分からんのか?!」



 俺の話を聞いてリノちゃんは目を輝かせ興奮している。



「今いるこの中層は船の外側だな、もっと地下深くに船体がある。そこまで行けば相手からコンタクトを取ってくれるはずだ」



 俺の言葉にリノちゃんは興奮しきりだ。



「この遺跡は古い物だと伝わっておったが、神代の代物とは恐れ入ったわい」

「でも何で船が埋まってるのかな?」



 アイリュはまだ海の船のイメージが抜けていないらしく不思議そうにしている。



「空からやって来たコンセプシオンは地面深くに突き刺さったんだ。地表部分の構造体は初期の人類の資源になったらしい」

「ん~、それじゃそのコンセプシオンが遺跡の魔物を作り出しているの?」



 宇宙船を修繕するための超大型のエーテル形成器が稼働している。魔物と呼ばれる存在を作りだしていたのは間違いなくこれだろう。



「そうだ。魔物はこの遺跡のエーテル形成機が生み出した人形だよ。遺跡へ近づく人の恐怖からイメージを抽出したみたいだ。目的は遺跡の防衛だな」



 俺の言葉にリノちゃんはまた大きく驚く。



「エーテル形成器じゃと? バグザードやヒェクナーに搭載されている物か? アレの有効範囲はせいぜい十メートルほどではないのか?」

「ここにあるのはもっと巨大なものだよ」

「むむ。古い文献で見た事があるのじゃ、『遺跡には魔物を作るコアがある』と、なるほど巨大なエーテル形成機か……。しかしにわかには信じられんのじゃ」

「奥まで行けば分かるさ」



 俺たちは食事を取り終えると。先に進み始める。

 奥に進むたびに、なんだか懐かしい気配が漂ってくる。それは宇宙で一人、浮かんでいた時のような感覚だ。

 すると魔法の明かりが徐々に弱まり、やがて消えて行く。深層に到達したのだろう。

 皆でカンテラを準備し先へ進んでいく。俺がカンテラで壁を照らすと、前に来た冒険者たちが記したのだろうか手書きの矢印が壁に続いていた。何度も捜索隊を派遣しただけの事はあるな。準備に余念がない。

 リノちゃんが俺に注意を促してくる。



「ここからは魔法ガルが使えない深層じゃ。遺跡を生業にする冒険者もめったに近づかん」

「魔石が取れるんじゃないのか?」

「魔石の質は中層と変わらないのじゃ。じゃが危険度が段違いじゃから誰も近づかん。わしらも万が一の場合は中層まで退避するから覚悟するのじゃぞ?」

「ああ、わかった」



 深層と呼ばれる場所に足を踏み入れる。そこは広く真っ暗な空間だった。壁や床の材質を見ると、中層大きくとは違い金属でできている。

 おそらくコンセプシオンの船体内部に侵入したのだろう。ランタンの明かりを頼りに前へと進んでいく。



「オフス! ちょっとどうしたのよ!?」



 急にアイリュが声をあげると俺を見て驚いていた。リノちゃんも俺を見ると同じく驚いた顔を見せる。



「どうしたのって? 別に? 何かあるのか」 

「オフス! 自分の体をよく見てみるのじゃよ!」



 自分の体を見てみると、全身が淡く光っていた。なんだこれ?

 幾筋もの光が俺の体の中を駆け巡っている。それと同時に自分の中に力が溢れ出してくる感覚が感じられた。

 これは……、知っているぞ? これは、俺が宇宙にいた時に使っていた”霊子エネルギー”だ。

 俺を見て周囲を警護する冒険者も驚いているようだった。安心させるように皆に笑顔を向ける。



「問題ないよ。多分、これが本当の俺だ」



 俺から放たれる光が周囲を明るく照らし始める。



「その姿は、まさに神の使いといった感じじゃな……」



 体中に溢れるこの力は、惑星ティアレスに降り立つ前の力だ。力が満ちてくる、今なら宇宙にいた時と同様に力が振るえるかもしれない。

 クエリの話だと|惑星防衛機構≪オーヴィタルリング≫の中では俺の力はほぼ無くなってしまうはずだ。魔法が使えないこの場所だとその現象が逆転するのか?

 すると前方が騒がしくなり、ビュアレズさんがこちらに駆けてくる。



「未知の魔物が出現しました! 速やかに中層まで退避ください」

「大丈夫だよ、きっと俺の迎えだ。案内してくれないか?」



 遺跡の人工知能からは『案内を俺の元に送る』と連絡が届いていたのだ。

 ビュアレズさんは俺の姿に驚いているようだったが、リノちゃんが促すとビュアレズさんは俺を隊列の先頭まで案内してくれた。



 先頭まで進むとそこにはおぼろげに輝く人影が佇んでいた。剣を抜いた冒険者に囲まれている相手の姿は幽霊の様だった。

 この幻影が遺跡が俺に送った案内人で間違いない。幻影は黙って俺に手のひらを向けてきた。俺も半ば無意識にその手のひらを重ねる。するとその瞬間理解する。

 幻影はこの船の意識体だ。どうやらエネルギーが不足しているらしい。俺はありったけの霊子エネルギーを目の前の幻影に注ぎ込む。

 すると幻影が掻き消え、遺跡全体が鳴動し始めた。どうやら遺跡のシステムが起動したらしい。



「きゃっ、何?!」

「大丈夫だよアイリュ。遺跡が目覚めたんだ」



 電力が供給されたのか遺跡内が明るくなっていく。改めて周りを見回すと宇宙船の内部と言えばそんな風に見えなくもない場所だ。

 遺跡へと意識を伸ばすと、周囲の情報が俺の知覚と共有されてくる。シエリーゼに乗っていた時のような万能感があふれてきた。

 俺は遺跡に霊子サーバへの道案内を申請すると、マップと共にルートが返信されてくる。



「こっちに近道がある。行こう。もうここには敵はいないよ」



 リノちゃんは俺の言葉に驚いていたが、すぐにビュアレズさんに指示を出す。



「部隊を二つに分けるのじゃ。一方は中層まで後退し待機じゃ!」



 アイリュが不安そうな顔で俺の腕を引っ張ってきた。



「ねぇ、帰ろうよオフス。オフスの体も光っていて変だし、ちょっと不安だよ!」

「大丈夫さ、アイリュにはコイツがついてるだろ?」



 そう言って、アイリュの腰に入っているクエリドールを指さす。



「そうじゃないの! 光ってるオフスはいつもと違う感じがするのよ!」

「ここまで来てわがままを言わないでくれ。神と会って世界の秘密を知る事は、みんなを守る手掛かりになるんだ」



 アイリュは複雑な表情をしていたが、そんな彼女の肩を優しくさする。



「アイリュも見ただろ? 次元寄生体の姿をさ。あんなのが地上に出てきたら、あっという間に地上は壊滅だ。何とか止めなきゃな、そのために神に会う必要があるのさ」



 ビュアレズさんの指揮で部隊が後退すると、彼が選抜した三名がその場に残る。

 


「この先にエレベーターがある。その先が恐らく目的地だ。……アイリュは中層まで戻るかい?」

「バカね! 私も行くに決まってるでしょ!」



 俺が先頭を進み、いくつかの区画を通り過ぎる。厳重にロックされた扉を開くと大型のエレベーターを起動させ地下へ降りていく。



「すごい! 床が下へと降りていく」

「まるでニハロスの宮殿にある昇降機じゃな」



 レグちゃんは故郷のマナフォドリーを思い出しているようだ。



「同じ型のエレベーターだよ。ニハロスの宮殿の真下にはメガラニアがいるんだろ? 女王のいた尖塔は多分同型船の内部構造物だな」

「なるほどのう、ニハロス自体が神代の遺跡じゃったか……。事実としては伏せられていたという事じゃな。大婆様は知っていたという事か……」



 リノちゃんが隣で複雑な顔をする。

 エレベーターを降りると大きな空間に出る。そこに冒険者が書いたと思われるサインが描かれていた。そのしるしをビュアレズさんは確かめる。

 


「ここが目的の場所です。本来はもっと複雑な地形なのですが、こんなに早く着くとは……」

「ここから先がコンセプシオンの重要基幹、古の神ジーランディアの聖域って所だな」



 俺が壁の前に立つと、それに呼応するように壁が淡く点滅し始める。よく見るとそれは一枚の巨大な扉だった。



「この壁の向こうなの?」

「壁に見えるかもしれないけどこれは扉だよ。それじゃ行くぜ?」



 俺が遺跡に命令を送ると、目の前の扉はほこりを立てながら上下左右へと開いて行く。



「ねぇ、オフス。危なくなったらすぐに帰りましょ?」



 俺は真剣な表情のアイリュを安心させるように笑顔を作る。



「ああ、わかった。約束だ」



 そして俺たちは、遺跡の最深部に踏み込んでいったのだ。


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