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君と子孫を残したい  作者: 丸山ウサギ
第六章 ラーゲシィ(イチゴの花の偶像騎士)
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四話 偶像騎士の見せる夢④

 一日はあっという間に過ぎていく。

 そんな中でいつもの日常はとても貴重な物なのだ。突然発生する修羅場には勘弁だけど、まぁそれも悪くはないかなって思う時もある。



 いつもの朝食に、食卓に座るいつもと変わらない顔ぶれ。もちろんその中にはリーヴィルもいる、ちょっと元気はないけど俺を見て微笑んでくれている。

 あの後リーヴィルは落ち着きを取り戻してくれた。俺も頑張ってこれからのリーヴィルを支えてあげないとな! 巫女って言うのになれたのかは分からないけど、笑顔のリーヴィルが一番だ!



 朝食がひと段落してお茶を一口飲むと、食卓についているオルトレアさんに確認をする。



「オルトレアさん、今日の予定はどうなってるかな?」



 全体的なスケジュール管理は彼女に任せているのだ。



「はい、ラーゲシィ用にあつらえた家紋入りの外套が仕上がりました。午前中に確認していただきます。昼食は地下遺跡探索メンバーとの会食になっています」



 特注しておいた家紋入りマントが届いたのだ。ラーゲシィが身につければきっとカッコいいぞ?

 カッコよくなれば自信が出て、ラーゲシィのちょっとエッチな性格も治るかもしれない。とにかく男は見た目なのだ!



「どんな仕上がりか気になるわね」

「ああ、楽しみだな!」



 アイリュの言葉に俺もテンションが上がる。マントを付けたヒェクナーはメチャメチャかっこよかった。俺のラーゲシィにも絶対似合うはずだぞ?!



「昼食で合う探索メンバーも期待してくれて良いのじゃ。わしがナウムでも屈指の冒険者を揃えたのじゃよ。深層までオフスを無傷で送り届けることができるぞ?」

「ねぇ! 私も行きたい。行ってもいいでしょ?」



 突然アイリュが元気に手を上げる。



「俺とリノちゃんだけじゃなかったのか?」

「ん。アイリュが行くなら私も良く」

「ダメよ、リーヴィルちゃんはファニエに行くときオフスについて行ったでしょ! 今回は私の番なんだから」



 すると怒ったような口ぶりでリノちゃんが釘をさす。



「だめじゃ。人数が多いと護衛が機能しなくなるのじゃよ」



 キィーン



 耳鳴りが木霊する。

 誰かを連れて行くか連れて行かないか。それとも誰を連れて行くのか? と言う事か?

 う~ん。アイリュは放っておくと、俺の後を勝手についてきてしまうだろう。フォーナスタを強襲した時もオーヴェズに乗って無理矢理後を追いかけて来てしまったのだ。迷宮のような遺跡に後から一人で入ってくるなんて、かなりマズイ。



「リノちゃん、アイリュだけでも連れていけないか? いざとなったら俺が守るからさ」

「むむ?! オフスが言うのならば、……まぁ良いじゃろう」

「やったぁ! 流石オフスね! ダメだって言ってもついて行くつもりだったんだからッ」

「そんな事だろうと思ったよ」



 勢いよくリーヴィルが立ちあがる。



「ん。だめ! 私も行く!」

「そう言わないでくれリーヴィル。アイリュと違ってリーヴィルは我慢できるだろ?」

「もう! 何よそれ」



 リーヴィルがむくれているが、今回はお留守番してもらうとしよう。



「とにかく明日は”神”とのご対面か」



 やはり少しだけ緊張してしまう。この星の霊子サーバ、いわゆる”神”の一柱との交信なのだ。

 人の魂を収容した超性能コンピュータ、それが霊子サーバだ。この星では”神”と呼ばれている。古い時代、人は魂だけになって霊子サーバの中に理想郷ユートピアを見出そうとした。  

 だけどクエリによれば、それは人類の絶滅だったのだという。

 俺の言葉を聞いたレグちゃんが答える。



「もっと気楽に構えるんぬ。神は心の隙を伺い、深淵に落とそうとしてくるぞ? 身構えれば必ず心の隙となるんぬ。”神”は世界の真実を見せてくるが、それに惑わされてはいけないんぬ」

「怖い事言うなよ。なんていうか、レグちゃんは神に対して良い印象を持っていないよな」



 するとレグちゃんは髪の毛をくるくるといじりだした。



「不幸の一つに『より高位の存在に気に入られる』という事があるんぬ。普通の者は神に対し憧れしか持たないが、真に目的を持つ者にとっては障害でしかない。特にオフスのような男にはぬ」



 俺にはピンと来ないが、もしかしたら概念でなく”神”が実在するからこその感覚なのかもしれないな。



「ありがた迷惑って事か?」

「そう言う事だぬ」

「忠告通り深入りはしないよ。神に対して二つ三つ質問するだけさ」

「ふむ、重ねて言うが神を理解しようとするな……。魂を喰われてしまうぞ?」

「分かった。十分気を付ける」



 俺は前に進むために、危険を冒しても知らなけばいけないのだ。




 ◇ ◇ ◇




 食事の後、皆で庭先に出るとラーゲシィに出来上がったばかりのマントを羽織らせる。贅沢な赤い染料を使って染め上げた逸品だ。

 マントの中央には五枚の白い花弁が誇らしく咲いたように彩られている。みんなが注目する中ラーゲシィは静かに立ち上がり始めた。

 全長八メートル程、一般的な偶像騎士シエイゼよりも二回り大きな重偶像騎士シーエイゼだ。かっこ良く無いハズが無い……、のだが。



「カッコイイじゃない! 強そうね! ラーゲシィ」

「う~ん、かっこいい……、のか?」



 ラーゲシィは注目されて恥ずかしいのか猫背だった。外装の見た目や豪華なマントに完全に負けてしまっている。ちょっと情けない。



「ラーゲシィ! もっと胸を張れよ」



 俺の言葉にラーゲシィは上体を起こすが猫背は直っていない、さらには足が曲がっていて見た目が悪い。

 


「ん~。まるで子供みたいね」



 アイリュや他のみんなにも呆れられている。このままじゃマズイぞ?

 ラーゲシィが来てからは、屋敷に押しかける反対派の連中もやってこなくなった。もっとラーゲシィにはカッコよく目立ってもらいたい。



「そうじゃない、もっとこう背を逸らして顎を引くんだ! 姿勢が悪いと情けなく見えるぞ?」



 俺が胸を張って見本を見せてみる。だが強めに言うとラーゲシィからしょんぼりとした声が帰って来た。



”それでもいい”

「はぁ? 何言ってるんだ? アイリュもお前の事強そうだって言っただろ? こう腕を組んで胸を逸らすんだ」

「何で腕を組むの?」



 腕を組んで見せると横からアイリュが不思議そうにたずねる。



「俺の知ってる大型人型兵器は必ず腕を組むんだよ。それが強さの証明なんだ! 子供が大好きな正義の味方の恰好だぞ?!」



 俺はラーゲシィを見上げて声を張り上げる。



「強い偶像騎士シエイゼは腕を組む! やってみるんだラーゲシィ!」



 ラーゲシィはゆっくりと腕を組むんでみるが、また恥ずかしそうに背を屈めてしまった。



「はぁ……、そんなんじゃ戦えないぞ?」



 ラーゲシィからは自信の無さそうな声が帰ってくる。



”それでもいい たたかいたく ……ない”

「なんだって?!」



 なんてことだ。戦闘用に作られたはずの偶像騎士シエイゼが戦いが嫌いだって?!



「ねぇ、オフス。ラーゲシィは何て言ってるの?」



 俺の驚きに答えるようにラーゲシィは言葉を続ける。



”ハルドさん………………。もういない”

「……それはお前のせいじゃないんだ。ラーゲシィ」



 ハルドさんはネーマさんを救うために無茶をしていた。俺が最後に見た時は、もう手の施しようがない状態だった。



「オフス? どうしたの?」



 俺とラーゲシィの会話は心で交わされている。隣にいるアイリュには聞き取れていないようだ。



「ラーゲシィはハルドさんを失った事を、まだ引きずっているんだ」

「そうなの……、でもきっと平気よ?」



 アイリュはラーゲシィを見上げながら微笑む。



「オーヴェズも沢山悲しい思いをしてきたけど、思い出に負けてないわ。ラーゲシィも強くなれると思う」

「そうだぞラーゲシィ。辛かったら胸を張れ! お前が戦いたくなくても構わない、だけど、逃げちゃダメな時もある。そんな時は胸を張って腕を組むんだ」



 オーヴェズも古い騎体だ。嬉しい事も悲しい事もみんな体験してきたんだろう。ラーゲシィもこれから色々な事を経験していくはずだ、きっと辛い事ばかりじゃない。

 そこへオルトレアさんがやってくる。



「オフスさん、お客様ですよ?」

「午前中に面会なんてあったっけ?」



 すると小さな子供たちが門から駆けてくるのが見える。



「オフスのお兄さん! こんにちは!」

「お、ガキども遊びに来てくれたのか?」

「水汲みが終わったから、遊びの時間なんだ!」



 今日はちゃんと門から入ってきてくれたようだ。きっとラーゲシィと遊ぶのが楽しみで来てしまったのだろう。屋敷の中からグゥちゃんも嬉しそうにやってくる。



「みんな! きてくれたんだ!」

「グゥちゃん、みんなと一緒に遊んでおいで」

「うん! お父さん! ラーゲシィも一緒に遊んでいいでしょ?」

「ああ、いいぞ」



 ラーゲシィを見上げると、やって来た子供達に興味津々の様子だ。



「ラーゲシィ、子供たちを頼むぞ」



 無垢の偶像騎士シエイゼか……。

 もしかしたらオーヴェズは、戦う事を拒んでいるラーゲシィに怒っていたのかもしれない。



 ラーゲシィに子供達が無邪気に抱き着いて行く。そんな光景を見て、俺は戦いが嫌な偶像騎士シエイゼが一騎くらいあってもいいなと、思ったのだった。


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