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君と子孫を残したい  作者: 丸山ウサギ
二章 オーヴェズ (ティアレス辺境編)
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二章 オーヴェズ プロローグ

 俺の名前は三国一ミクニハジメ

 西暦二千三百年の地球から約二万年後のこの未来に蘇った。

 五年程宇宙を彷徨った挙句。やっとの思いで人類の住むこの星”ティアレス”にたどり着いたんだ。

 俺は霊子エネルギーという魂から発するすごいエネルギーを自在に操ることができる上、人類の敵となる次元寄生体っていうのを数万匹倒せるほど強いんだ。

 そんな俺は今ティアレスという惑星に降り立とうとしている。

 その目的は俺が守りたいと思うものを守る為だ。



 俺には分かる。

 宇宙そらにいる俺に語りかけてくれた七人の女の子に会いに行かなくちゃいけない。

 いわゆるハーレムってヤツだな。

 他人から見ればバラ色の人生が待っているように見えるかもしれないが、今の俺にはそんな事を気遣う余裕はなかった。



「おいクエリ、これどうやって地上に降下すればいいんだ?」

≪はい、地表直前で実体化してください≫



 俺達は高度三万メートルほどの軌道上から飛び降りている最中だ。

 どうやってかって言うと自分の霊子エネルギーで”霊化”している、いわゆる幽霊のような状態だ。

 物質のくびきから離れて情報の塊になっているので、”情報体”とも言う。生身で大気圏再突入なんてできないよね。

 クエリっていうのは胸に埋め込まれた青い石、通称ラピスに宿る、俺のサポートAIだ。

 クエリは声を出してるわけじゃない、俺の心に響いてくる。



「それで? 今時速どのくらい出てるんだ?」



 霊化している最中は重さがほぼない。重力に引かれめちゃめちゃ加速してるってことは無いと思う。

 ただ結構な速度が出ているのは周りの景色から体感できた。



≪はい、現在時速二百キロメートルと推測されます≫

「なぁ、それって、そのまま実体化したら、俺、死んじゃうんじゃない?」

≪はい、その通りとなります≫

「はぁ……」



 クエリは悪い奴ではないんだが、タマに俺に冗談なのか本気なのか分からないことを言ってくる。

 

 

「じゃあクエリ、今の速度で地上に激突するまでどのくらい時間がある?」

≪はい、あと九十秒後です≫

「はや! 俺のバラ色の人生残り短すぎ!」



 俺は腕時計型の簡易エーテル形成機を起動させ。クエリに命じる。

 遥か下には湖が見える。上手く着水できれるかもしれない。



「クエリ、俺が今からイメージするものを作ってくれ、素材は今俺が来ている服だ」



 クエリは俺のイメージに合わせ宇宙服を分解し、それを素材としてパラシュートの霊体を作り上げる。

 エーテル形成機とは、霊化した”情報体”の元素構成を変えて、違う物体を作り出す装置だ。

 あとは俺が霊子エネルギー使って実体化すればいい。



 だけどくそっ、なんてことだ! 服を材料に使ったから俺、また裸なのかよ!

 


≪衝突まであと十五≫

「じ、実体化だ! 急げ!」

≪エーテル形成機に不具合あり、必要な霊子エネルギーが不足しています。一時的な実体化しか……≫

「もう、それでいいからッ!」



 殆どすぐ下にまで湖水が見える。

 あ、誰か湖畔に誰かいるな。

 そう思った瞬間、パラシュートが実体化し俺の両肩にものすごい衝撃が走ったかと思うと、その数秒後に俺は水柱をあげて水面に飛び込んでいた。




 ◇ ◇ ◇




「うっ……ゴフッ、ゴッ、ゴホッ!」


 

 俺は激しく咳き込み、意識を覚醒させる。

 ここはどこなのだろう。



「ゴホッ!、ゴハッ!!」



 口の中から生暖かい水が溢れ出してくる。俺は寝かされているようだ。

 水でも飲んでいたのか? 胸が締め付けられるように痛む。

 エーテル形成機の不具合だとか言ってたな パラシュートがうまく作動しなかったのか?!



『キィーン』

 


 耳鳴り。俺のこの耳鳴りは俺の運命に直接かかわる分岐点を知らせてくれる。

 この運命との共鳴現象はクエリがもたらすもので、その恩恵に俺があやかってるというわけだ。

 ちなみに、悪い選択を繰り返すと、聞こえにくくなってくる。



 うっすら目を開けると、そこにはかわいい女の子が見える。十六歳くらいかな? 水に濡れた長い黒髪、尖った耳、くりくりと動く丸い瞳。

 尖った耳の右耳は少し先が欠けていた。

 彼女は口を開く。



 「ハフィア?」



 残念だが知らない言葉だった。これじゃあ選択のしようがないな。

 俺を心配そうにのぞき込んでいたが、俺が目を覚ましたのを見ると、急に険しい顔立ちになり立ち上がり距離を置く。

 お、彼女も裸だ。おぉ、俺のバラ色の人生はまだ健在だったのだ! 胸に赤色のラピスが見える。赤色とか初めて見るぞ。

 彼女は俺と二メートル程距離をあけると、ナタのような刃物を抜きこちらに構える。これはだいぶ警戒されているな。

 俺は上半身を起こし、以前覚えたこの星の言葉を話してみる。

 彼女の言葉を俺は知らなかったが、俺の言葉は分かってくれるかもしれない。



「俺は何もしない、ありがとう、君は……」



 上半身を起こしたところで、俺の視界は暗くなる。

 あ、ヤバイ。急に平衡感覚がなくなり、ふらりと地面に突っ伏すと、俺の意識は彼女の裸をしっかり刻み付けたまま、闇の中へと沈んでいった。




 ◇ ◇ ◇




 俺の意識は再度覚醒し始めた。何やら話し声が聞こえてくる。

 数人で話し合ってる声だ。男が一人、女が二人かな?

 近くでは火が燃えているようだ。パチパチと木がはじける音がする。

 俺は目を閉じ心の中でクエリに話しかけた。



『クエリ、彼らの言葉が分かるか?』

≪未知の言語です。会話サンプルが少ない為、現在翻訳できません≫



 寝たふりを続けていたいが、足音が近づいてきた。

 俺は目を開て周りを伺う、今は昼を少し回ったくらいの時間だろうか。

 足音のほうを見ると、精悍な顔立ちの男性が近づいてくる。

 さっきの女子と同じで耳が尖っているな、ファンタジーで言うエルフっぽい耳だ。年は二十歳くらいかな。服は皮をなめした民族衣装っぽいものを着ている。

 ちょっと前にドラゴンも見たよな、このティアレスって星はファンタジーっぽい世界かもしれない。

 後ろの女性二人も同じく民族衣装っぽい動きやすそうな麻の服を着ている。

 さっきの黒髪の女の子と、栗色の髪の毛の女の子だ。

 黒髪の女の子は俺と目が合うと、露骨に嫌そうな顔をする。

 はぁ、女の子に嫌われるのは慣れてるけど、そうあからさまだと気がめいっちゃうぜ。



 俺は体を起こすと厚手のシーツの様な物がかけられていた。しかしこれ、やけに獣臭いぞ?

 俺は胡坐をかくと、シーツを腰に巻いた。

 近寄ってきた彼は腰の大きな山刀を抜くと地面に突き刺す。



 ドスンッ



 そしてその隣に盃を置くと、俺の前に座り込んだ。

 そして彼は口を開く。



「選べ」



 お、言葉が分かる。

 選べって事は、剣か盃かってことだよな。



『キィーン』

 


 さてどうするかね。



「えっと、俺はここに来たばかりで君たちとは争いをしたくないんだ、その場合は盃を選べばいいのかな?」



 目の前の彼を見ると、頷いていた。

 俺は恐る恐る盃を手に取ると彼は言った。



「その胸の石に誓え」

「え? 誓えって……何を?」



 すると、目の前の彼は呆れたような顔をして言う。



「何をって、ジケロスの言葉をしゃべるのに分からないのか? 俺達と友となる事だよ、そうでなければ、君を助けることはできない」

「え?、あ、そんなんでいの? 誓う誓います! 今から俺とお前は友達だよ! 信じて!?」

「お前変な奴だな。ニーヴァがこんな所で何をしてるんだ? ……聞いた話だと空から落ちてきたそうじゃないか、飛竜から落とされたのか?」



『キィーン』



 ここで耳鳴り?

 周りの状況が分からない状態で、嘘をついてもしかたがないか、後で墓穴を掘るのは御免だぜ。

 それに俺が嘘が苦手だ。



「ニーヴァって何? 飛竜? いや、俺はもっと上の方、オービタルリングから落ちてきたんだ」



 俺はそう言うと天を指す。彼はあっけにとられていた。



「オービタルリング……天の橋の古語か、相当変な奴だな。それじゃあお前の名前は? 俺の名前は、マフルだ」

「俺の名前はミクニハジメだ」



 すると彼は顔色を変えて、突き立ててあった剣の柄に手を伸ばす。



「その言葉が真実なら、俺はお前をここで切らないといけない」

「嘘です! ごめんなさいッ! 俺、オフスって言います! 信じてください! 場を和ませようと、ちょっとした冗談で……」



 まずい! 思いっきり墓穴を掘った感じしかしねぇ!

 オフスっていうのはこの体の前の持ち主の名前だ。

 俺の魂の方の名前”ミクニハジメ”は指名手配とかされてるのか?

 とりあえず話題を変えるしかねぇッ!



「正直、俺何がどうなってるのか、自分でも分からないんだ。と、とりあえず、ありがとう! あと後ろの黒髪の女の子にもお礼が言いたい! 俺、死ぬところだったよ」



≪はい、蘇生が遅れていた場合、危篤な状態となっていました≫

『マジかよクエリ! 俺危なかったの? ていうか、会話に突っ込むんだなお前!』



 マフルは剣の柄から手を離すと、立ち上がり困ったような顔をする。



「ニーヴァが分からないとか……、頭を打ってるのか? とりあえず村に戻っていろいろ聞きたい。あと女性がいるのにいつまでも君を裸にしておけないしな」



 マフルは俺に手を差し伸べてくる。



「ありがとう、ホント助かるよ。俺が分かる事なら何でも話すよ」



 俺はマフルの手を取り立ち上がるが、すぐ視界が暗くなり左ひざをついた。特に左半身がうまく動かない。



『クエリなんだこれ、体調が悪すぎるぞ』

≪ハジメの体は地上宇宙の両方に対応した生体です。まだ地上での活動に対応していません。自律神経、各部位内圧、及び三半規管の適応に三日ほどかかる見通しです≫

『マジかよ、シャレになれないくらい体が重いぜ、目が回ってしかたないぞ、俺死んじゃうんじゃね?』

≪いいえ、死にません≫



 はぁ、意外とすっごい冷たいね。



「おい、大丈夫か? 歩けるか?」



 マフルが心配そうに声をかけてくる。



「ああ、大丈夫だ。すまないが、肩を貸してもらえないか、目が回って歩きにくいんだ」




 ◇ ◇ ◇




 俺はマフルに支えられながら山道を下りていく。

 マフルによれば黒髪の子は”アイリュ”、栗色の髪の子は”アクリャ”と言うのだそう。

 アイリュは周りの葉や草を選んで織り込むと俺の足を覆って紐で縛り、簡易の草履を作ってくれた。使い捨ての草履のだという。

 草履を作ってくれる時に、俺の胸板をしきりに気にしている様子が分かる。

 こっちも恥ずかしいけど、裸だったのはお互い様だろう……。



 彼らは、春の山菜取りや、獣罠を仕掛けに来ていたのだそうだ。

 たまたま、アイリュが湖畔にいたところに俺が天から降ってきたという。

 あと俺がしゃべっていた言葉は、ジケロスという種族の言葉なのだそうだ。

 ジケロスとは耳や尻尾等、動物の特徴をもった種族の事で、放牧や狩猟などで生活しているらしい。

 マフルはジケロスと長期に渡り一緒に狩猟をしたことがあり、それで言葉が分かるのだという。

 ちなみに彼ら三人はエランゼと言う種族で、種族全体で言えば手先が器用で体が柔らかいのが特徴だそうだ。

 俺はニーヴァと言う種族だそうだ。ニーヴァはもっとずっと東に住んでいる種族らしい。

 

 

 俺は山道を下りながら色々質問を受けるが、分からない、知らない、すまない、と答えることしかできなかった。

 彼らはエランゼ語で何やら相談をしきりにしている。

 俺が常識知らずで無知な奴だと思われているのが会話の口調から実感できるぞ? まぁそれは合ってるからな。

 俺が心配なのはこのまま殺されちゃうんじゃいかって言う事かな。暴力反対だ。

 マズイ、順調に俺の株が下がってしまう。いや、もう下がっているな。

 というか頭がガンガンする。死ぬ、死んでしまう……。



 皆は体調の悪い俺を何度か休憩させながら、夕方前になんとか彼らの村の手前に着くことが出来た。

 ちなみに、俺がいる場所はエランゼの国”フォーナスタ国” で、これから向かう所は”イーブレ村”だそうだ

 するとクエリが俺に言う。



≪ハジメ、彼ら原住民の会話を解析しました。まだ不明な用法がありますがエランゼ語の通常会話は可能です≫

『原住民ってお前、助けてもらってるんだからちょっとは遠慮しろよ?』

≪はい、問題ありません、私の声は彼らには届きません≫

『そういう問題じゃないんだけどなぁ』



 マフルは上半身裸な俺が怪我をしないようにと、道の下草や枝を大ぶりの山刀で切り落としてくれる。

 彼には感謝ばっかりだな、そうでないと俺の肌にひっかき傷が無数にできそうだ。

 でもマフルの振るう山刀に少し不思議な所がある、その山刀振るう三十センチほど先の木の枝や下草がバターの様に切れていくのだ。

 


『クエリ俺に霊子エネルギー情報を見せてくれ』

≪はい、視覚情報に霊子エネルギー情報を加算します≫



 霊子エネルギーが見れる状態で彼を見ると、山刀に霊子エネルギーが淡く纏わりついており、振るう直線に霊子エネルギーが剣先に集まっているのが見れる。

 山刀を振るうたび、そのエネルギーが少し先まで伸びて草や枝を切り払っているのだ。

 いや、霊子エネルギーに似てるけどちょっとだけ違うな。なんだあれ?



『クエリ、アレはなんだ?』

≪はい、霊子エネルギーの一種と考えられます、詳細は不明です≫

『ふむ、聞いてみるか』



「マフルさん、その刀に纏わりついてるのはなんです?」



 彼は少し驚いた顔で言う。



「これは”魔力”だよ、君には見えるんだな」

「魔力ですか、じゃあ、それは”魔法”なんですね?」

「そうだ、ただ俺は魔法使いじゃない、この剣のおかげさ」

「魔法使いがいるんですか?」

「こんな所にはいないさ、もっと都会ならいるかもしれないがな」

 


 マフルさんは、怪訝そうな顔をするが、俺に質問しても毎回意味がない為、すぐに興味をなくしたようだ。

 霊子エネルギー単体ではあんな芸当はできないぞ。色々情報が足りなさすぎる。俺も後で試してみようか。

 だけど、地上では霊子を使う技の事は魔法って言うんだな。まぁ、実際魔法にしか見えないよな。



 彼らの村の近くまで来ると、山道の途中にツタで覆われた高さ三メートルほどの金属の塊が見えてくる。

 その前にはいくつかの花が供えられてあり。まるで弔いの様だった。

 俺はクエリの力を借りながら彼らの言葉で話しかけてみる。



「この鉄の塊はナんです?」

「お前しゃべれたのか?」

「皆さんの会話でだいぶ覚えました、マだよくわからないところ、あります」

 


 三人は皆驚いてるように見える。でも会話は使って覚えるものだしな!

 ツタに絡まれた大きな鉄の塊、いやコレは……ロボット? 機械生命体か?

 半ばあきれ顔でマフルが答えてくれる。

 


「お前ホントにどこの出身だよ。これは偶像騎士シエイゼと呼ばれているものの遺骸だ」



 アイリュはその言葉を聞き声を荒げる。



「この偶像騎士シエイゼは”オーヴェズ”よ、私のお兄ちゃんの偶像騎士シエイゼなの。鉄の塊じゃないわ!」

「わかった、スまない」



 俺は謝るとオーヴェズを見つめる。目の前に置かれた花は献花なのだろうか。

 その姿は、ツタに絡まれ座り込んだ巨人に見えなくもない。立てば身長五、六メートルくらいだろうか。

 俺は心の中でクエリに話しかける。



『クエリ、機械生命体だと思うんだが。オーヴェズの通信ポートは空いてないか?』

≪はい、機械生命体の可能性はあります。通信に対し微弱な反応、生きています。内部に直接信号を送れば反応があるかもしれません≫



 地上の機械生命体か。シエリーゼで機械生命体の事は五年間で嫌と言うほど学んだからな。

 それに俺、未知の機体とか、かなり興味があるね!



 俺は自分のやるべきことをやる為に生き残らなきゃならない。

 このまま彼らに見捨てられてしまうと野垂れ死んでしまうかもしれないぞ?

 俺が役に立つことをアピールして、彼らの印象を良くしておかないとな。

 俺はアイリュに向き直ると、なるべく優しく話しかけた。



「オーヴェズは生きている。俺は、オーヴェズを直せるかもしれない」





二章目です。

不定期で週二本程度アップしていく予定です。




2022/6/13 誤字報告をいただき、修正させていただきました。ありがとうございます。

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