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君と子孫を残したい  作者: 丸山ウサギ
第六章 ラーゲシィ(イチゴの花の偶像騎士)
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二話 招かれざる来訪者②

「すみませんでしたぁッ!」



 ナウムにいくつかある軍の施設内。そこで俺はニルディス将軍の前で土下座をしていた。

 なんだかんだで偶像騎士シエイゼは戦いの為に存在する。それを勝手に駐騎場からラーゲシィを持ち出したのだ。怒られるに決まっている。そして事の経緯を話してからの土下座は基本中の基本だ。

 女の子達との日常生活でも、三日に一度は土下座スタイルを活用させてもらっている。男が頭を下げるのはかっこ悪い事ではない。……そう思いたい。

 目の前で土下座する俺を見て、ニルディス将軍は溜息をつく。



「オフスさんが緊急措置と言うのなら……、概ね問題はないでしょう」



 見上げると呆れたような顔をしていた。



「それじゃ、おとがめ無しって事でいいのか?」

「影響の範囲は軽微ですし、私としてもラーゲシィが起動成功してくれた方が頼りになりますからね。持ち出しについてはラーゲシィの起動実験として処理しておきますよ。それよりも席に座って下さいませんか?」



 早速椅子に座りなおして、カップに注がれていたお茶を一口飲む。緊張から解き放たれた感じでホッと一息だ。



「それよりも、さっき言っていた。ラーゲシィを頼りに……、って、どういう事ですか?」



 ラーゲシィの起動はまだまだ先のハズだったのだ。

 


「トートを覚えていますか?」

「ええ」

「今、彼らは街や村を襲撃し三百人程度の野盗集団と化しています。北西部からヴァンシュレンへ侵入し、ナウム東部のエグファズに潜伏していましたが……」



 そう言ってカップのお茶の香りを嗜むと、溜息交じりの息を吐く。



「彼らは、現在ナウムに向かってきているのです」

「あいつ、まだ懲りないのか。それじゃあ、目的は俺か?」

「はい。おそらくは……。現在、再編した暁の騎士団を迎撃に当たらせています。追って詳細が届くでしょう」



 暁の騎士団はナウム周辺を守護するエリート騎士団だ。一か月ほど前、神異騎士団の奇襲を受けて国境付近であっけなくやられてしまったが、俺が偶像騎士シエイゼを修復し再編を果たしたばかりなのだ。



「敵の戦力は?」

「判明している脅威は、ギルナス製の偶像巨人スウィッグ三騎と私兵が百といった所ですね」

「暁の騎士には、新兵装を渡しているのか?」



 新装備とは、俺がこの世界の技術で作った実体剣マテリアルブレードのレプリカだ。騎士リダリ達の間では、通称”黒剣”と呼ばれているらしい。

 超大容量の魔力貯蓄炉バッテリーを仕込んだ盾と同時に使用し、刀身に虚子エレボスを発生させる代物だ。

 ギルナス製の偶像巨人スウィッグは動力炉が破損すると魔力を汚染させる”妖精の鱗粉”をまき散らす。虚子エレボスはこれを無力化する効果がある。もちろん切れ味も俺の折り紙付きだ。仮に次元寄生体が現れても、有効な武器になる。



「ええ、集団での実戦テストも兼ねています。六騎、全て出撃済みですよ」

「じゃあ問題ないな」



 俺は安堵の息を漏らす。改修した(シエイゼ)は三割近く運動性能が向上しているのだ。

 ギルナス製の偶像巨人スウィッグは一時的な出力が高い。だがトータルバランスで優れる改修済みの偶像騎士シエイゼが六騎も向かったのだ。

 それに、暁の騎士団は名誉挽回のチャンスだから、士気も相当高いだろう。



「ラーゲシィについては、万が一、と言う事態に備えてですよ。もし暁の騎士団が破れた場合、ラーゲシィとオフスさんがナウムの守りの要になります。ラーゲシィの起動と契約は非常に嬉しい報告なのですよ」

「俺よりさ、仮にトートが来たとしてもナウムには十分な戦力があるじゃないか」



 ナウムにはラーゲシィもバグザードもいる。ヒェクナーもブルツサルも改修を受けている最中だ。学生騎士の連中もいるし、それに神異騎士団の重偶像騎士シーエイゼも鹵獲してある。単純な戦力としては十分すぎるだろう。

 だが、俺の言葉にニルディス将軍は表情を崩さない。当てに出来ない戦力は、計算に入っていないってことか?



「まぁ、俺が操るラーゲシィならどんな相手でも負ける事は無いよ」

「期待してますよ。オフスさん」



 ラーゲシィは、神がこの星に降り立った時代に建造された偶像騎士シエイゼだ。それに当時の知識と技術を持つ俺が乗り込めば、現代の偶像騎士シエイゼなんか物の数ではないだろう。

 俺との会話の最中でもニルディスさんは常に落ち着いた様子だ。俺は冷めかかったカップにもう一度口を付ける。

 


「それともう一つだけ、気になる情報がありまして……」



 その声に少しだけ緊張する。ニルディスさんの口調に、先ほどまでとは違う何か嫌な予感がするのだ。


 

「また何か厄介事ですか?」

「いいえ、オフスさんの耳に入れておくだけですよ。……街の警備からの報告なのですが、グラン大森林からオフスさんを訪ねてやってきたジケロスがいるそうです」

「もしかして女の子ですか?!」



 俺を尋ねてくる人なんて女の子しかいない! レグちゃんだって、わざわざ俺のためにナウムまでやってきてくれたのだ。七人の内の一人かもしれないぞ?

 でも、その割には俺のラピスに反応が感じられないな……。



「いいえ。詳細は分かりませんが、ただ……。仮面をかぶった大柄の男だそうです」

「なんだ、がっかりだぜ」



 俺のそんな様子を見て、ニルディス将軍は少しだけ笑う。



「街中で事情聴取していたそうですが、途中で行方をくらませたそうです。捜索は行っていますが、念のためお気を付けください」



 記憶を掘り起こしてみるが、そんな知り合いは俺にはいない。そういえば最近街中にジケロスを多く見かけるし、何か関係があるのかもしれないな。街に住むジケロスって変わり者が多いって言うから気を付けるのに越したことは無いだろう。……まぁ、出会ってから考えるか。

 そして俺はその時、その話をあまり気に留めておかなかったのだ。


2022/5/13 誤字修正しました

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