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君と子孫を残したい  作者: 丸山ウサギ
第五章 ブルツサル(フォーナスタの王)
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章間 オルトレアの剣①

 マイシャがマナフォドリーに向かってから、また俺は偶像騎士シエイゼを調整する日々が続いていた。

 ナウムに持ち込んだ偶像騎士シエイゼは、秘匿された駐騎場の一つに集められ、ここで多くの作業者と共に重偶像騎士シーエイゼの改修を行っている。ただ、今はこの秘密の駐騎場には俺しかいない。連日連夜の作業で効率が落ちたため、今日は休みにしてあるのだ。

 俺の手伝いができるリノちゃんも、かなり過労状態になってしまっている。この機会にゆっくり休んでもらいたい。まぁ、人が多くいても、俺一人でやらなきゃいけない部分が多いんだけどね。

 改修をしているのは、オーヴェズ、ヒェクナー、ブルツサル。それに加えて鹵獲した神異騎士団の重偶像騎士シーエイゼだ。装甲を外された状態でギーゲイズ、ヘクスディ、ミギュリアが駐騎している。どの騎体もひどい損傷だ。



 オーヴェズに行っていた作業の手を止めて、隣のラーゲシィを見上げてみる。ラーゲシィは全高八メートルの鋼の巨人だ。銀色に輝くラーゲシィは意識を封印され眠りについていた。既に動力炉の改修も済んでいる。もう人の魔力を過剰に吸い上げることは無いだろう。

 偶像騎士シエイゼには意志がある。騎士リダリと喜びを共にし、泣き、そして時として怒り、また人を愛する。それは人と何ら変わらない。修理が終われば新しい騎士リダリを迎え、新しい時代の象徴になっていく。そしてまた、戦いに身を投じていくのだろう。

 戦いなんてものは、上に立つ人の思想の違いでしかない。だけどもうリグズ王との、フォーナスタとの戦いは、終わったのだ。今、戦うべき相手は他にいる。それはランマウに侵攻したギルナス王国の連中だ。

 


 作業を中断し手すりにもたれかかると、新しく左手の中指に嵌められた指輪をぼんやりと見つめる。これは、俺がリロンド商会の頭領である事を正式に示す権威の証だ。

 なんだかんだで、俺に立場が無いと俺を支援する人が困るらしい。レグちゃんやニルディス将軍に説得され、この指輪を押し付けられた感じになっている。

 政治的な話はややこしいが、他の人に迷惑がかかるなら俺に身分や地位は必要だって事だ。

 そういえば、俺はこの街に来るときはリロンド商会の頭領って感じで入ったんだよな。最初にこの街に来た時の嘘が本当になったんだ。そう思うとなんだか笑えてくる。そんな事を思っていると、後ろからアイリュの声がかかってきた。

 


「やっぱり! ここに居たんだ」

「どうしたんだ?」

「クエリちゃんに聞いて迎えに来たのよ。そろそろ議会の事前打ち合わせでしょ?」



 立場があれば当然責任もある。俺はいまだ混乱しているナウム中央議会の議員でもあるのだ。



「そう言えばそうだったな。利権の取り合いとか勝手にしてくれって感じだけどさ。そうも言ってられないのが辛い所だよなぁ。はぁ、あの議員連中。俺、嫌いなんだよね……」

「もう! 私だってそうよ。最近は物価の上昇や街の治安なんかも悪くなってきてるし……、だからオフスも話し合いには参加してよね?!」



 そんなアイリュはオーヴェズの乙女として”ナウムの代表”に収まっている。いつも笑顔で他人に希望を持たせてくれる彼女は市民からの受けもいい。他議員からも好印象だ。ネーマさんの後釜だが、田舎娘のアイリュに都市運営なんかが出来るハズも無く、施策の立案はニルディス将軍が受け持ってくれている。体のいい軍の傀儡政権だが、まぁ俺にとっても難しい事を考えなくていいから文句もない。

 アイリュは俺の隣まで来ると、オーヴェズを見上げる。



「ねぇ、オーヴェズちょっと見た目が変わったね? かっこよくなったかも」

「ああ、もうほぼ完成だ」



 動力炉の改修に加え、今出来る限りの技術で基本構造もアップグレードさせてある。単純なパワーだけならその辺の重偶像騎士シーエイゼにも引けを取らないだろう。それに加え、様々なオプション装備も作成してある。前回、ギルナス製の偶像巨人スウィッグはワイヤーアンカーという簡易的な飛び道具を使ってきたのだ。こっちも対抗する手段を作っておかないといざという時に立ちまわれない。

 オーヴェズの背中には家紋入りマントが装備してある。ひし形に大樹があしらわれた紋章だ。なんでもアイリュのお兄さんの紋章なのだという。その新しいマントをオーヴェズはものすごく気に入っているようだった。

 オーヴェズの隣には偶像騎士シエイゼ用の山刀や手斧が置かれている。アイリュは剣よりもこっちを使う方が性に合うらしい。他にも俺の作った試作品の虚子エレボスライフルが置かれていた。アイリュはそれを指さしながら不思議そうに俺に尋ねてくる。



「隣の長槍は何?」

「あれはライフルっていう飛び道具だよ。黒い光を放つ武器だ。まだテスト用の試作品だけどね」

「あのヒェクナーが使ってるみたいな黒い光の武器?! これで次元寄生体とかいうキモチわるい化け物にも戦えるようになるのね!」



 次にアイリュは、オーヴェズの改修で一番見た目が変わっている脚部を指さす。



「足についてるブーツみたいなのは?」

「ヒェクナーと同じ重力制御装置さ。これもまた試作……」

「もしかしてオーヴェズって空を飛べるようになったの?!」



 アイリュは興奮したように俺に迫ってくる。



「そうだけど、まだ不安定だぞ? もう少しテストしないとダメだし……、まぁ長い距離を跳躍するくらいならできるかもしれない」

「なんだか、怪しい言い方ね」

「仕方ないだろ。まだ魔法式が確立してない試験品なんだからさ」

「それって飛んでいる最中に壊れたりしないの?」

「壊れるときは安全に壊れるように設計してある! 安心しろよ」

「全然安心できないじゃない~」



 それでも俺の言葉に一応納得したのか、アイリュは期待の眼差しでオーヴェズを見上げていた。



「なぁ、アイリュ。新しいオーヴェズにちょっと乗ってみるか?」

「うん!」



 操縦席周りのレイアウトも造り変えているから、アイリュに慣れてもらわないといけない。でもきっと乗ったら驚くぞ? 予想通り乗り込んだアイリュは操縦席の作りに驚きの表情を見せてくれた。



「うわ~、涼しい~。これも魔法?」



 操縦席には夏の暑さに代わってヒンヤリと心地よい風があふれている。



「ああ、簡単な空調設備さ」

「すごーい。もう私オーヴェズから降りたくない~」



 アイリュは新しいオーヴェズの操縦席にご満悦の様子だ。魔力貯蓄炉バッテリーを起動させ計器類に明かりを灯すと、外部の様子を映したモニターに一瞬人影が写り込むのが見えた。

 一瞬だったが、その人影は作業区画の奥の通路を小走りに移動していた。それは俺の知っている人物だ。



「ん?」

「どうしたの?」

「奥の通路にオルトレアさんが見えた気がしたんだけどさ」



 俺の見つめるモニターをアイリュも覗き込む。もうそこには人影は映っていない。



「オルトレアさん、今日は軍部へ報告に出かけているハズでしょ?」



 それは俺も知っている。真面目な性格のオルトレアさんがこんな所で何をしているんだ?



「ちょっとクエリドールを借りるぞ」

「なに? なに?」



 アイリュの腰のバッグに入っているクエリドールにアクセスすると、少し開けたハッチからクエリドールは外へ飛び出ていく。そして先ほどの人影を素早く追いかけはじめた。クエリドールの見ている映像を操縦席のモニターに繋ぐと、研究室の扉の前にたたずむオルトレアさんの姿が映し出された。そこは俺が使ってる研究室だ。

 何をしているのか? と思って様子を見ていると、彼女は深刻そうな表情を見せた後、手を霊化させてドアに手を差し入れる。かちゃりと音がすると鍵が開いたようだった。そして静かに研究室へと入っていく。なるほど、霊化術って鍵開けにも使えるのか……。



「あっ! もしかして……」



 アイリュが驚いたように声をあげる。研究室には、まだ世の中に出ていない理論や研究成果なんかがぎっしりと詰まっている。俺にとっては既知の技術だが、この星の文明レベルだと神の御業に見えるだろう。悪用なんかされれば大変だ。アイリュはその様子を見ると眉をしかめる。



「何てことッ! オルトレアさんもオフスの私物を盗みに入ったのね! リーヴィルちゃんみたいにッ!」



 ここで明かされる衝撃の事実! 



「リーヴィル? は? 何言ってるんだ?! って、俺の部屋に盗みに入ってるの?! 何で?!」

「ほら、身の回りの物が突然無くなってたりするでしょう?! 私、やめなさいって言ってるんだけど……」



 そう言ってアイリュは顔を真っ赤にして恥ずかしそうにうつむく。

 ん~? 金目の物は無くなってないし、無いと言えば愛用のパンツがいくつか見つからない事くらいしか思い出せない……。いや、関係ない事より目の前の差し迫った事実を何とかしなくちゃいぞ。それにオルトレアさんのあんなに暗い表情は見たことが無い。あんまり笑わない人だけど、たまに笑顔を見せる彼女はすっごい美人だ。

 とりあえず、アイリュには適当にごまかしておくか。



「思い出したよ! オルトレアさんには俺の仕事の手伝いをお願いしていたんだ」

「ホントに~?」



 アイリュは俺の顔を覗き込むと、俺の眉毛を指でちょんとつついた。



「オフス嘘ついてるわよ。嘘つくと眉毛が動くんだからね?!」

「ハハハッ」



 やっぱり慣れない噓はつくもんじゃないな。アイリュは俺を笑いながら見つめる。



「気になるんでしょ? オルトレアさんすっごく不安そうな顔してたよ?」

「そうだな……。まぁ、彼女の事は俺に任せておけって。それよりもアイリュ、そろそろ会議なんだろ?」

「あっ、いけない!」



 アイリュは思い出したように慌て始める。

 俺はオーヴェズのハッチを開けると勢いよく外へと飛び出した。



「ちょっと! どこに行くのよ?! 会議でしょ? オフスも出席するんだからね?!」

「皆に任せるさ! 俺には会議よりもっと大事な用事が出来たんだ!」



 そう、今の俺には笑顔にしなきゃいけない人がいるのだ。

 「もう!」っと後ろからアイリュのむくれた声が聞こえるが、俺は既にオルトレアさんの事しか考えてなかったのだ。

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