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君と子孫を残したい  作者: 丸山ウサギ
第五章 ブルツサル(フォーナスタの王)
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閑話 フォーナスタ王女のナウム訪問②

 俺は心当たりのある場所までたどり着く。ここは北の丘にある一本の大木の元だ。

 周りを見渡すがマイシャの影も形も無い。

 だけど感じる。俺のラピスに感じる温かな波動はマイシャがここにいると告げていた。



「マイシャ? いるんだろ」



 息を切らせながら周りをもう一度見渡すと、木の上から声がかかってくる。



「フフッ。やっぱりオフスですわね。私を見つけてくれるなんて」



 見上げると、太い木の枝にマイシャが腰かけているのだ。

 軽装で可愛らしいワンピース姿。よくナウムで着ていた服装だ。



「当然だろ? さぁ早く戻ろう。魔力貯蓄炉バッテリーの残量が無くなるぜ?」

「平気ですわ。オフスが見つけてくれるって、信じてましたもの」



 全く、俺の女王様はまだまだ困ったお姫様だ。

 マイシャは意地悪そうな笑顔を俺に向けると、するりと木の枝から降りてくる。

 スカートから見える太ももが眩しかったのは俺だけの秘密だ。



「私。ちょっと体がなまってしまいそうですの……」



 そう言うと、腰に差していたレイピアを引き抜いた。俺が作り出した薄緑色の刀身を持つレイピアだ。



「ちょっと付き合って下さらない?」



 にこやかにそう言うが、殺気はけっこう本物だ。

 何てことは無い、これがいつものマイシャだ。

 俺たちはつい先月までここで剣術の練習をしていたのだ。

 ほとんどがマイシャのストレス解消だったような気もするが……。きっとこれが俺たちの”普通”なんだろう。



「いいぜ?」



 俺はトランクを放り出すと腰に差していた魔剣カーパを抜く。

 軽く剣を合わせた後、数度打ち込んだ。

 気迫に満ちたマイシャの剣筋はどれも本気の一撃だった。それを捌ける俺も、剣の腕が前より上がっていると言う事だろう。

 マイシャの剣は変幻自在だ。だけどそれらは全てマイシャが必殺の一撃を放つまでの布石に過ぎない。一撃一撃が高度な駆け引きの中で成り立っているのだ。

 俺はクエリのサポートを受けずに体と魔力を使う。マイシャから教わった戦い方だ。

 クエリのサポートも悪くはない。だがそれは人の可能性を見つけ出すための手助けに過ぎないのだと、そうマイシャと剣を重ねて思うようになっていた。

 俺自身の強さを引き出してくれたのは、マイシャなのかもしれない。

 剣を合わせるたびにそんな懐かしさが蘇ってくる。だけど、まだ、足りない。俺の心が満ち足りない。

 俺が捌く彼女の剣は、一か月前のマイシャより重みがないのだ。



「どうした?! もっと本気で来いよッ! 俺も偶像騎士シエイゼばっかり弄ってたわけじゃないぜ? それとも女王様になっちまって腕がなまったか?」



 俺の声を聞くとマイシャは唇を釣り上げ、嬉しそうな顔をする。



「私を煽った事、後悔させてあげますわッ!」



 そうだ、もっとマイシャはギラギラしているのが俺的に、最ッ高に可愛い。

 次の瞬間、マイシャはものすごい勢いで踏み込んでくる。

 技術に魔力、それに加え偶像甲冑パワードスーツのパワーを使いだしたのだ。

 防ごうとするが俺の握る魔剣カーパはあっという間に弾かれ宙を舞ってしまう。

 勝利を確信しマイシャは突きを放つ。それはまさしく必殺の一撃。あの時の様に放つ、俺の胸目掛けた一撃だ。

 


「それを待ってたぜ! マイシャッ!」



 マイシャの突きは俺の目の前で、突然止まる。

 俺の前に張られた結界によって、見えない物体にぶつかり切っ先がこちらに向かってくることは無い。

 俺の目の前には、精巧に魔法陣が描かれた紙が浮かんでいる。

 あらかじめ魔法陣を書き込んだこの陣符を霊化術で一瞬だけ実体化させているのだ。

 魔法陣はこの世界の三大魔法の一つ刻石術の結晶だ。これは魔力を注ぐと違う現象として現れる魔法装置なのだ。

 この魔法陣は、霊化術で言う所の”シールド”の効果がある。

 刻石術は偶像騎士シエイゼの基本的な仕組みの一つだからな。以前リノちゃんと一緒に学んでおいてよかったぜ。



 勝ちを逃したことに怒ったのか、すかさずマイシャは修羅の形相で二の太刀を繰り出してくる。

 だけど今回は俺の勝ちだぜ!

 俺は続けて違う陣符を実体化させると、そこに魔力を流し込み、刻まれてある”強風”を発動させる。

 するとマイシャを中心に瞬時に竜巻とも呼べる風が巻き起こり、マイシャの視界を一瞬でふさいだ。

 僅かに出来たそのスキに、俺はマイシャのおでこに優しくチョップしてみた。

 竜巻はすぐに収まり、マイシャは信じられないというように俺のチョップしてきた手を触る。

 


「オフスッ! 凄いですわッ。何ですの? 詠唱も無しで術を使うなんて!」

「はは、こんなのはタダの手品みないなものさ。ネタがばれたら脅威でもなんでもなくなるぜ?」



 それにマイシャが俺の胸に突きを放ってくるのを見越した上での”シールド”展開だ。

 陣符を仕掛ける側が相手を知っていないと上手く使えない欠点がある。必殺技には程遠いのだ。それに”ライトタイプ”の代わりになどなりはしない。

 でも、マイシャは俺の手品でご機嫌顔だ。



「たった一か月の間にこんな技を身に着けるなんて」

「いいや、マイシャの突きも凄いぜ? あれは俺が偶像騎士シエイゼ用に作った結界の試作品だからな。結界の三層まで突きが貫通していた。マイシャはひょっとしたらヒェクナーに乗らなくても偶像騎士シエイゼに勝てるかもしれないぞ?」



 それを聞くとマイシャの表情が険しくなる。

 褒めたつもりだったが、なぜかマイシャの機嫌を損ねてしまったようだ。



「そんなことありませんわ。偶像騎士シエイゼの魔力装甲も強力ですからねッ。負けたままと言うのは悔しすぎます! もう一度ですわよッ?!」



 う~ん。俺の言葉のどこかに地雷があったはずなんだが……。わからん。

 ひょっとして乙女心ってやつなのか?

 そう思っていると、突然マイシャがふらつき足元から崩れ落ちる。



「キャッ!」



 俺はそんなマイシャを優しく抱き抱える。

 さっきの戦闘でマイシャの偶像甲冑パワードスーツの魔力が切れてしまったのだ。

 抱きかかえられるマイシャはとても恥ずかしそうにしていた。



「今度こそ、ホントにおかえり。俺のマイシャ」



 そう言うと顔を真っ赤し、頬を膨らませるとプィッと横を向いてしまう。

 ハハッ。こりゃ後でメチャクチャ怒られそうだな!

 俺はマイシャを木の根元に優しく降ろすと、偶像甲冑パワードスーツに俺の魔力を注ぎ込む。これで少しは動けるだろう。

 放り出しておいたトランクを拾いあげるとマイシャの目の前でゆっくりと開ける。

 そこには、人と同じ形をした手足が収まっていた。人工皮膚はまだ作れないので、カーボン素材を利用した真っ黒な手足だ。

 これは見た目と魔力の持続力に特化してある。最新の俺の知恵と技術が詰まっている自信作だ。名付けて”刻石義手”って所だな。

 魔石を直にエネルギーとして利用していて一年くらい無補給で使える。あと重要な事だが、とても手触りがいい。

 そして左手の二の腕には薄紅色の布が巻いてある。それはエランゼにとっての婚約の証だ。



「ごめん、ちょっと遅くなっちゃったけど。受け取ってもらえるかな?」



 ホントは、フォーナスタに向かう前に渡したかったのだが、もうマイシャは女王になってしまっていた。

 もしかしたら断られるかもしれない。

 俺は開けたトランクを見せ、マイシャの前で恭しく礼をしてみせる。



「フン! 遅すぎますわ! 一か月の間にどれだけ婚約の紹介があったと思ってるんですの?!」

「ごめん……」



 腕を組み不満をあらわにしていたが、マイシャはメンテナンスの要領で左手の義手を切り離すと、こちらに二の腕を差し出してくる。



「さぁ! 早くしなさい! オフスがせっかく作ったんですからね!」



 俺は笑みを堪えながら、マイシャの左手に薄紅色の布を巻いた新しい義手を取り付ける。

 そのとたんマイシャの顔がさらに赤くなり、口元がぷるぷると震えだしている。

 ヤバいぞ?! こんな顔のマイシャは見たことが無い! どうしたんだ?



「き、気が利きませんわね! ”白い花”がついてませんわよ!」

「ご、ごめん……」



 これは本気で忘れていた。

 ”白い花”は薄紅の布と一緒に渡すらしい。キスとかそう言うお誘いを男性からする時の風習なのだそうだ。

 でも、『無い』って言ってるんだから、誘ってるんだよな? いいんだよな?

 俺は無言でマイシャを抱き寄せる。



「こ、ここここ、こんな広い所でなんて、……やっぱりダメですわ」



 マイシャは顔を限界まで赤くし、目の焦点がふらふらし始めている。

 もうこんなマイシャを助けてやれるのは俺しかいないッ! 俺はヤればデきる男なのだ! 

 しかし、……もうちょっとでお楽しみなのに何かしらの気配が近くにあるのが感じられる。



「ほ、ほら、何か気配がしますわ……」



 マイシャも感じているようだ。

 近くの茂みに二人で視線を向けると……。



「……にゃ~ん」



 それは人の声だ……。



「猫じゃないな……」

「猫じゃないですわね……」



 思いっきりオルトレアさんの声なのだ。

 こんな所で可愛らしさを発揮しなくてもいいだろう!

 よく見ると、茂みに立派なロウフォドリーの角も生えている。リノちゃんだ……。

 俺たちを追ってきて、出るに出られない状況なのかもしれない。

 マイシャは深くため息をつくと、俺を見てニッコリと笑う。



「さあ、起してくださりません? 帰りますわよ?」



 やっぱり俺は、出来る男にまだなれないらしい。



「もちろんさ、俺のお姫様」



 正直かなり残念だ。

 だけど俺が手を引くマイシャは、最高の笑顔をしていたのだった。


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