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君と子孫を残したい  作者: 丸山ウサギ
第五章 ブルツサル(フォーナスタの王)
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閑話 闇への渇望

 マイシャの冠帯式の翌日

 俺はマイシャの用意してくれた宿で一日をゆっくりと過ごしていた。

 しばらくマイシャとはお別れだ。

 離れてると言っても、俺のラピスはいつもマイシャの波動を感じることが出来る。俺の思いに距離なんて関係ないのだ。



 明日、俺はナウムへ戻る。

 ちょっと残念なのはラーゲシィの事だ。

 ハルドさんの形見として持って帰りたいと思ったのだが、持って帰る手段が無いため、フォーナスタ側に接収されてしまう形になったのだ。

 でもなんとなく、ラーゲシィは見捨てておけない。

 そんな運命的な物を感じている。



 そんな俺は昼間からアイリュの膝枕付きでベッドで目を閉じる。

 柔らかくていい香りだ。ずっとこのままでいたい……。

 しかし、俺の意識は仮想現実でシエリーゼのコックピットを作り出し、そのシートに沈んでいた。

 これ以上ない程の幸せなのに、また俺はこの場所に来てしまったのだ。

 


「やっぱり、ここが落ち着くな」



 そう言って息を吐く。



「……クエリ、いるか?」

≪はい。ご主人様≫



 ずっと一緒の相棒。

 融通が利かない俺の相棒。

 もしかしたら、こいつは今後致命的な結果をもたらすんじゃないだろうか? 現に王都ファニエをクエリが壊滅させるところだったのだ。

 だけど、今の俺はコイツに頼るしかない。

 ……もっと俺がしっかりしていれば、クエリが暴走する事も無いハズだ。



「いや、呼んでみただけだよ」

≪はい≫



 他にも悩みの種はある。

 アイリュに膝枕してもらって幸せに包まれているからこそ、不安がよぎるのだ。

 それは、この世界の事だ。

 いずれこの星は滅びる。それを加速させているのはヒューマンで間違いないだろう。

 ヒューマンが次元寄生体をこの地上に呼ぶような行為を、これ以上見過ごせない。



「クエリ、……質問だ。ギルナスに対抗するなら、今後どうしていかなきゃいけない?」

≪はい。ご主人様。勝利条件を設定してください≫

「とりあえずはギルナスが、フォーナスタとかヴァンシュレンにちょっかい出してこないようになれば、何でもいい。先ずはそこからだ」

≪はい。単純に戦局をシミュレートします。現状では敵勢力の戦力が不明です。加え、こちらの兵装に制限がある現状にて作戦立案します≫



 すると、俺の目の前の空中に、クエリの想定した戦略図とそのシミユレート結果が映し出されていく。



「おい! 俺達はこのままだと負けるって事か?」

≪はい。その通りです≫



 刻々と移り変わる勢力図は、ギルナスがヴァンシュレンを駆逐し、フォーナスタ、マナフォドリーを滅ぼすという結果だった。



「その要因は?」

「はい、主に敵勢力が保有する次元寄生体の召喚技術にあります」



 ギルナスの司祭。ゴルダトと言ったそうだが、えらく次元寄生体を”神”と祭り上げていたヤツだったな……。

 俺の考えが甘かったのは間違いない。

 やはり、強さが必要だ。相手よりも強く、屈服させる力が……。



「こっちも、それなりの兵器で武装しなきゃダメって事か……。仮に守護竜ウェブレイが味方になってくれるとしたらどうだ?」



 シミュレートが最初から行われるが、マナフォドリーが陥落するのが少し遅くなっただけで結果は変わらなかった。



「どういう事だ、クエリ……」

≪はい。単体で強さを保有しても、戦局全体をカバーすることはできません。また、ウェブレイはメガラニアの旗下にあります。文明に介入しない霊子サーバの許可は降りません≫



 神様だってそんな事言ってる場合じゃないだろう。

 そういやウェブレイは、メガラニアが現状を諦めてると言っていたな……。

 なら、俺が動くしかないか……。



「クエリ、実体剣マテリアルブレードを今の偶像騎士シエイゼが装備したらどうだ?」



 クエリが再計算するが戦局にはあまり差異が見られない。

 データを解析すると、近接戦では偶像騎士シエイゼの消耗が激しく戦局に影響を及ぼす程ではなかった。



「防御兵装が足りないか……。虚子エレボスフィールド発生器と、小口径の虚子エレボスレーザーを、偶像騎士シエイゼが持ったとしたら?」



 次のシュミレートの結果は、拮抗状態を作り出していた。

 だが戦局をひっくり返す程の決定打では無い。



「とりあえず、これでいい勝負って所か……」

≪仮想条件として、敵味方の戦力がほぼ同数であることが前提です≫

「あいつら、自爆攻撃してくるからな……、それに加え、指揮官級の次元寄生体の召喚か……」



 だけど、なんとなく勝ち筋は見えてきたような気はする。



「俺のやる事は、短期間で大陸中の偶像騎士の強化を行い。ヴァンシュレン、フォーナスタ、マナフォドリーの三国をまとめる事か」



 いや、三国をまとめる方が先か? 兵器だけ供与しても裏切られれば同じことだ。

 それでもフォーナスタはマイシャが抑えてくれるだろう。

 エルディフィアって人と交渉してヴァンシュレンと協力関係を強化し、レグちゃんを通してマナフォドリーに協力してもらう。これなら行けそうだな……。

 だけど先に、ヴァンシュレンに武装を供給しないと東部戦線が持たないだろう。

 バランスよくやっていくしかないか……。あとはメガラニアとか霊子サーバにも協力してもらわないといけない。

 やっぱり力が必要だ。人や国をまとめ上げるための力が。

 そこまで考えると、ウェブレイが教えてくれた言葉と共に、耳鳴りが聞こえてくる。



『キィーン』



 思い出した言葉を声に出してみる。



「神魔蹂躙戦争」



 力を持ち過ぎ、現状の技術を超越した文明を神々はことごとく滅ぼしたのだという。

 子供の喧嘩に親が出てくるようなもんだが、親の武器で子供がケンカしてたらそりゃ親だって止めるってもんだ。滅ぼすのまではやりすぎだとは思うが……。

 


「”神”を説得して、それでも神にやる気がないなら、俺が神の使いとして……、戦を起こす。どう思う? クエリ、これなら勝てそうか?」

≪はい。問題ありません。圧倒的な戦力による殲滅は勝利となりえます≫



 俺の嫌う、力による勝利。

 だけど……。



「失ってからじゃ……、遅いんだよな」



 そう言って俺は、リーヴィルから聞いたヒューマンの話を思い出し、自分が憎悪で真っ黒に染まっていくのを感じたのだった。




 ◇ ◇ ◇




 俺は激しく肩を揺さぶられる。同時にアイリュの声が聞こえてきた。



「オフスッ! 起きなさい!」



 俺は、さっきまで仮想現実でクエリと戦略のシミュレートをしていたはずだ。

 起きた俺を見るとアイリュは膝枕をしていた俺の頭を優しく撫でる。



「あ~、びっくりした!」

「どうしたんだ? アイリュ」



 起きて頭が働かない俺に、アイリュはにっこりと笑いかけてくれた。



「なんかね? オフスの様子が急に変わったから心配したのよ」



 そういって俺の頭を抱え込んでくれる。

 胸が額にあたってる。やわらかい……。それにいい香りがする。

 当たってるって言ったほうがいいのか? いや、それはもったいないような気がする。当ててるのはアイリュだしな……。

 柔らかい上にちょっと重たい、こんなのがいつも胸にくっ付いてるのか……。

 そんな風に思っていたが、アイリュはホントに俺の事を心配しているようだ。



「なんだか、寝ているオフスの顔が、出会ったばかりの怖いオフスになっちゃったような気がして……、遠くに行っちゃうような気がして」



 そう言って言葉を詰まらせる。



「馬鹿だな、心配しすぎだよ。アイリュ」



 そう言って優しくアイリュの頬を撫でる。



「私は、”七人の彼女”じゃないけど、オフスの事は一番分かってるつもり!」



 寝ている俺の考えをアイリュは雰囲気で感じ取ったのかもしれない。



「レグちゃんはね。オフスのやろうとしてる事、制限しちゃダメだって言うけど。やっぱり不安だよ。私は……、私がなって欲しいオフスの未来を言い続けるからね!」

「いいぜ? ありがとうな、アイリュ」



 そう言うと、アイリュはいつもの元気いっぱいな表情を俺に向けてくる。



「辛かったら言ってね。隠し事は無しだよ?」

「俺が隠し事できないのは知ってるだろ?」



 そんな笑顔はちょっとだけ無理をしてるように見えた。

 俺は気遣うように笑顔を返す。



「アイリュこそ俺に隠し事なんてないよな?」

「も、もちろんよ!」



 アイリュはそう言って笑う。

 俺はこのアイリュの笑顔が大好きだ。

 そしていつものように、アイリュはかけた右耳をさわる仕草をするのだった。


20214/11 誤字修正しました

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