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君と子孫を残したい  作者: 丸山ウサギ
第五章 ブルツサル(フォーナスタの王)
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六話 修羅場①

 俺はネーマさんを自宅まで馬車で連れてきたのだが、やっぱりと言うかオルトレアさんもしっかり付いて来てしまっている。

 マイシャは屋敷の空き部屋にネーマさんを案内して落ち着かせている最中なのだが、二人っきりになりたいと言う事なので、俺は応接室へオルトレアさんをリビングに案内して二人でお茶を飲んでいた。

 何事もお互いの理解が大事なのだ! やましい事は何も無い!

 お茶を飲みながらオルトレアさんを見つめてみる。 



「う~ん」

「どうかされましたか?」



 う~ん。美人だ、可愛い系の美人だ。だけど、なんか、こう、俺のストライクゾーンからちょっと外れているようなそんな感覚なのだ。

 容姿は間違いなく俺の幅広いストライクゾーンに刺さっているのだが、やっぱり俺のラピスが彼女のラピスと共鳴していないからなんだろう。

 どうしても、ムラムラっと来ないのだ。

 でもちょっと引かれる部分がある、もしかしたら修行とかに励めばオルトレアさんでイケるのかも知れない……。



「う~ん」



 アイリュのために頑張ってみるか? ラピスが共鳴しなくても頑張れちゃうかもしれないぞ?

 そうすればアイリュも喜んでくれるし、他のコたちとも上手くやれるかもしれない。



「何かお気に召さない事でも?」

「いや! そんな事は全然ない! ないんだけど……」



 アイリュの為に他の女の子に手を出すのはやっぱだめだよな。そんな事は全俺が許さない。

 それに一方的な考えだけで、彼女の気持ちがどこにあるのか全然考えてない。俺はそんな男だったのか?

 これは雑念だ! 俺はもう少し解脱しなければならないだろう。……やっぱり修行するか?

 


「では何なりと申し付けてください。可能な範囲でご助力させていただきます」



 そう言って、座ったまま畏まるオルトレアさん。

 ガルラド将軍からそう言われて来ているんだろうけど……。



「オルトレアさんは、やっぱりネーマさんを観察するわけなのかな?」

「ネーマさんを……、と言うわけではございません」



 ん? やけに素直な反応だな。



「それじゃやっぱり、俺の事を色々探ってる。って訳か」

「そのように捉えてもらって構いません」



 素直なのはいいけど、ちょっと素直すぎるな。それとも俺の性格を逆手に取ったのか?

 まぁいいや、今の方が気楽でいい。



「調べたければ調べてもいいし、聞きたい事があれば何でも答えるよ。ただ、生憎俺のベッドはいつも満員なんだ! すまないな!」



 決めポーズまで取って、固い雰囲気を壊そうと精一杯ふざけてみる。



「お気になさらなくて結構です」

「そうですか……」



 相変わらず表情は硬いままだ。美人なのに残念だ。残念なのはスベっている俺の方なのだが……。



「迷惑料と言うわけではございませんが」



 そう言ってオルトレアさんは小脇に置いていたバッグから書類を数枚取り出して机の上に置く。



「こちらは、ニルディス将軍からのお気持ちです」



 俺はその書類を手に取ってみるが……。



「これは、昼間の大金貨六千枚の手形か」



 書面を見ると仕事の細かさに、思わずため息がこぼれる。

 金額が訂正されていてキッチリ大金貨五枚が引かれてるのだ。

 すると不意に応接間のドアがバタンと開き、グゥちゃんがトテトテと中に入ってくる。



「ん? グゥちゃん。リノお母さんはどうしたんだい?」

「私のお仕事は終わったから帰ってもいいって、だから兵隊さんに送ってもらったの。お父さんが早く帰ってきてるからあいたいと思ったの!」



 そう言って俺の座るソファーの側までグゥちゃんはやってきた。



「偉いぞ!」



 俺はグゥちゃんを抱えて、俺の右隣に座らせる。

 オルトレアさんはびっくりしたように見ているが、彼女に隠さないと決めたからには何も気にしなくていいだろう。

 俺は書類を机の上に置くと、オルトレアさんに差し戻す。



「これは受け取れないよ、こんな時だからそっちもお金は貴重だろ? それに俺はニルディス将軍から大金貨六千枚でネーマさんを身受けしたんだぜ?」

「そうですか……。それではお取下げさせていただきますが、よろしいですね?」



『キィーン』



 決めた事だ。音が鳴るが俺は無視する。

 すると、隣のグゥちゃんが怒ったように俺の袖を引っ張った。



「お父さん、貰えるものを断っちゃだめだよ? リノお母さんに怒られちゃうよ?」



 まさか! 俺がグゥちゃんに怒られるとは!

 大金の使い道が思いつかないって言うのはあるかもしれない。

 なら、断るのはもしかしたら逃げなのかもしれないな。

 今後のしがらみとか色々あるのかもしれないけど、そう言うものまで俺は全部覚悟したつもりだ。



「……分かった。俺が使い道を考えればいいだけだからな」



 俺は机の上に置かれた書類を裏返すとテーブルの隅に置いた。



「オルトレアさん、いただくよ」

「ありがとうございます」



 しかし、オルトレアさんは非常に雰囲気が固い。

 今までにないタイプの人だ。マイシャみたいにツンツンしている訳でも、普段のネーマさんみたいに棘があるわけでもない。

 非常にもったいない。



「そんな型式ばった挨拶はやめにしようぜ? もし、ここに住むなら、もうちょっと友達みたいに、とか……」

「とか?」



 曖昧な俺の言葉に喰いつくオルトレアさん。



「いや友達みたいな感じで頼むよ。うん」

「それでは、そのようにさせていただきます……」

「あ~、俺の事はオフスでいいよ。様とかはいらないからさ」

「わかりました。オフス」



 オルトレアさんは俺の言葉を受けて逆に表情を硬くする。

 すると何かを決意したような顔で立ち上がり、呆然としている俺の側まで来て左隣にボスンと座った。



「おー! そうそう~。そんな感じで~」



 そして俺の左腕に体を預けてくる。



「って駄目だって。なんだか一気に友達越えちゃってる気がするし、何よりグゥちゃんが見てるぜ!?」

「すみません、そのように受け止めましたので」



 もったいないが、慌てているオルトレアさんを引きはがす。

 彼女は少し涙目だ。そんなに嫌なら最初からやらなきゃいいだろうに。

 はぁ、こりゃ俺が注意して行動しなくちゃだめか……。



「お父さん! この人新しいお母さんなの?!」

「な?! な?! いや、まだお仕事関係の人だけどこの先はどうなるか分からない。……そんな事よりグゥちゃん。そんなセリフどこで覚えたんだ?!」

「レグお母さんだよ!! お父さんのまわりにいる女の人は、みんなお母さんだっていってた!」

「レグちゃんか、……う、うん。お父さんはこれから忙しくなるから、ちょっとお部屋でマルちゃんと遊んでなさい……」

「は~い」



 そう言って素直にグゥちゃんは立ち上がると応接室から出ていく。

 バタンと扉が閉まる音がすると、精神的なダメージが重くのしかかってきた。

 みんなとの関係をもうちょっとハッキリさせて、式とかも挙げないとダメだろうし、挙げるにしてもこんな情勢じゃお祝いムードにもなれやしない。

 作法とかも分からないしな……、そういうのは、後でアイノスさんに相談しに行くか……。

 それよりも今は隣でコチコチになっているオルトレアさんを何とかしないと。



「そ、そうだ、オルトレアさんって剛剣法や霊化術とか使えるんだろ? ちょっとだけ俺に見せてくれないかな?」



 すると、オルトレアさんは表情を明るくして立ち上がると敬礼をする。



「ハッ。機会を作っていただき、ありがとうございます。では霊化術を……」



 あ~。なるほど。オルトレアさんはこういう風に、自分を試されるのがいいタイプなのか。



「霊化術だからって、服だけ残して消えたりしないでくれよ? 俺の熱い視線で君の肌を傷付けたくないんだ」

「今から見せる霊化術はそう言うものではございません」



 俺の冗談に拗ねたように言うオルトレアさんは、隣に座っていた時より明るい表情をしている。



「ではこちらを失礼させていただきます」



 彼女はお茶請けの焼き菓子を自分の皿に一つ移すと、その上に手をかざす。

 そして少しだけ手を下げると、焼き菓子が二つに割れたのだ。

 俺の霊化の技はこの世界では霊化術として伝わっているとリノちゃんから聞いている。

 霊化した物体を実体化させるには莫大な魔力を必要とする。この世界にその技が伝わっているのならそう簡単に再現できないだろうとは思っていた。

 実際今見たのは俺の知ってる霊化の技とは違うモノだ。

 ただ、焼き菓子が割れる瞬間、一瞬だけキラッと光るものが見えた気がする。



「ん~。大体わかったような? もう一回見れば分かると思うよ」

「霊化術は分かるようにはできておりません。次は少し型を使ってまいります」



 オルトレアさんはスティック状の焼き菓子を右手に持ち、左手に皿を持った。



『クエリ、霊子が見えるように視界を切り替えてくれ』

≪はい。ご主人様。そのように致します≫



 視界が切り替わった瞬間、彼女は焼き菓子を真上に放り投げる。

 そのまま、右手を空中で二回振るうと焼き菓子は三つに割れて左手の皿の上に落ちてきた。

 俺にはその瞬間がハッキリと見てとれた。

 彼女は霊化した剣を振るっているのだ。しかも刃先だけ極わずかな時間だけ実体化させているのだ。

 剛剣法の剣技で霊化術の実体化を使ってるって事か。



「これは凄いな! それは考えもつかなかったよ!」



 いや、良く考えたらこの星で最初に湖に着地する時、実体化しようとしても魔力(霊子)が足りなくてパラシュートが一瞬しか使えなかったじゃないか。

 アレだよ、アレでいいんだよ!



「やっぱり本物を一回見てみるのはいいな!」



 俺は自分の皿に焼き菓子を移すと手をかざした。



「つまり、こういう事だな?!」



 前に霊化したナイフを一瞬だけ実体化させ、手を沈める。

 すると焼き菓子は綺麗に二つに割れたのだ。

 それを見たオルトレアさんはびっくりしている様に見える。



「凄いぜ。オルトレアさん最高だ。教えてくれてありがとうな。こんな使い方があるのか」

「いえ。私は何も……」



 使っている魔力なんて微々たるものだ、これくらいなら呼吸をするより楽に使えるぞ?

 こりゃ便利だけど使い方によっては危ない。いつでも振り回せる凶器を抜き身で持っているようなものだ。



「霊化術って広まっているのかい? 結構危険な技だぜ?」

「一般では使えません。軍や警邏に当たる者が特殊な教育機関で習得できるものです」

「なるほどね。安心したよ」



 ただ少しだけ疑問が残る。

 剛剣法は魔力を身体の強化に使う事も重要視している。

 オルトレアさんは剣の刃を実体化させるために、身体の強化はほとんどしていなかった。



「さっきは体の強化に回す魔力が少かったみたいけど、その辺は何とかならないのかい? 攻撃を喰らったら大怪我するぜ?」



 オルトレアさんは俺の質問の意図に気が付いたのか、また驚いている様子だ。



「え? あ、そうですね……。相手の不意を突く際に使用しますので、外れないように精度と威力を磨きます」

「なるほど、必殺技って所か」



 これは面白い技を覚えたぞ? これで出来る事は格段に増える。

 全部実体化しなくても一瞬だけ実体化すればいいなんてな! しかも大きな物体の一部だけでもいいんだから応用範囲が広すぎる。注ぎ込む魔力量によっては時間もそれなりに維持できるだろう。

 これならきっといろんな人を守ることが出来る。

 唖然とするオルトレアさんをよそに、俺は一人で想像を膨らませ、自然と笑みがこぼれるのだった。


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