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6-3 準備

ジョーガサキが王都から呼び出しを受けた、という話を聞いたアルマたちは、ともかくラスゴーの冒険者ギルドに向かうことにした。

冒険者ギルドに入ったアルマたちに冒険者たちの視線が集まる。




「おい・・・あれ、『牛姫』じゃねえか?」

「んんん?いやあ、あんな感じだったっけ?」

「んー。なんか印象が違うな。他人の空似か?」

「まあ、いま熱いのは『鹿姫』だからな。」

「馬鹿かお前。『牛姫』は、危難の際に颯爽と現れる人面牛の群れを使役してミノタウロスをひき殺すんだぞ。」

「危難に現れるのは『鹿姫』も一緒だろ。『鹿姫』はジエイエンつう蜘蛛のまき散らした猛毒を一瞬で浄化しちまう力を持ってるらしい。しかも通り過ぎた後には温泉が湧くということだぞ。」

「まてまてお前ら。聞いた話じゃあ、オーゼイユから船で丸一日の場所にある島には『蟹姫』てのがいるそうだ。『蟹姫』のもとにはすべての蟹が集い、人々に恵みを与えるらしいぞ。」


冒険者たちのささやき声が聞こえてくる。

髪型や服装を変え、口元はマスクで覆ったアルマが『牛姫』であると気づく冒険者はいないようである意味ほっとするアルマたち。

だが、別の噂も流れてきているようだ。


『ぶははは!良かったなアルマ。また新しい二つ名が増えたみたいで。』

「いやいやいや。『蟹姫』は私じゃないでしょ。ランダちゃんに譲る。」

「うふふ。丁重にお断りいたしますリーダー。」

「まあ、色んな姫が出てきたおかげで牛姫の注目が下がるんなら願ったりじゃないすか?」

「そうだぜアルマ。喜べ。」

「なんか素直になれない自分がいるんですが!」


と、そんなことを小声で話しながら、アルマたちは受付に向かう。


「あのう。『銀湾の玉兎』の者なんですが、セーキョー村に行ったら、何か指名依頼があるかもって聞いたんですけど。」

「ああ、はい。皆さんが来られたら知らせるようにとギルドマスターから言付かっています。ご案内いたします。」


ギルドの職員に案内されてギルドマスター室に向かうと、そこにはマスターのクドラト・ヒージャ、サブマスターのダリガ・ソロミン、そしてジョーガサキの姿があった。

ジョーガサキはいつにも増して不機嫌そうだった。


「おう、ちょうど良かった。こっちに来て座ってくれ。」


大きな声でクドラトが声をかける。


「はい。あ、マスターもサブマスターも、オーゼイユではお世話になりました。」

「んん?いや、ベリトの野郎を捕まえる件ではお前らにも色々と動いてもらったから、世話になったのはこっちの方だ。ちゃんと報酬も用意してあるから、あとでダリガに手続してもらってくれ。」

「おおお、そういえばそっちもあったんだ。」


ベリト・ストリゴイの捕縛については、そもそもクドラトからの個人依頼という形ではじまっていた。

魔族であることが判明して、冒険者ギルドからの報酬はすでにもらっているが、それ以外にもいただけるというのであれば文句はない。

温泉発見などの報酬もあるが、まだまだアルマたちは金欠なのだ。


「そっちも、というか、今回の話しはむしろ、そっちの話しの続きなんだ。」

「え?どういう意味ですか、ダリガさん。」アルマが問う。

「ジョーガサキが王都から呼び出しを受けているという話はもう聞いただろう?」

「はい。それで私たちに指名依頼が出るかもって聞いて。」

「うん。形式上はそうなるな。」

「形式上?実際は違うんですか?」

「ああ。今回呼び出しを受けているのはお前たちもなんだ。」

「えええええ!」

「な、なんでですか?」

「まあ率直に言うと、アルマ、お前の称号がバレた。」

「えええええ!」


ベリトは捕まえられた後、オーゼイユで簡単に尋問を受けた後に王都へと移送された。

その道中にはオーゼイユの審問官も同道しており、移送の最中にも、さらには王都についてからも聴取は続けられていたのだという。


意外なことに、ベリトは聴取に協力的だった。

他の魔族の情報やこれまでに行ってきた神獣密売などの犯罪行為についても積極的に語っているという。

彼の取引相手はすべて貴族であり、多くの貴族たちが犯罪に手を染めていたとなれば国家を揺るがす事態となる。

ベリトの自白内容はいまだ極秘扱いとされているが、王都の文官たちは情報の精査に追われて昼夜を問わず走り回っているという。


「魔族の拠点なんかについてはのらりくらりと質問をかわして肝心なことはしゃべらないらしいがな。ベリトの言葉に王国中が振り回されてる格好だし、こんなことなら捕まえるんじゃなかったぜ。」

「す、すみません。」

「お前らのせいじゃねえ。俺が言ってんのは、あそこで息の根を止めておけばよかったってことだよ。」


言葉を荒げるクドラトにアルマたちが身をすくめる。

元冒険者だけあって、迫力がすごいのだ。


「それでは、ジョーガサキさんやアルマさんについて、ベリトが何か言ったということですか?」

「ああそうだ。あの野郎が何を狙ってんのか知らねえが、少なくともラスゴーの迷宮騒動にジョーガサキが関わっていたこと、そしてアルマの称号について、ベリトからの供述があったらしい。」


ランダの質問にダリガが答える。


「別に何も狙ってないですよ。ベリト・ストリゴイは単に私たちに嫌がらせをしてやろうと思ってるんでしょう。」

「ああ、それで・・・。」


くいと眼鏡を上げ、ため息をつくジョーガサキを見てアルマたちは理解する。

どうやらそれが彼を普段より不機嫌にしている理由なのだろう。


「いずれにしても、迷宮騒動についてはジョーガサキは何もしてねえっつうのがラスゴー冒険者ギルドの公式見解だ。これは変わらねえ。お前さんにもその前提で審問を受けてもらうことになる。だが、最悪の事態を考えて一部の人間には真実を伝えておかなきゃならねえ。てか、もう伝えた。」

「その一部の人間というのは・・・?」


クドラトにアルマが問う。


「王都の冒険者ギルド本部のマスターだな。いざというときに後ろ盾を頼むつもりだ。オーゼイユの領主さまにも動いてもらおうと思ってる。」

「え?領主さまってベリトとつながってたんですよね?」

「ああ。だが、伯爵もベリトが魔族であることは知らなかったらしいからな。こういう事態が起きた時のために放置してたんだ。ベリトの野郎が伯爵とのつながりをバラせばどうしようもねえが、そういう事態にならない限りは俺たちに便宜を図ってもらうよう約束を取り付けてある。」

「うわ、あくどい!ギルドマスターあくどい!」

「馬鹿野郎、処世術だよ処世術。」


ふてくされたようにソファに背を預けるクドラト。

だが凶悪な面相をもつクドラトに対して、条件反射とはいえ躊躇なく突っ込みを入れるアルマに、他のメンバーは内心驚いていた。

と、そこでマイヤがあることに気づく。


「話はだいたいわかったけどさ。それってアルマだけが行けばいいんじゃねえのか?」

「わ!マイヤさんなんてことを!薄情者!」

「いやだって、人数が多いとかえって辻褄あわなくなってボロがでたりしねえか?」

「そこは問題ない。実際に審問を受けるのはジョーガサキとアルマだけだ。ただ、事情を説明した際に本部ギルドマスターがセーキョーに興味を持たれてな。初期組合員のお前たちに話を聞きたいと仰せなのだ。」マイヤの質問に答えたのはダリガだ。

「そんじゃあたしたちは、別口で呼び出されたってことか?」

「そういうことだ。戻ってきたばかりで申し訳ないのだが、引き受けてもらいたい。」


こうして、アルマたちは王都へ向かうことになった。

メンバーにはタルガットとエリシュカも含まれているらしく、タルガットには昨日の時点で話をしてあるのだという。

王都まではかなりの長旅となるため、出発は1週間後。

それまでに出発の準備を整えることが決まり、アルマたちはギルドマスター室を後にした。


「ジョーガサキさん。もしかして、こうなることがわかってたからお母さんたちを呼んだんですか?」

「ああ、もうそちらも知ってるんですね。ベリトの件がなくともアルマ・フォノンさんの称号が広まるのは時間の問題でしたし、仮に魔族の標的となった場合に狙われるのはご家族です。先手を打ったつもりだったのですがね。」

「その・・・いいんですか?」

「牛たちの飼育に人手が必要だったので構いません。」

「病気の方も見ていただいたと聞きましたけど・・・。」

「正確には特定の栄養素が足りていなかっただけで病気ではありませんでした。私が以前いた国でも大昔に同じ病が流行し、当時は死者も多く出たと聞いています。その知識があったので食事療法をお勧めしただけです。」

「はあ・・・じゃあその・・・家族としてとか、そういうあれではなく?」

「家族?どういう意味ですか?」

「いえ、なんでもありません・・・。」


突然の展開続きで忘れてかけていたアルマの母親を保護した経緯については、どうやらアルマ以外のメンバーが想像していた甘い理由などないこともわかり。

アルマたちは冒険者ギルドを後にしたのだった。

お読みいただきありがとうございます!

週末は書き溜めるよていでございます!


引き続き、よろしくお願いいたします!

※改行がおかしくなっていたので修正しました。

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