6-1 再会
「帰ってきたー!!」
『なんだか久しぶりだな、ここも。』
「ふう。ようやく戻ったか。思ったよりかかったな。」
「うふふ~。みんなお疲れ~。」
「お疲れっす。」
「お疲れ様です。」
「疲れたぜー!!!」
ラスゴーの町の入場門を潜ったところで、アルマたち一行は喜びの声を上げる。
オーゼイユに向かう馬車の護衛として町を出てから、実に30日余りが経っていた。
久しぶりのラスゴーの町は以前よりも活気に満ちているように感じられて、アルマたちの顔も自然とほころぶ。
やはりこの町は自分たちにとっての拠点なのだと、改めてアルマたちは感じていた。
「なんだか色々あったからなあ。ほんと。」
「め、面目ないです、タルガットさん・・・。」
『ほんとに、お前は深く反省しろ。反省で残りの人生を過ごせ。』
「過酷すぎないかな、それ!」
ユグ島を出て、オーゼイユに戻ったアルマ一行だったが、町ではまだ「鹿姫」の噂は消えていなかった。
さすがにアルマが件の「鹿姫」であると即座にわかる者は少なくなっていたが、油断はできない。
ひとまず宿屋に移動し、エリシュカがアルマの髪を切ったうえで変装を施すことで、ようやく事なきを得たという経緯があったのだ。
その後、タルガットは依頼達成の報告を行うため、冒険者ギルドへ。
一方でアルマたちは、ラスゴーを拠点とする冒険者ギルド御用達の裏商人、カリム・ラキシェハと面会して、ベリトのその後や神鹿温泉郷の整備状況などについて報告を受けた。
「それじゃ、ベリトはもう王都へ移送されたのね~。」
「はい。それと、温泉の方は各商会の代表者が集まって施設や道路の整備・管理を行う新組織を立ち上げることになりました。」
「なりましたって、カリムが中心でしょ~。さすがに仕事が早いわね~。」
「いやいやそんな。ああ、温泉を発見した冒険者に、冒険者ギルドから報奨金が出ました。形式上は『三ツ足の金烏』と『熒惑の破者』が発見したということになっていますが、いずれのパーティからも実費以外は皆さんに、ということで預かっています。後でお渡ししますね。」
「わあ、やった!あ、それじゃあそのお金で食料を買おうよ。」
アルマの提案に他のメンバーも頷く。
「食料ですか?入用であれば私の商会で安くご購入できますが?」
「ほんとですか?私たち、これからラスゴーに戻るんで、トグゥル村へのお土産を買おうかと思って。」
「なるほど。それではトグゥルで特に消費の高いものを中心にご用意させていただきましょう。預かっている報奨金は1万5千コルンになりますが、お土産であれば2千コルンもあればいいでしょう。私の方で見繕っても構いませんか?」
「そそそそんなに!はい、ありがとうございます!」
「商品の方は数が多いので、揃えるのに2日ほどいただきます。」
「急ぐ旅ではないので、全然構いません!」
ユグ島への往復護衛をこなし、さらに予想外の報奨金まで出たことで懐はかなり温かくなったアルマたち。
カリムの準備が整うまで、オーゼイユの町を観光することにした。
よくよく考えてみれば、ずっとバタバタしていたので、スイーツの名店「八十八果亭」以外はほとんど回っていなかったのだ。
「なんかじっくり食事をすることもなかったけど、オーゼイユもユグ島とは魚介の種類が違って、うめえな!」
「マイヤ~、そんな急いで食べると喉詰まらせるわよ~。」
「早く食事を終えるのも冒険者のたしなみってタルガットが言ってたからな!」
「お、俺そんなこと言ったか?」
食事の後は、長旅に備えて食材を補充。さらにいまだ足りない衣服を見て回る。
タルガットが若干辟易した顔をしていたが、アルマたちは気にしない。
そして翌日は「八十八果亭」にも顔を出した。
「エレナさん、もうお店出てるんですね!」
「ああ、うん。長いことお休みいただいてたからね。みんなはいつまでオーゼイユに?」
「明日には出るつもりなんです!さすがに、ラスゴーの家も開けっ放しですし。」
「そっか。寂しくなるけどしょうがないね。私も引き継ぎなんかが終わったら島に戻るけど、またユグ村にも来てよね。」
「もちろんです!」
「じゃあ、今日は思う存分食べていってね。サービスするからさ。」
「やったー!!」
そんなこんながあって、さらに翌日、アルマたちはオーゼイユの町を出た。
元々、「牛姫」騒動から離れるためにオーゼイユにやってきたので、急ぐ旅ではない。
帰路は護衛任務は受けず、タルガットとエリシュカによる野営訓練を兼ねて、ゆっくりと徒歩で戻ることにした。
途中、予定通りにトグゥル村にも立ち寄った。
お土産はたいそう喜ばれた。
こうして、行きは4日かかった行程を帰りは10日ほどかけて、ラスゴーに戻ってきたのだった。
「よおし、お前らお疲れ。ギルドの報告は俺がやっとくから、お前らは今日はもういいぞ。帰ってゆっくり休め。」
「「「「ありがとうございます!!」」」」
さすがに野営続きは女子力に影響を及ぼす。
アルマたちはありがたくタルガットの言葉に従うことにした。
そして、懐かしの借家へ。
「ふわあ。ようやくもどってきたよー!」
「疲れったっすー。」
「うふふ。さすがにこれだけ間が空くとホコリがたまって・・・ませんね?」
「てか、なんかめっちゃきれいになってね?」
「なんだろう・・・大家さんが掃除してくれたのかな?まあ、とにかく今日のところはゆっくりしようよ!マイヤさん、お風呂入れて!私とランダちゃんでごはんつくっちゃうから!」
「りょうかーい!」
「そんじゃ私は荷物の整理しとくっす。」
その日の夕食は旅の間の野営用に購入した食材のあまりで手軽に済ませ、アルマたちは早々に休むことにした。
旅の間はタルガットとエリシュカにみっちりしごかれたので、朝稽古もお休みだ。
久しぶりのベッドで、アルマはゆっくりと朝寝を楽しむ。
はずだった。
『おいアルマ。アルマ起きろ。』
「ふえ?マルテちゃんどうしたの?」
『誰か来たぞ。』
「え?」
マルテの言う通り、玄関を叩く音が聞こえる。
誰か来訪者がきたのだろう。
窓の外を見れば、まだ早朝という頃合いだろう。
折角のお休みだというのに。
アルマはブツブツと言いながらも玄関を開ける。
「アルマ!戻ってきたのねぇ。おかえりなさい。」
「おおおお、お母さん!」
玄関扉の向こうに立っていたのは、アルマの母ローザであった。
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