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5-11 再生

サラの葬儀はその日のうちに行われた。

人口の少ないこの島では、誰であっても村人が総出で見送るのが習わし。料理を食べ、酒を飲み、故人を悼むのだ。

ウエラ・アウラの力でさまざまなことを忘れてしまう村人にとって、それは重要な儀式なのだろう。

サラは村で最後の巫女ということもあって、葬儀という名の宴は盛大に行われた。

メインの食材は、村を襲った際に落とし穴に放置されたままのタオタオモナだ。


遺体については、通常は水葬にするのだが、今は大潮引き。

まだかろうじて海底洞窟への道は残っているということで、村人たちはサラの遺体を海底洞窟に安置することを決めた。

アルマたちが護衛を務め、村の若衆が棺を担ぐ。

遺体を安置し、故人の冥福を祈った後は、村に戻っての宴となった。


夜通し続く宴は、賑やかで、温かく、人の心を感じさせるものだと、アルマたちは思った。


そして、翌日。

村長宅には、ジョーガサキがいた。


「では、こちらが契約書になります。」

「ありがとう、これで村も今まで以上に潤います。」

「正当な取引ですからお気になさらず。このような時にお手間をとらせて恐縮ですが。」

「いえいえ。サラばあさんのことは、私らとっくに覚悟はできてましたから。」

「そうですか。では、荷物は10日後に、ヴクブ・カキシュでいただきにまいります。その際に購入いただける商品の目録もお渡しいたします。」


村長に対してジョーガサキが提案したのは、生協への加入であった。

その見返りは、村の特産物であるロートスの実と、タオタオモナの定期購入。

さらに、食材や衣類など、村では安定購入が難しい品々を生協価格で購入することができる。

加入料は村との取引ということで、村長が代表して加入する形となった。

今までの船商人との取引も継続して構わないということで、村長は一も二もなく契約書に署名した。


それは、アルマたちがジョーガサキに依頼した3つの要件のうち、2つ目の要件を満たすものだった。


1.ウエラ・アウラを捕まえること

2.村の過疎をなんとかすること

3.神に戻ってきてもらうこと


この契約によって、村は少しだけ暮らしやすくなる。

村を離れる若者も減るだろう。

用事を済ませたジョーガサキは、ラスゴーに戻る準備を行う。

そこにアルマがやってくる。


「ジョーガサキさん、今回は・・・今回も?ありがとうございました。最後、嫌なことをさせてすみませんでした。」

「人の生き死に立ち会うのは苦手です。」

「そうですよね・・・すみません。」

「いえ。それと、今回は頼まれていたことをすべて完遂できたわけではないので、感謝は不要です。」

「いや、それもジョーガサキさんのせいではないですし。」


神に戻ってきてもらうこと。この要望を、ジョーガサキは満たすことはできていない。

だが、そもそもウエラ・アウラが元の神に戻るのは不可能なので、完遂することはできないのだ。

それでもジョーガサキは代案を用意していた。


ウエラ・アウラが神の体に戻り、そのうえで海底の洞窟を迷宮化し、迷宮の主となること。


だが、ウエラ・アウラはサラの後を追い、静かに消えゆくことを望んでいた。

それは傍目(はため)にも痛いほどよくわかる。

だから、あえて強くはおすことはできなかったのだ。


当のウエラ・アウラは、葬儀の途中から見ていない。

洞窟には近寄れないため、サラの遺体を運ぶ途中、港で別れたきりだ。

もしかしたら宴に交じっていたのかもしれないが、顔を隠した状態で、かつアルマたち自身が捕まえない限り、ウエラ・アウラを認識することができないのでわからなかったのだ。


「そういえば、ジョーガサキさんはよく彼がウエラ・アウラだってわかりましたね。事前に情報がなければわからないはずなんですけど・・・。」

「以前も申しましたが、私は鑑定スキルを限界まであげていますから。事前情報などなくとも、彼自身を鑑定しただけです。」

「ほえええ。鑑定スキルってそんなに便利なものなんですねえ・・・。」


ジョーガサキが視線を海に向け、アルマもそれにならう。

潮位はまだ、戻ってはいなかった。


「ウエラ・アウラは、どうなるんでしょう?」

「さあ。それは彼が決めることですよ、アルマ・フォノンさん。」


海からの風は心地よかった。

と、そこにランダが慌てた様子でやってきた。


「ジョーガサキさん!アルマさん!これ!」

「ランダちゃん、どうしたの?」

「これ!これを見てください。」


ランダが手に持っていたのは、オーゼイユで購入した魔道具だった。


「これって、映像と音声を記録できる魔道具?これがどうしたの?」

「これに、サラさんからウエラ・アウラさまにあてたメッセージが!」

「ええええ!」


アルマたちはその映像を見ることにした。

いつの間にとったものなのか。そこには、病室のベッドに座るサラの姿があった。

おそらくは昨日。

彼女が、ウエラ・アウラと会う前のものだろう。


「これは・・・。」

「とにかく、これをウエラ・アウラさまにお見せしないとと思って。タルガットさんたちが準備をしてくれてます。」

「ジョーガサキさん、もう少しだけ、お時間いいですか?」

「・・・仕方ありませんね。」


それからアルマたちは、村人たちの協力を仰いで、ウエラ・アウラの捜索を行った。

アルマたちは山に入ってウエラ・アウラにでてくるように呼びかけ、村人たちも村の周辺で同じことをする。


港にいるウエラ・アウラを見つけたのはジョーガサキだった。

ジョーガサキはその鑑定スキルを持って、眠らせることなく、布で顔を隠すこともなく、ウエラ・アウラを見つけて見せたのだ。


ウエラ・アウラを連れて戻ったジョーガサキが、ランダに言って魔道具を見せる。

村人総出で、同じ映像を見た。

ウエラ・アウラはエリシュカが覆った囲いに入れられ、他の者からは姿が見えない状態だ。


こうして、ウエラ・アウラとサラの物語は、村人すべてが知ることとなった。


「この映像を、私が心から敬愛するあのお方の目にとまることを望みます。

ランダさん、もしこれを見られたら、どうか、どうか、ウエラ・アウラさまにこの映像をお見せください。

さて、ずいぶんと長く、生き恥をさらしてきた私も、いよいよ最後の時を迎えます。

最後の最後まで巫女失格であった私ですが、それでも最後に望むのは、我が神の存続です。

願わくば、いましばらく、この島を、そしてこのユグ村をお守りくださいますよう。

あなたさまのご加護はいまもなお、この村にありますよう。

そのご加護が、今後もこの村を照らしますよう。

あなたさまを愛したのと同じように、私が愛したこの村が、これからも健やかでありますように。

そして、どうかご自愛くださいますように。

あなたの最後の巫女であれたことを、私は心から誇りに思っています。」


映像は、そこで終わっていた。

村の誰もが、黙ってその映像を見ていた。

ここに至って、ようやく村人たちは、サラによって守られていたことに気づいたのだ。


ジョーガサキが、囲いに覆われたウエラ・アウラに声をかける。


「さて、ウエラ・アウラさま。どうなさいますか?」

「・・・迷宮の主になるには、どうしたらいいの?」

「あの洞窟は魔素がたまりやすいようです。私があなたさまを体に戻した後、魔物であの洞窟を埋め尽くします。私は【育種】というスキルを持っていますので、そのスキルを使ってあなたさまにわずかながらお力を注ぐことができます。」

「それだけで、迷宮ができるの?」

「わかりません。もしかしたら、あなたさまはそこで消えてしまうかもしれませんね。あくまで、可能性があるということです。」

「あそこには、サラが今も眠ってるんだよね。・・・わかった。おいら、やるよ。迷宮ができれば、この村ももう少し生きやすくなるだろうから。」


そして。

それは成された。


アルマたちが同行し、ウエラ・アウラは海底の洞窟へと至る。

アルマが魔力をあたえることで、ウエラ・アウラは海底の洞窟までやってくることができたのだ。


洞窟の中で、ジョーガサキが言う。


「レーテさま。どうぞ、私からの贈り物をお受け取りくださいませ。」

「え?どうしてその名前を?」

「鑑定スキルです。」


ジョーガサキの指示で、大量のタオタオモナが洞窟内に解き放たれる。

村を襲った際に落とし穴に集めたものの残りだ。

さらにジョーガサキは、ラスゴーで買い取った魔物の死骸を魔導鞄から取り出して並べる。

後はその死骸やタオタオモナが、迷宮が生まれるほどの魔素となることを祈るばかりだ。


「みんな。ありがとう。」

「本当に、これでいいの?」

「もちろんだよアルマ。ぼくはこれから、ずっとサラと一緒だ。いつまでできるかはわからないけど、これからは、迷宮の主として、村を支えていくよ。」


アルマが、そっとウエラ・アウラの手を離し、魔力の供給を止める。

その途端に、ウエラ・アウラの姿がすうっと薄くなっていく。

ウエラ・アウラは、神の心は、再びその体と一つになったのだった。



そして、さらに翌日。


アルマたちは、潮位がもどったのを確認して、ユグ村を後にし、洋上にいた。

ジョーガサキは一人ヴクブ・カキシュに乗ってラスゴーへ。

今、甲板の上には、アルマたちとエレナがいた。

エレナが遠ざかる島を見ながら言う。


「私さ、オーゼイユに戻ったら、お店やめようと思うんだ。」

「えええ!どうして?」

「どうしてって、そりゃもちろん、島に戻るんだよ。」

「あ、そっか。そうなんですね!」

「アルマたちのおかけで、村も今より住みやすくなるからね。それでさ、もしも迷宮ができたらさ、村の若い連中をあつめて、冒険者?やってみようかなって。」

「おおおお!」

「いいと思うっすよ。」

「だが、最初はムリすんな?ちゃんと訓練して、山の魔物と戦うところからだぞ?」

「迷宮ができたら、私たちももう一回島に行かないといけませんね。」

『いいな、迷宮!できたらすぐ行こう!』

「うん、来て来て!その時は、遠慮なく私たちをしごいてよね!」


年少組の会話を、タルガットとエリシュカは黙って聞いていた。


「正直、ジョーガサキさんと知り合いになれたのに店やめるのはどうかなって思いもあるけどさ。でもまあ、私やっぱり、あの村好きなんだ。」

「ふえ?なんでそこでジョーガサキさん?」

「え?だって、私のお店のレシピって、全部ジョーガサキさんの発案だから。」

「「「「ええええええ!!!!」」」」


最後に、エレナからの爆弾発言がありつつも。

船は、風を帆に受け、軽快に海原を進んでいく。


ユグ島に新しい迷宮ができたという知らせをアルマたちが聞くのは、それからしばらく後のことだった。


お読みいただきありがとうございます!

これにて、5章は閉幕となります。

ここまでお付き合いいただきありがとうございました。


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