1-9 お泊り会
迷宮の2階層を、アルマが先頭になって進んでいく。
「マルテちゃん、サポートよろしくね。」
マルテは応えない。どういうわけか、今日はずいぶんと静かだ。
だがアルマは、小声で話しかける。小鬼たちの罠にはめられた以前の記憶が頭をよぎってしまい、黙っていると不安なのだ。
「マルテちゃん。マルテちゃーん。」
『・・・・・。』
「マルテちゃん無視?無視する系?そんじゃあバリガンさんにお願いするからいいもんね。バリガン様、どうか私をお導き下さい。」
『おい、やめろ!』
「あ、マルテちゃん起きた?」
『軽々しくその名前を呼ぶんじゃねえ。』
「導いてくれるんだから、ありがたく導かれるべきだと思うの。」
『だったらそれにふさわしい行動をとれ。情けない顔してんじゃねえ。』
「怖いものは怖いんだよ!そんならマルテちゃん手伝ってよ!」
『ち・・・わかったよ。ほれそこ、待ち伏せされてんぞ。』
「え!」
またまた現れた分岐点の前でマルテが言う。
どうするべきか、一瞬考えるが、特にいい案も浮かばない。経験がないのだから、抽斗は空っぽだ。
仕方がないので、先ほど見せてもらったシャムスと同じ戦法で行こうと決め、そのまま数歩。そして、すうと息を吸い込み、走り出す。
急に大きくなった足音に慌てて小鬼たちが飛び出して来る。
その一匹を通り抜け様に突き殺そうとして
「どわああ!数が多い!」
現れたのは6匹の小鬼だった。慌てて振り払おうと槍を大きく振るが、通路に刃先をぶつけてしまい、ただ小鬼たちの横を走り抜けるだけになってしまう。
『馬鹿野郎!通路の幅考えろ!』
「なんで私だけ数が多いの!」
振り返り、槍を構え直しながらアルマが言う。
『知るかそんなこと!ほれ来るぞ!短く持て!振り回すな!突きを使え!足元だ!』
「いっぺんに色々言わないで!」
『だから突きだよ!足元を狙ってまず動きを止めろ!』
「そりゃああ!」
『姿勢を崩すな馬鹿。牽制でいいんだよ!ほら後ろ!』
「たあああ!」
『だから振り回すな!石突使えよ!』
「ひいい、マルテちゃんが鬼教官になった!」
そう言いながらも徐々に牽制することを覚えていくと、槍のリーチを掻い潜れず攻めあぐねた小鬼は隙が増えていく。
そこを狙うと、徐々に小鬼の傷が増えていった。
そこでタルガットが後ろから3匹まとめて切り伏せる。
残った3匹もアルマの牽制を受けて傷を負っている。アルマは時間をかけて、1匹ずつ確実にトドメを刺していった。
「はいおつかれー。まあ、数が多かった割にはがんばったといっておこうか。」
「はあ・・・はあ・・・ありがとうございます。」
『雑魚相手にどんだけ時間かかってんだ、まったく。』
「色々と言いたいことはあるが、大体マルテが言ってくれそうだな。」
「ぐぬ・・・。」
「ほんじゃあ、とりあえず魔石取り出そうか。」
「ひい。ここにも鬼がおった・・・。」
アルマは槍をタルガットに預け、短剣を取り出して小鬼から魔石を取り出す作業に入る。だが、小鬼の皮膚は意外に固く、なかなかうまくいかないようだ。
と、シャムスとランダがタルガットの下に近づいてきた。
シャムスが槍を指して言う。
「今のがその槍の『声』ですか?」
「おお。なんだ、お前らにも聞こえたのか?」
「はい。不思議な感じですね。」
「これで性格さえ良ければ言う事はないんだがな。」
『黙れヘタレ。』
「持たせてもらってもいいですか?」
「いいぞ。魔道具に興味があるのか、ランダ?」
タルガットからマルテを受け取るランダ。両手で柄を持ち、刃先に顔を近づける。
「この子がマルテさん・・・」
『おいキツネ。獣臭え顔近づけんな。』
「な!姉さまになんて・・・」
「し。・・・すごく温かい力。そう・・・あなたは、ずいぶん長い時間を、1人で過ごしてきたのですね。」
『テキトーなこと言ってんじゃねえぞ巫女のなりそこない。あと、人の中を覗くな。』
「うふふ。そうですね。ごめんなさい。」
ランダが槍をタルガットに渡す。すると、3人の足元から、取れましたあ!とアルマが声を上げる。
「おお、良くやっ・・・てない。なんでそんな血まみれなんだよ。」
「な、なんか固くて。」
「あーあ。死体もぼろくずみたいだな。シャムス、やり方を教えてやってくれ。」
「はい!」
「アルマはこれからしばらく、魔石回収係な。練習しろ。」
「うえええ。わかりました・・・。」
と、そんな一幕がありながらも、なんとかすべての魔石を回収。
その後は、4人での連携を試しながら、2階層を進んで行った。
「全員が気配察知と隠密のスキルを得るまでは、雪ちゃんの召喚は封印な。あと、ランダは魔石もなしで行こう。魔力の使用量が増える分は休憩を増やして補えばいい。アルマとシャムスは互いの動きに注意。特にアルマは、無闇に槍を振り回すんじゃねえぞ。」
タルガットの忠告に従い、互いの動きを確認しながら3階層へ。
3階層からは灰狼が出る。灰狼の牙を集めるのが今回の依頼だ。
「灰狼の毛皮は5枚集めると常設依頼を1回達成扱いになる。毛皮もそこそこで売れるからできるだけ傷つけない方がいいんだが、お前らにはまだ厳しい。最初は確実に倒すことを考えろ。」
「「「はい!」」」
タルガットは1人でも相手にできる灰狼だが、アルマたちにはかなり手ごわい相手だ。
アルマとシャムスでは致命打を与えることができず、ランダが大量の火矢を打ち込んでなんとか倒す。
「姉さま、さすがです!」
「いや、毛皮燃え尽きてんだけどな。もうちょっと矢の数減らせねえか?」
「すみません。動きがはやくて、確実に倒そうと思うとつい・・・。」
「まあ、それはおいおいか。とりあえず次は俺が倒そう。毛皮のはぎとり方も練習しとけ。」
「「「はい!」」」
その後も何度か灰狼と戦い、無事に依頼分の素材を回収した
「こんなもんか。とりあえず、ギルドに戻って金に換えちまおう。小鬼の分も合わせて、ちゃんと均等割りにすっから。」
「タルガットさん、いいんですか?教えていただいてるんだから、タルガットさんが多く取っても。」
「いいんだよ。そういうのは面倒だからな。お前らほど金に困ってもねえしな。」
「すみません。ありがとうございます!」
アルマに続いて、シャムスとランダも慌てて頭を下げる。
「おかげで、孤児院にもお金を返せます。ありがとうございます!」
「ん?孤児院?」
「私たちはアナハン孤児院出身なんです。」
「・・・ああ、そういうことか。」
「ん?どういうこと?」
「あそこの孤児院は、15歳になったら出ていかなきゃいけないんだけどな。そん時に、自立するための支度金を貸してくれるんだよ。返さない奴も多いって聞くけど。」
「受けた恩は返したいですから!」
「律儀だなあ。」
まあ好きにすればいいがと、タルガットは肩をすくめる。
「え?でもそれじゃ、今日の収入なくなるんじゃないの?宿は?」
「それは・・・今日一日くらいはなんとでも・・・。」
「えええ!そんなのだめだよ!二人とも美人さんなんだから、タルガットさんみたいのに連れ去られちゃうよ!」
「おい。」
「あ、じゃあ家おいでよ。狭いけど、外で寝るよりましだよ!あとマルテちゃんうるさいけど!」
『うるさいのはお前だ。』
「それは・・・ありがたいですけど・・・。」
「いいのいいの。部屋空いてるし。お泊り会だね!」
「それじゃあ、お言葉に甘えて・・・。」
「ふおおお、楽しくなってきた。あ、でも布団がないや。じゃあ、帰りにお買いものついでに毛布買おう!」
「楽しそうで何よりだけど、迷宮内ではもう少し声を抑えようか。」
とりあえずの予定が決まったところで、一行は冒険者ギルドへと戻る。
例によって人の列がまばらなジョーガサキの受付で報酬を受け取ると、タルガットがそれを均等にわけていく。
「それじゃあ、私たちは孤児院に寄ってきますので!」
「今日は本当にありがとうございました。」
「当分はこのパーティでやっていくんだ。堅苦しいのはなしでいこうや。」
「「はい!」」
3人はそう言ってぺこりと頭を下げると、アルマは市場へ、シャムスとランダは孤児院へと向かう。
後ほど、市場でアルマと合流だ。
「さて、ジョーガサキ。」
「なんでしょう、タルガット・バーリンさん。」
「フルネームで呼ぶな。お前、わかっててあの二人を押しつけやがっただろ。」
「なんのことかわかりませんが。」
「とぼけんな。アナハン孤児院の出なんだろ、あの二人。」
「はい。」
「・・・あの時の子ども達なのか?」
「あの時、というのがいつかわかりませんし、私はその頃ギルドにはいませんでしたが。あの二人がタルガットさんの指導を受けたがっていたので、ご紹介しただけです。」
「ち。わかってんじゃねえか。」
思い出したくもない過去の傷がある。
それがどうしたというのだ。そんなものは、誰だって抱えて生きている。
ただ、自分で自分が許せない。それだけのことだ。
だが、その思い出したくもない過去の出来事の渦中で、それでも助かった命があった。
その命は育ち、いま、タルガットの指導を乞い、タルガットのような冒険者をめざそうとしている。
タルガットはがしがしと頭をかくと、ふう、と息をついた。
そんな様子を見て、けれどジョーガサキは空気を読まず、いつも通りの嫌そうな顔で言う。
「とりあえず、借りはなくなったということで良かったでしょうか?」
「お前って奴は・・・はあ。もういいや。その代わり、酒につき合え。」
「え?普通に嫌ですけど?」
「そこはつき合うところだろう、普通。」
「大人の付き合いなどという文化は滅べばいいんです。」
「お前、ほんとグーで殴りたい。」
タルガットはくるりと背を向け、そのままギルドを出ていく。
去り際に、ありがとう、と聞こえた気もするが、よくわからない。
だがどうでもいいことだ、とジョーガサキは思う。
冒険者というのは、無策で、無謀で、無茶をする生き物だから。
そんな冒険者をサポートするのが、自分の仕事なのだから。
タルガットさんの過去は、今後明らかになってきます。