5-7 ウエラ・アウラの願い
「なるほど・・・、そういう事情があったんですね・・・。」
「そういう事情があったんだよおおお。ぶええええ!」
「ちょ、ア、アルマさん、鼻水!鼻水ふいてください!」
いま、アルマたちは村から少し離れた辺りにやってきていた。
ウエラ・アウラも一緒だ。そこまで引き返したところで、シャムスがランダを連れて戻ってきて状況を説明。
説明している途中でなぜかアルマが感極まって泣き出してしまったが、ランダも状況を理解した。
ちなみに、ウエラ・アウラは顔を半分布で封じたままだ。
「このままの状態でサラさんのところにいくというのは、ダメなんでしょうか?」
「ううん、それでいいよ。たぶん、最初からおいらを捕まえたって言って突き出してくれたら、行けると思うんだ。というか、その実験もかねてわざわざ捕まったんだし。」
「どういうことなんだ?」タルガットが問う。
「うーん。説明するのが難しいけど、おいらにかかった呪いって、たぶん一番最初に強くはたらくと思うんだよね。」
ウエラ・アウラは、見るものが認識できなくなる呪いをかけられている。
その呪いの効果は、顔を隠すことである程度抑えられているが、完全ではない。
今でもアルマたちは、本当は彼が昔なじみの知り合いなのではないかという疑心暗鬼に捕らわれ、ともすれば縄や布をほどきたい衝動にかられるほどなのだ。
「でも、みんなは半分疑いながらでも、おいらのこと『ウエラ・アエラ』だって思えてるでしょ?つまり、最初にそういう認識を持てるかが大事なんじゃないかって思うんだ。あとは、おいらと別れた後でもおいらとの会話を覚えていられたら実験は成功ってこと。」
「なるほどな。」
ウエラ・アウラの説明にタルガットが納得する。
もしもいま、この状況を予備知識のない村の人間に見られたとしたら、その者には「村の子どもを拉致する冒険者」に見えることだろう。
相手の先入観にすら影響を与えるのがウエラ・アウラの呪いなのだから。
「でも、この後もし私たちが忘れちゃったら?」とアルマ。
「それでも、少なくとも今は覚えていられるんだから、最悪はこの状態をずっと維持すればいいかな。忘れちゃっても、おんなじ方法で捕まえようとしてくれたら、おいらの方から捕まりに来るから。ただそれは、最後の最後にしてほしいんだ。」
「まあ、お前はこの村では魔物扱いだからなあ。」
村の人間にこの状況を見られたら、アルマたちは悪者扱いだ。
かといって、ウエラ・アウラだと触れ回ってから彼を村に連れて行ったら、彼に危害を与える者が出てくるかもしれない。
ウエラ・アウラのことを忌み嫌う者も多いのだ。
それはこれまでに彼がしでかしたイタズラのため。つまり、自業自得だったりもするのだが。
「そんなわけで、サラばあちゃんにおいらの正体をバラすのは一番最後で。その後だったら、おいらのことはどうしてくれたってかまわないよ。」
「そんな、別になんにもしないよ。」アルマが言下に否定する。
「あはは。村のみんなもそう言ってくれたらいいけどね。まあどのみち、おいらは放っておいても勝手に消えるんだけど。」
ウエラ・アウラは神の頃に持っていた力のすべてを、その体に残してきた。
そして体に残された力は、村の木々に吸い取られ、もうほとんど残っていないのだという。すべての力が吸い取られてしまえば、彼自身も消えてしまう。
「どうにかならないのですか?それに、サラさんの病気も・・・。」
ランダが問う。
しかしウエラ・アウラは、飄々とした態度を崩すこともなく言う。
「おいらは自分がやったことの責任をとるだけさ。最後に君たちっていう希望にも出会うことができた。これ以上は望まないよ。」
「でも・・・。」
「サラばあちゃんの方は、そりゃ治せるなら治してもらいたけどさ。今までにも大きな町のお医者も呼んだりしたけど、むずかしいってさ。」
「そう・・ですか・・・。」
「せめて痛かったり苦しかったりが短い方がいいんだ。それはもう、しょうがないことなんだからさ。」
サバサバというウエラ・アウラだが、それだけに彼がどれだけ悲しみ、苦しんで来たかがわかってしまい、ランダもそれ以上のことは言えなかった。
その一方でアルマはまた滂沱の涙を流してマイヤに抱きつき、マイヤが迷惑そうな顔を浮かべていた。
そこでシャムスが、空気を変えるように言う。
「そうすると、後はサラさんの方っすね。」
「とりあえずエレナちゃんと協力して説得するしかないかな~。最悪は、ランダが代わりに儀式をするってことで~?」
「うん。そっちは本当にお願い。サラばあちゃん、本当はもう出歩くことも禁止されてるくらいなんだ。おいらは洞窟には近づけないからさ。」
かつて一つだった神の心と体。その心から生まれたウエラ・アウラは、体に近づくと再び取り込まれてしまうのだという。
かと言って、言葉でいくら説得をしたところで、会話の内容を覚えてもらえないのでは説得する意味もない。
「そうだ。この魔道具を使えばどうでしょう?」
そこでランダが思い出したように取り出したのは、オーゼイユの露店で手に入れた映像と音声を記録する魔道具だ。
「おお、確かにこれならいけるかも!」
「さすがっす、姉さま!」
「ありがとう。試してみるよ。」
アルマとシャムスが諸手を挙げて喜ぶ。
その後、今後の事などを話し、ひとまずはウエラ・アウラと別れ、サラの説得に向かうことにした。
ところが村に向かって戻りかけたその時、エレナが慌てた様子でアルマたちのところにやってきた。
「みなさん、大変なんです、村が!」
「エレナちゃん?どうしたの~?」
「タオタオモナの群れが村に。放っておくと果樹園が!」
エレナの言葉に思わず顔を見合わせる一行。
「村に向かうぞ!」
タルガットの呼びかけに、即座に反応し走り出す。
ほどなく見えてきた村の光景に驚きの声を上げる一行。
まさに埋め尽くすといった表現以外には思いつかないほどのタオタオモナの群れ、それが村はもちろん、果樹園まであふれかえっていた。
村の若者は必死で果樹園を守ろうとしているが、いかんせん数が足りない。タオタオモナはさほど強い魔物ではないが、彼らは戦闘には不慣れだ。
子どもたちや老人たちはみな、建物の中に逃れているようだ。
「いちいち捕まえてたらキリがねえ!エリとマイヤは魔法で穴を掘れ。まずは果樹園にいる奴らを全部穴に放り込むぞ!ランダは果樹園の端まで走れ!とりあえず近づくやつを減らせ!」
タルガットの指示で各自動き出す。
「マルテちゃん行くよ!ぴかぴかどんどん、ぴかぴか!」
『ばーん!』
「シノさん、お願いしますね。」
「いくっすよ!」
エリシュカとマイヤが魔法を操り、果樹園の近くに大きな穴をつくる。
アルマが光の盾を浮かべた槍を振って、シャムスは斧の刃先に引っかけて、タオタオモナを穴へと吹き飛ばす。
入れきれなかったものはマイヤが聖盾で押し落とす。
タルガットは果樹に被害を与えそうなものを優先して排除するべく走り回っている。
果樹園の端に移動したランダは、水魔法で近寄るタオタオモナをけん制し、サカナのシノさんがそれを後押しする。
エリシュカは村の方に向かい。そちらにも落とし穴を作るようだ。
アルマたちの行動の意味を理解した村の若者たちと船員たちも、協力して穴へとタオタオモナを突き落としていく。
排除の方法が確立してからは、比較的効率よく作業も進み始めた。
ある程度数が減ってからは、交代で休む余裕も生まれた。
とはいえタオタオモナは気を抜けば人の手足など簡単に切り飛ばすほどのハサミを持っている。さらに数も多い。
排除作業は、夜まで続いた。暗くなってからは、穴の近くに焚火を焚いての作業だ。
そして、ようやく排除にめどが見え始めた頃。
幾度目かの休憩から戻ったエレナが青ざめた顔でアルマたちのもとへとやってきた。
「エレナさん?どうかしたんですか?」
アルマの問いかけに、エレナが答える。
「ばあちゃんが・・・サラばあちゃんがいなくなったの・・・。」
お読みいただきありがとうございます!
ブックマーク&評価いただけると嬉しいです!
よろしくお願いいたします!