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5-6 古の魔道具

3日目の朝が来た。

島周辺の潮位はさらに下がり、陸地が広がっているのが見て取れる。


アルマたちはいつものように朝練を行ったあと、村人からいただいた朝食を食べ、前日と同じように山へと向かう。

今日はエリシュカも一緒だ。ランダだけが、村に残ってサラばあさんのお世話をすることになった。


「今日はちょっと早めに戻らないといけねえから、急ごうぜ!」

「マイヤ~、えらく張り切ってるわね~。」

「いや、だって年に1回なんだろ?見逃す手はねえぜ!」

「勇むのはいいが、先頭を歩くな。油断してると魔物に襲われるぞ。」

「わ、わかった・・・。」


張り切ってみたもののタルガットに諫められ、肩を落とすマイヤ。

そんなマイヤをエリシュカが肩を叩いてなぐさめる。

一方で、張り切っているのがもう一人。


『魔物でもなんでも、じゃんじゃんかかってこおい!』

「マルテちゃんは今日も絶好調だねえ!」


槍マルテである。気炎を上げるマルテの様子にタルガットとエリシュカがなんとも微妙な表情を浮かべる。

マルテはかつて、エリシュカの兄カレルヴォの愛槍であった。

魔物との戦いでカレルヴォが亡くなって以降ひどく荒れていたマルテがここまで持ち直したのは素直に嬉しい反面、カレルヴォのことを思うと複雑な気持ちもあるのだ。


「おしゃべりはそこまでっす。前方に魔物。これは・・・たぶん猪っす。」


騒がしいマイヤやアルマ、マルテと比べて、平常運転なのはシャムスだ。

彼女の一声で、パーティに緊張感が走る。アルマもマイヤも、さすがに切り替えは素早くできるようになってきているのだ。

音を立てずに進む一行。と、前方の茂みが小刻みに揺れているのが目に入る。

シャムスが無言で一行に目配せすると、エリシュカが茂みに向かって矢を放つ。


「ブモォオオオ!!」


後ろ脚に矢が刺さったまま茂みから勢いよく現れた魔猪。そこにシャムスが腕輪をかざすと、その腕輪から強力な光が照射され、猪の目をくらませる。

さらにスピードが上がりきる前にアルマが進路に躍り出て道をふさぐ。


『アルマ!昨日のリベンジだ!』

「ぴかぴかどんどん、ぴかぴか!」

『ばーん!』


速度を伴わない突進はマルテの柄の部分に現れた盾によって阻まれ、猪の体が横にそらされる。


「聖盾!」

「もらったっす!」


さらにマイヤの作り出した魔法の盾で完全に勢いを止められた魔猪の首めがけてシャムスが斧を振り下ろす。

結局、タルガットが手を出すまでもなく、仕留めることができた。


「よおし、上出来だ、お前ら!」

「やったよ、マルテちゃん!」

『ぶはは、見たか!』

「シャムス~、うまく使えたみたいね~。」

「はい!ありがとうっす!」


シャムスが使って見せたのは、オーゼイユの露店で購入したアイテムだ。

なぜか昨日、その用途についてヌアザ神経由でジョーガサキから教えられ、エリシュカが使い方を確認してくれていたのだ。

使い方は単純で、魔力を通すと特定の方向に光が照射されるというもの。

だが、この光がなかなか強力で、魔物の目をくらませるのに使えるのではないかと言われ、とりあえず試してみたという次第だ。


「マルテちゃん、私たちもあれやろう!」

『よし、じゃあお前が「ぴかぴかどんどん、ぴかぴか」つったら、あたしが「ぴかー!」だな。』

「ぴかぴかしすぎじゃないかな?」

「ちょっと、マネするのやめてほしいっす!」


その後、解体を済ませた一行は、さらに山の奥へと分け入っていく。

順調に狩りを進め、針兎を一頭仕留めたところで、解体がてらの昼休憩となった。

タルガットとシャムスで解体。

その間にエリシュカが肉多めのシチューを調理する。

アルマとマイヤは周辺の見回りだ。


そして。


たっぷりと時間をかけて昼食を終えた一行。

今、彼らの目の前には、両手足を縛られたウエラ・アウラの姿があった。


「ま、まさかこんなので本当に捕まえられるとは・・・」

「でも、たぶん間違いないっす。今こうして見てても、初めからうちのパーティにいたんじゃないかって気持ちがぬぐい切れないっすから・・・。」

「やっぱそうだよな?あたしだけじゃないよな?」


両手両足を縛られたウエラ・アウラは少年の姿をしていた。

おそらく村に着いた最初の夜、サラばあさんに話しかけていた子だ。

おそらく、というのは、今この場で見るとどうしても元からパーティにいたメンバーのように思えてくるからだ。

しかも村でサラに話しかけていた子という記憶も曖昧で、この子を見てなんとなく思い出したが、それすらも夢であったかのように思えてくるのだ。


「眠った状態ですらこれだからな。そりゃあ気づかないわ。俺自身、ついさっきまで村で話しかけてきた子の記憶なんて飛んでたからなあ・・・。」

「それで~、これからどうしようかしらね~?」

「どうしようったってなあ・・・。」


ウエラ・アウラはいま、両手両足を縛られた状態で眠りこけていた。

エリシュカが前日に作り上げた特製の眠り薬のせいだ。

ちなみに、眠り薬の元となっているのは村自慢のロートスの実。その実からエリシュカが眠りを誘う成分を濃縮し、その眠り薬を食事に混ぜたのだ。


それがジョーガサキの策。

会っても気づくことができないのなら、みんなまとめて眠らせてしまえばいい、という極めて強引かつ単純な作戦。だがこうして目の前にその成果を突き付けられると、文句も言えないというものだ。

ちなみに、同じものを食べたアルマたちがなぜ眠っていないのかと言えば・・・。


「半信半疑だったけど・・・ちゃんと使えたな、これ。」


マイヤがそう言って自分の手にはめた指輪を見つめる。

それもまた、オーゼイユの露店で購入したアイテムだった。

マイヤの選んだ指輪の効果は「魔力を通した際に登録した者の状態異常を防ぐ」というもの。おそらくはるか昔の貴族が晩さん会などでの毒殺を恐れて作らせたものなのだろう。見た目は何の飾りもないリングであることから、護衛が装備していたのだと思われる。


エリシュカがその使い方を確認し、ウエラ・アウラ対策として、昨日のうちに一人ずつ順番に登録を行ったというわけだ。

ちなみに、ランダが購入したのは小さな籠の形をした魔道具だった。その効果は「記録した音と映像を再生する」というもので、魔力を通すと記録した映像が再生されるという。


「使えたのはいいんすけど、私たちすら使い方を知らなかった魔道具のことをなんでジョーガサキさんが知ってるんすかねえ・・・。」

「そういえばジョーガサキさん、鑑定スキル限界まであげてるって言ってたよ・・・。」

「それだな・・・。」


シャムスの率直な疑問にアルマが答え、マイヤがうなづく。


「ジョーガサキのことなんて、いちいち気にするだけ損だぞ?それよりもまず、こいつをどうにかしないとな。」

「と言っても~、とにかく起こして話をきいてみるしかないわよね~。」

「だな。よし、じゃあアルマ起こしてくれ。」

「わ、私ですか?」

「こういうのに一番耐性がありそうなのはお前だからな。他のメンバーは何があっても縄を切ったりするなよ。こいつは俺たちの仲間じゃない。ウエラ・アウラだってことを忘れんな。」

「「「はい」」」


タルガットの指示で、一同はやや離れた位置に移動。

アルマがひとりウエラ・アウラであるはずの少年に近づき、エリシュカから渡された気付け薬を飲ませる。


「う・・・んん・・・。」


ほどなくして、少年は目を覚ます。

もぞもぞと体を動かそうとして叶わず、すぐに自らが拘束されているという状況を理解したようだ。

視線だけを動かして目の前にいるアルマやその背後にいる他のメンバーを確認する。

その様子を見たアルマが恐る恐る話しかける。


「えっと、暴れなければ危害は加えないから。大人しくしてくれるかな?」

「へへへ。おいら捕まったんだね。姉ちゃんたち、やるなあ。」

「い、いやあ、それほどでも?それで、どうかな、暴れたりしないなら話くらいは聞くけど・・・。」

「暴れようたって暴れられないし、姉ちゃんたちがおいらを捕まえてくれるんなら、その方が有難かったから。大丈夫、暴れたりはしないよ。」

「その、あの変な力も使わない?」

「それは呪いみたいなもんだから、おいらにはどうすることもできないんだ。なんかの布でおいらの顔を半分ぐらい隠すといいよ。それでだいぶましになるだろうからさ。」


意外に友好的な態度を示すウエラ・アウラに驚きつつも、アルマがタルガットから布を受け取りウエラ・アウラの目を覆う。

ウエラ・アウラは一切抵抗することはなかった。

そこでタルガットがアルマと変わって質問をする。


「それじゃあ、色々と話を聞かせてもらうことにするが・・・。」

「うん。どうぞ。何でも聞いておくれ。」

「じゃあまず・・・とりあえずお前はなんなんだ?魔物ってことでいいのか?」

「何って聞かれるとさすがに困るけど・・・まあ、魔物ではないよ。人間でもないけど。」

「つまり?」

「まあ、すっごく簡単に言うと、元、神さまかな?」


あっけらかんと言い放つウエラ・アウラ。

半ば予想していたこととはいえ、思わずアルマを見る一同。


「え?ちょ、なんで私を見るんですか?」

「いや・・・まあ、なんとなく?」

「冤罪ですよタルガットさん!今回のは私のせいじゃありません!」

「あっはは。アルマだっけ?チャネル開きっぱだもんね。なるほど、ほかの神さまにも会ったことがあるんだね?」

「うぐっ、元、神さまにも開きっぱって言われた・・・。」

「アルマが悪いっす。」

「そうだな。アルマが悪いぜ。」

「うふふ、そうね~。」

『自重しろアルマ。』

「うううう。」


元とはいえ神との対面だというのになし崩しに空気が緩んでいく。

それを肌で感じたウエラ・アウラは驚くが、同時に喜んでもいた。

タルガットがさらに問いかける。


「それで?さっき捕まえてくれるのは有難いって言ってたけど?」

「んと、実はお願いしたいことがあるんだよね。けど、おいらのことはみんな気づいてくれないし、話の内容も忘れられちゃうし、誰かがこうやって捕まえてくれるのを待ってたんだ。この状態であれば、きっと後になってもおいらとの会話を覚えててくれるだろうからさ。」

「討伐されるとは考えなかったのか?」

「そこら辺は君らのこと見てたし、話を聞いてくれるって言ってたし。ていうか、討伐してくれるんならそれでもいいんだ。」

「で、頼みたいことってのは?」


ウエラ・アウラは目を封じられたまま、顎を上げ、にっこりと笑って言う。


「お願いしたいことは2つ。サラばあさんが今夜行う予定の神事をやめさせてほしいんだ。それと、彼女への伝言をお願いしたいんだ。」


お読みいただきありがとうございます!

連休でちょっと間が空いてしまいましたが、ここからはまた2日に1話ペースで投稿していきます!


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