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5-4 ジョーガサキさん、無茶振りをされる

「ウエラ・アウラの謎を解くって聞いたんですけど、本当ですか?」


サラと名乗った老女は、その顔に静かな笑みを湛えて問いかける。

エレナの大伯母ということだからかなりの高齢のはずなのだが、ぱっと見は少女のようにも見えるほど若い印象だった。

だが病のせいか、その表情は生気に乏しく、ひどく儚げな印象を与える。


「はい!と言っても、まだどうしていいのかわからないんですけど。」

「そう・・・。ちなみに、謎を解いてどうするつもりなのか、お聞きしても?」

「どうする・・・て、別に何も。」

「何も?相手は魔物ですよ?」

「でも、別に悪いことしてるわけでもなさそうですし・・・ただ、もし話ができるなら、なんでそんなことをしてるのかは聞いてみたいかなあって。」

「話を聞く?魔物の?」

「え?だって、普通に話はできるんですよね?」


サラの質問に答えたアルマは、しかしサラばあさんの意図がいまいちわからない様子で、コテンと首を傾げる。

2人の様子を苦笑しながら眺めていたタルガットが助け舟を出す。


「あー、こいつらはちょっと変な事件に絡まれることが多くて。人を助ける魔物やら神さまやらに妙に縁があるんで、普通の冒険者とはちょっと考え方が違うんですよ。」

「・・・そうですか。そういえばあなた、アルマさん?それにそちらのランダさんも、巫女の才能がありそうですものね・・・。」

「わ、私もですか?」

「姉さまは本物の巫女っすから!」

「あらまあ、そうでしたか。」


驚くアルマと自慢げなシャムスを見て、楽しそうに笑うサラ。

その様子だけ見ていると、とても病気とは思えない。


「そうだ、明日から大潮引きが始まるんです。村の最後の巫女としてのお勤めがあるんですけど、よかったらお手伝いしてくださいな。」

「ちょ、ちょっとばあちゃん、そんないきなり・・・。」

「大潮引き?」


マイヤの問いに、エレナはため息をつきながらも説明をしてくれた。

この島は潮の流れの関係か、潮の干満の差が激しい。

そして、年に1度、特に潮位が高くなる「大潮」と、特に潮位が低くなる「大潮引き」があるのだという。


「どうりで商船の人たちが何日間もこの島に停泊するわけだ。干潮の時は島から離れられねえんだな。」

「おお、なるほどー!」

『アルマ、お前わかってねえだろ・・・』


合点がいったという様子のマイヤに、アルマが同調する。


「でも、それと巫女と何の関係が?」

「それはですね・・・。」


ランダの問いに、エレナが説明を続ける。

彼女によると、この島には大潮引きの日にだけ現れる洞穴があるらしい。

そして、その洞穴には不思議な磐座(いわくら)がある。

かつてその磐座は不思議な聖気を放ち、淡く光り輝いていたのだという。

島の人々はそれを神の御座所と信じ、神事の際以外の立ち入りを固く禁じてこれを守った。

ところが、ある日を境に、その磐座から聖気と光りが失われてしまったのだという。


「なるほど~。それで、島の人は神さまがいなくなってしまったと思ったわけね~。」

「あの時はちょうど、天候不良や不作も続いてね。そんなことも重なって、村の誰が言い出したのか、神さまはいなくなったって。それで、私ももう、お役御免になってしまったというわけ。」

「それなら、神事を行う必要はないのでは?」ランダが問う。

「そうね・・・でも、代々ずっと受け継がれてきた神事ですからね。最後の巫女として、お勤めを果たしたいの。」


と、そんな話をしているところに通りすがった村の若者がサラばあさんに声をかける。


「サラばあちゃんはまだそんなこと言ってんのか。もう神事はする必要がないんだし、病気なんだからおとなしくしておけって言われてんだろ?行っちゃだめだぞ。」

「それは私もそう思うよ!」少年の言葉にエレナも同調する形だ。

「あらあら。怒られちゃったわね。」

「ばあちゃん絶対行く気だろ。後で怒られても知らねえぞ!」

「はいはい。わかりました」


その後、サラばあさんは若者と話し始めてしまったので、それ以上言葉を交わすことはなかった。

エレナがほどほどのところでサラを家に送る。

そして戻ってきたエレナが言う。


「突然ごめんなさいね。」

「いいのよ~。私たちもサラさんとお話しできてよかったわ~。」

「この島にいる間にもう少しお話ができると良いのですが・・・。」

「じゃあ大潮引きの神事はお手伝いするってことで。」


ランダはまだサラばあさんと話をしたいようだった。

巫女同士、何か通じるものがあったのだろう。そこで、アルマが提案し、他の一同も同意を示す。

この島でやるべきことが、新たにもう一つ決まった。


「それで・・・サラさんの病気の方は?どうなんだ?」

「正直、もう本当に長くはないと思います。だから、できれば神事もやめてもらいたいんですけど・・・。」

「そうか・・・つらいな。」

「いえ。もう、ずいぶん前から分かっていたことですから・・・」


タルガットの言葉に、エレナが静かに答える。

そして。宴の時間は過ぎ。

陽気に騒いでいた村人たちの中にも舟を漕ぐ者が現れ始めた頃、エレナがぼそりとアルマたちに問いかける。


「この村、どう思いました?」

「どうって?」

「平和な良い村だと思いましたっすけど?」

「そう、すごく平和で、何もない村。私はこの村が大好きだった。だけど、ロートスの生産だけでは生きていけない。若い人たちはみんな村の外に出てしまうし、そのまま帰ってこない者もいる。特に神さまがいなくなったという話になってからは顕著でね。」

「そうなんですね・・・。」


エレナの言葉を受けて、ランダは村人たちに目を向ける。

確かに、老人と子供ばかりが目立つ。

これまでに見たどの村よりも、それは顕著だと感じた。

そこで暮らすものにしかわからない苦悩や苦労が、ここにもあるのだ。

それはもう、部外者にははかり知ることなどできはしない。


「この村はもう、少しずつ死んでいってるんだ。」


その言葉は、やけにアルマたちの胸に響いた。

だが、エレナは何かを吹っ切ったように明るく言う。


「けど、皆さんが来てくれて、村のみんなは本当に喜んでるからね!ウエラ・アウラの謎解き、私も手伝うから!」

「おお、じゃあ、せっかくの交流の時間なんだし、色々情報収集しないとね!」

『ったく、お前はそういうときだけ調子いいな・・・。』


その後、アルマたちは村人たちからウエラ・アウラの情報を色々聞いてまわった。

だが、特にめぼしい情報はでなかった。

出現の条件や場所はバラバラで、島の中であればどこにでも現れる。

特に遭遇しやすい人や遭遇しにくい人というのもいない。

農作業を手伝ってくれることもあれば、誰かが大切にしまっていたものをこっそりもちだしてしまうこともある。

自由気まま、という印象だった。


こうして、ユグ村での最初の夜は、特に成果らしい成果もなく、更けていった。


そして、翌日。

ラスゴーの迷宮にあるセーキョー村にて。


「そういうことやねんけど、なんや、ええ知恵はないかいなぁ?」


そう言うのは、セーキョー村の生協支部に新たに設けられた神棚に顕現したケリドウェン神だ。

その話す相手というのは。


「・・・まったく意味がわかりません。なぜ私にそんなことを?」


いつも通り、不機嫌そうな表情を崩すことなく定時に出勤したジョーガサキである。


「そら、けったいな作戦を立てることにおいては、ジョーガサキはんの右に出るもんはおらんからなぁ。」

「ウエラ・アウラを見つけ、島の神さまに戻ってきてもらい、過疎を食い止める方法を見つけろと?」

「まあ、そういうことやろうなぁ。」

「丸投げすぎるでしょう?」

「それはまあ、うちもそうは思うけどなぁ。」


しばし虚空を見つめ考えるジョーガサキ。


「仕方ありませんね。生協の発展にもつながりそうなので、今回は特別に少しアイデアをだしましょうか・・・。」


そう言って、これまたいつもの如く、悪魔のような笑みを浮かべた。


お読みいただきありがとうございます!

最初は閑話にしようかと考えていた島編。

なんだかちょっと大掛かりになってきてしまいました。。。

まあ、この章は短くおわるかと思いますが。


ブックマーク&評価、ありがとうございます。

すごくモチベーションにつながっております!引き続きよろしくお願いいたします。

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