5-3 ウエラ・アウラ
「やっぱりって、どういうこと~?」
「この島には、ウエラ・アウラという魔物がいるんです。」
エレナが言うには、ウエラ・アウラという魔物は数十年前、突然この島に現れるようになったのだという。
現れたといっても、誰もその姿を見たことはない。
村で何人かの人間が集まって何かをしていると、いつの間にか一人増えている。だが、そのことに誰も気がつくことはできず、またいつの間にか元の人数に戻っている。
そして、そこに誰かがいた痕跡だけが残るという。
食事をしていれば、当たり前のように増えた人間も食事をし、食後には誰が使ったのかわからない食器が残る。
子どもたちが遊んでいると、割り切れない人数だったはずなのに、なぜかきれいに2つのチームができている。
知った顔の人間しか、その場にはいなかったはずなのに。
そんなことが度々重なり、どうやらこれは魔物の仕業だということになり、その謎の魔物をウエラ・アウラと呼ぶようになった。
それは、この島の古い言葉で「見てはいけないもの」を意味するのだそうだ。
「すみません・・・気味が悪いですよね、こんな島・・・。」
申し訳なさそうに言うエレナ。
だが、その話を聞いたアルマたちは。
「こ、これはまごうことなきワクワク案件!」
『食いつきすぎだろ馬鹿娘。』
「いいえ!これはぜひとも解明しなければなりません!」
「なんかこうなる気がしたっす・・・。」
「まあ、アルマさんですからね・・・。」
「そうだな、アルマだからな。」
「え?か、解明って?」
エレナの戸惑いをよそに、目を輝かせていた。
アルマ以外は呆れた口調だが、その表情には好奇心が見て取れる。
なんだかんだと様々な体験を経て、彼女たちも随分と逞しくなったようだ。
そんな年少組を見て、タルガットとエリシュカは本心からの呆れ顔を浮かべる。
だが、彼らとて年少組を止めるつもりはさらさらないのだ。
「まあどうせ、村についてからはすることもねえからな。」
「そうね~。たまには、こういう冒険もありかもね~。」
「ですよね!よおし、それじゃあ、まずは村に急ぎましょう!」
『張り切るのはいいが、どうやって見つけるつもりだ?』
「それは今から考えます!」
こうして、この島での当面の目標も決まった一行は、アルマの勢いに押される形で、意気揚々と村をめざしたのだった。
その後の道中は特に何事もなく進んだ。
タオタオモナもさすがにそれほど島の奥にはあがってこないらしく、他の魔物は基本的にもっと山際にいるということで、わずかに針兎を見かける程度。
その針兎も人の気配を感じるとそそくさと逃げ出してしまうため、戦闘らしい戦闘もなく、夕方前にはユグ村へと到着した。
この島の全住民が集まるという村は、オーゼイユに行く途中で立ち寄ったトグゥルの村よりやや規模が大きい程度だった。
だが、若い者はオーゼイユに出稼ぎに出ることが多いようで、住民の数はトグゥルとほぼ同じくらいかやや少ないくらいだろうか。
老人と子どもたちの姿が目立つが、若者の姿は少なかった。
その若者たちは村に接する斜面に設けられた果樹林で農作業にいそしんでいた。
ロートスと呼ばれるその木から採れる実は村唯一の特産品だ。
わずかながら催眠効果があるが、そのまま食することもできるという。
だがその実から採れる油は上質で、その油を交易品としてオーゼイユに卸し、またさまざまな物資を仕入れているという事だ。
油の売買を任せる商船は、この村にとって数少ない娯楽のひとつでもある。
今回はエレナの里帰りという村人にとっては嬉しい出来事も重なったうえ、タオタオモナのお土産付きとあってアルマたちも村人から歓迎を受けた。
どのみちアルマたちには解体ができないため、タオタオモナはすべて村に放出したところ、村人たちはたいそう喜んで、早速タオタオモナを使って村総出の宴会の準備が進められる。
「皆さん方は、この空き家をお使いくだせえ。掃除はしとりますんで、問題はねえ思いますし、必要なもんがあったら村の誰にでも言うてくだされば、可能な範囲でご用意いたしますで。」
村人たちが宴会の準備を進めている間に、アルマたちは果樹林近くの空き家に案内されていた。
島に逗留している間は自由に使っていいという。
空き家とはいえ内部は清掃が行き届いており、窓を開ければ果樹林越しに海を臨む絶景が広がっていた。
「お気遣いありがとうございます。後で村の代表の方にごあいさつをしたいんですが。」
「それだったら、私が案内しますよ。」
タルガットの申し出にエレナが案内を買って出る。
荷物を置いた後、エレナの案内で村長宅へ。
「ただいまー。お客さまをお連れしたよー。」
村長宅でおもむろにそんなことを言い出すエレナ。
実は彼女は村長の娘だったらしい。
「娘って言っても、上に兄がいるから本当にただの娘ですよ?父だって村長ではなくて村長代理ですし。」
「いやいやいや、言ってくださいよ!」
いたずらっぽく笑うエレナにアルマが抗議の声を上げる。
と、そこにエレナの父である村長トゥラルグがやってきた。
「皆さん、こんな遠くまでありがとうございます。今回は商船だけでなく、我が娘まで無事に島まで運んでくださったようで、感謝の言葉もない。」
「こちらこそ、素晴らしい宿を提供していただき感謝しております。村の方々にもよくしていただいてありがたい限りです。」
「そう言っていただけて安心しました。何もない島ですが、精一杯おもてなしをさせていただきますので、どうぞごゆっくり。」
村長とタルガットが互いに感謝の意を示し、あいさつは終わる。
そこでエレナが父親に問いかける。
「それで、ばあちゃんの具合はどうなの?」
「ああ。正直あんまり良くはねえが、今日は随分と調子がいいみたいで起きていなさる。後で顔を見せておきなさい。」
何事かわからないアルマたちにエレナが説明する。
「実はこの村の本当の村長、というか村の巫女が私の大伯母、つまり祖母の姉にあたる方なの。最近体調が悪いらしくて、正直もう長くないって言われててね。それであたしも帰郷したんだ。」
「村の巫女ですか?確か・・・この村の神さまはいなくなったって・・・」
同じ立場であったものとして気になったのだろう。
ランダの問いかけに、トゥラルグとエレナは顔を見合わせる。
そして、トゥラルグがどこか達観したような表情で言う。
「そう・・・ですから、伯母は、この島で最後の巫女というわけです。」
この島にはこの島の歴史があり、それは余人にははかりしれないもの。
そのことを強く感じたアルマたちは、それ以上踏み込むことなく、村長宅を辞した。
だが、その後アルマたちは予期せずして、村の事情に関わっていくことになる。
それは、村人総出で準備してくれた宴の席のこと。
商船の者たちも日が暮れた後で村には着いており、村人、船員、アルマたちとかなりの大人数が村の広場に集まっていた。
「タオタオモナのスープ、めちゃくちゃ美味しい!」
「こっちの、ロートスの油で煮たのもいけるっすよ。」
「油で煮るのは珍しいですね。後で調味料を聞いておかないと。」
「ばかお前ら、この焼いたやつ食ってみろって。」
「姉ちゃんたち、よく食うな!こっちのも食ってみろ、うめえから。」
「「「「いただきます!」」」」
「あんたたち~、あんまり食べると、ロートスの催眠効果で眠くなっちゃうわよ~。」
「これは明日、また狩りにいかねえとなあ。」
ここにあっても、アルマたちの騒がしさは通常通りで。
ただ、その健啖ぷりは村人たちには嬉しいらしく、次々と新しい料理がふるまわれる。
そして、宴もたけなわといった頃、突然辺りがざわめきだす。
何事かと様子をうかがうと、エレナが一人の老婆を伴ってやってくるのが見えた。
おそらく、村長宅で話に出ていたエレナの大伯母だろう。
長く臥せっていたせいか、その身は細く、足取りは危うい。
だが、見るものを圧倒するような、不思議な気品にあふれていた。
「みなさん、突然驚かせてごめんなさい。どうぞ、そのままお続けくださいな。」
大した声量ではないはずのその声は、不思議と広場全体に届いた。
老女の言葉を受け、次第に元の活気を取り戻していく村人たち。
そして老女はエレナに支えられて、まっすぐにアルマたちの元へと向かう。
「すみません、皆さん。皆さんのことを話したら、ぜひ皆さんとお話しをしたいって言いだして・・・。」
「全然かまいませんよ~。というか、必要ならこちらからお伺いしたのに~。」
「ありがとう、美しいエルフの方。でも、今日は本当に体調もいいので、少しお外に出たかったの。」
「でしたら問題ありません。さあさあ、こちらへどうぞ~。」
エリシュカが場所を開け、エレナと老女を座らせる。
「突然ごめんなさいね。私のことは、サラとお呼びくださいな。」
老女はそう名乗って、にこやかに笑う。
「それで、皆さん。ウエラ・アウラの謎を解くって聞いたんですけれど、本当ですか?」
お読みいただきありがとうございます!
ようやく週末!今週はなんだか長かった。。。
でも来週は、人によっては連休ですね!
どこかへ遊びに行かれる方はコロナに気を付けつつ楽しんでください。
どこへも行けない方は、この小説を読んで楽しんでくださいw
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