5-2 もうひとり
「そっち行ったっすよ!」
「いた!アルマ、そっちの草むらだ!」
「わわわ!いた、捕まえた!」
ユグ村へと向かう道の途中。
シャムスとマイヤ、アルマは3人がかりでタオタオモナという小さな甲殻の魔物を追いかけまわしていた。
小さいといっても、人間の頭は優に超えるサイズで、大きなハサミは人の手足くらいは簡単に切り落とすほどの力を持つ。
「大潮の時期には沢山島にあがってくるんですけど、普段は海にいるので、この辺で見かけることは少ないんですよ。」
「うふふ~、それなら、村への良いお土産になるわね~」
年少組の捕り物を眺めていたエレナとエリシュカがそんな会話を交わしている。
実は、タオタオモナは食用として重宝されているのだという。
甲殻の下には旨味の凝縮した身が詰まっており、そのまま食するのはもちろん、スープなどに入れても格段に味が良くなるという。
それを聞いて、アルマたちが発奮したというわけだ。
だが、幸運は一度きりではなかった。
「チ。チ。」
「シャムス、そっちにも一匹いるみたい。」
「へ?あ、見つけたっす!」
ネズミの雪さんが新たな獲物を発見したようで、シャムスが急いで捕獲に向かう。
その後も次々と見つかり、結局10を超えたところで捕獲をあきらめることになった。
これだけいるのであれば、必要になったらまた捕まえにくればいい。
解体には独自の器具が必要になるので、すべて生け捕りにした。
エレナが慣れた手つきでハサミをロープで縛り、さらにそのロープで数匹ずつまとめていく。
「今夜はごちそうだね!」
「この時期にこんなに見つかるのは本当に珍しいんですが・・・。」
「なんか・・・嫌な予感がするな・・・」
「タルガットもそう思う~。」
「うちにはワクワク担当がいるっすからね・・・」
「え?私、非難されてるの?感謝じゃなくて?」
『お前は前科がありすぎるからな・・・。』
「ちょ、マルテちゃん?」
「うふふ、アルマさん、気を付けてくださいね?」
「謎のチャネル閉じろアルマ。」
「ランダちゃん?マイヤさん?」
いつものようになぜかアルマが全員からたしなめられつつも山道を登っていく。
その途中、小さな祠が建てられているのを見つけた。
随分と長い年月放置されていたようで、ところどころ破損しているような状態だ。
それを見て、アルマがエレナに問う。
「エレナさん、あれって神さまを祀ってるの?」
「ああ、そうですね。以前は。」
「以前?」
「この島の神さまは・・・もう島から立ち去られてしまったのだと聞いています。」
「そうなんだ・・・ちょっと、掃除だけでもしていいかな?」
「構いませんが・・・神さまはもうおられないんですよ?」
「もしかしたら、また戻ってくるかもだし。みんなもいいかな?」
「まあいいけど~。アルマも物好きね~。」
「んじゃ、ちょっと早いけどついでに昼食にするか。」
エリシュカとタルガットが特に不満を漏らさなかったため、掃除班と昼食準備班に別れることに。
ヌアザ神やケリドウェン神など、何かと神との関わりの多いパーティなので、こういうのは見逃せないのだ。
料理のあまり得意でないマイヤとシャムスが、アルマとともに祠周辺の雑草などを掃っていく。
エリシュカ、ランダ、エレナは昼食の準備。
タルガットは、とりあえず一匹だけでも味見してみようということになったタオタオモナの解体に悪戦苦闘していた。
祠は、草と埃を掃っただけでも随分と見栄えが良くなった。
ちょうどそこで料理の準備もできたので、みんなで簡単にお祈りを捧げる。
と、そこでアルマは何か違和感を感じた。
「あれ・・・?」
『なんだ、どうした?』
「いや、なんかちょっと・・・?」
「なに~?またワクワク案件~?」
「アルマいい加減にしろっす。」
「チャネル閉じろアルマ。」
「うう。この言われよう・・・。」
結局、違和感の原因はわからず、全員で昼食となった。
タルガットが担当したタオタオモナは、やはりうまく解体することができず、強引に8つに破壊されていた。
それを殻付きのまま豪快に火にかけて炙る。
エレナが味付けを担当したスープも予備の食器を使って8つによそう。
「タオタオモナ、おいしい!」
「ただ焼いただけなのに塩味がするのは、海の魔物だからっすかね?」
「身も肉と魚の中間て感じだな。繊維質が多い感じだけど、あっさりしてていくらでもいけそうだぜ。」
「エレナさんが調えたスープもおいしいです。後で作り方を教えてください。」
「こんなので良ければいくらでも。」
年少組はさっそくワイワイと騒ぎ出し、それにエレナが巻き込まれていく。
タルガットとエリシュカは、呆れながらも楽しそうだ。
そこでふと思い出したようにランダが尋ねる。
「そうだ。エレナさんて、オーゼイユの町で働いてるんですよね?」
「うんそう。『八十八果亭』ってところ。」
「え!あのスイーツの店っすか?」
「あたし達、こないだそこ行ったぞ。」
「知ってる。実はその時にあたしも売り子してたんだよ?その節は大量のお買い上げ、ありがとうございました。」
「えええ!衝撃の事実!」
意外な縁に驚く一同。
それを見て、エレナはいたずらっぽく笑いながらアルマに問いかける。
「実はみんなの顔覚えてたの。だから船で思わず声かけちゃったんだけど・・・あれって、結局どうなの?」
「あれってどれですか?」
「アルマちゃんが『鹿姫』じゃないかって噂。」
「ぶはー!ちちち違います、人違いです!」
「えー。そうなんだ。」
疑わしそうな目で見るエレナに、アルマが必死で言い訳をする。
だが、言い訳をすればするほど墓穴にはまっていくアルマの様子を、他の面々はニヤニヤと笑いながら眺める。
そんなこんなで昼食を済ませた一行は、手慣れた手つきで食器を洗い、調理道具を片付ける。
と、その時。
シャムスが何かに気づき、全員に声をかける。
「ちょ、ちょっといいっすか?」
「なに~、シャムスどうかした~?」
「いや・・・これ・・・」
シャムスが指し示したのは、使い終わった8つの食器だった。
「シャムス?これがどうかしたの?」ランダが重ねて問う。
「いやこれ、今、あたしたちが使った食器なんすけど・・・。間違いなく、今この場で使ったものなんですけど。」
「なんだよシャムス?」
いぶかし気な表情を浮かべるマイヤの目の前で、シャムスが食器の数を数える。
「あたしたち、7人なんすけど、なんで8つ使われてるんすかね?」
「そういえば・・・俺もタオタオモナ、8等分にしたな・・・」
そこで全員が互いに顔を見合わせる。
食器は間違いなく全員に行き渡っていた。
誰かが余計に食器を使ったような記憶もない。
タオタオモナは好評だったので、誰かがこっそり多く食べていたらケンカになったはずなのに、きれいにひとり1つずつで全員に行き渡っていた。
全員の顔を見て、タルガットが呟く。
「あと一人、誰が混じってたんだ?」
「もしかして・・・マルテちゃん?」
『んなわけあるか、馬鹿娘。』
「だよね・・・」
全員の視線は自然と、この島のことを知るエレナへと向いた。
そして、全員の視線を一身に受けたエレナがため息をつく。
「あー・・・やっぱりでましたか・・・。」
お読みいただきありがとうございます!
ちょっとだけホラー風味?
アルマたちだと、そんな雰囲気になりませんねw
さて、この後どうなっていくでしょう。
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