1-8 再び迷宮へ
「そんじゃあまあ、とりあえずは迷宮へ行くんだけど、二人とも装備はそれでいいのか?」
迷宮に向かうために町を歩きながら、タルガットが問いかける。
シャムスは一応剣と盾を持っているが、ランダの方は武器らしいものを持っていない。というか、その剣と盾は元々アルマが使っていたものだ。以前ジョーガサキが言っていたように、組合員への貸出武器となったのだろう。
そして二人とも、身にまとうのはやや大きめの麻の服の上下のみ。防御性能は期待できそうもない。
「防具はまだ、買い揃えることができませんので。武器は、私はこれを使います。」
そう言ってランダが見せたのは、小さな魔石だった。
「本当は稀石というものを使うのですが・・・。」
「そんなんで戦えるのか?」
「簡単な術であれば問題ありません。必ずお役に立ってみせますのでどうか・・・」
「いやまあ、それでいいんならいいさ。まあ、気楽に行こう。」
「はい・・・。」
気負った様子のランダを気遣ってか、タルガットがいつもよりも軽い調子で応える。
「タルガットさん、いいですか?」
「どうした嬢ちゃん。」
「マルテちゃんのことなんですけど。」
「ああ、そうか。パーティを組む以上、伝えておかないとな。シャムスにランダ。実はこの嬢ちゃん・・・じゃなくて、アルマの持ってる槍は魔道具なんだ。」
そう言って、アルマの槍を指さすタルガット。
「自分の意志を持っていて、会話もできる。だがへそ曲がりな上に口の悪い奴でな。話す相手を選んだりするし、嘘をついて混乱させたりすることもある。だから、変な声が聞こえたり、アルマが見えない誰かとしゃべったりしてても驚かないようにな。」
「これが・・・魔道具。なるほど、それで・・・。」
「かわいそうな人ではなかったのですね・・・。」
「やっぱり私、そういう評価なんだね・・・。」
「魔道具つっても、長年使われることもなく、武器屋で埃をかぶってたんだがな。そんでも、魔道具ってだけで欲目を出す奴も出てくるもんだ。だからまあ、これはパーティだけの秘密な。」
タルガットの言葉に、獣人の二人はうなづく。
そんな話をしながらも、町を出て、迷宮の入口へ。1階層は道中襲い掛かってくる魔物をタルガットがさっくり仕留めてしまい、アルマたちは戦闘をしないまま2階層へとたどり着く。
「さてと、そんじゃあまあ、こっからは順番に戦ってもらおうか。まずはシャムス。」
「はい!」
シャムスが先頭になって、警戒しながら2層を進んでいく。と、少し進んだところでシャムスが足を止めた。以前、アルマが小鬼の奇襲を受けたところだ。耳をひくひくとさせながら、シャムスが小声で言う。
「魔物がいます。おそらく、3匹。行きます。」
シャムスはそのまま数歩進むと、突然全力で走りだす。
急に聞こえてきた足音に驚いた小鬼が3匹飛び出して来る。
シャムスは小剣を一閃して一匹の小鬼を倒すと、そのまま走り抜けて一旦距離を置き、振り返る。
仲間を殺されて激昂した小鬼2匹が踊りかかる。一匹の小鬼が振り回す棍棒を盾で受け止めながらもう一匹に向けて剣を一閃。だが、大勢が不十分なため、受け止められてしまう。
とっさに標的を変更。
棍棒を受け止めた盾を強く押して小鬼の体勢を崩すと、そのまま小剣をその腹に突き入れる。
そして小鬼を蹴り飛ばす反動で剣を引き抜くと、その勢いを生かして残った小鬼の首を剣で叩き折る。切り飛ばせなかったのは、剣の質が悪すぎるからだろう。
「おおおおお!」戦闘を見てアルマが目を輝かせる。
「いいぞ。初めての実戦でそんだけ戦えりゃあ十分だ。」
「ありがとうございます!でも、初めてではないので。」
「戦士としての修業してたんだったな。まあ、あえて言えば、2匹同時ではなく個別に倒した方が良かったかな。魔石の取り方もわかるか?」
「はい!」
道具を持っていないようだったので、アルマが短剣を渡す。以前、タルガットに教えられて揃えたものだ。
シャムスはそれを受け取ると、手際よく小鬼の胸を開き、魔石を取り出していく。なかなかに猟奇的な光景だが、気にしているようでは冒険者はやってられない。
魔石を回収できたので、血まみれになったシャムスの手と短刀にアルマが水筒の水をかけ洗い流し、血の臭いを消しておく。魔石はタルガットに渡した。小鬼の死体は素材を回収できないので放置だ。
「問題はなさそうだな。アルマ、今の覚えたか?」
「はい!」
「一人できるか?」
「で、できます?」
「聞くな。」
「がんばります。」
「まあいいや。よし、ほんじゃあ次はランダ。」
「・・・はい!」
ランダは両手を使って印のようなものをつくり、咒を唱える。
「四海、四地、九星、九天、遍く御座す諸神の御先、祝咒を饗とし御象為せ。雪さん、おねがいします。」
すると、ランダの足元に真っ白な掌大のネズミが現れる。
「小鬼を見つけてくださいな。」
ランダが命じると、ネズミは通路の分かれ目でしばらく鼻をヒクヒクと動かした後で、左の道を進んでいく。
「行きます。」
ランダはそう言ってネズミの後を追い始める。その後ろを、他のメンバーがついていく。
「あのネズミが雪さん?」
「そう。姉さまは神の御先を召喚して使役できるんだ。」
「すごいね!雪さんかわいい!」
アルマの問いに、シャムスが自慢げに答える。姉を褒められてうれしいのだろう。尻尾がぶんぶん揺れている。
しばらく進むと、分岐点の手前でネズミは足を止め、ランダを振り返った。その様子を見てランダがうなずくと、ネズミは再び進みだす。
と、ネズミにつられた小鬼が3匹、分岐点の向こう側から現れた。
ランダは手に持っていた魔石を掲げ、反対の手で印を結びながら咒を唱える。
「祝給えよ。五鎮なる真火、十重の羽羽矢となりて敵を討て。」
するとランダのまわりに火の矢群が現れる。そしてランダの手にある魔石が割れると同時に、小鬼めがけて飛んでいく。ネズミに気を取られていた小鬼たちは、避ける間もなく次々と矢の的となる。
ランダは、矢を受けて焼け焦げた小鬼の下に歩み寄ると、その胸元に手をかざす。
「祝給えよ。元冥より出でし御澄丸、元冥を離れ御象為せ。」
すると、小鬼の体から黒い瘴気のようなものがあふれ出る。そして瘴気はそのままランダの掌の上に集まると、魔石となった。
「ふおおおおお!」
「なんとまあ・・・。」
「姉さま、さすがです!」
ランダは顔を赤くして、タルガットに魔石を渡す。
「斥候役から魔石取りまで、全部一人でできそうだな。魔力はまだいけるのか?」
「は、はい!魔石を使えば、今のを10回くらいは使えます。魔石がなくとも、休み休みであれば問題ありません。」
「たいしたもんだ。だが、とりあえず今のは火力過多だったな。魔物の強さに応じて、最小限の魔力で倒せるように調整することを覚えるといい。最後のトドメは嬢ちゃん、じゃなくてアルマとシャムスに任せてもいいんだからな。」
「は、はい!」
ランダは尻尾を力なく振り、目を伏せる。
「別に怒ってるわけじゃねえぞ。いつ連戦になってもいいように、配分を考えろってだけだ。」
「は、はい!」
「そんじゃあ、次はアルマ。」
「うええ!この二人の後だとハードル高いっす!」
「別にうまくやれって言ってるわけじゃねえ。実力を見るだけだから、気楽にいけ。」
「ひょええええ!」
「あと、迷宮内であんまり大声出すな。魔物寄ってくっからな。」
タルガットの言葉に、アルマは慌てて口を噤んだ。
ちょっと長くなってしまいました。。。
続きます。