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閑話 セーキョー村のナルミナさん

「よおし。全員戻ったな?それじゃあチームごとに素材の買い取りをしてもらったら解散だ!それぞれ、今日の反省点を確認するのを忘れるなよ。何か問題があったパーティは先に俺んところに来い。おら、動け!」


ラスゴーの迷宮。その10階層にあるセーキョー村に野太い冒険者の声が響く。

あたしはその様子を、前村長宅で現在は生協支部の建屋から眺める。

張り上げる声の主は、鉄級冒険者ウムートだ。

ウムートとハサドギ、ウグライの3人は、ジョーガサキからの借金を返済するため迷宮村開拓の要員として駆り出され、村の防護柵建造に携わっていた。

あたしもそん時、セーキョー支部の整備要員としてこの村に来た。


最初はどうなることかと思ったが、意外にもウムートたちはよく働いた。

どうやらジョーガサキがかなり脅したようだ。

そこであの馬鹿どもは労働の喜びに目覚めてしまったらしい。現在は3人そろって生協臨時雇いとなっていた。


主な仕事は変わらず迷宮村の開拓と整備。

だが、倒木は大量にあるとはいえ、それを材木として活用するためにはさまざまな加工が必要となる。

防護柵の建造にある程度の目途が立って以降は、自由になる時間も増えた。

そこで、生協が新たに始めたのが初級冒険者たちの研修。

つまりウムート、ハサドギ、ウグライの3人は現在、指導教官ってわけだ。


あの3馬鹿が指導教官って。笑える。

まあ、研修をやったらどうかって言ったのも、あいつらを教官に推薦したのも、あたしなんだけどさ。


ちなみに村の名前は、いつの間にかセーキョー村っていう呼び方が冒険者たちの間で定着してたらしく、そのままそれが正式名称となった。

ついでに生活協同組合は「生活協同互助会」と名称を改めたらしい。

名称の変更にはなぜかジョーガサキが頑なに抵抗したらしいのだが、組合(ギルド)のなかに組合があるのはおかしいという反論を覆せなかったのだという。


相変わらず、変なところにばかり妙なこだわりを見せるヤツだ。


そんなセーキョー村のあるラスゴー迷宮は現在、ジョーガサキの影響により定時制ってのになっている。

2~10階層であれば、どの階層からでも村にアクセスでき、かつての住人の住居で寝泊まりも可能。

新人の研修にはもってこいの環境といえる。

安全に成長できる環境を冒険者たちが逃すはずはなく、生協のメンバーは増える一方だ。


つまり、あたしは今めちゃくちゃ忙しい。

この村の開拓をはじめてからこっち、町には一度も戻っていない。

けど風呂も食事もある。迷宮の中だってのに昼も夜もある。

あたしは割とここが気に入っていた。もういっそのこと、ここに住んじまってもいいかもしれない。


「ウムート、ハサドギ、ウグライ、ちょっと話があるから食堂に来とくれ。」


あたしは3馬鹿に声をかけ、先に食堂へと足を向ける。

忙しいとは言っても、ここ最近で生協にもだいぶ人員が増え、あたしはまた売店のおばちゃんという役割に専念するための環境が整いつつはあるのだ。


現在、村の守衛に医療係、食堂係、宿舎等の清掃係など、実に15人が常駐している。

そのほとんどは、あたしが冒険者時代に世話になった人たちだ。

若干、職権乱用って気がしなくもないけど、ちゃんとジョーガサキの面接は通してるんだから、まあいいだろう。

それに彼らは、楽をしてるってわけでもない。

全員がそれぞれの役割ごとに膨大なマニュアルってのを渡されて、逐次ジョーガサキの指導を受ける。その指導がいちいち的を得ているから悔しいのだが、ともあれジョーガサキの完璧主義にある程度ついていけないようでは、ここではやっていけないのだ。


特にしごかれていたのは、調理担当のトラムだろう。衛生管理マニュアルに加えて、優に百を超えるレシピを覚えさせられていた。レシピと言ってもほとんどは素材の下ごしらえに関するものだったらしいが。

ジョーガサキ曰く「ラスゴーの食堂はいずれも調理以前の問題」らしく、トラムは来て早々ケンカになりかけていたっけ。


「そんで姐さんよ~、話ってのは?」

「その呼び方やめな。あんたらの姐御になった覚えはないよ。」

「いや、セーキョーでは先輩なんだから姐御でしょうよ。」

「ただの売り子だよあたしは。まあいいさ。実はね、宝箱がでちまったんだよ。10階層で。」

「ああん?」


あたしはウムートたちを食堂の空いてる席に座らせて説明する。

迷宮から宝箱が出るというのは、珍しいことじゃない。冒険者の中には宝箱探しをメインとする奴らもいるし、見つけることができれば、場合によっては一攫千金も夢ではない。


「うまいことやりやがったな。どこのどいつか知らねえけど、あやかりてえもんだぁな。」

「だはは、お前は本当に馬鹿だなハサドギ。そういう話じゃねえぞ。」

「あん?じゃあどういう話か、お前にわかんのかよウグライ。」

「そら、ウムートが知っとるわい。」

「馬鹿、俺に振るなよ馬鹿。」


馬鹿どものくだらないやり取りを聞いて、あたしは聞こえよがしにため息を一つ。


「確かにあやかれるもんならあやかりたいけどね。そんなのはごく一部の幸運なヤツだけさ。それよりも、あわよくばって浮足立つヤツらが問題だって話だよ。」


誰かが大物を仕留めたとき。誰かがお宝を見つけたとき。冒険者なら誰もが「その場にいたのが俺だったら」って思うものだ。

そう思うのは仕方ない。冒険者なんて野心の塊だ。

けど、そう思うのと、自分の実力を(かえり)みず無茶をするのとは話が別だ。


「なるほど、俺たちが面倒見てるひよっこ共が変な気ぃ起こさねえように、目ぇつけとけってことっすよね?」

「そんならアブねえのはヤシュルだろうさ。あのはねっ返りは変な自信だけ一人前だからぁな。」

「それなら、ソンジュもアブないわ。いっつも金がねえって言うとるからな。」

「カイサもだよ。あいつは野心が強いうえに周りを扇動するのがうめえ。」


自分が指導する研修生のうち、特に注意すべき冒険者を挙げ始めるウムートたち。

その様子を見て、あたしはつい思ったことを口走る。


「なんだいあんたら、意外にちゃんと教え子のこと見てるじゃないか。見直したよ。」

「そ、そんなんじゃねえよ姉御。」

「問題児だったヤツらってのは、おんなじような問題起こしそうなヤツには鼻が利くってだけだぁな。」

「だはは。ウムートとハサドギは確かに小狡いヤツを見抜くのはうまい。」

「そういうお前は無駄飯喰らいのヤツと仲良くなるのが異常にうまいけどな、ウグライ。」

「ちげえねえ。」


またしても馬鹿話に脱線するウムートたちを見て、ほめるんじゃなかったと思ったけどもう遅い。

いずれにしても、この様子なら問題はないだろう。


「とにかく、数日間は気ぃ引き締めておくれよ。今はジョーガサキもルスラナもオーゼイユに出張らしいから。こんな時期に問題起こしたら、後で何言われるかわかんないよ。」

「うへ。そりゃそうだ。」


とりあえず伝えることを伝え終わったところで席を立つ。

まあ、こいつらもちょっとずつ変わってる様子だし、問題ないだろう。

こいつらが言う通り、問題児は問題児を見抜くってのも説得力があるように思えた。

むしろ、そう思ったからこそ、こいつらを教官に推薦したんだけど。


あたしはやっぱり甘かったと気づかされたのは2日後のことだった。


その日、あたしは研修生たちがコソコソと村の広場で相談しているところを見た。

ああいうのは大体なにかマズイことが起きている証拠だ。

あたしは元冒険者の勘にしたがって、その小僧どもに声をかけた。


それは、ウムートたちが要注意人物として挙げていた初級冒険者たちだった。

なぜか委縮しきっている彼らを(なだ)めて話を聞いたところ、どうやらこの小僧どもは12階層に宝箱があるらしいという噂を聞いて、こっそりと迷宮村を抜け出そうとしたらしい。

ところが、それを3馬鹿によって阻止された。


「そんときについカッとなって・・・ウムートさんたちに『実力がないから、俺たちに先を越されるのが悔しいんだろ』って言っちゃって・・・」

「それを言われた3馬鹿は、『そんなら宝箱を見つけて実力を示してやる』って言いだしたわけかい?」

「・・・はい。」


どうやらしょうもない売り言葉に買い言葉で、3馬鹿は12階層に向かったらしい。

あんな馬鹿でも鉄級の冒険者。迷宮には何度も潜っている。だが、12階層はまずい。

あまり攻略に積極的でなかった3馬鹿はそんな階層まで行ったことはないはず。そしてあの階層は、彼らだけでは絶対に勝てない魔物がいるのだ。


「話はわかった。あたしが様子見に行ってくるから、あんたらはここで大人しくしとくんだよ。」

「え?ナ、ナルミナさんが?一人で?」

「む、無茶ですよ!」

「あんたら、あたしを誰だと思ってんだい?これでも銀級まであと一歩ってところまで行った、元冒険者だよ?」


あたしはすぐに自分の荷物を取りに行く。

もしものために、冒険者時代の装備を残しておいて良かった。

装備を身に着け、愛用の長剣の握り具合を確かめる。基本的な鍛錬だけは今でも続けているし、この剣の手入れも欠かしてはいない。

そのまま村の出口に向かう。そこには、ジョーガサキが残してくれた牛が数頭放し飼いになっている。

あたしはそのうちの1頭に話しかける。


「すまないけど、ちょっと12階層まで連れて行っておくれ。」


ジョーガサキの飼育する牛はどういうわけだか異常に賢い。人の話を理解するだけでなく、聞くべき人間をわかっているらしく、聞くに値しない人間と判断されたらまったく言う事を聞いてはくれない。


どうやらあたしは聞くべき人間側に入れてもらえてるようだった。

素晴らしい速度で駆ける牛に必死にしがみつく。以前に足を怪我して以来、長距離の移動は負担が大きすぎる。


セーキョー村のある10階層を抜け、11階層も余計な戦闘はせずに一気に駆け抜ける。

広大な迷宮も牛の足ならあっという間だ。


そして12階層。

入ったところですぐに3馬鹿を見つけた。

案の定、戦っているのは木鬼と呼ばれる、木に張り付いて擬態する魔物だ。こいつらは木の根のような触腕をムチのようにふるって攻撃してくる。

その攻撃も厄介だが、問題なのは、こいつらには物理攻撃が効きにくいってことだ。

つまり魔法で倒すのが定石。だが3馬鹿は馬鹿だから、物理特化の前衛しかいない。相性が最悪なのだ。


あたしは牛の首を叩いて一気に木鬼に近づきながら、長剣を抜き、そこに魔力を込める。


魔法剣。


別にあたしだけが使えるってわけじゃないが、それなりに使い手が少ない技だ。

なぜかこの魔法剣に適性があったおかげで、あたしはこれまで冒険者としてやってこれた。

得意技にありったけの魔力を込めて、牛から飛び降りざまに全力の一撃を木鬼にお見舞いする。


「おらあああ!」


渾身の一撃はキレイに木鬼の命に届いた。久しぶりの戦闘。やっぱり血が(たぎ)る。

それを見た3馬鹿は、ふしゅうと音を立てるように緊張を解き、その場にくずおれる。


「あんたら、無事かい!」

「あ、姐御・・・めちゃくちゃ強え・・・」

「俺たちがあんなにてこずった相手を一発とか・・・」

「だはは・・・死ぬかと思ったわ。」

「馬鹿野郎!小僧どもの挑発にまんまと乗って、指導する側のあんたらが無茶してどうすんだい!」

「い、いや・・・あいつらの挑発に乗ったわけじゃねえんだけどよ・・・。」


その後。11階層へと戻って話を聞いた。

3馬鹿はなんだか泣きそうな顔でごちゃごちゃと言い訳らしいことを言っていたが、どうやらこいつらは、才能豊かな若い冒険者たちの指導をしているうちに焦ったってことらしい。

いずれ3馬鹿の指導する冒険者たちも鉄級にはあがってくる。そもそも鉄級には、実績を積み重ねれば誰でも上がれるのだ。

そこから頑張って鍛錬と実績を積めば、なんとか黒鉄級はあがれる。さらに先の銀級からは選ばれた冒険者だけの領域と言われる。


「つまり?自分らの教え子に抜かれるのが嫌だから、黒鉄級にあがる実績が欲しかったってことかい?」

「はい・・・。」

「だはは・・・あいつらを指導するうちに、今まで自分たちがいかに考えなしだったかも分かっちゃいたんですが・・・」

「けど、今までのやり方を否定するのも癪だぁな。今の自分らでどこまで通用するのか、知っておきたくってよ・・・。」

「だからって考えなしに突っ込む馬鹿がどこにいるんだい。」

「すんません・・・。」


要するに。

こいつらも、こいつらなりに変わろうとはしてるってことだ。

まあ馬鹿だからやり方はアレだけど。


「だったら、今までのやり方でも通用する、あんたらだけのやり方を見つけりゃいいじゃないか。」

「それができれば苦労しねえよ~。」

「できるだろ。あたしが特訓してやるよ。魔法剣のさ。」

「ま、まじかい姐さん!魔法剣てえのは、さっきのあれか?」

「おおお、あれが使えるようになったら確かに幅は広がるわい!」

「ああ、防護柵づくりに小僧どもの指導、さらに特訓だ。寝る時間もないほどしごいてやるから、覚悟しときなよ?」

「・・・え?」


これからのことを考えて顔を引きつらせる3馬鹿を見て、あたしは笑った。

あのジョーガサキの、悪魔のような笑顔を頭に思い浮かべながら。


お読みいただきありがとうございます!

4章の間に、ラスゴーではこんなことが起きてましたっていう。


主役級が出てない話なので、そんな奴ら覚えてねえよってなったらごめんなさいw

でも面白かったら、ブックマーク&評価いただけると嬉しいです!


※改行におかしいところがあったので修正しました。

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