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断章 みにくい、きつねの子

ほんのひとむかしほど前のこと。

あるところに、きつねの村がありました。

村はとても平和で、みんな、なかよく暮らしておりました。


その村に、ひとりの男の子がおりました。

気持ちのやさしい男の子。でも、村のともだちは、そんな彼をバカにします。

気がつけば、男の子はひとりで遊ぶようになっていました。


ある日のこと、ひとりの女の子が、男の子に声をかけてきました。


「いっしょに強くなろう。」


それから男の子は、毎日、女の子と一緒に剣の稽古をしました。

女の子はとても強くて、男の子はいつも泣かされていました。

でも女の子は、決して男の子のことをバカにしたりしません。

気がつけば男の子は、女の子のことが大好きになっていました。


ある日、男の子は女の子にたずねました。


「どうして、そんなに強くなりたいの?」


女の子は答えました。


「私には、何のとりえもないんだもの。せめて、強くならなくっちゃ。」

「強くなくても、いいところはたくさんあるのに。」


男の子は言いましたが、女の子は、そんなことはないと言い張ります。

男の子は、女の子のいいところを毎日ひとつずつ伝えることにしました。

でも、すべてを伝えることはできませんでした。


村のきつねを狙う魔物の群れがあらわれたからです。

それは、おそろしいオオカミの群れでした。


きつねたちは、ゆうかんに戦いましたが、ついに村は滅ぼされてしまいました。

男の子も、おとうさんと、おかあさんと、いっしょに逃げました。


逃げて。逃げて。逃げて。


気が付けば、きつねたちはおおかみの村についていました。

おおかみたちはとてもやさしくて、きつねの家族をあたたかく迎えてくれました。


オオカミから逃げて、おおかみに助けられるなんて、なんて皮肉!


きつねのおとうさんとおかあさんはとても感謝して、みんなが嫌がる仕事もすすんでやりました。


でも、きつねの男の子は、またひとりぼっち。

おおかみの子どもたちは、一緒にあそんでくれるけど。

おおかみのおとなたちは、やさしくしてくれるけど。


どこまでいっても僕はにせもの。

ほんとうのおおかみには、なれはしない。


気がつけば男の子は、だれよりも剣の稽古に打ち込むようになっていました。

僕がもっと強くなったら、ほんとうのともだちができるかもしれない。

僕がもっと強くなったら、誰からも心配されなくなるかもしれない。

僕がもっと強くなったら、誰かから必要としてもらえるかもしれない。


男の子は、いつかきつねの女の子が言ったことばの意味が、ようやく少しわかったような気がしました。

そして、いっしょうけんめいに剣を振っているうちに、いつしか男の子は、ほんとうの自分がどんなかたちをしていたのか、わからなくなってしまったのです。


それから、何年もの時が流れて。

男の子は少年になりました。


ある日、おおかみの村に大事件が起こります。

村のかみさまが、誰かに連れ去られてしまったのです。

村の人々は相談して、かみさまを探しに行くことに決めました。

きつねの親子も、危険なかみさま探しに参加することにしました。

そして、かみさまを探して、とおくの山まででかけたところで、少年はひとりの少女と出会います。


それは、もう二度と会えないと思っていた、あのときのきつねの女の子でした。


男の子はもう、びっくりしてしまいました。

だけど、どう声をかけていいのかわかりません。


なぜなら少女は、以前よりももっと強く、そして、美しくなっていたからです。


少年は、なぜだかとても、恥ずかしくなってしまいました。

自分はあの子ほど、強くなれただろうか。

自分はあの子ほど、まわりに必要とされる人間になれただろうか。

いろんな気持ちがぐるぐるして、どうにもならないのです。


そんな、ぐるぐるした気持ちはずっと少年の心に残って。

そして、大変な事故を呼び寄せてしまいました。


それは、少女たちとともに戦っていたときのこと。

少女は少年に、勝負をもちかけてきました。

少年はどうしても勝ちたいと思いました。けれど、その思いが強すぎて。

あせってしまったことで、おとうさんがひどいけがをしてしまったのです。

それだけではありません。

少年をかばった少女までが、危険にさらされてしまいました。


けれど、少女はすこしもこわがったりはしていませんでした。

それどころか、村の巫女さましか使えないはずの、炎の魔法まで使って見せたのです。


それから先は、もう勝負にもなりませんでした。

少女はとても強くて。ほかの人たちとの息もぴったりで。


ああ、あの子は自分の居場所を見つけたんだ。ありたいと願った自分の道を見つけることができたんだ。


結局、最後に勝ったのは少女でした。少年はとても悔しいと思いましたが、なぜだかとても、すがすがしい気分でもありました。

最後の最後。ふたりで一緒に戦った時、とても深いところで少女と分かり合えたような気がしたからです。


「私の勝ちっすね!」


嬉しそうに笑う少女に、少年は言いました。


「俺はもしかしたら、あの頃の君になりたいと思っていたのかもしれない。でも、君は変わった。君は強いね。」


その言葉を聞いた少女は、とてもびっくりした顔をして言いました。


「わたしはずっと、君の方が強いと思っていたけれど。変われたのは、君のおかげでもあるんすよ。」


少年はそこでようやく気づいたのです。

僕はひとりぼっちじゃなかった。これまでもずっと。これからもずっと。

たとえこれから、二度と会えなかったとしても。


そして、少年と少女は、互いの手を取り、こころの底から笑いあったのです。


お読みいただきありがとうございます!

ブックマーク&評価くださった皆様、ほんとうにありがとうございます!

引き続きがんばってまいります。


ただ、ちょっと本格的に仕事との兼ね合いが難しくなってきてしまいました。

1話の文字数を減らして毎日更新を続けようかとも思いましたが、かえって冗長になるかと思い、やめました。

今後は、2日に1回くらいのペースで進めていきたいと思っております。

その分、より面白いお話を書けたらと考えておりますので、引き続きよろしくお願いいたします。

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