4-21 激闘②
ラカルゥシェカ率いる金級冒険者パーティ「熒惑の破者」は、住居が立ち並ぶ入り組んだ路地で、ジエイエンと呼ばれる巨大な蜘蛛の魔物と対峙していた。
大人の倍ほどもある巨体の割に素早く、また甲殻が固いため半端な攻撃では傷をつけられない。
さらに糸を巧みに操る立体的な挙動と毒による攻撃が厄介だ。
「慌てるナ!まず、足からだナ!」
肉厚の刀身が際立つ鉈剣を軽々と振り回し指示を出すラカルゥシェカ。その両脇を、素早く3人の人影が通り過ぎる。
斧槍使いの虎人族セグロ、戦槌使いの熊人族ロゥカシュナ、曲剣使いの猫人族コナナ。
さらにラカルゥシェカの横では、「熒惑の破者」唯一の人族であるトゥラル・エンデが魔法による支援を行う。
獣人特有の機動力と破壊力。それがこの「熒惑の破者」の特長だ。
最初こそ、ジエイエンの変則的な動きにとまどっていた獣人たちは、徐々にその動きに慣れるとともに、魔物を追いつめていく。
時には互いの武器すら踏み台にして迫る獣人たちに、ジエイエンは鎌のような前足と毒液で対抗する。
「毒をまき散らされると後が厄介だナ。一気に決めるナ!」
いかに固い甲殻を持とうとも、金級冒険者のなかでも特に高い攻撃力を誇る「熒惑の破者」には通じない。
周囲に張り巡らされた糸を断ち切られ、歩脚を左右ともに1本ずつ失うと、その機動力を大きく削がれてしまう。
そこへロゥカシュナの戦槌が後腹部を打ち据えて、出糸管を破壊。さらにラカルゥシェカが後ろの歩脚を鉈剣で破壊すると、最後は頭胸部に飛び乗ったセグロが甲殻ごと核を破壊した。
巨大蜘蛛がその体躯を地面に投げ出し、身動きもしなくなったのを見て、遠巻きに様子を伺っていた市民が歓声を上げる。
その時、市民の背後に高貴さを感じさせる真白な毛と黄金に輝く巨大な4本の角を持つ獣が現れる。
近寄りがたい風格を漂わせる立派な体格。
その背には一人の少女を乗せ、そして背後には、まったく同じ毛並みを持つ仔鹿が付き従っていた。
それに気づいた市民たちが慄いたようにその進路を空ける。
神鹿の親子は、すでに息絶えた魔蜘蛛ジエイエンの元へ悠々とした足取りで進む。周囲にまき散らされた毒液もその歩みを止める障害とはならないようだ。
そして、ジエイエンの前に立つと、その真白な毛をさらに眩く輝かせる。
すると、見るからに毒々しい色で染まっていた周囲の毒液が、みるみる無色になっていく。
「浄化だ・・・浄化してくださっている!」
誰かが叫ぶ。
その声に応えるかのように、神鹿の背に乗っていた少女が手に持つ槍を高く掲げる。
市民たちの頭の中に直接、神鹿と思われる声が響く。
『我は夫諸。水を司る怪異なり。人間よ。天の意に背き、混乱と厄災を呼び寄せんとする悪逆の徒を我が前に差し出せ。さもなくば、この国を大いなる水禍が襲うだろう。その者の名は、ベリト・ストリゴイ。』
そして親鹿は、細く、長く、大きく鳴き声を上げ。
来た時とは異なり、軽やかな身のこなしでその場を去っていく。
唖然として、その後ろ姿を見送る市民に、ラカルゥシェカが声を掛ける。
「大蜘蛛は討ち取った!周囲の毒も神獣さまが浄化してくれた!力のある者は、魔物の死骸を運ぶのを手伝って欲しいナ!」
一方その頃。
バリ・ウテムラト率いる金級冒険者パーティ「三ツ足の金烏」は、町の中心にほど近い広場で、ケルプという半馬半魚の魔物と対峙していた。
剣使いのバリ、同じく剣使いのウブライ・エルラ、弓使いのエルフ族ソイリ・アンニッキ、支援役のアバイ・クナン。普段はそこに縄使いの狼人族シャヒダが加わる。
「熒惑の破者」ほどの破壊力はないが、全員が複数の武器を操る実力者集団だ。
対するケルプは、半馬半魚の魔物というだけあって水の魔法を得意とするようだ。動きも速く、次々に撃ちだされる水弾と縦横無尽に走り回る魔物に、バリたちは攻め手を欠いていた。
そこにダリガとエリシュカが応援に駆け付ける。
「何をたらたらやってんだ!とっとと倒さねえか!」
「んなこと言ったって、こうも動き回られちゃ的が絞れねえんだよ!」
ダリガの罵倒にバリが答える。ダリガは即座に指示を出す。かつては自分がリーダーを務めたパーティ。現在はバリにその座を譲ってはいるが、つい昔の癖がでてしまう。
「前衛はバラけて足を止めたところを狙え!エリシュカ、ソイリは弓で牽制。自由に走らせるな!アバイは支援を切らすなよ!」
三方に散らばったバリとウブライ、ダリガが包囲網を張る。さらにエリシュカとソイリが弓でケルプの動きを制限し、徐々にその包囲を狭めていく。
休むこともできなくなったケルプは徐々に魔力と体力を奪われ、被弾により急速に速力を落としていく。
ついに追い詰められたケルプは、突然全身を光らせ始める。
「魔法が来るわよ!」エリシュカが叫ぶ。
「水弾なんぞ構うな!バリつっこめ!一気に決めろ!」
ダリガが走り出しながらバリに指示を出す。バリは一瞬驚いた顔をしたものの、左手の盾を前に構え、走り出す。
無数の水弾がバリを襲うが、バリは体の中心に飛んでくるものだけを器用に盾で受け流し、ケルプへと迫る。
そして、あと十数歩で届くというところで、突然バリの背後からダリガが飛び出す。
ちゃっかりバリを盾にして、その背後からケルプへと迫っていたのだ。
「おらああ!双刃嵐牙!」
「キュィイイィイィ!!!」
その攻撃が止めとなり、ケルプはその身を地面に横たえた。
「はっはっは。見たかバリ。お前もまだまだだな。」
「はぁ・・・くっそ、相変わらず人使いの荒い奴だぜ。」
「ふふん。今じゃ冒険者ギルドの幹部さまだからな。人くらい使うさ。」
全身を水で濡らし、手足にいくつかの打撲を負ったバリにダリガが笑って答える。
「魔物は討ち取ったぞ!ここはもう安全だ!」
ダリガの叫びに、建物の影から様子を伺っていた市民たちの歓声が上がる。
すると、そこに現れる神鹿の親子。
『我は夫諸。水を司る怪異なり。人間よ。天の意に背き、混乱と厄災を呼び寄せんとする悪逆の徒を我が前に差し出せ。さもなくば、この国を大いなる水禍が襲うだろう。その者の名は、ベリト・ストリゴイ。』
こうして、町のあちこちに突如として現れた魔物は、ことごとく冒険者たちによって駆逐されていった。
そのいくつかの場所では、神鹿の親子と、謎の少女が目撃されたという。
時には魔物の駆逐に手を貸し、時には奇跡の力を見せ、神鹿と少女は去っていく。
ひとつのメッセージを残して。
ベリト・ストリゴイを差し出せ、と。
だが、町に放たれた魔物のすべてが駆逐されたわけではない。
町の中心部からやや離れた港湾地区。
その一帯には一際大きな異様な魔物が放たれていた。
人型の巨人。
だがその頭部はまるで髪をはやしたカエルの様で、全身がぬらぬらと緑色に湿っている。
さらにその体の至る所に苔が生えており、その苔が悪臭を放つ。
北方でヴォジャノイと呼ばれる魔物だ。
その魔物に対峙するのは、アルマをのぞいた「銀湾の玉兎」の面々。
初めて見る異形に身をすくめるファルハードたち。
だが、シャムスは気負うこともなく、その前に立ち。
担いだ斧を数度、肩の上で弾ませた後、振り返ってテスカに言う。
「そんじゃ、どっちが止めを刺すか、勝負するっすか?」
お読みいただきありがとうございます!
そして、ブックマーク&評価、本当にありがとうございます。
じわじわと少しずつ増えていくのが、なんか本当に我が子の成長を見ているようで。。。
引き続き、大切に育ててまいります。
※最後のブロック、文章がおかしかったところを修正いたしました。ごめんなさい!