4-20 激闘①
オーガの行動を先読みし、シャヒダが巧みに縄を使って狙いを反らす。
タルガットがオーガの至近距離に身をさらし、的を絞らせるとともに、攻撃をいなしながら反撃を行う。
手打ちにならざるを得ない攻撃ではオーガの強靭な皮膚を切り裂くことはできないが、合間をぬってエリシュカとダリガが傷を負わせていく。
周辺にいる守護隊は、オーガの圧力に押され、そしてタルガットたちの連携についていけず、遠巻きに見ているだけだ。
だが。
『うははは。馬鹿娘、新技のお披露目だぞ!』
「おうともさ!ぴかぴかどんどん、ぴかぴか!」
『しゃきーん!』
瞬間、槍マルテの全体が光に包まれる。
「タルガットさん、下がって!」
アルマの全力の振り下ろしが、オーガの胸元を深く抉る。
「グゴァアアア!!」
「ぴかぴかどんどん、ぴかぴか!」
『ばーん!』
痛みに怒り狂ったオーガが手に持つ棍棒でアルマを横なぎに打ち据える。だが同時にマルテの刃先付近に現れた輝く盾がその軌道を反らす。
低く身を下げて棍棒を受け流したアルマは、大きく飛び退きながらさらに呪文を唱える。
「ぴかぴかどんどん、ぴかぴか!」
『どーん!』
マルテの刃先から撃ちだされた光の刃が、今度はオーガの太ももを切り裂く。アルマとマルテの連携による光の魔法は、オーガにも効くようだ。
「おいおい、なんだそりゃ!」
「にゃっははは。旅の途中で完成したアルマの新技だにゃ。」
「うふふふ、相変わらずメチャクチャね~。」
「なんでもいい!タルガットとシャヒダはそのまま!アルマは最後の飛ぶ奴だけでいい、あたしに合わせろ!」
「はい!」
ダリガが即座にアルマを連携に組み入れて指示を飛ばす。エリシュカは攻撃をダリガとアルマに任せて、魔法による妨害に切り替える。
この辺りの対応力は、さすがに豊富な経験を持つ上級冒険者達ならではと言えよう。
たちまちにして連携は安定感を増し、着実にオーガに与える傷は増えていく。
「どうどうと唸れ土の蛇。その根源たる力は憐。我が憐憫の写し身よ、堅牢なる枷となれ。」
「影葬縛!」
「いいぞ、今だ!」
「アルマ続け!双刃嵐牙!」
「ぴかぴかどんどん、ぴかぴか!」
『どーん!』
エリシュカとシャヒダがオーガの動きを止め、ダリガが大きく切り裂いた胸元を狙ってアルマとマルテの合唱魔法が飛ぶ。
だが、それでもオーガの強靭な肉体を破壊することはできない。
「グォオオオ!!」
「どへえ!こっちきた!」
『盾だアルマ!』
「ぴかぴかどんどん、ぴかぴか」
『ばーん!』
拘束を振り払い、オーガが棍棒を大振りする。アルマは光の盾でそれを防ぐが今度はいなしきれない。咄嗟にアルマは反対側に飛ぶことで衝撃を逃がす。
「ふざけた呪文で笑わせんな!」すかさずオーガの前に立ち進路を塞いだタルガットが叫ぶ。
「私だって困ってるんです!もうこれでイメージが固まっちゃったんですー!」
『ぶははは、牛頭にはこれくらい簡単なのでいいんだよ!』
激しく吹き飛ばされた割にケロリとした声で応えるアルマ。
「アルマ、集中力乱れるから声量下げて~。」
「力が抜けて縄がほどけるにゃ!」
「味方がどこにもいない!」
『ぶはははは、気にするな!』
「うるせえぞお前ら!いいからもう一回だ。確実に足からいくぞ!」
気の抜けた会話を続けるアルマ達をダリガが一括する。
再び同様の連携でまず右太ももを。さらに次の攻撃で左足首を負傷させると、オーガはたまらずに片膝をつく。
「よおし、とどめだ!アルマ、全魔力をぶち込めよ!」
「はい!」
機動力を封じられたオーガは、闇雲に棍棒を振り回し始める。だが、タルガットはオーガの背後に回っており、すでに棍棒の届くところにはいない。
「おらあああ!」
シャヒダが縄でオーガの体勢を崩す。すかさずタルガットが背後からその首元を切りつける。
再び弓での攻撃に切り替えたエリシュカが、振り向こうとしたオーガの眼球を矢で射ぬく。
「グガァアアア!!」
「双刃嵐牙!」
ダリガが、最前オーガに与えた胸の傷口を寸分の狂いもなく再度切り裂き、即座に離れる。
深く抉られた傷口から、魔物の心臓ともいうべき魔核が現れる。
「アルマ、いけ!」
「ぴかぴかどんどん、ぴかぴか!」
『どどーん!』
今のアルマが放てる最大限の威力で飛び出した光の刃が、オーガの核を破壊する。
「グォ・・・オオオ・・・」
そして、オーガはゆっくりと崩れ落ちる。
「ふおおお!やった、やった!」
『ぶはははは!見たかこの野郎!』
「ピャ!ピアアアア!」
「わわ!モアちゃん!見たいまの?すごくない?」
「ピャ!ピャ!」
アルマの元に駆け寄った仔鹿モアがアルマの顔をなめまわす。
どうやらモアも、オーガを倒したことを褒めてくれているようだ。
「金級の冒険者でも手こずると言われるオーガを・・・わずか5人で。」
「それも上位種だぞ・・・全員、とんでもねえ手練れだったぞ・・・。」
「それにあの嬢ちゃんの魔法。なんだありゃ・・・あんなの見たことねえぞ。」
戦闘などなかったかのように仔鹿と戯れ、不思議な踊りで喜びを表現する少女。
なす術もなく、ただ見ていることしかできなかった守衛たちは、今自分が見ているものが信じられないとでも言うように、唖然とした表情で立ち尽くす。
「アルマ、お前いいかげんにしろよ。なんだその鹿は。」
「ピャ!ピアアア!」
「うふふふ。ほんと飽きないわ、アルマ~。」
「にゃははは。まあとりあえず、アルマは放置でいいにゃ。」
「が、がんばってるのにこの態度!それよりエリシュカさん、どうでしたか?エルフ魔法、使えるようになったんですよ!」
「だからうるせえぞ、お前ら。まだ作戦は途中なんだから力の抜ける会話はやめろ。シャヒダ、どうだ、追えるか?」
「もちろん!衆人環視の競売会場より、全然得意だにゃ。」
「シャヒダさん・・・やっぱり、苦手だったんですね・・・。」
「当たり前だにゃ!あんなの二度とごめんだにゃ!」
極度の人見知りであるシャヒダが叫ぶ。
ダリガはもう、いちいち相手にしてられないとばかりに話を進める。
「よし、じゃあ予定通り、シャヒダはベリト追跡、タルガットは『銀湾の玉兎』、エリシュカはあたしと一緒に『三ツ足の金烏』のところで、それぞれサポートだ。アルマ、ひとりでやれるな?」
「はい!」
「ピャ!!」
「・・・神鹿さまもついてるんだもんな。よし、じゃあ行動開始!」
「あ、ごめん、ちょっとまって~。」
エリシュカがアルマを呼び止め、耳元で囁く。
「アルマ~。さっきのあれ、エルフ魔法じゃないからね~。」
「ええええ!そうなんですか!」
「当たり前でしょ~。あんなメチャクチャなのをエルフ魔法にされちゃったら、全エルフが怒りでアルマを滅ぼすレベルよ~。」
「そ、そんなに・・・。じゃあ、あれは一体・・・」
ようやく覚えたと思っていた魔法がエルフ魔法ではないと知らされて、アルマは激しく動揺する。
そんなアルマに、エリシュカはニヤリと笑って。
「決まってるでしょ、そんなの。あれは~、『勇者の魔法』よ~。」
「はえ!!」
そしてアルマ達は、それぞれに行動を開始する。
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今日はちょっと短めですが、キリの良いところで!
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※タイトルの表記を修正しました。