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4-18 神鹿

ベリト・ストリゴイは、どうするべきか迷っていた。

ジョーガサキが指摘した通り、彼の【未来視】はとても使い勝手の悪いスキルで、未来のあらゆる事象を見通せるというものではない。


まず、対象となる者や場所を視野に入れておく必要がある。

そこでスキルを使えば、その対象の「未来」が見える。

スキルを使う際の魔力の量に応じて、より遠い未来が見える。


だが、たとえば1日後の未来を見るのに50の魔力が必要だとして、さらに50を足せば2日後の未来、とはならない。

2日後の未来を見るためには、改めて100の魔力を用いてスキルを発動し直す必要があるのだ。


ある人物の未来をつぶさに把握するためには、それこそ無尽蔵の魔力が必要となる。

ゆえにそれはできない。


つまりベリトは、わずか先の未来を見て、安心してしまったのだ。

ジョーガサキの未来に関しては、彼自身が推理して見せたように「1000万コルンで神鹿を競り落とす未来」しか見ていない。


それがどうやら間違いだったというのであれば、今ここでジョーガサキが起こそうとする未来を確認しておくべきかもしれない。

だが、ベリトにはこの先、自分が危険に晒されるのではないかという確信に似た予感があった。

だとすれば、今ここで魔力を消費するのは下策だ。


ベリトの逡巡に関わらず、現在は進んでいく。

ジョーガサキはすでに壇上に上がって、進行役と何やら話をしている。

彼の横には小柄な護衛の冒険者が2人。

護衛は2人まで同行することができるが、さきほどまでは近くにいなかった。

それも【未来視】への対策なのかもしれない。


ジョーガサキが大きな袋を係の者に手渡す。1000万コルンとなれば、勘定も大変だ。

一方で護衛役の冒険者は神鹿に近づき、背中に抱えた大きな袋を神鹿の口元に運ぶ。


袋の中を覗き込んだ神鹿が突然激しく震えだす。

その様子を見た、冒険者が神鹿を恐れるように後ずさりし、叫ぶ。


「し、神獣さまだ!この鹿さまは、神獣さまだぞー!」


あからさまに棒読みで叫ぶ冒険者の顔をベリトは見た。アルマ・フォノンだ。

ベリトはここに至って、ジョーガサキの目論見の一端を知る。だがもはや遅い。

鎖につながれた神鹿は全身の毛を清浄な光で煌めかせる。

金色に輝く4本の角もまた、まばゆいばかりに輝いている。

その神々しさは、誰の目から見ても神獣と言わしめる威厳にあふれていた。

同時に、会場全体におどろおどろしい声が響く。


『我は夫諸。水を司る怪異なり。人間よ。我を捕縛せし不遜なる悪逆の徒を我が前に差し出せ。さもなくば、この国に大いなる水禍を呼び寄せん。その者の名は、ベリト・ストリゴイ。』


突然の名指しを受け、会場中の視線が一斉にベリトに集まる。

これがジョーガサキの狙いか。神鹿がなぜあのように輝いているのかはわからないが、無理矢理に自分を巻き込むためにこのような仕掛けを施したのだろう。

ベリトは即座にどうするべきかを計算する。


「はっはっは。これは驚いた。一体なんの演出ですかな、これは。」


あくまで平静を装い、壇上に近づくベリト。

歩きながら、アルマ・フォノンを観察する。わかった。彼女の抱える大袋の中身は神鹿の子どもか。仔鹿の持つ神性が、親鹿の神性を一時的に呼び起こしたのだろう。


だが、あの声はまずい。

神獣のすべてが人語を解するわけではない。だが、人語を解する魔獣はすべからく神獣と見なされるのだから。なんとかして、あの声の正体を突き止めなければ。


「いやあ、驚きましたよ。魔獣商の私への・・・何かの教訓でしょうか?さて、それで、ここからどうなるのです?」


舞台に上がったベリトはジョーガサキに向き直る。

ジョーガサキはすでにいつもの機嫌悪そうな顔に戻っていた。

ベリトは周囲には聞こえない音量でジョーガサキに言う。


「まいったね。驚いたよ。」

「私からのプレゼントはいかがでしたか?」

「ああ。最高だよ。お礼に私も、一つお教えしよう。神獣を捕縛する方法を。」

「伺いましょう。」

「簡単さ。神獣の多くは、魔力を糧にする。だから、魔力を与えてやるだけさ。彼らにとっての毒を混ぜてね。」

「なるほど。」

「?わかっているのかな。私が再び魔力を与えれば、この神鹿は再び神性を失う。証拠はすべて消え失せるんだよ。こんな風にね!」


ベリトがその手を神鹿に向け、己の魔力を送り込む。

途端に苦しみだす神鹿。だが、数瞬ののち、ベリトの魔力は弾かれてしまう。


「なっ・・・!」


驚くベリトに、ジョーガサキが言う。


「私からもひとつお教えします。そこにいるアルマ・フォノンさんは、勇者の卵という称号をもっているのですよ。」

「な、なんだと!」

「勇者の持つ魔力は、聖気を帯び邪を祓う。つまり、神獣にとって毒となるあなたの魔力は、アルマ・フォノンさんの魔力によって無害化されているのです。」

「ふえ!」

「そんな・・・」


ジョーガサキの言葉に誰よりも驚いたのはアルマだった。だがジョーガサキはアルマには目もくれず、さらに言葉を紡ぐ。


「そして、気づいていますか?あなたはたった今、神獣に対して害をなそうとした。衆人環視の前で。」

「・・・・・。」

「みなさん!ご覧になりましたか?ベリト・ストリゴイは事もあろうに神獣を傷つけようとした!」

『この(とが)、許すまじ。今ここで審判をくだそう!』


ジョーガサキの声に応え、再び響く神獣の声。実はそれはマルテによるものなのだが、アルマ達以外に知る者はいない。

バラバラと守衛が音をたてて現れ、ベリトに剣を向ける。


「この者をひっ捕らえろー!」


アルマの呼びかけに応え、もう一人の護衛がベリトに切りかかる。手練れだ。

実はそれはシャヒダであるのだが、ベリトには面識がないのでわからない。

咄嗟にシャヒダの攻撃を躱したベリトは、それでも不遜な笑顔を浮かべる。


「ははははは。まさかこんなことが起きるとはね。実に面白い。しかしながら、ここで終わる私ではないよ?」


ベリトは即座に採ったのは逃げの一手だった。

それを予想していたシャヒダが再びベリトに襲い掛かる。

だがベリトは守衛を盾にしてそれを躱し、一気に会場を駆け抜け出口に至る。


「さて。ジョーガサキくんと言ったかな?ではここからは、互いの死力を振り絞った知恵比べといこうじゃないか!」


そしてベリトは会場を後にする。

一方のジョーガサキは・・・預けた金貨を回収していた。

そして事も無げに言う。


「では皆さん、次の作戦に移行しますよ。」


お読みいただきありがとうございます!

さあ、ここから一気にクライマックスです!


とはいえ、週末は書き溜めをさせていただく予定なのですが。。。。

ブックマーク&評価いただけると、きっと途轍もなく面白い結末がまっています!

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