4-16 再びオーゼイユの町へ
オーゼイユで、競売会に合わせて開かれる臨時の露店市。
商品は食品、衣料、武器、魔道具とあらゆるものにわたり、規模は通常の市場街区を大きく越え、商店街、さらには中央広場にまで至る。
本来それは、競売会のために訪れる商人や貴族に向けた見本市としての役割を持っていたという。
その機能は今も残されてはいるが、現在では一般の市民や冒険者が集う、お祭りとしての側面が大きくなっていた。
「わあああ!すごいすごい、すごい活気だよ!」
「ああ!すごいな!なんていうか、すごいぜ!」
「ピャ!ピャ!」
「二人とも、田舎者丸出しっすよ。」
「何言ってるのシャムスちゃん!こういうのはね、楽しんだ方がより楽しいんだよ!」
「わかるぜアルマ。よっしゃああ、思いっきり楽しむぞおおお!」
「ピアアア!」
『何言ってんだ、こいつら・・・』
「うふふ。でもせっかくですから、私たちも楽しみませんとね。」
競売会が行われるのに合わせて、アルマ達はオーゼイユの町に戻ってきていた。
神鹿のモアはもちろん、狼人族、ファルハード、テスカも一緒だ。
人の多い街中にモアを連れてくることは狼人族が強く反対したが、当のモアがアルマから離れようとはしなかった。
しかしアルマは、ジョーガサキの作戦を遂行するために町に戻る必要がある。
結局、モアはアルマの従魔ということにして、町への入場許可を取り付けることになったのだった。
もちろん入場許可を取るにあたっては、クドラトとダリガというラスゴー冒険者ギルドのコネをフルに活用している。
だが、競売会そのものは翌日。
それまでは自由に過ごしていいということで、アルマ達は揃って露店市に繰り出したというわけだ。
ちなみに本日の衣装は、商人ナザレノから贈呈された南方の民族衣装で揃えるという気合の入れようだ。
「そんじゃあまずはご飯だよね!露店でなんか買って食べようか?」
「誰が一番うまいもん見つけられるか勝負しようぜ!」
「おおおお!それいいですねマイヤさん!じゃあ、それぞれ30コルンまでにしましょう!」
「ピヤアア!」
意味も分からずモアがはしゃぐ。
さすがに人ごみのなかでは何が起こるかわからないので、首輪をつけたうえでアルマに抱っこされているのだが、モア自身はまったく気にしていないようだ。
勝手に勝負を決めて、アルマとマイヤは走り出す。
「なんつうか・・・お前ら、いっつもこんな感じなのか?」
「うふふ、意外ですか、テスカ?」
「あ、はい。意外といえば、ランダさまもですけど。」
「さまはやめてください、私はもう、巫女見習いでもないただの冒険者ですから。」
「いえ、俺はあくまでランダさまと神鹿さまの護衛なので。」
「まあ、いずれ再び村の巫女となる姉さまを崇めることに文句はないっすけどね。けど、とりあえずテスカも気楽に楽しんだらいいっすよ。」
年齢が近いこともあり、テスカは今日一日アルマ達との同行を命じられていた。
それは、テスカの父ファルハードの願いでもあった。
町に戻る前、ランダとシャムスはファルハードから話を聞いていたのだ。
ランダたちの村が魔物に襲われ、ファルハードの家族は狼人族の村に逃れた。
ファルハードは自分たちを受け入れてくれたことに強く感謝し、残りの人生を村の発展に使うと決めた。
その思いをテスカに押し付けるつもりはなかった。だがテスカは、父の使命を受け継ぐと決めてしまった。
「本当はあいつも、やりたいことがあると思うんです。けど、それを考えることすら悪いことだと決めつけている。こんなことをお願いできる立場にないことは重々承知しておりますが、どうかあいつに、道を示してやってください。」
「お話はわかりますけど・・・。」
「私らの話を聞くっすかね?」
「聞きます。特にシャムスさまのお言葉なら・・・」
「へ?」
「いえ・・・とにかく、あいつの話を聞いてくださるだけでもいいので。なにとぞお願いいたします。」
ファルハードの思いは十分に伝わったが、それをテスカにどう伝えればいいのか。シャムスとランダは頭を悩ませたが、答えはでなかった。
「さあ、私たちもおいしいものをみつけましょう。テスカ、あなたもですよ。」
悩んだところで答えは出ない。ならばいっそ、普段の自分たちの姿を見せればいい。ランダはそんな風に割り切ったようだ。
やがて、それぞれが琴線に触れるものを持ち寄って再び集まった。
アルマは南国の珍しい果物。マイヤは同じく南国のフルーツを使った氷菓。ランダはオーゼイユ近くの魚を使ったシチュー。シャムスとテスカはそろって肉串を買ってきた。
「ふおおお。どれもおいしい!」
「いや、当たりはあたしの買ってきたこれだろ!」
「アルマとマイヤは微妙にかぶってるから失格っすよ。」
「それを言うならシャムスとテスカもだろうが!」
「うふふ。ではここは、私の勝ちということですね。」
「じゃあ、判定はマルテちゃん、お願いします!」
『巫女損ないで―。』
「ピャ!ピャ!ピャ!」
思いがけず満腹になってしまった一行。
「シャヒダさん。食べますか?」
「・・・あたしに話しかけるんじゃないにゃ。あたしはあんたらとは別行動ってことになってるんだにゃ。でも、せっかくだからいただくにゃ。」
「狼人族のみなさんも、良かったらどうぞー。」
「・・・かたじけない。」
背後のベンチに背中合わせで座るシャヒダやこっそりとついてきた狼人族の皆さんにおすそ分けなどしつつ、アルマ達は以後の行動を話し合う。
まずは食材。珍しい調味料などを見て回り、その後は相変わらず足りない衣類を調達。さらに珍しい魔道具を見てまわることに決まった。
再び市場を冷かしているその最中、ちょっとした事件が2回あった。
ひとつは、アルマが抱きかかえるモアを連れ去ろうとする怪しい団体。
遠巻きにアルマ達を追いかけているその集団に気づいたシャヒダが狼人族を使って、あっさりと拘束した。アルマ達はもちろん、周囲の人間すら気づくこともなかった。
そしてもう一つは、魔道具を中心に扱う露店エリアをぶらついているときに起きた。
「うわあ、ばっちい魔道具だらけだー!」
「お、おいおい嬢ちゃん。その言い方はねえだろう。」
「あ!ごめんなさい!」
「ははは。まあいいけどな。いいか?ここに並んでる魔道具はな、どれもこれも大昔の遺跡から発掘されたもんなんだぜ?」
「ほえええ、そうなんですか?」
「ピャ!ピアアア!」
「あっははは。可愛い従魔だな。まああれだ、古すぎて、どう使うのかも分かんねえってのが唯一の欠点だな。」
「それは最大の欠点っすね・・・」
「そう言うな。もしかしたら、すっげえ掘り出し物かもしれねえだろ?」
「うふふ。そう言われると、ワクワクしますね。」
「おっし、アルマ。なんか買ってみるか!」
「お、いいねいいね。まとめて買ってくれたら、安くしとくぜ!」
そんなわけで、アルマ達はそれぞれにこれはと思うアイテムを物色し始めた。
その時。
『おいアルマ・・・その右のヤツだ。』
「え、マルテちゃん?どれ、これ?」
『違う・・・その向こうの、箱みたいなやつだ。』
「これ?」
『そうだ、それを買ってくれ。』
意外なほど神妙な声色で言うマルテに驚いたアルマは、その魔道具を選んだ。他のメンバーもそれぞれに選ぶ。
「ははあ。みんな見た目で選んだか。まあ、こういうのは直感が大事だからな。全部まとめて1000コルンでいいぞ。」
「たたた高い!」
「こんなゴミ同然の魔道具に1000はないっすわ。」
「せいぜい100だよな?」
「いえいえ、50が妥当かと思いますよ?」
「ピアアア!」
「容赦ねえな、嬢ちゃんたち・・・。まあいいや、これもなんかの縁だ。5人まとめて300。ほんと、もうけなしだぜ?」
交渉はまとまり、使い途のわからない魔道具をそれぞれが手に入れた。
そして、露店を離れたところでアルマがマルテに尋ねる。
「マルテちゃん、これってなんなの?」
『・・・それは、バリガンの遺産だ。』
「え!バリガンさんて、私の称号についてる人?」
そんな予想外の掘り出し物にも出会いつつ。
アルマ達は丸一日をかけて祭りを楽しんだ。
その帰り道、シャムスがテスカに聞く。
「まあ、私らはいつもこんな感じっす。どうすか。楽しかったっすか?」
「・・・さあ、どうだろうな。よくわからない。」
「そっすか。」
「でも・・・うん。来てよかったと思うよ。」
「・・・そっすか。」
そして翌日。
いよいよ、競売会が行われる。
お読みいただきありがとうございます!
昨日、平日は厳しくなりそうと書いたら、ブックマークが増えましたw
ほんとありがとうございます。
正直今日はアップできないかと思いましたが、なんとか書き上げることができました。
ほんとのほんとに、モチベーションになっております。
引き続きよろしくお願いいたします!