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4-14 狐人族の少年

温泉巡りの2日目は順調に過ぎていった。

高低差の激しい山の地形にも慣れはじめ、移動の距離が伸びたこと。そして、ラスゴー周辺ではあまり見かけない昆虫型の魔物にも慣れてきたことが大きい。


とはいえ、昆虫型の魔物は多種多様だ。中でも厄介だったのはアリ型の魔物とハチ型の魔物。いずれも群れを集める習性があるらしく、一度出会うとかなりの数の魔物との戦闘を覚悟しなければならない。

さらにいずれも毒を使ってくる。触れれば本人だけでなく、武器や防具にもダメージが蓄積してしまう。

実はこの毒は魔獣の皮をなめす際に使えるため、毒腺は冒険者ギルドで買取対象に指定されている。


だが幾ばくかの金を稼ぐために自身の武器や防具をダメにしてしまえば、当然赤字だ。

はじめこそまともに相手をしていたが、途中からは避けて通るようにした。


神鹿のモアは相変わらず、とことことアルマの後ろをついてくる。

戦闘にこそ参加しないが、アルマ達が戦っていると、ランダの横でジィっとその姿を見つめていた。


アリとハチを避けるようにしてからは行軍速度もあがり、夕方前には目的地と思われる場所に到着した。

そこは前日とうって変わって、やや窪地の小川近くだった。

目当ての温泉はない。だが、地面からうっすらと煙が立ち上っている。もしやと思い、地面を掘ってみると温泉が湧きだしたのだ。


お湯が沸きだしてできた泥をマイヤが魔法で除去、さらに周囲を魔法で固めれば即席の風呂が完成。湯温がやや高かったので、川からも水をひいて調節した。

ちなみにこの温泉も、モアが聖泉に変えていた。

全員で湯船に浸かっていたらヌアザ神がひょっこりと遊びにきたが、即座にお湯に沈められた。


そして3日目。

この日は2か所を巡る予定を立てた。

1つ目は川沿いに上流へ向かったところで、昼前に到着。どうやら温泉そのものが小川の源泉であったようだ。だが、この湯は木々の合間にあり、かなりの量の木の葉などが湯に沈んでいた。

掃除をしなければ入れないようなので、とりあえず今回は放置して、次の目的地をめざすことにする。


早めの昼食を済ませ、移動を開始。

そこからしばらく進んだところで、突然、雪さんとシノさんが騒ぎ出した。


「敵8。いえ・・・10。これは・・・囲まれています!」


ランダの警告を受け、直ちに戦闘態勢に入る一行。

すると、木陰から一人の男が現れた。アルマ達の様子を見て、隠れてもムダと理解したのだろう。

顔を布で覆っているため、その表情はうかがえない。だが、シャムスはその装いに見覚えがあった。


「こいつ、ナザレノさんの馬車を襲った野盗っす。」


シャムスが、小声で素早く告げる。

だがその言葉は、男にも聞こえていたようだ。


「俺たちは野盗ではない。」

「そっすか。そんなことより、おたくらのなかに狐人族がいるっすよね。その子と話をしたいんすけど。」

「お前らと話すことはない。神子さまを置いて立ち去れ。そうすれば命までは奪わない。」

「え?モアちゃんのこと?」

「貴様!神子さまに気安く名をつけおったのか!」

「え?だめだったの?」

「・・・名前は神聖なものだって、私、言いましたよね?」

「またアルマのせいで面倒ごとに巻き込まれたっす。」

「ワクワク担当、仕事しすぎだぞ。」

「え?でもあだ名だよ?モアちゃんだって喜んでたし。」

「だから気安く呼ぶなあ!」


男が激昂したのを合図に、現れる覆面の男たち。


「ちょちょちょ、まってまって。」慌てるアルマ。

「問答無用!神鹿さまは返してもらうぞ!」


男たちは有無を言わせず襲い掛かってくる。

こうなっては戦わざるを得ない。


「雪さん、シノさん、お願いします!」

「聖盾!」

『馬鹿娘、動け!攪乱(かくらん)するぞ!』


アルマ達は即座に動く。

ランダとマイヤがモアの左右に立ち、さらにその周りを雪さんとシノさんが守る。

アルマとシャムスは素早く動き回る。イメージするのは、朝稽古でのタルガットやシャヒダの動きだ。

今ここで必要なのは、相手に決定的な状況を作らせないこと。

相手に連携の隙を与えず、相手の人数が多い方向に攻撃をいなすことで複数人の動きを阻害する。

さらにマルテが最初に現れた男の声真似で相手の指示系統をかき乱す。


(ほぎ)()えよ。(いは)(がね)穿つ天の潅水(みぞぞぎ)勇魚(いさな)となりて(あだなえ)を討て。」

「ゆらゆらと(ふる)え水の竜。どうどうと唸れ土の竜。その根源たる力は信。我が信念に従い、堅牢なる枷となれ。」


覆面たちの連携が崩れたところでランダとマイヤが魔法で攻撃を仕掛ける。

後衛と侮っていたのか、覆面たちは慌てて距離を取る。

初めての対人戦ではあるが、これまでの稽古がしっかりと役に立っていた。


だが、相手の人数は倍以上。相互に決め手を欠き、膠着(こうちゃく)状態になりかけた時、覆面たちの中でも一際小柄な男がシャムスに飛びかかる。

先ほどまでとは別人のような速度で打ち下ろされる剣をシャムスが(かわ)す。

剣を持つ手が変化してるのが見える。獣身化だ。

それを見て、即座にシャムスも自身の固有スキルを開放し、相手を盾ごと吹き飛ばす。

シャムスが獣身化を使えるのを見て、覆面たちがたじろいだのが分かった。


「まった!まってくれ!」


そこで、覆面の一人が声をあげ、頭目と思しき男に声をかけた。


「隊長。ちょっと、話をさせてください。」


隊長と呼ばれた男は、突然の申し出に目を丸くするが、無言で(うなず)いた。

それを受け、話しかけた男は武器をしまうと、両手を上げて前に進み出て言う。


「先ほどの呪文に、今の【精霊降ろし】。もしや、ランダさまとシャムスさまではありませんか?」

「・・・そういうあんたは?」

「失礼しました。ファルハードです。覚えておられませんか?カリヤ村の。」


そう言って男は顔を隠した布を取り去った。

ランダとシャムスはその顔に覚えがあった。


「おい。」勝手に素性を明かしたことを、隊長と呼ばれた男が(とが)める。

「隊長。この人たちは悪い人たちではありません。どうかこの場は、私に任せてください。ほら、お前も顔を見せろ。」


言われた少年は、シャムスをじっと見据えたまま、その顔を覆う布を取り去った。


「お前・・・テスカっすか?」

「・・・ひさしぶりだな、シャムス。ランダさまも。」

「ファルハードさんとテスカ?どうして野盗に?」

「ランダさま、それは誤解です。どうか、話をお聞きください。」


どうやら向こうにも何か事情があるらしい。

ひとまず休戦して、話を聞く流れになった。

大人数に囲まれた状況では落ち着いて話を聞くこともできないので、互いに人数を揃え、何人かは離れた場所に待機してもらう。


事の発端は、彼らが祀る神鹿がとある冒険者たちに連れ去られたことによる。

神鹿は村の守り神であり、不可侵なもの。村人たちはすぐさま冒険者たちを追いかけ、捕えた。

だが、捕えた時点ですでに神鹿は商人に売り払われた後だった。その商人が競売会の商品として神鹿を連れ去ったことまでは分かったが、商人の名前は偽装されていてわからない。

村人たちはすぐさま、捜索隊を派遣した。

そして、一部はオーゼイユの町に、一部はオーゼイユに向かう商人の馬車を改めるため山に潜伏した。


「商品を奪われた商人もいるって聞いたっすよ?」

「不当に虐げられた奴隷や魔物を解放したことはある。だが誓って、盗みは働いていない。護衛と戦うこともあるが、死者は出していないはずだ。」


シャムスの問いに答えたのは、野盗改め捜索隊のリーダーで、ニザームという狼人族の男だった。

そこで改めて、村のことを聞く。

彼等はみな狼人族で、オーゼイユからさらに北に位置する、山あいの小さな村で暮らしているのだという。

ファルハードとテスカは、10年前の魔物の襲撃で村を追われ、その村に辿り着いた。以降、その村で暮らしているのだということもわかった。

彼らの話を聞いた後、ランダとシャムスも、冒険者となった経緯と仔鹿を助けた件を説明する。


「狐人族の我々にも、彼等は親身になって住まいと食べ物を与えてくれました。彼らは決して悪い人間ではありません。私たちも少しでも恩を返したくて、今回の捜索に志願したのです。」

「そうでしたか。ファルハードさんも苦労なさったんですね。」

「とんでもない、ランダさまたちのご苦労に比べれば・・・ご無事でなによりです。」

「さっきは悪かったな・・・シャムスのことは、すぐにわかったんだけど・・・神鹿さまは冒険者たちに連れ去られたから・・・お前たちもその仲間なのかと思ったんだ。」

「そんなわけないじゃないっすか。」

「そうだな・・・すまん。」


テスカと呼ばれた少年はぶっきらぼうながらも頭を下げ、互いの誤解は解けた。


「とりあえず誤解が解けて良かったよー。モアちゃんも、お迎えが来て良かったねー。」

「ピャ!ピャ!」

「だから神子さまを気安く・・・いや。神子さまがここまで気を許しているのだからいいのか・・・それよりもだな、連れ去られたのは神子さまではなく、母君にあたるお方なのだ。おそらく神子さまは、母君を追ってここまで来られたのであろう。」とニザーム。

「え!そうなんだ。」

「うむ。そなたたちが連れているのを見て、神鹿さまだけでなく神子さまも連れ去るつもりかと思い込んでしまった。まさか神子さまの恩人であるとも知らず、本当に申し訳ない。」

「いえいえ。そっか。じゃあ助けないとね!」

「いやそれは・・・ありがたい申し出だが、いいのだろうか?」

「モアちゃんのお母さんでしょ。だったら助けないと!いいよね?みんなも。」

「そりゃいいが、肝心の商人ってのがどこのどいつか、わかんねえだろ?」

「そうか・・・まずはそっからか。」


マイヤの言葉に腕を組んで考え込むアルマ。

と、その時、アルマの頭の上に突然ヌアザ神がひょっこりと現れた。

目を丸くするニザームらを気にする風もなく、ヌアザが言う。


「やぁやぁアルマはん、話は大体聞かせてもろたで。その商人の名前やけどな、ベリト・ストリゴイっちゅう奴らしいで。」


お読みいただきありがとうございます!

週末に書き忘れてしまったのですが、おかげさまで1万PVを達成いたしました!

ゆっくりですが、少しずつ読者の方が増えていくのは嬉しいですねー。

本当にありがとうございます。


引き続き、がんばってまいります。ブックマーク&評価いただけると嬉しいです!

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