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4-13 アルマの悩みと神鹿の力

「ふわああ!極楽、極楽~」

「ピア!ピアアア!」

「鹿って、温泉入るんすね・・・」

「うふふ。でもほんと、気持ちいいですね。」

「ああ、最高だな!」

「こんないいとこ、よく今まで見つからなかったねえ。」

「オーゼイユの冒険者は護衛などがほとんどで、狩りも森の浅いところばかりだそうですからね。あまり人は来ないのかもしれませんね。」


ジョーガサキの地図を辿って温泉に到着したアルマ一行。

到着したときにはもう日も暮れていたため、その日はそこで野営をすることに決めた。

慌ただしく天幕を設営し、夕食の準備をする一方で、マイヤが土魔法で浴槽を作成。

最近ランダが覚えた【鑑定】で確認する限り、泉質も問題なさそうだったので、夕食前に全員でお風呂タイムとなった。


平野で暮らす人族はあまり湯に()かる文化はないが、森で暮らす獣人やエルフたちは当たり前のように泉や川に体を(ひた)す。

それでも、満天の星空の元、温かい湯に浸かるというのは格別の気持ち良さがあった。ちなみに湯の温度はアルマが調節した。そういうのは生活魔法の方が早いのだ。


「さあ。それじゃあご飯にしよー!」

「それはいいんすけど、この子、何食べるんすかね?」

「あ、ほんとだね!どうしようか?」

「そういえば、昼間にあたしが回復魔法唱えただろ?あの時、最後の方でなんか魔力を吸い取られるような感じがしたんだけど。」

「へえ。魔力を食べるのかな?」


アルマが掌に魔力を集め仔鹿に差し出すと、仔鹿はその手に口を付ける。


「わわわ!魔力が吸い取られる!」


魔力を吸った鹿は淡く光りだす。神聖な雰囲気を漂わせる真白な毛が光を帯びて、周囲の空気までが清浄に変えられていくようだ。


「ほわああ。なんかすごいねえ!」

「やはり(しん)鹿(ろく)さまなのですね。それに、アルマさんが懐かれた理由もわかりました。」

「ほえ?ランダちゃん、どういうこと?」

「アルマさんはいま、勇者の卵という称号をお持ちですから。勇者の用いる光属性の魔法は聖気を帯びると言われます。きっと、その聖気が神鹿さまの気に合うのでしょう。」

「さすがワクワク担当。体張ってるなあ。」

「え?マイヤさん、その言い方、なんか(とげ)を感じるんですけど?」

「じゃあ神鹿さまのお食事はアルマってことで、私たちも食事にするっすよ。」

「シャムスちゃん、生贄(いけにえ)みたいな言い方やめて!私も食べるよ!」


その後はみんなで夕食。

本日の献立は、シャヒダが護衛初日につくってくれたスープだ。アルマとランダの二人でつくった。

シャヒダに教えてもらった調味料はオーゼイユの町で売られていたので、さっそく購入しておいたのだ。

その出来栄えは、やはりシャヒダがつくるようにはいかなかったが、シャムスとマイヤには好評だった。


仔鹿には生の野菜なども出してみたが、どうやら仔鹿はアルマの魔力が気に入ったようで口を付けようとはしなかった。

と、食事中にマイヤが自分の手の甲を見ながら言う。


「ところで、お前らなんか変わったことはねえか?」

「変わったって、なんすか?マイヤさん。」

「いやだから、温泉はいってさ、こう、肌のハリっていうか。」

「わかりますマイヤさん!なんか、スベスベしますよね?」

「おお、そうだよアルマ!やっぱそうだよな!」

「姉さま、何か変わりましたか?」

「さあ・・・言われて見れば、少しスベスベしたような・・・?」

「ち。若人が!」

「え!ちょっとまって、私も若人のはず・・・え!」

『お前は若いとか若くないとかの前に、田舎者だろうが。』

「ぬはあ!言い返せない!でも実際、最近悩んでたんだよね。」

「なんだアルマ?何を悩んでるって?」


悩みとは無関係そうに見えるアルマの思わぬ発言に、一同食事の手を止めてアルマを見る。


「いや、そんな大層なことではないんですけどね・・・」

「なんですかアルマさん。悩み事なら聞きますよ。私たちがお力になれるかはわかりませんが。」

「いやいや、だからほんとそんなんじゃないんだよ。」

「なんすか?」


ポロっと漏らした一言で意外なほど心配されてしまい動揺するアルマ。

しかし、皆の注目を集めてしまったこの状況で、ごまかすこともできない。

アルマは思い切って、胸の内を明かすことにした。


「うん・・・じゃあ言うけど。なんか最近さ・・・その・・・女子力が落ちてるんじゃないかって。」


そして、それを聞いた仲間たちの反応は。


「「「ぶはー!!!」」」

「え?え?何その反応。」

「いやその・・・まさかアルマさんの口から女子力という言葉がでるとは・・・」

「なんでよランダちゃん!私だって女子力を高めようと日々努力してるんだよ!」

「ぶはっ!ちょ、やめてアルマ、腹痛いっす。」

「シャムスちゃん!」

『ぶはははは!女子力を高めようとするやつは、おっさん拾ってきたり、ミノタウロスをひき殺したりしねえんだよ。』

「だ、だから、そういうあれこれで落ちた女子力を温泉で高めようと・・・!」

『最初からなかったってことだろうが。』

「あるよ!あるよ女子力!」

「わ、わかったアルマ。もうわかったから。飯食ったらまた温泉つかればいいじゃねえか。」

「マイヤさんこっち見て話ししてください!」


と、その時だ。

彼女たちのやりとりを見ていた仔鹿が突然立ち上がると、とてとてと温泉に近寄り、その口をつけた。

すると、温泉が柔らかく光りだす。


「え?え?これなに?」

「温泉が光ってるぜ。」

「姉さま。鑑定を」

「これは・・・せ、【聖泉】になってます・・・。」


驚きの表情で仔鹿を見つめる一同。仔鹿は見つめられる意味がわからないというように、コテンと首を傾げた後、アルマに近寄りぐりぐりと頭を押し付ける。


「これってもしかして・・・アルマのためっすか?」

「わはー!ありがとう!見てみて、鹿さんもこのお湯に浸かって女子力をあげろって、応援してくれてるよ!」

『いや・・・どっちかつうと、応援じゃなくて、憐れんでるんじゃねえか?』

「「「ぶはっ!」」」

「そそそ、そんなことはありません!ようし、こうなったら温泉巡りだ!ジョーガサキさんが印つけてくれたとこ、全部まわって女子力を高めまくるぞー!」

「まあ、それは元々そうするつもりでしたから構いませんが・・・。」

「それよりまずはこの聖泉だ。とっとと飯食って、もう一度入ろうぜ!」

「マイヤ、結構ちゃっかりしてるっすよね・・・。」


そんなこんなで今後の予定も決まり。

とにかくまずは聖泉の効果を確かめようということで、全員で再び入浴。

聖気を帯びた湯がどれくらい女子力を高めるのかはわからなかったが、傷や疲労などを癒す効果はありそうだった。


「こうなったら、この子、名前をつけないとだよね。」

「名前ですか?神にとって名前はとても重要なものですから、受け入れていただけるとは思えませんが・・・。」

「そうなんだ。じゃああだ名ってことで。」

「それならまあ・・・いいんですかね???」

「それじゃあえっと、この子、うちの田舎にいたサモアって種類の鹿に似てるから、モアちゃんで。モアちゃんて呼んでいいかな?」

「ピアアア!」

「・・・なんか普通に受け入れてるっすけど?」

「まあ、アルマだからな・・・。」


こうして仔鹿のあだ名も決まり。

夜は更けていった。

夜番は、2人ずつ交代で行うことにした。


翌朝、全員でいつものように朝稽古を行った後、再び聖泉浴で汗を流す。

やはり疲労を癒す効果があるようで、野営後にも関わらず、全員の顔色は良かった。


朝食を食べながら地図を確認した後、天幕を片付け、本日の目的地に向けて出発する。

予想外に始まった温泉巡りの始まり。

それがこの後、意外な騒動につながることを、彼女たちはまだ知らない。


お読みいただきありがとうございます!

なんか会話回になってしまいました。


週末はお休みの予定です。頑張って面白い章になるようがんばります。

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