4-11 ジョーガサキさん、本気を見せる
アルマ達が商業都市オーゼイユに着き、スイーツを堪能した2日後のこと。
ラスゴーの町の冒険者ギルドでは、ギルドマスター直々の呼びかけにより、ある面々が集められていた。
銀級冒険者、タルガット・バーリン。
町の道具屋店主、エリシュカ・アールブル。
金級冒険者パーティ「三ツ足の金烏」のリーダー、バリ・ウテムラト
同じく金級冒険者パーティ「熒惑の破者」のリーダー、ラカルゥシェカ。
「熒惑の破者」は迷宮騒動時、犯罪者組織を拿捕する際に町の外側で見張りについてもらったパーティだ。ダリガにとっては古馴染みである。
そして彼らと対面するのは。
ギルドマスター、クドラト・ヒージャ。
サブマスター、ダリガ・ソロミン。
平職員にして生協運営担当、ジョーガサキ。
さらに本会議の記録係として、新人職員であるルスラナ・クエバリフ。
「なんだか物騒ナ。これ、なんの集まりかナ?」
声をあげたのは、ラカルゥシェカだ。彼女は遠い東方の国出身の熊人族で、未だに少しカタコトなのだ。
「まあ後で説明するから待ってろ。とりあえず、迷宮について報告してくれや。バリ頼む。」
クドラトが大きな声で質問を遮り、バリの発言を促す。
指名を受けたバリが答える。
「ええと、うちとラカルゥシェカんとこの合同で行った迷宮調査のことだよな?とりあえず41階層までは確認した。」
「ほお?随分下まで行ったんだな?」
「そこのジョーガサキが貸してくれた牛が優秀だったからな。例の『定時制』のおかげで夜間は移動し放題だし、そんなもんだろう。」
「何か気づいたことはあるか?」
「魔物は全体的に以前より強くなっている印象はあったな。35階層から先は、正直うちのパーティ単体では行きたくねえってくらい強い。それと、41階層からは氷原ゾーンだ。もうちょっと進むこともできたんだが、本格的に調査をするなら装備が必要になる。その場合は、牛も使えねえだろうしな。」
「なるほどな。ラカルゥシェカから補足することはあるか?」
「ないナ。」
「タルガット。お前は?」
「40階層までで見る限りは、もう迷宮は安定してる感じだったな。『動いて』いる感じもねえから特に出入りの制限は必要ないと思うぜ。バリが言うように、装備は充分に揃えないとまずいが。」
「なるほど。」
報告を聞いたクドラトは腕を組んでしばし考える。
アルマたちが護衛任務に出てすぐ、タルガットは「三ツ足の金烏」と「熒惑の破者」による迷宮調査に加わっていた。
迷宮の異変や変動を調査する能力の高さを買われたのだ。
「熒惑の破者」は獣人がメインのパーティ。索敵に優れた人材が揃っているため、ダリガが頼み込み、シャヒダだけがアルマたちに同行することになったのだった。
「わかった。それじゃあ引き続き迷宮は制限なしでいく。ジョーガサキ、迷宮村の開拓は?」
「村の防壁の建造はまだかかりますが、倒木が十分に防壁代わりになっているので、急ぐ必要はないでしょう。並行して、生協出張所のほか、宿泊施設と医療施設、食堂の整備を進めています。人員も冒険者を引退された方々を採用して、すでに仮施設での営業は開始しています。利用料についてはすべての施設で、生協加入者の割引を導入。その差額分は維持管理費に充て、一部をギルドに還元します。すべての施設の経理はルスラナさんに一括してお任せしています。年間の利用数や収益予測はすでに提出した通りで変更はありません。」
「お、おう。なんかわからんが、わかった。」
ジョーガサキの説明はクドラトには難しかったようだ。だが、順調であることはわかる。
「迷宮の中に村があるなら、狩りもずいぶんと安全になるナ。」
「素材の持ち込みも増やせるし、新人の研修なんかも余裕を持ってできるしな。」
ラカルゥシェカとバリが口を揃えて言う。
実際、すでに利用した冒険者からも好評で、村の利用が開始されてからは生協に加入する冒険者も急増していた。
「よし。それじゃあこっからが本題だ。こっちから報告がある。こないだの人買い商人をとっ捕まえた時に、1人逃げた野郎がいただろ。そいつの素性がわかった。」
クドラトの発言で、会議室の中にはわずかに緊張が走る。
実際に男を目にしたのはダリガ、バリ、エリシュカの3人のみ。だがその詳細は、ここにいるメンバー全員が共有している。
「ただし、こっからは守秘義務が発生する。情報が漏えいしたら罰則もある。聞きたくねえってんなら特に止めねえから、今すぐここから出て行ってもらいたい。」
クドラトが念を押すが、誰も出ていこうとはしない。
それを確認したクドラトがダリガに促す。
「そんじゃあダリガ、報告してくれるか。」
「はい。かしこまりました。」
クドラトの前では妙に知性派を気取りたがるダリガが立ち上がる。
それを見てエリシュカがそっと顔をそむける。笑うのをこらえているようだ。
「では、報告します。生き残った者が少なく、確認を取るのが遅れてしまいました。ただ、結局のところ、生き残った者たちから男の素性を聞くことはできず。並行して進めていた町の宿泊者リストなどの照合で怪しい人物を絞り込むことができました。詳細は省きますが、男の名前はベリト・ストリゴイ。王都を中心に活動する魔獣商人です。」
それは、アルマ達がオーゼイユの町で出会った男であった。
だが、当然ながらここにいる面々はその事実を知らない。
「魔獣商人・・・それであの時オーガを・・・」
ダリガの言葉にバリが反応する。
魔獣商人はその名の通り、さまざまな魔獣を売り買いすることを生業としている。日常的に利用されている馬などの益獣から、畜産用、さらには従魔士が使役する戦闘用、貴族に向けた愛玩用まで、その用途は幅広い。オーガなどの戦闘力の高い魔物を街中に持ち込むことも可能だ。
「王都での評判などについてはエリシュカが知人を通じて調べてくれた。エリシュカ、報告を」
「は~い。まあ、ざっくり言うと、王都での評判は上々。町の人からは好紳士ってことで通ってる。でも~、ちょいちょい悪い噂もあるみたい。ひとつは、人買いに手を出しているんじゃないかって噂。そしてもう一つは、裏で聖獣を売買してるんじゃないかって噂ね~。この2つの噂は出るたびになんとな~く立ち消えるんだけど、いつの間にかまた人々の口に登るのよね~。」
「あやしいナ。」
「ああ、あやしい。」
ラカルゥシェカとバリが口を挟む。
ダリガがそれにうなづいて、エリシュカの後を引き継ぐ。
「このベリトについては、確実にこの町に滞在していた記録が残ってる。だが、町を出た記録はない。すでに町にはいないのにだ。それで色々と商人たちから情報を集めた結果、今こいつがいる可能性の高い町がわかった。オーゼイユだ。」
「お、おい、それって・・・」
「そうだタルガット。お前の弟子どもが向かった町だ。そこで近々、大きな競売会が開かれるんだが、奴はそれに参加する可能性が高いらしい。ちなみに、同行してるのはシャヒダだ。シャヒダには、ギルド経由で情報が伝わるよう手配してある。そのうえで、ベリトの野郎を探してもらうよう依頼もかけた。」
「おいおい、それは・・・」
「安心しろバリ。ムリをさせるつもりはない。あくまで周辺調査のみで、直接の接触は避けるように伝えてある。」
「よし。情報は出そろったな。そこでお前らに依頼をしたい!」
クドラトが大きな声で言う。
「迷宮ではお前らも顔に泥を塗られてる。だから、お前らに汚名返上のチャンスをやろうって話だ。」
「ん?もしかして・・・」
「それで私らを集めたのかナ?」
「その通り!そのベリトって野郎がオーゼイユでも何か企んでるのか、まっとうな商売なのか。わからねえが、いっちょ野郎の鼻をあかしてやろうじゃねえかと思ってな。いいか!これは冒険者ギルド、ラスゴー支部の威信をかけた、俺個人からの依頼だ!依頼内容は、『ベリトってクソ野郎の鼻をあかすこと』!作戦の指揮はジョーガサキ、お前だ!手段は問わない。他の面々は、ジョーガサキの指示に従え!まあ受ける受けないはお前らに任せるがな。」
「『三ツ足の金烏』は受けるぜ。すでにシャヒダが絡んでるんじゃしょうがねえ。」
「『熒惑の破者』も同じくだナ。やられっぱなしは性に合わないナ。」
「ったく、しょうがねえな。受けるぜ。」
「うふふ~。はい、私も受けま~す。」
結局、冒険者たちの全員が参加を表明した。
そして、作戦の指揮を任されたジョーガサキは。
「・・・仕方ありませんね。完全に業務外ではありますが、その男を放っておくと、今後の業務に支障がでそうです。本作戦の指揮、任されました。」
珍しく文句も言わず。
そして、会議後。
ジョーガサキはギルド内に設置された生協売店の神棚に立つ。
「ヌアザ様、ケリドウェン様。いらっしゃいますか?」
と、神棚の前に現れる二柱の神。
「よぉ、ジョーガサキはん、どないしたん?」
「少し調べたいことがありまして。アルマ・フォノンさんたちは今どうしてるかわかりますか?」
「んんん?ちょっと待ってな?ええと、温泉はいっとるな。」
「うんうん。ランダはんも近くにおるなぁ。」
「そこに、彼女たち以外には誰かいますか?」
「ええと、まってな?・・・ん~、人はおらんな。けど、鹿がおるわ。仔鹿。んんん?いや、これ鹿ちゃうわ。神鹿や。」
「なるほど。ありがとうございます。」
ジョーガサキはそこで、悪魔のように笑った。
お読みいただきありがとうございます!
なんだか回りくどいというか、出し惜しみしてる感じになっちゃってごめんなさい。
こっからさらに面白くなっていきますから!
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