4-10 スイーツと、魔獣商人と
日も暮れて辺りがかなり暗くなった頃、アルマ達はようやくオーゼイユの町に到着した。
町を象徴する防壁は間近で見ても真白で美しかった。
聞けば貝がらをすりつぶした塗料を使っているのだという。よくよくみれば、城壁の所どころには種々の貝がらがそのまま埋められていた。
町の中も、さすがに商業都市というだけあって明るかった。
城壁と同じ塗料を使った真白な家屋が多く、とても清潔な印象を見る者に与える。
「今日の所は、ひとまずこれで解散ということでいいですかな?ナザレノさんとボラートさんは申し訳ありませんが、私と一緒に守備隊への報告に付き合っていただきたいのですが。」
町の入り口付近に馬車をとめ、全員が集まったところでカリムが言う。
「もちろんですとも。皆さんには本当にお世話になりました。これ、うちの商品ですがよろしければ皆さんに。南方の小さな獣人の村でつくられたものなのですが。」
ナザレノはそう言って、商品である衣服をアルマ達に差し出した。
前合わせ上着にゆったりとした幅のあるズボン。淡く灰色がかった白色の生地だが、袖口と裾先、襟もとには独特の文様を凝らした別色の布があてられていて、素朴ながらも地味さを感じさせないものだった。
生地も獣人の村でつくられたものらしく、丈夫そうだ。
「わあ!いいんですか?」
「もちろんです。サイズは勝手ながら私が見立てさせていただきました。七分丈で着るタイプの服ですし問題はないかと。」
「ありがとうございます!すごく嬉しいです!」
アルマ達は長らく貧乏生活が続いていたので、衣服の類は所持している数が少ない。嬉しい贈り物だった。
「それでは、皆さんはここで解散です。依頼達成の報告は明日でよろしいでしょうか?今日は遅いので、私が常宿にしている宿屋を紹介しますので、そちらをお使いください。」
カリムに宿屋を教えてもらい、アルマ達はそこで夕食をとった後は早々に休むことにした。
昨日からかなりの強行軍で馬車を走らせていたため、腰や尻への負担が限界に達していたのだ。
翌朝は朝稽古は休みとした。
4日間と短い旅だったとはいえ、やはり疲れは溜まっていたし、稽古できる場所にも当てがなかったからだ。
それでも、いつもの習慣でかなり早く起きてしまう。
ナザレノにいただいた獣人の民族服を全員で試着するなどして部屋でゆっくりと時間をつぶし、朝食を摂っていると、シャヒダが遅れてやってきた。
シャヒダが食べ終わるのを待ち、町の冒険者ギルドへと案内してもらう。
冒険者ギルドはラスゴーの町と比べても遜色なく、冒険者にも何か活気が感じられた。商人を相手にすることが多いので、金回りがいいのかもしれない。
そこで護衛任務の達成報告を行い、報酬を受け取る。
「それじゃあ、うちはここまでだにゃ。野盗の情報は分かり次第教えるから、宿を変えたり移動したりする場合は教えておいてほしいにゃ。」
冒険者ギルドを出たところでシャヒダとは別れる。
どうやらシャヒダはこの町でなにかやることがあるようだ。
「さて!それじゃあどうしよっか?」
「とりあえずは、今後の予定を決めませんか?」
「そっすね。」
「そんじゃあ観光がてらぶらっとしつつ、適当にどっかお店入ろうか!」
「お、それならあたしに任せとけ!めっちゃおいしいスイーツの店の情報仕入れてきたぜ!そこ行って決めよう。」
「えええ、マイヤさんいつの間に!」
マイヤの意外な側面に驚きつつも、異存はないのでマイヤの案内でスイーツ店をめざす。
オーゼイユの町は、やはり前日の印象と変わらず清潔で活気のある様子だった。
しばらく進むと、町の大通りに出る。
その辺りは高級街区のようで、上品な店が立ち並んでいた。路面の石畳はさまざまな色彩の石を規則正しく並べた飾りが施され、高級感をさらに高めている。
「な、なんだか場違いな気がするのはわたしだけ?」
『情けねえ。堂々としとけ馬鹿娘。』
「だ、だって~。」
やや気後れしつつも歩いていくと、ほどなくして目的の店に到着した。
店の奥が飲食スペースになっており、希望すれば中庭でも飲食ができるようだ。
だが。
「たたたたた高い!」
「これは・・・なかなかのお値段ですね・・・。」
店先に書かれた値段表を見て、アルマ達は絶句する。
報酬を受け取ったばかりで懐は温かいとはいえ、躊躇してしまうお値段だ。
「おいおい、せっかく来たんだぜ!多少のぜいたくはしたっていいだろ!」
どうやらマイヤは甘味には妥協しないタイプのようだ。
だが確かにあまり来れる機会があるわけではない。相談の上、全員がお茶を、茶菓子は厳選した2つを全員で分けることで決着した。
商品は店頭で購入し、その場での飲食は自分で飲食スペースに運ぶ形式ということで、アルマ達はそれぞれに選んだ商品を持って中庭スペースに移動する。
選んだ茶菓子は半透明の冷菓のまわりにさまざまな果実が並べられたものだった。
店員に聞いたところ、すぐ近くの海でとれる海藻を使っているのだという。
「うわあ、めちゃくちゃキレイだよう。甘っ!うまっ!」
「おいアルマ!先に食うなよ!順番だろうが!」
アルマの抜け駆けにマイヤが本気で怒る。以後、マイヤの厳正なる審判のもと、全員が少しずつ食べて周り、一品目を食べ終わった。
残りの一品は話し合いが終わってからということになり、まずは今後の予定を話し合うことにした。
「て言っても、もうほぼほぼ決まってると思うんだ!」
「アルマさん、何が決まっているのです?」
「ランダちゃんもシャムスちゃんも、ムリしなくていいんだよ!狐人族の少年のこと、気になってるんでしょ?」
「それは・・・まあそうっすけど、探すっていっても手掛かりが・・・。」
「うんうん。なので、私はこれを提案します!」
アルマはそう言って、一枚の紙をテーブルに広げる。
「これは・・・なんすか?」
「ジョーガサキさんから渡されたものなんだけどさ。町に着いた後、暇だったらここに行けって。」
「そういえば、そんなの渡されてましたね。」
「これって、この町周辺の地図か?何か所かに印がつけてあるな。」
「そうですマイヤさん。ここに何があるのかはわかりませんが、ここを回ってみませんか?その途中で、狐人族の少年に会えたら儲けものってことで!」
「ああ。なんだかわかんねえけど、あたしはいいぜ。なんちゃらいう祭りも数日後だろ?それまでに戻ってくればいいさ。」
「ありがたいですけど・・・いいんですか?」
「もちろんだよ!まあ、会える可能性は低いけどさ。町でじっとしてても、二人とも気になるでしょ?だったら行ってみようよ!」
アルマの提案で、ジョーガサキが提示した場所をめざすことが決まった。
「そうと決まれば、この後は野営の準備で買い物だね!忙しくなるぞー!」
アルマが大きく手を振り上げて気合を入れる。
だが、その手が後ろを通った男性にぶつかり、男性の手にある飲み物がこぼれ、アルマにかかってしまう。
「あああ、申し訳ない。お召し物が。」
「いえいえ!こちらこそごめんなさい!周りを見てなくって!」
見れば男は端正な顔立ちの中年で、かなり上等な服を着ていることがアルマの目にもわかる。
アルマは慌てて席を立ち頭を下げた。
「キレイなお召し物をよごしてしまいましたな。弁償いたします。」
「とんでもない!悪いのはこちらです。お気になさらず!」
「そういうわけにも・・・おや、その茶菓子はこの店の名物ですな。だが数が足りないようですが・・・。」
「え?あ、ちょっと予想外に高かったので、みんなで分けてるんです。あはは。」
「なるほど。では、お詫びのしるしに、みなさんにその茶菓子をごちそうしましょう。」
「そんな、本当にこちらが悪いんですし。」
「では、その茶菓子を食べている間、同席させていただいても?若いお嬢さんたちとお話しできたら光栄ですから。」
結局、にこやかに話す男性の申し出をアルマ達は受けることになった。
「ああ、申し遅れました。私、魔獣商を営むベリト・ストリゴイと申します。」
慌ててアルマ達も自己紹介を行う。
「ほほう。皆さんは黒鉄級冒険者でしたか。お若いのに素晴らしい。」
「いえいえ。黒鉄級と言ってもなりたてですから。」とアルマ。
「ははは、ご謙遜を。さあさあ、せっかくのスイーツです。どうぞお召し上がりください。」
「「「「ありがとうございます!!!」」」」
アルマ達は恐縮しつつもスプーンに手を伸ばす。
だが、一口食べるともう止まらない。それはラスゴーでは味わえない食感だった。
にこやかにアルマ達を見つめるベリトは、そこでテーブルの上に置きっぱなしの地図に目を留めた。
「おや、これはこの町の周辺の地図ですかな?」
「はい、そうです。」
「ふうむ。この場所には何もなかったように思いますが・・・いや、これは・・・」
「???なにかあるんですか?」
ベリトの問いにランダが答える。
そこでベリトは、何か思案気に視線を宙に向ける。そして、アルマ達をじっと見つめると、にこやかな笑顔を浮かべた。
「こんなことを言うと、頭がおかしいと思われるかもしれませんが。実は私、ほんの少しだけ未来が見えるのです。」
「はえっ!」
「この場所で、きっと皆さんがお探しの方に会えるでしょう。」
「え?え?え?それって・・・」
「その先は・・・私には見えませんな。ぜひ行ってみられるといい。おおっと、のんびりしてはいられない。商談がありましてな。私はお先に失礼いたします。」
そう言ってベリトは席を立つ。
「今日はお話しができて楽しかった。またお会いできることを期待しておりますよ。」
キョトンとするアルマ達を置いて、ベリトは颯爽と店を出ていく。
そして、店の前でチラリと振り返り、アルマ達を見る。
「さて、この導きがこの後、どういう未来を呼び込むのか。実に楽しみだ。」
お読みいただきありがとうございます!
今日は書き溜めていた内容が気に入らず、急遽書き直したのでギリギリ間に合ってよかったー。
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