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4-9 オーゼイユへ

野盗の一団が森に姿を消した後。

シャヒダとシャムスは襲われた商人や護衛の応急手当てを行った。

すでに倒されていた2人は負傷していたが、ケガはさほど深くはなく、命に別状はなかった。

と、そこにカリムの馬車がやってくる。


「ランダたちが来たってことは、追跡は失敗かにゃ?」

「すみません。途中でシノさんが攻撃を受けたようなので、おそらく。」


ランダが使役するサカナのシノさんは森に消えた野盗の一行をこっそりと追跡していた。

しかし、追跡が見つかり攻撃を受けたため、召喚が解除されてしまったのだ。

細かい状況は離れた場所にいるランダにはわからないが、シノさんの感情などはぼんやりと伝わる。召喚が解除されれば、はっきりとわかる。

何か異変が起きたことを察知したランダの提案で、カリムたちと共に移動してきたのだ。


だが、いずれにしてもこの場所は危険だ。

周囲を木々に囲まれているうえ、障害物がないため、再び襲われたら対応が困難になる。

ひとまず移動しようということになり、マイヤがケガ人に回復魔法をかけた後、両商人の馬車は連れ立って移動を開始した。


「とにかく助かりました。本当になんと礼を言っていいのやら。」

「いやいや。死者が出なくてなによりでした。」


襲撃地点からだいぶ離れた岩陰で、両商人の馬車は停車した。

かなり無理をして馬を走らせてきたので、その場所で長めの休憩と遅めの昼食をとることになった。

食材は野盗に襲われた馬車の持ち主である商人が、せめてもの礼にと言って提供してくれた。


そこで、互いに自己紹介。

商人の名前は、ナザレノ・ノインシュケ。主に衣類を扱っており、ラスゴーの南の町カーバルノーグから来たという。


護衛を担っているのは、『槍魚の一撃』という黒鉄級のパーティ。リーダーのボラートを筆頭に3人が槍使い、一人が魔術師という珍しい組み合わせのパーティだ。

アルマ達も順に自己紹介をする。自分たちも黒鉄級だと言うと、随分と驚かれていた。


食材を提供してもらったので、調理はアルマとランダが担当。

その間に、カリムとシャヒダが、ナザレノとボラートから事情を聴く。


「それで、襲われた時の状況をお教えいただきたいのですが?」

「状況と言われてもな。周囲の警戒は怠ってはいなかったんだが、突然森の中から現れた。あっという間に囲まれたが、いきなり襲ってはこなかった。」


カリムの質問に、護衛リーダーであるボラートが答える。


「ほう、というと?」

「連中の頭だと思うが、『荷物を改めさせてもらえれば危害は加えない』と言って来たんだ。話しぶりは落ち着いていて、粗野な印象は受けなかった。だが、もちろんそんな話を素直に信じることはできない。うちの魔術師、ユィンナが魔法を撃ったのをきっかけに戦闘になっちまった。」

「なるほど。」

「だが人数はこっちの倍以上。あっという間にユィンナとセドルがやられた。あとはもう、ただ近づかれないように必死に槍を振り回していただけだからな。」

「うちらがついた時にはもう、そんな状況だったにゃ。」シャヒダが補足する。

「ああ。本当に助かったぜ。俺はもう、絶対に死んだと思ってたからな。改めて礼を言っておく。ありがとう。」


ボラートはそう言って頭を下げた。

シャヒダは気にするなと言うように、素っ気なく手を振って応える。だがそれは余裕ではなく、極度の人見知りだからなのだとアルマ達にだけわかる。


「ふむ。ナザレノさん、なにか補足することはございますか?」

「そうですな、ボラートさんのおっしゃる通り、野盗にしては粗暴な印象はありませんでした。それと、ボラートさんたちが戦っている間に、何人かは馬車に押し入ってきたのです。ですが、荷物が衣類であるとわかると、興味を失ったようでした。」

「やはり、何かを探しているということでしょうか。」

「おそらくはそうでしょう。なので、私どもの馬車が再び襲われる可能性は低いかと。」

「そうですか。」


それ以上の情報はなさそうなので、聴取はそこで終了。その後、全員で昼食となった。

アルマとランダの作った料理は好評だった。


昼食を終えた一行は再びオーゼイユに向けて出発。

野盗の情報は、できるだけはやくオーゼイユの守護隊に伝える必要がある。予定を一日繰り上げることにして、この日は可能な限り距離を稼ごうということで話がついていた。

野営地として使えそうな場所はカリムが把握していた。また、索敵についてもランダがいるため、カリムの馬車が先導する形だ。


野営地に着いた頃にはすでに日も暮れていたため、大急ぎで天幕などの準備をする。

夕食の支度は、「槍魚の一撃」のメンバーの一人、ユィンナが引き受けてくれた。

天幕を設置している最中、シャヒダが思い出したように言う。


「そういえばシャムス、野盗の一人に、なんか言ってたにゃ?」

「え?ああ、はい。多分ですけど、あれ、狐人族じゃないかと思うっす。」

「え?そうなのシャムス?」

「はい姉さま。顔はわからなかったので確かではないっすけど・・・。」

「それって、シャムスちゃんとランダちゃんがいた村の人ってこと?」

「いや、それはわかんないっすけど・・・」

「もし同じ村の奴だったら、シャムス見て気づくだろ。」

「いや・・・もう10年くらい前っすから、会ってもわかんないとは思うっすよ?」


アルマとマイヤにはそう答えたが、シャムスももしやとは思っていた。

だが、確たる証拠がない今の時点ではどうすることもできない。

それに仮に同郷だったとしても、向こうが再び野盗として現れた場合は戦わざるを得ないのだ。


「まあ、相手が野盗では探すにも探せないにゃ。町についたら情報を集めてみる。なんかあったら教えてあげるにゃ。」

「あざっす・・・。」


気がかりではあったが、今は護衛任務の途中だ。

シャムスは、とにかくオーゼイユの町に向かうのが最善だと納得した。


その後は全員で夕食を食べ、就寝。

夜番は双方のパーティから1名ずつの2名体制。3交代で行うことになった。

(ぎん)(わん)(ぎょく)()」側からは、シャムス、シャヒダ、アルマの順で夜番にあたる。人数が余る場合は、体力が低く魔力を回復させる必要がある後衛陣を優先的に休ませるのが普通らしい。

シャヒダは見ず知らずの冒険者とは話せないだろうと思い、ランダが代わりにやると言ったが、さすがにそこは仕事として割り切るからと断られた。


だがナザレノが言う通り、野盗たちの興味はすでに積み荷にはないのか、その夜、襲撃はなかった。


翌朝、アルマ達はいつものように朝稽古。

途中で「槍魚の一撃」の面々がやってきて、アルマ達の稽古を見て驚いていた。


「こんなときにまで稽古とは熱心だな。それに、その年で黒鉄級というだけのことはある。見習わなくてはならんな。」


ボラートが自分たちも稽古に参加させてくれと言って来たので、快く了承。

アルマは同じ槍使いということでボラートと対戦をさせてもらった。


シャヒダに教わったことを意識し、相手の攻撃をいなし体勢を崩させる立ち回りでカウンターを狙う。

だが、さすがに実戦ではなかなかうまくはいかない。

逆にボラートから一本とられたあと、カウンターの取り方をさまざまな型とともに教えてもらう。

ボラートたちの槍術はそれまで教わったものとはまた違い、とても参考になった。


その後、カリムやナザレノたちの用意が整ったところで天幕を撤収して出発。

予定を早めるため、朝食はそれぞれ移動しながらということになった。


馬車を曳く馬の体調に配慮し、こまめに休憩をとりつつも足早に進んでいく。

と、突然周囲の空気が変わるのを感じ、アルマ達は荷台から顔を出す。


「うわあ!あれ、なんですか?」


アルマが叫ぶ。

前方の木々の切れ間に、陽光を強く反射する何かが見える。

馬車はその輝く何かに向かって進む。


そして、突然。

木々が途絶え、前方を遮るものが一切なくなったアルマ達の視界に飛び込んできたものは。


「海だああああ!」

『うるせえぞ馬鹿娘』

「マルテちゃんなんで教えてくれなかったの!海だよ!海が見えるよ!」

『海なんて世界中にあるわ。珍しくもねえだろ。』

「珍しいよポンコツ!私、海見るの初めてだよ!」

『誰がポンコツだこら!』


丘陵地帯の先には両端を丘陵地帯に囲まれたわずかな平野と、そして圧倒的な質量を誇る巨大な海原があった。

遠く沖合には、何か巨大な生物が水しぶきを上げるのが見える。

その上空にも、巨大な生き物の群れ。

そして、山から続く一筋の光の道。大きな河のようだ。

その河の先、大地と大洋の境目には、白く輝く巨大な城壁。


商業都市オーゼイユの町である。


お読みいただきありがとうございます!

なかなか牛歩な展開の4章ではありますが、気長に楽しんでいただければと。。。

きっと面白くなりますから。それはもう、すごいことになりますから。


ブックマーク&評価いただけると嬉しいです!なにとぞ。。。

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