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4-7 エルフの魔法

護衛任務2日目は、アルマたちの朝稽古から始まった。

途中、稽古の音を聞きつけたシャヒダが起きだしてきて稽古に加わる。

普段はタルガット対全員で対戦形式を行っていることを聞いたシャヒダは「面白そうだからうちもやってみるにゃ」と対戦を引き受けてくれた。


シャヒダの得意とする縄術は捕縛に向いた技術ではあるが、攻撃や防御ができないわけではない。

遠距離においては、鞭のように扱って攻撃をすることもできるし、魔法を打ち落とすこともできる。

近距離においては、武器に巻き付いたかと思えば足に、足かと思えば腕にというように死角を狙うように巻きつかれ、打点や体勢を崩されるのだ。


アルマたちは蜘蛛の巣に絡め取られるように、少しずつ体勢を崩され、1か所に集められ、最後は全員が1つの縄に捕縛されてしまった。

最初から最後まで、すべてシャヒダの掌で踊らされているかのようだった。


「にゃはははは。なかなか面白かったにゃあ。」

「シャヒダさんすごい!何されてるか全然わかんなかったよ!」

「相手の体勢を崩すと以降の戦闘がいかに楽になるかわかったにゃ?これはランダとアルマの役割だからにゃ。護衛任務の間だけでも、みっちり鍛えてやるにゃ。」

「私にできるでしょうか・・・」

「使う武器が違うから、うちと同じことはできないけどにゃ。ランダの場合は、相手の動き出しと動き終わりを狙う。相手を仕留めることより、相手の選択肢を限定させることを考えるんだにゃ。」

「なるほど・・・。」

「アルマの場合は、それに加えて相手の攻撃をどういなすかを考えるといいにゃ。」

『そんなのあたしだって教えてるわ。』

「にゃっははは。マルテは要求が高すぎるからにゃあ、アルマみたいのはできることを一つずつ見つけてあげる方がいいんじゃないかにゃ。」

「うんうん。私、ほめて伸びるタイプ。」

『け。そこまで付き合ってられるか。』


ランダとアルマはシャヒダの特別指導を受けることが決まって朝稽古は終了となった。

タルガットやエリシュカに教えてもらえているだけでも他の冒険者からしてみればあり得ない環境なのだ。

さらに金級で、しかも全く異なるタイプとなればもう感謝しかない。


その後は、前日のスープの残りとカリム提供のパンで朝食をとり、天幕などを撤収して出発した。


渓谷では鳥の魔物が多く現れたが、ここでもサカナのシノさんが活躍した。倒すことはできずとも追い払ってくれるので馬車が襲われることはない。

さらに、固い甲殻を持つ(かに)のような魔物が時折現れるが、こちらは発見するなりシャムスが馬車を降りて仕留めてしまう。


アルマは持て余した時間を魔法の訓練に充てることにした。


「うーん。エリシュカさんが言うには、適性はあるはずなんだけどなぁ。」


泉の迷宮騒動以降、アルマはエリシュカからエルフ魔法を習っていた。パーティの中で唯一、アルマだけが遠距離攻撃の手段を持っていないことを気にしていたのだ。

一応、火の矢くらいは出せるようになったのだが、発動までに時間もかかるうえ、威力も弱い。


今習得しようとしているのは、一番適性があると言われた光の魔法だ。

だがなかなか魔法は発動しない。

アルマの中で、魔力を魔法に変換するイメージが固まっていないのだ。

見かねたマイヤがアルマに言う。


「エルフの魔法は感情の魔法ってのは、エリシュカから聞いてんだよな?」

「うん。エルフ魔法は感情の魔法。ランダちゃんが使う精霊魔法は、神さまや精霊にお願いする奇跡をおこす魔法。そんでもって人族が使うのは、結果重視の万人向けの魔法、だよね?」

「そう。それはつまり、どの魔法も何かを犠牲にしてるってことなんだよ。」

「え?どういうこと?」

「人族の魔法ってのは、魔導書を買ってそこに魔力を通せば誰でも使える。」

「そうだね。私も、生活魔法は全部そうやって覚えたよ。」

「うん。覚えやすい。でもそれ以上のことはできないんだぜ。例えば、生活魔法の中に着火って魔法があるだろ?」

「うん、これね?『着火』」


アルマは指先に火を灯す。魔導書を使って覚えた魔法だ。生活魔法の魔導書は比較的安く手に入るうえ、生活に必須なものがそろっているため、冒険者ではない一般庶民でも覚えておくのが普通だ。


「うんそれだ。けど、その火を大きくすることってできないだろ?」

「そりゃそうだよ。生活魔法だもん。」

「つまりそれが人族の魔法の長所であり欠点なんだよ。覚えやすい、でも決まった結果しか起こすことができない。」

「ああ、なるほど~。」

「ランダの使う精霊魔法てのは、神や精霊に奇跡を願う魔法。習得するためには、神に願いを届けるための特別な言い回しを習得する必要がある。」

「ランダちゃんの呪文、超かっこいいよね。意味はわかんないけど。」

「つまり、習得するための条件がものすごく厳しい。その反面、人族の魔法では起こせないさまざまなことができる。たとえばそうだな、魔石を使って魔法の威力を高めるってのは、人族の魔法でも、エルフの魔法でもできないんだぜ。」

「おおお、そうなのか。ランダちゃん、やっぱりすごいんだなあ。」

「でも逆に、ランダは人族の魔法や、エルフの魔法は使えない。」

「え?なんで?」

「自分の魔力や魔石を糧にして、神に奇跡を願う魔法なんだぜ?その呪文・・・正式には咒あるいは祝詞(のりと)っていうんだけど、その祝詞は自分の本心からの願いを伝えるためのものなんだよ。だから、ランダが使う魔法には決まった咒言はない。あれは全部、ランダが自分でつくってるんだ。」

「おおおお、そうなのか。」

「そのランダが、人族の魔法やエルフの魔法を覚えたら、どうなると思う?」

「んんん?はて、どうなるんだろう?」

「決まった呪文を唱えたら、決まったことができるって体感しちまったら、本心から神に奇跡を願えると思うか?」

「あああ!なるほど。」


マイヤの説明に、アルマはようやく合点がいく。

人族の魔法は、いわば決まった回路を通して決まった結果を得る、いわば算術のような魔法だ。

それをランダが覚えてしまえば、神への願いを根源とする魔法体系が「揺らぐ」。

すでに使えている魔法が使えなくなることはないだろうが、新たな魔法は習得することが難しくなってしまうだろう。

そこにはもう、本心から発する願いは乗っていないのだから。


「え?ということは、エルフの魔法は?」

「うん。エルフの魔法ってのは、人族の魔法より習得が難しい。けど、ランダの精霊魔法よりは覚えやすいんだぜ。じゃあその習得条件はなんだ?」

「えっと・・・エルフ魔法は感情を魔法に変えるんだから、感情だよね?あ、そっか・・・感情を切り分けるのが難しいから、かな?」

「そう。喜怒哀楽、乗せる感情はなんでもいい。けど、純粋な感情を乗せなきゃいけない。逆に言えば、純粋であればあるほど、エルフ魔法は威力を増すんだよ。」

「ほほう!」

「人間てのはそんな単純じゃねえからな。純粋な感情と言われてもなかなか難しい。だけどお前はエリシュカからエルフ魔法を使えるって言われてるんだから、間違いなく使える。」

「え・・・それって・・・」

『ぶはははは。つまり、お前は短絡馬鹿だってことだな?』

「えええええ!私、ものすごく遠回りに馬鹿にされてたの?」

「そうじゃねえ。要するにだな、お前が一番魔法に乗せやすい感情を見つけろって話だぜ。」


そこまで聞いて、アルマは唸る。


「うーん、なるほど・・・けど、その前に呪文も難しいんだよな・・・マイヤちゃんが口にしてるのも、マイヤちゃんが自分で考えてるんでしょ?」

「そうだぜ。」

「ああいう、難しい言葉で感情を表現するってのがなかなか・・・。」

「それは違うぞアルマ。」


ビシッとアルマを指さすマイヤ。


「な、何がちがうの?」

「いいか、単純な言葉で感情を表現するのは簡単だ。だがな、そのやり方に慣れちまうと、年取った時に困る。」

「へ?なんで?」

「想像してみろよ。ものすごく威厳に満ち溢れた壮年の魔法使いが、『めらめ~ら』とか『ちゃっぷちゃぷ』とか言って魔法を使ってる姿を。」

「ああ・・・それは確かに、幻滅だよね・・・。」

「まあ、気長にしっくりくる表現を探すんだな。最初に魔法が発動したときの呪文は、イメージが固定されて変えにくいから気を付けろ。」

「私の得意な感情を、しっくりくる表現で・・・。」


アルマは再び唸りだす。

と、二人の会話を聞いていたシャヒダが口を挟んできた。


「アルマの得意な感情ったら、ひとつだにゃ。」

「え?なんですか?」

「アルマは『(ぎん)(わん)(ぎょく)()』のワクワク担当なんでしょ?だったらそのワクワクを乗っけたらいいにゃ。」

「ワ、ワクワクですか?」


アルマはなんとなく手にもつマルテを見ながら考える。

ワクワクする気持ち。それは、どんな時に感じただろう?


「そうだ、マルテちゃんだ!」

『ああん?』

「私、マルテちゃんはもっと輝けると思うんだ!」

『ぶはっ!お前はまた何を言って・・・』

「マルテちゃん、一緒に呪文を唱えてみよう!」

『ふざけんな、なんであたしがそんなことを!』

「えーいいじゃん、二人でやったらきっとうまく行くよ。」

『行くか馬鹿!』

「いいじゃんけち!やってくんなきゃ、もう手入れしてあげないよ!」

『手前は本当に・・・そんなに言うならあたしが呪文を決めてやる。お前が『ぴかぴかどんどん、ぴかぴか』つったら、あたしが『どん』だ。』

「え!やだよそんなの恥ずかしい!」

『うるせえ、あたしにばっか恥ずかしい事させんじゃねえ!』

「・・・わ、わかったよ。その代わりうまく行かなかったら、私が呪文考えるからね!」


アルマは手に持つマルテをしっかりと握り集中する。

イメージするのは、光の矢や弾ではなく、切り拓くモノ。

相棒マルテと一緒に、未来を切り拓くイメージだ。

手に持つマルテを、その刃先を前方に向け、思いを呪文に乗せる。


「いくよっ!・・・ぴかぴかどんどん、ぴかぴか」

『どーん!』


その瞬間、マルテの刃先から撃ち出された光の刃がすごい勢いで馬車の後方へと飛び去り、街道沿いにあった木の幹を切り裂いた。


「わはー!すごいすごい!すごいよマルテちゃん!マイヤさん見た、今の?」


アルマが振り返ると、そこには唖然といった表情を浮かべるシャヒダとマイヤの姿があった。


「え?・・・あれ?どうしたの?」

「ど、どうしたのじゃねえよ!お前なにやってんだよ!」

「へ?だめだったの?」

「そうじゃねえよ!なんで光魔法で物質が切り裂けるんだよ!しかもそんな適当な呪文で。そのうえ合唱魔法なんて、聞いたことねえよ!」

「そうなんだ、さすがマルテちゃん!」

『お、おう・・・まあな。』

「いや、さすがとかじゃなくて!」


騒ぎ出すマイヤと大喜びするアルマ。そして、まんざらでもなさそうなマルテ。

その様子を見て、シャヒダは唖然を通り越して吹き出してしまう。


「にゃっはははは。さっすがワクワク担当だにゃ。けどアルマ・・・」

「な、なんですかシャヒダさん?」

「戦闘中にもその呪文つかうのかにゃ?」

「え?ああああああ!」


アルマは先ほど口走った呪文のイメージを必死に頭から叩き出そうとする。

しかし魔法が発動した瞬間の爽快感は鮮烈で、決してアルマの頭から離れることはなかった。


お読みいただきありがとうございます!

ようやくアルマちゃんも魔法を覚えました!

いやあ長かった。


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