4-5 旅立ち
迎えた護衛任務の当日。アルマたちは待ち合わせ場所である町の入口付近に集まった。
エリシュカとタルガットは朝稽古の後、見送りに同行してくれた。
「マイヤ~。寂しくっても泣いちゃだめよ~。」
「だ、誰が泣くかよ!」
「うふふ~。正式な依頼は初めてだものね~。まあ、がんばりなさい~。」
入り口付近にはすでに数台の馬車の姿があり、出発前の準備を進めていた。
アルマたちが護衛する馬車を探していると、少し離れた場所から声を掛けられる。
「アルマ、こっちだにゃ!」
見れば、ダリガとシャヒダが一人の商人と一緒にいる。
「すみません!遅くなりました。」
「いやいやとんでもない。『銀湾の玉兎』の皆さんですね?私はカリム・ラキシェハと申します。皆さんのことは、ダリガさんから聞いています。よろしくお願いします。」
「あ、はい、こちらこそよろしくお願いします。」
「噂の牛姫が護衛してくださるとは。心強い限りです。」
「は・・・はは。」
カリムは商人らしく柔和な笑顔が印象的な、中年の優男だった。上等な仕立ての服や銀ブチの丸メガネを嫌味なく着こなしていて、見る者に知的な印象を与える。
アルマたちは順番に自己紹介をした後、護衛中の陣形、旅程などをカリムと確認していく。
馬車は2台。前の馬車にはランダとシャムスが乗り、後ろの馬車にはアルマとマイヤ、シャヒダが乗り込む。
ランダがサカナのシノさんを呼び出し前方を警戒。シャヒダが後方を警戒する形だ。ランダは定期的に鈴を鳴らして、魔物避けの役割も担う。
一通りの打ち合わせが終わったところで、ダリガがアルマに丸めた紙と一枚のカードを差し出した。
「アルマ。これを持ってけ。」
「なんですか、これ?」
首をかしげるアルマに答えたのはタルガットだった。
「それは冒険者ギルドが身元を保証するっつう証明カードだ。お前の場合、ステータスを確認される事態になったりしたらマズイからな。もしものときはそのカードを使えってことだよ。」
「おおお。すみません。ご迷惑をおかけします。」
「まったくジョーガサキの野郎のせいで余計な仕事が増えたぜ。つかタルガット。お前これをアルマに持たせるために、わざとあたしにもステータスを見せたろ。」
「さあな。否定はしない。」
「うふふ。愛されてるわね~、アルマ。」
「ちっ。まあいいけどな。あと、こっちはジョーガサキの野郎からだ。なんかしらねえけど、護衛任務が終わった後で暇があったらその地図の場所に行ってみろってさ。」
「それを、わざわざダリガさんが?」
「お前の称号のことはジョーガサキにも内緒なんだろ?だったらあたしが来るしかねえじゃねえか。」
「あ、そうですよね。すみません。」
そうこうしているうちに積み荷の確認が終わったようだ。
一行は予定通り2班に分かれて馬車の荷台に乗り込む。
「それじゃあ行ってきます!」
「おう、しっかりやれよ!」
「お土産期待してるわね~。」
タルガットとエリシュカが手を振るのに合わせるかのように、馬車が走り出す。
目指すのは、ラスゴーの町から北東の方角にある商業都市オーゼイユ。
片道5日間の旅程だ。
みるみる小さくなっていくラスゴーの町を見ながら、アルマが言う。
「マルテちゃんすごいよ!もう町があんなに小さくなってる。」
『いや別にすごくねえだろ。』
「私、育った村とラスゴーの町しか知らないからさ。すごく楽しみだよね!」
『あたしは別に楽しみじゃねえけどな。』
「そうなの?ああ、マルテちゃんは今まで色んなところを旅してきたんだもんね。」
『まあな。』
「ふっふっふ。でも、甘いよマルテちゃん!」
『ああ?』
「その旅に、私たちはいなかったでしょ?」
『あん?』
「たとえ以前行ったところでも、私たちが揃っていくのは初めてなんだよ。ね、楽しみでしょ?」
『なんだそりゃ?』
「うふふふ。楽しみだなあ。」
『・・・ったく。お気楽でいいなお前は。』
アルマはラスゴーの町が見えなくなるまで、ずっと小さくなる街を見ていた。
そのアルマを、シャヒダとマイヤが生温かく見ていたのだが、アルマは気づかなかった。
旅は順調に進んだ。
馬車はラスゴーの森を迂回する形で東へ。
小高い丘陵地帯に入るところで昼食を兼ねた休憩となった。
馭者が馬に水や飼葉、塩などを与える。それをシャヒダとマイヤ、シャムスが手伝う。アルマとランダはカリムから提供された食材の調理だ。
アルマとランダはジョーガサキの家で食事をごちそうになってから、料理に力を注いでいた。女子として、思うところがあったのだろう。
シャムスとマイヤは相変わらず食べる専門だが。
「ほほう、これはまた、『三ツ足の金烏』がつくるのとは異なった風味で美味しいですな。実に優しい味がします。」
「姉さまの料理は最高っすよ!」
アルマとランダが共同でつくったスープはカリムの舌に合ったようだ。
ランダが照れ隠しにカリムに質問をする。
「カリムさんは、いつもは『三ツ足の金烏』を護衛に雇われているんですか?」
「はいそうです。・・・ええと、どこまで話していいんですかね?」
「隠すことはなにもないにゃ。彼女たちは信頼できるにゃ。」
「ほほう、シャヒダにそこまで言わせるとは。ではお話ししてしまいますが、実は私、裏商人なんですよ。」
「う、裏商人?」
思いがけないカリムの言葉に、アルマが過剰に反応する。
「ははは。裏と言っても、別に悪いことをしているわけではないですよ?冒険者ギルドというのは、秘密が多いんです。貴重な魔道具を扱ったり、危険なものをよそに運んだりすることもある。そういったものを運ぶために、私たち裏商人を使うんです。一応、表向きは万屋ってことになっていますがね。」
「おおおお!そんな商売が!」
「ついでに言うと、カリムは元『三ツ足の金烏』のメンバーで魔導士。銀級の冒険者だにゃ。」
「ふおおおお!銀級冒険者!」
『お前はもうちょっと考えて喋れ、馬鹿娘。』
相変わらずひねりのない驚きを口にするアルマにマルテが突っ込む。
「でも納得しました。人見知りのシャヒダさんが普通に話せてるのはどうしてだろうって思ってましたから。」とランダ。
「にゃはははは。」
「まあ今回はごく普通に万屋としての商品のみですからご安心ください。あ、ちなみついでに言うと、私もシャヒダも以前マルテさんにはお会いしてるんですよ。改めて、お久しぶりですマルテさん。」
「えええ!なんだ、そうなの?」
『おい、余計なことは言うなよ。』
「おっと。マルテさんの機嫌を損ねたら、一晩中悪夢にうなされることになりますからね。これ以上はやめておきましょう。」
『ちっ。』
意味深な言葉を残してマルテの話題を終えた後、一行は再び出発する。
丘陵地帯を越え、再び草原地帯へ。
さすがに見通しが良いため、近寄ってくる小鬼などの魔物もいたが、いずれもシノさんの魔法で撃退できた。
途中、小休止を挟んだところで、シャヒダが「晩御飯をとってくるにゃ」といって別行動。カリムは気にする素振りもなかったので、きっといつものことなのだろう。
シャヒダが不在のまま馬車はさらに進み、溪谷に差し掛かったところでこの日の行程を終えた。
岩棚が庇様になった場所で馬車を止め、野営の準備に入る。
オーゼイユの町に向かうときは、決まってこの場所で初日を終えるのだという。
ランダが結界の準備を進めている間に、他のメンバーで天幕を造営。
そこに針兎を3匹仕留めたシャヒダがやって来たので、シャヒダとアルマが夕食の準備を進める。
夕食の味付けはシャヒダが担当した。
針兎の肉をたっぷり使ったとろみのあるスープができ、さらにカリムが提供したパンがつく。聞けば、このメニューもこの旅では定番なのだという。
アルマ達には慣れない味付けだったが、マイヤとシャムスには好評で、ランダがつくり方を聞いていた。
こうして、護衛任務初日は無事に終わった。
夜間は3交代で夜番につく。最初がランダとマイヤ、次がアルマとシャヒダ。最後がシャムスだ。慣れない馬車の移動で疲れていた一行は、翌日の行程を確認して、早々に寝支度に入ったのだった。
お読みいただきありがとうございます!
4章の物語がようやく進み始めました。。。
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