4-3 金級冒険者
迷宮の村はずれの森の中。
アルマたちは亡霊たちに手向ける花を摘みに来ていた。
「ジョーガサキさん、案外普通そうで良かったねー!」
「あの人が何かをこじらせるとこっちにまで被害がきそうっすからね。」
迷宮の騒動以来、ジョーガサキの機嫌が悪いという話は、エリシュカから聞いていた。
きっとジナイダ達のことで思うところがあるのだろう。
アルマは、ジナイダ達を送った夜のことを思い出す。
その時のジョーガサキの表情は、今も頭から離れない。
いつもと変わらない不機嫌そうな表情。
なのになぜか、怒りとも悲しみともつかないような、不思議な感情が伝わってきた。
本当のところ、ジョーガサキがどう思っていたのかはわからない。
もしかしたら、自分の感情をジョーガサキに投影していただけなのかもしれない。
けど、それでも構わない。
とにかく私は、私たちだけは、おっちゃんのことを覚えていよう。
「よおし、シャムスちゃん、どっちがたくさん摘めるか競争だ!」
そんなアルマたちの様子を見て、マイヤが呟くように言う。
「最初あんたたちがこの村に泊まるって言い出した時、あたしは『こいつら正気か?』って思ったんだ。」
「そう言えば、ずいぶんとゴネてましたね。」
「だって魔物だぜ?あたしの中で魔物ってのは全部、悪じゃなきゃいけなかった。良い魔物もいるなんて言われたら、狩りなんかできなくなる。そう思ってた。」
「・・・まあ、その気持ちはわかります。」
「けど世の中、そんな簡単に割り切れることなんてねえんだよな。」
「そうですね・・・。」
「なんか、めんどくせえなあ。」
「うふふ。めんどうだから、面白いんじゃないですか。」
「そうなのかもなぁ。まあ、あたしはがんばるさ、だからお前もがんばれ、ランダ。」
「え?なんですかそれは?」
「なんでもねえ。おおいアルマ!あたしもまぜろー!」
よくわからないことを言ってアルマの元に向かうマイヤ。
ランダは、マイヤの言葉の意味を考える。
はて、私は何を励まされたのかしら。
けれどやっぱりわからず、小首をかしげながらアルマたちの元へ向かった。
その後一行は、意外にも花冠を作るのが得意だというマイヤに習って花冠をつくり、供養碑に捧げた。
タルガットは花摘みには混じらなかったが、町で購入した酒を捧げていた。
と、アルマの頭の上にヌアザ神が現れる。
「いよう、アルマはん、みなさんおそろいで。」
「あ、おっさんこんにちは。」
「はい、こんにちは。みな、えらいなぁ。死者を悼む心は大切にせなあかんよ。あてらは死ぬことはないから、なおさらそう思うわ。」
「え?神さまって死なないの?」
「せやで。あてらはただ消えるだけや。」
「消えたらどうなるの?」
「おっきな神さまのとこに帰るんや。」
「おっきな神さま?」
「せや。おっきなおっきな神さまが御座すんやで。あてら神はな、そのおっきな神さまの、ちみっちゃい粒みたいなもんや。そうやってこっちの世界に来て、人や動物や自然と触れ合い、いずれまたおっきな神さまのとこに還るんやで。」
「そっかぁ。じゃあ、ジナイダのおっちゃんもおっきな神さまのとこ行けるかな。」
「どやろなぁ。人のことはわからんけど、そうやとええなぁ。」
死後の世界がどんなものであれ、どうぞ安らかでありますように。
アルマたちはそう祈って、迷宮の村を後にすることにした。
帰りがけにマイヤが「あ!」と声を上げたので彼女の視線を追うと、そこには黒雷蛇討伐の時にいた3人組がいた。
「そういえば、マイヤを囮に使った件で、迷宮村の開拓を手伝わされてるって聞いたっすね。」
「そうなんだ。けどなんか・・・げっそりしてるのに妙に肌艶がいいような?」
「そうですね・・・。」
コテンと頭を傾けるアルマに、ランダが同意する。
『まあ、なんでもいいぜ。あいつらにも色々あんだろうよ。それよりあたしはあっちが気になるぜ。』
槍マルテに促されて再び視線を転じれば、魔鳥ヴクブ・カキシュにエサを与えるジョーガサキの姿。
「あの人はまた・・・今度は何を育てるつもりなんすか?」
「・・・何も見なかったことにしよっか・・・。」
そんなこんなで迷宮の村での用事を済ませ、アルマたちは町に戻った。
翌日は、朝稽古をした後、みんなで買い出しを行う。
護衛の仕事中は食事が出るという事だが、いざというときのために非常食や着替えは多めに持っていきたい。さらに野営道具も消耗品については補充が必要だ。
そして、夕方。アルマたちは揃って冒険者ギルドに向かった。
護衛任務に同行する冒険者と顔合わせをするためだ。
ギルドに入るなり「牛姫だ!」と騒ぎ出す冒険者たちに曖昧な笑顔で応え、そそくさと2階にあるサブマスター室へ。
「よく来たな、入ってくれ。」
ダリガに促されてサブマスター室に入ると、そこにはすでに先客がいた。
全身を真っ黒な防具に包んだ、黒髪で小柄な獣人の女性冒険者。彼女に気付いたタルガットが声をあげる。
「まじか。シャヒダ、お前が同行するのか?」
「え?タルガットさん、お知り合いですか?」
「まあまあ。まずは座れ、自己紹介はそれからだ。」
ダリガに促され、ソファに座る一行。そこで改めてダリガが女性冒険者を紹介する。
「では改めて、彼女はシャヒダ。パーティ『三ツ足の金烏』のメンバーで金級の冒険者だ。」
「ききき金級ですか!」
「パーティでは主に偵察や斥候などを担っているが、戦闘にも長けている。護衛の経験も豊富だ。」
ダリガに紹介されたシャヒダは表情をまったく動かさず、首だけをわずかに下げる。
「で、こちらがアルマ・フォノン、シャムス、ランダ、マイヤ・アールブル。マイヤだけが鉄級で、残りは黒鉄級。アルマはその・・・例のアレだ。」
「れ、例のアレってなんですか!」
ダリガの意味ありげなぼやかしにアルマが抗議する。
そのアルマの様子を見て、シャヒダがわずかに大きな獣耳を動かす。
「ブフッ!・・・コホン、ああすまん。その、籠城戦で活躍したって言いたかっただけなんだ。それで、どうだろうか。お前らもメンバーのうち二人が獣人だし丁度いいかと思ったのだが。」
「いやちょっとまて。そりゃシャヒダは能力的には申し分ねえが・・・その、やれるのか?」
「タルガットさん。何か、問題があるのですか?」とランダ。
「いや、シャヒダはその・・・極度の人見知りなんだ・・・。」
タルガットの言葉を受け、アルマたちが一斉にシャヒダを見る。
すると、まったく表情を変えなかったシャヒダが徐々にその視線をさまよわせ始める。顔色も少し赤みが増しているようだ。
「あはは、なんだ、そんなことなら全く問題ないです。」
アルマが声を上げる。
「シャヒダさん・・・ダリガさんもそうですけど、さっき私のこと見て、ちょっと笑いかけてましたよね?」
「!!」
「シャヒダさん。私の目を見てください。」
「・・・な、なにかにゃ?」
動揺するシャヒダの目を見て、アルマがキリリと眦を上げて言う。
「はじめまして、牛姫です。」
「「「「ブフォ!」」」」
思いがけないアルマの発言に、シャヒダだけでなくダリガや他のメンバーも一斉に吹き出した。
「ほらやっぱり!!」
「ふ、不可抗力だにゃ!」
「牛姫です。」
「ブフッ!ちょ、ちょっとそれは卑怯だにゃ」
「モォオオオオ!」
「や、やめて・・・」
「ブモォオオオ!」
「ひっ!にゃはははは!ちょ、それやめて!」
「ブモォオオオ!!」
「にゃははははは!」
耐えきれず笑い出すシャヒダ。彼女の性格をよく知るダリガとタルガットは同じく笑いながらも目を丸くしてその様子を眺める。
「まさか、シャヒダが初めての人間に心を開くなんて・・・。」
「ああ、俺もこんなの初めて見たぞ。」
ともあれ。
アルマの奇行で一気に打ち解けた女性陣は、シャヒダの参加を歓迎した。
「それじゃあシャヒダさん、明日からよろしくお願いします!」
「こちらこそ、お願いするにゃ。」
「けど、シャヒダさんて猫獣人じゃないっすよね?」
「え?そうなの?」とアルマ。
「たぶんっすけど。その『にゃ』ってのは?」
そこでまた一同の視線を集めたシャヒダは
「あー・・・うちはその、狼人族だにゃ。こ、この口調はその、人見知りを誤魔化すための役づくりだにゃ。」
もじもじとしながらそう言って、恥ずかしそうに顔を赤らめた。
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テレワークが終わって・・・ちょっとストックが・・・。
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