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4-2 昇格

「牛姫、牛乳の一気飲みを見せてくれ!」

「人面牛の舞を見せて!」


勝手なことを叫ぶ冒険者たちに曖昧な笑顔で応えながら、アルマたちは受付へと向かう。

ジョーガサキはいないようだ。迷宮の村が生協の出張所になると聞いているから、そちらの準備にかかりきりなのだろう。


「ルスラナさん、おはようございます。」

「おはようございます、アルマ・フォノンさん。早速で申し訳ないのですが、サブマスターより、皆さまが来たらお連れするように言付かっております。今、お時間はよろしいでしょうか?」

「え?あ、はい。みんないいよね?」


特に異論はないようなので、というか、全員一刻も早くこの場を去りたそうなので、そのままルスラナの案内でサブマスターのいる2階へとあがる。


「失礼します。タルガットさまたちをお連れしました。」

「ん?ああ、待っていたぞ。入ってくれ。」


ダリガに促され、一同は客用のソファに腰かける。

ルスラナはそのまま一礼をして出て行った。


「呼び立ててしまってすまんな。実は、お前たちに謝らなければならないことと、報告があるんだ。」

「謝るって、何をだ?」タルガットが問う。

「んむ。順を追って話す。まずこないだの迷宮騒動についてだ。知っている通り、あれはジョーガサキの作戦でとりあえず終息した。だが、面倒なことになっていてな。お前らも聞いてるだろ?」


ジョーガサキのスキルにより迷宮が成長を早め、5日をかけて成長を終えた。だがその結果、迷宮の魔物がなぜか活動時間をきっちりと守るようになった。

その話は、エリシュカから聞いていた。


「こんなことは前代未聞でな。このことが露見すれば、ジョーガサキのスキルは悪用されかねない。というか、おそらく国は積極的に利用しようとするだろう。そこで私たちは、今回の騒動について、ジョーガサキの名は伏せることにしたんだ。」

「それは別に問題ねえと思うが?真相を知ってるのは俺たちだけだし、バレることもねえだろ。」

「うむ・・・それはそうなのだがな。冒険者たちが実際に目にしたことまでは隠せない。それで・・・その・・・」


そこでダリガは口ごもり、アルマを見る。


「ああわかった。牛姫か。」

「へ!私?」

「そ、そうなのだ。アルマといったか?君が人面牛の群れを引き連れてミノタウロスをその・・・ひき殺したことは隠し通せなかった。だが、物好きな領主がその話に食いついてしまってな。『牛姫とやらを連れて参れ。褒美をとらそう』と仰せなのだ。」

『ぶふっ!ぶはははは!良かったな牛姫。褒美だってよ。』

「ちょ、笑いごとじゃないよマルテちゃん!と、とりあえず、褒美とか言われても困ります。私たちは大したことはしてませんし。褒美って言うなら・・・」


進んで犠牲になったジナイダたち亡霊こそが受け取るべきだ。

その言葉をアルマは呑み込む。

それを言ってしまえば、誰かを責めることになってしまうからだ。


「そうか・・・いや我々としては、お前が褒美をもらいたいというなら止めるつもりはない。だができれば、断ってほしいというのが本音でな。」

「どういうことだ?」

「いやだから、言っただろう?ジョーガサキのことは秘密なのだ。」


アルマはジョーガサキが立てた作戦の概要を知っている。そのアルマが、牛姫として領主に招かれ、あれこれと探りを入れられたら、そこからジョーガサキのことがバレてしまうかも知れない。

なぜアルマが人面牛の群れを引き連れていたのか、説得力のある説明も必要になるのだろう。

嘘を隠すために、新たな嘘を吐く必要が生じてしまうのだ。


「つまり、報告したがゆえに面倒が生じたので、それを謝りてえってことか?」

「そうだ。それについては、冒険者ギルドから今回の功労者という形で報酬を出す。それで収めてほしいのだ。」

「それはありがたいですけど、領主さまの方はどうすれば?断ってもいいんですか?」

「うむ。まず、領主からのを断るというのは難しい。だが、お前たちがこの町にいなければ仕方ない。」

「へ!この町を出ていけっていうんですか?」

「あくまで一時的にということだ。そこで提案があるのだが、お前たち、護衛任務を引き受けてくれないか?」


聞けば、ダリガの知り合いの商会が近くの町まで商品を運ぶ予定があるのだという。

出発は2日後。

その護衛を理由にして、一時的に町を離れてはどうかというのがダリガの提案だ。


「護衛は鉄級以上であることが条件だ。そこで報告になるのだが・・・今回の迷宮騒動での働きを評価し、お前らを黒鉄級に昇格させることにした。」

「て、鉄級を飛び越して黒鉄級ですか?」

「そうだ。お前らは今回、強化された黒雷蛇を倒しているのだろう?また以前、泉の迷宮騒動を治めた実績もある。今回の決定はそれらを加味してのものだと思ってほしい。ただしマイヤはまだ実績が乏しいので鉄級だ。」

「うへ!あたしだけ鉄級かよー。」

「すまない。これでも異例の昇格なのだ。」

「これも報酬のうちってことか?」

「まあそうなる。それで・・・どうだろう?護衛の任務、引き受けてもらえるだろうか?」


急なことで答えられないアルマ達を見て、タルガットが後を押す。


「まあいいんじゃねえか?俺は行けねえが、そろそろ護衛の任務も経験させたいと思っていたところだ。」

「え!タルガットさん行けないの?」

「俺はちょっと、ジョーガサキに頼まれてることがあるんだよ。だからダリガ、こいつらを指導できるベテランをつけてやってくれ。それが条件だ。」

「わかった。手配しよう。明日の夕方にまたここに来てくれ。同行する冒険者を紹介する。」


アルマたちは護衛任務を引き受けることとなった。

護衛するのは往路だけ。帰りは他の依頼を受けるも、観光してからのんびり戻ってくるも自由。だがどうするかは未定にしておいてくれと言われた。

おそらくそれも領主からの提案を断る理由の一つにするのだろう。


「それじゃあ、色々と準備しなくちゃね!その前に迷宮の村に一度行きたいな。」

「そっすね。今から行くすか?」

「どうせすることもありませんし、そうしましょうか。」

「おう。いいぜ、行こう!」


アルマたちはそう言ってサブマスター室を後にした。

最後に残ったタルガットが去り際にダリガに言う。


「あいつらを守るために、色々と手をまわしてくれたんだな。ありがとうよ。」

「いや、こちらの都合で迷惑をかけたのは事実だから気にするな。それに優秀な冒険者は大切にしないとな。」

「そうか。」

「どこかの誰かがやる気を出してくれたらいいのだがな。すぐにでも金級に昇格させてやれるんだが。」

「誰のことを言ってるのかわからねえが、そいつにそんな能力はねえよ。それより、あいつらには良い指導係をつけてやってくれよ。」

「ああ任せろ。」

「頼んだぜ。」


タルガットはそう言って、ダリガの部屋を後にした。

その後、一行は冒険者たちの目から逃れるようにして冒険者ギルドを抜け出すと、少し離れた食堂に移動する。

さっき朝食を食べたところだが、この後迷宮の村に行くので軽食を注文。それをかじりながら、タルガットが護衛をする際の注意点を伝えていく。


「長期の遠征ってなると、魔導鞄をそれぞれに持った方がいいんだけどな。」

「今はお金に余裕があるので、この際買い揃えてしまってもいいですけどね。」

「とりあえず、ジョーガサキさんに相談してからの方がいいのでは?あの人のことですから『こんなこともあろうかと』とか言って用意してそうですし・・・。」

「「「・・・ありうる。」」」


とにかく迷宮の村に行ってみようということになり、一行は町を出る。

その足で迷宮へ。


立ち入りが解禁された迷宮内には、すでに結構な数の冒険者の姿があった。

予想外の立ち入り制限で稼ぎを失った冒険者が収入を取り戻そうとしているのかもしれない。


1階層を抜け、2階層へ。以前と変わった様子は見られない。

そのまま進んで、ランダが結界を張った場所へ向かう。

そこでランダが持っていた鈴を鳴らす。と、予想以上に大きな反響が起きた。


「わ!すごい!」

「この壁の金剛石が鈴の魔力に共鳴しているんです。どうやら、思った以上に金剛石が多く含まれているみたいです。これなら、当分結界が切れることはないと思います。」

「姉さま、さすがっす!」

「ランダはほんと、なんでもできるんだな・・・」


結界を確かめたところで来た道を引き返し、従業員通路へ。

崖の上からヴクブ・カキシュ便で迷宮の村へと降り立ち、村長宅へ向かう。

村長宅は生協の出張施設になるらしく、すでに数人の職人が内装工事を行っていた。

そこにジョーガサキもいた。


「皆さんおそろいで。そろそろ来る頃だと思っていました。」

「へ?」

「ダリガ・ソロミンさんから護衛の依頼をされたのでしょう?そろそろ、魔導鞄が必要になるかと思いまして。」

「さすがっすね・・・。」


予想通りの言動に、シャムスが呆れたような声をあげる。だが、どのみち必要になるのだ。

安くで手に入れられるなら、そうしたい。

アルマは恐る恐る値段を聞く。


「ちなみに、おいくらで・・・?」

「こちらの携帯用はひとつ3000コルン。容量は大型の背嚢(はいのう)くらいです。シャムスさんは武器をとりだせるよう腰に下げるタイプにしています。他の方は背中に背負うタイプですね。」

「たたたた、高い!すでに予算オーバーなんですけど!」

「普通に買うと5000コルンはしますから格安ですよ。さらにこちらの大型の素材採取用は3万コルン。ですがこちらは、皆さんに差し上げます。」

「ふえ!いいんですか?」

「迷宮騒動の報酬ということでギルドマスターから巻き上げたものですから。牛姫さまにご迷惑をかけたようですので、そのお詫びです。」

「は・・・ははは。」

「では、1万2000コルンですね。お代は借金に上乗せしておきます。」

「ごちっすリーダー。」

「ごちですリーダー。」

「え!まじで?いいのかアルマ。」

「いやいやいや、ちがいますからねマイヤさん!みんなの借金ですからね?」


黒雷蛇の報酬がすべて吹き飛んでしまうことになるが、アルマはとりあえず必要経費と割り切ることにした。

すでに家賃などでいくらか使ってしまったが、ギルドからの報酬も出るという話だったので、ある程度は相殺できるだろう。


「それと。皆さんがここに来たもうひとつの要件はあれでしょう?」


ジョーガサキが中央広場の方を指さす。

見ると、そこには人間の大人サイズの、碑のようなものが建てられていた。


「あれですか?なんです、あれ?」アルマが問う。

「迷宮で亡くなった冒険者を弔うための供養碑です。」


アルマ達が町を離れる前にやっておきたかったこと。

それは、ジナイダたちの慰霊をすることだった。


アルマ達は互いに顔を見合わせ、そしてジョーガサキを見る。

いつも通りの不機嫌そうな表情。

だがアルマはその顔を見て、にっこりと笑った。


「さすがですね。ジョーガサキさん。」


お読みいただきありがとうございます!

総合評価が100ポイントになりましたー!

嬉しいです。ありがとうございます。

ですが改めて、上位にランクインされている方々の偉大さを感じさせられました。


それらの作品に少しでも近づけるよう、これからも頑張ってまいります!

ブックマーク&評価をよろしくお願いします!

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