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4-1 注目の的

新しい章のはじまり、はじまり~

アルマ・フォノンは冒険者生命の危機に瀕していた。


どうしてこうなった。それはもちろん、迷宮の騒動が原因だ。

だが、それがなぜこんなことになったのか。


今、冒険者の間では、ある話題でもちきりなのだ。


「人面牛を率いる戦乙女が、ミノタウロスを一撃で屠ったらしい。」


噂は冒険者たちの間で、瞬く間に広まった。

ジョーガサキのスキルで成長を始めた迷宮が封鎖された影響もあり、暇を持て余し、話題に飢えていた冒険者たちが食いついたのだ。


はじめは、遠巻きに噂されているだけだった。


そもそも冒険者たちの間でアルマは「よくわからないものと交信する危ない子」という認識を持たれていたからだ。それは主に槍マルテのせいなのだが。

しかし、噂が広まり、誇大に伝えられる中で「あれは人面牛と心を通わせていたのだ。彼女は人面牛の使徒なのだ」というよくわからない解釈になってしまったらしい、


結果、アルマは顔も知らない冒険者から「使徒さま。今まで馬鹿にして済まなかった」などと謝られ、さらに意外に話しやすいことがわかると、あちこちの冒険者から迷宮での活躍を語ってくれとせがまれるようになった。


「ミノタウロスを片手で引きちぎったんだって?」

「まだ幼い頃に人面牛に拾われて育てられたんだって?頑張ったなあ。」

「そんなわけないじゃないですか!でたらめです!」

「自分の手柄を誇らないあたり、やっぱり本当に使徒様なのかもしれん・・・。」


留まるところをしらない噂の広まりに恐れをなしたアルマたちは、ほとぼりが冷めるまで冒険者ギルドへは立ち寄らないことにしたのだった。


幸いにして、アルマ達が迷宮騒動に関わる発端となった黒雷蛇の討伐はうまくいった。本来なら多くは持ち帰れない素材も、ジョーガサキの飼育する牛の助けを借りて、余すことなく持ち帰ることができた。

そのため、素材の買取とジョーガサキからの特別報酬を合わせ、アルマ達は1万2000コルンもの大金を手に入れていたのだ。


迷宮騒動後のゴタゴタで期限は過ぎてしまったが、何とか家賃も払うことができた。

ついでだから、思い切って数日間は休暇にして、ずっと手が出せなかった家財道具や調理具、洋服なども充実させてしまおう。


だが、そこでもアルマは注目を集めた。

冒険者たちの噂は、いつの間にか商店主の間にも伝わっていたのだ。

こちらはなんとか「人違いです」で押し通したが、このままではこの町での活動が困難になりかねない。

アルマは、噂が消えるのを心から願いつつ、日々を過ごしていたのだ。


はじめの数日間は買い物で終わった。

次の数日間は、家の掃除やら模様替えで終わった。

だがついに、休暇中も欠かすことなくつづけてきた朝稽古以外にすることがなくなってしまった。


そして、今。

いつもの空き地で、タルガットとアルマ達が向かい合っていた。


(ほぎ)()えよ。(いは)(がね)穿つ天の潅水(みぞぞぎ)勇魚(いさな)となりて(あだなえ)を討て。」


ランダが手に持つ鈴をリンと鳴らし、咒を唱える。

それは、金剛石でつくられたランダ専用の武器。魔法の威力を高める効果を持つ。

魔法で生み出された水の魚が、タルガットめがけて飛んでいく。

タルガットが事も無げにそれを(かわ)すが、躱した先で待ち受けるサカナのシノさんが水弾を飛ばす。


「ち!」


躱すのはムリとみて、タルガットは左手の盾で水弾を受ける。

だがそのせいでタルガットの足が止まる。


「アルマ!任せたっす!」

「了解!」

「甘えぞ!」


足を止めたタルガットに迫るアルマ。

タルガットはそれを右手の剣で払おうとしたが、そこにマイヤがスキルで生み出した盾をあわせて妨害する。


「聖盾!」

「もらったっす!」


同時に背後から、シャムスが飛びかかる。

だが。


「想定済みだよ!」


タルガットは剣を放ってアルマの足を止めると、マイヤが生み出した盾を掴み、振り向きざまにシャムスを打ち据える。


「ぐあっ!」


シャムスを見向きもせずタルガットはアルマへと向かう。


『馬鹿娘、足を狙え!』

「は!引っ掛かるかよマルテ!」

「うりゃあ!」


槍マルテの指示をあえて無視し、腹を狙って突きを繰り出すアルマ。だが、タルガットは難なくそれを躱し、アルマの両腕を掴む。

マイヤとランダはアルマをサポートしようとするが、タルガットの背中にアルマが隠れているため、支援ができない。


「そおれ!飛んでけ!」

「どへえ!」

「うわ馬鹿アルマくるな!」

「雪さん!」


タルガットがアルマを振り回してマイヤの方へと飛ばす。

その瞬間を狙って、ネズミの雪さんが針を飛ばすが、タルガットは軽いステップでそれを躱すと、素早くランダに迫る。


(ほぎ)()えよ。(いは)(がね)穿つ天の潅水(みぞぞぎ)勇魚(いさな)となり・・・」

「ほい、終わりだ。」


ランダの呪文が終える前に、タルガットは雪さんとシノさんの牽制をかいくぐり、ランダの首元に剣を当てる。


「だあああ!くっそお!また負けたー!」

「ぐえっ!」


覆いかぶさるアルマを押しどけて、マイヤが悔しがる。


「マイヤはまだまだ、予想外のことがあると対応しきれないようだな。だが、だいぶ連携もあってきた。そろそろ俺もヤバそうだな。」

「ずっと連勝してるくせに。その余裕がムカつくっす。」


迷宮騒動を経て、アルマ達の朝稽古には変化があった。

マイヤがシャムスに挑んで大負けするのは変わらないが、それ以外にも、複数人同士の対戦など、より実践的なものが増えたのだ。


その最後は決まって、タルガットもしくはエリシュカ対アルマ達。

一度でも攻撃を受けた者はそこで抜けるのがルールだ。

そしてその対戦で、アルマ達はいまだ1勝もできずにいた。

タルガットとはまだ形になるが、エリシュカとの対戦では遠距離から一方的にやられるだけで近づくこともできない。

銀級冒険者との差は、まだまだ大きい。


「さて。それじゃあ今日の稽古はここまでにするが、お前ら今日はどうするんだ?」

「さすがにそろそろ、活動を再開しませんとね。」

「資金に余裕があるとはいえ、まだジョーガサキさんの借金は残ってるっすからね。」

「おう!行こうぜ冒険。あたしに経験を積ませろ!」

『ったく、どっかの馬鹿娘が間抜けなことしてなきゃ、こんな苦労もねえのにな。』

「ななな!ひどいよマルテちゃん!私のせいじゃないでしょ!」

『じゃあ、誰のせいだよ。』

「ジョーガサキさんでしょ!どう考えても。」


そこについては皆も納得しているのだが、アルマが言うと説得力がない。

冒険者たちの間で妙な噂になっているのも、なぜかアルマらしいと思えてしまうのだ。


「まあ、さすがにこんだけ間をあけりゃマシになってんじゃねえか?」

「タ、タルガットさんは良いですけどね・・・。」


タルガットは以前、ハーレムパーティを抱えていると噂され、他の冒険者たちの恨みを一身に集めていた。

だがアルマの話題でその噂は掻き消え、さらには「人面牛の使徒」の指導係ということで感謝までされるようになっていたのだ。


「と、とにかくいつまでもこうしてるわけには行きません!ちょっと怖いけど、冒険者ギルドに行ってみましょう!」


アルマの決断を受けて一行は冒険者ギルドへ。

途中でタルガットが紹介してくれた宿の食堂で朝食をとる。

以前はそれすらぜいたくだったが、これくらいの出費はアルマ達にも出せるようになっていた。


朝食のメニューはパンとスープに生野菜。

パンはとてもやわらかく上等なものだった。聞けばジョーガサキ考案のレシピなのだという。

こんなとこにもジョーガサキの影響があるのかと驚きながらも、みなで食事を楽しんだ。


込み合う時間を避けるため、かなりのんびりと朝食をとった後、いよいよ冒険者ギルドへ向かった。

さすがにこの時間なら、騒ぎになることもないだろう。


だが。期待に反してギルドの扉を開けた瞬間に、集まる視線。


「牛姫だ!牛姫が来たぞ!」

「おお!牛姫!こっちきて一緒に飲もうぜ!」

「牛姫は牛乳だろうが!おい!おごってやるからこっち来いよ!」

「タルガットさーん。私も指導してー!」


アルマ達は互いに顔を見合わせる。


「う、牛姫ってなんぞ?」

「これは多分・・・さらに誇張が進んでいるようですね・・・」

「どこにあるんすか、人面牛の国?」

「あたしが知るかよ!」

『ぶはははは!おい牛姫、みんなに手を振ってやれよ!』


アルマはどうやら、数日の間に姫になってしまったようだ。


お読みいただきありがとうございます!

閑話ネタがいくつかあったのですが、思い切って4章へ。

ちょっとゆるめの章にしたいなあと思っております。

ブックマーク&評価は随時お待ちしております。

ええ随時です。

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