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3-19 宴のあとに

「おおい!こっちの魔物の処理終わったぞー!」

「肉はこっちだ!素材は魔物ごとにそっちに積んでくれ!」

「アマビエ便が来たぞー!運べる素材はまとめろー!」


迷宮の村のあちこちで、冒険者たちの声が響く。

迷宮の変動は、ミノタウロスの轢死によって、ひとまずの区切りを見た。

もちろんこれで終わりという事はないだろうが、危機的な状況は脱したという判断だ。


だが、迷宮の村周辺には多くの魔物の死骸が転がっている。

これを放置すればやがて迷宮に吸収され、再び迷宮が成長するための糧となる。

そのため、冒険者ギルド主導のもとで魔物の素材回収が急ピッチで進められていた。


素材は一旦、そのすべてを冒険者ギルドが買い上げることとなった。

そこで出た利益は、後日、籠城戦に参加した者と素材剥ぎ取りを手伝った者全員に均等に分配される。

これは冒険者同士の無駄な争いを抑えるための判断だ。

しかし、こっそりと素材をくすねる者や参加するふりをしてサボる者も少なくない。

そのため、冒険者ギルドの職員が総出で監督業務にあたっていた。

アマビエやクダンも、荷物の搬送や各階層の巡回で大忙しだ。


「作業が終わったら、そのままここで宴だあ!費用は全部ギルドが持ってやるから、とっとと終わらせろ!」

「おおおおお!」


クドラトの決断に冒険者たちは湧き立ち、作業の速度があがる。

後に楽しみがあれば、頑張れるのが人の心というものだ。

一方で冒険者ギルドの職員は、宴の準備という余計な仕事まで増えて、さらに奔走することになるのだが。


やがてある程度作業に目途が立ち、それと入れ替わりに調理器具や酒などが持ち込まれると、なし崩しに宴へと突入していく。

町で作業を行っていた冒険者やケガの治療を終えた者もタダ飯にありつこうと次々にやってくる。


村の中央広場はあっというまに冒険者たちで埋め尽くされ、さらに耳聡い屋台主などが即席の屋台を持ち込んで、さながら祭りのような騒ぎになっていく。


「だぁーはっは!おらあ、どうした。もっと飲めえ!」


クドラトはミノタウロスを倒せなかった鬱憤(うっぷん)をはらすかのように、誰よりも先に宴モードに突入して、周囲の冒険者と飲み比べを始めていた。


「ジョーガサキでてこい!どこだこの野郎!ちゃんと説明しろ!」


ダリガはエリシュカに絡みながら、時々思い出したようにジョーガサキを探して叫んでいた。

ダリガが下水溝の防衛を頼んでいた金級の冒険者たちはダリガの酒癖の悪さを知っているのか、少し離れたところで楽しんでいるようだ。


亡霊の血縁者たちも再び迷宮の村に戻ってきていた。

朝あった時はまだ人の形をしていたのに、今は妖怪。変わり果てた姿になってしまったことに顔をひきつらせながらも、亡霊たちとの会話を楽しんでいる。


亡霊たちはさらに嬉しそうだった。

これまでずっと、誰からも必要とされず、ひっそりと生きてきたのだ。ましてや目の前にいるのは、かつて自分が愛した者であり、あるいはその孫であり、ひ孫であるのだ。

これまでのすべての苦労が報われる思いであろう。


「なんだか、すごいことになってんなあ・・・」


タルガットとマイヤは、村を囲む防壁代わりの倒木に座って、その様子を眺めていた。

アルマ達はミノタウロス討伐の後、黒雷蛇の素材を回収していなかったことを思い出し、パーティ全員で10階層へと戻ったのだ。

黒雷蛇の死骸はまだ残っていた。だが通常よりも強い個体になっていたので素材の回収に手間取り、再び村に戻ってきた時はすでに宴会が始まっていた。

マイヤは呆れた口調で言う。


「冒険者ってのは、いっつもこんな感じなのか?」

「こんなことばっかやってたら幾つ体があっても保たねえよ。つか、こんなのは俺も初めてだよ。」

「そっか・・・そうだよな。」

「どうした?冒険者やめたくなったか?」


タルガットがマイヤを見る。マイヤはそのまましばらく村の様子を見ていたが、やがてタルガットに向き合い、こういった。


「いや・・・逆だよ。もっと、ちゃんと冒険者のことを学びなおしたい。」

「・・・そっか。」

「だからタルガット。これからはもっと厳しく鍛えてほしい。」

「ああ。わかった。」


そこにアルマとシャムス、ランダがやってくる。

アルマの背後にはおっさん幽霊ジナイダの姿も見える。


「おおい!料理もらってきたよー!」

「タルガットさんにはお酒もありますよー!」


大皿を抱えてヨタヨタ近づいてくるアルマを見て、タルガットが言う。


「ワクワク担当がいるからな。このパーティだと苦労するぞ?」

「ああ、わかってる。楽しみだぜ。」


マイヤは笑顔で答える。そしてアルマ達が来るのをまって、頭を下げた。


「改めて、迷惑かけてごめんなさい!それと、で、できればこれからも、このパーティに入れてほしい!お願いします!」


アルマ達は呆気にとられたような表情を一瞬浮かべたが、すぐ笑顔になる。


「前衛の席はもう埋まってるっすよ?」

「ああ、支援でいいぜ!支援を極めてやる。だが、いつかお前らから前衛の座を奪ってやるぜ!」

「うふふふ。歓迎します。」

「わはー!よおし。それじゃあ今から歓迎会だー!」

『たく。また面倒なのが増えやがった。』


そうして、賑やかに時が過ぎ。

宴に参加していた者は、一人減り、二人減り。

残った者の多くも、村のあちこちで船を漕ぎだした頃。


「そういえば、おっちゃんの知り合いは見つからなかったんだね。」


静かに村の様子を眺めていたジナイダにアルマが話しかける。


「ああ、そうじゃな。そもそもわしは、ラスゴーの出身ではないからな、初めから期待はしておらんかったよ。」

「そっか・・・。」

「んむ。それよりも、村のみんなの、あんなに楽しい笑顔が見れたんじゃから、それで十分じゃよ。」

「おっちゃん・・・。」

「・・・ああ。楽しかった。まさかこの村が、こんなに活気に満ちる日がくるとはのう。」

「おっちゃん、どうしたの?」

「いや、なんでもない。さて、そろそろ嬢ちゃんたちも眠かろう。家に戻ろうかのう。」


そうして宴の夜は更け。アルマ達は村長宅に戻っていた。

ただ一人。ジョーガサキの姿だけは、最後まで見ることはなかった。


翌日。

残った素材の回収を行って、冒険者たちは一人、また一人と迷宮の村を去っていく。

夕刻を過ぎた頃、ようやくすべての作業が終わった。

アルマ達は、最後まで素材の回収と搬送を手伝った。


そして今。

村の中央広場には、アルマ達とタルガット、エリシュカ、村人の亡霊が集まっていた。

なぜか、ギルドマスターのクドラト、サブマスターのダリガもいる。


「おい。これはどういう集まりだ。」クドラトが威嚇するように言う。

「ああ、すまんのう。みんなに話したいことがあってのう。じゃが、あと一人来るんじゃよ。もう少し待ってくれんかのう。」


訳も分からず、ぼんやりと待つ一同。

ついにクドラトがしびれを切らすというそのタイミングで、ジナイダが立ち上がった。


「どうやら、来たようじゃよ。」


ジナイダが村の入り口を見る。そこから、馬の蹄が地面を叩くような音が聞こえてくる。

やがて姿を現したのは、牛6号に乗ったジョーガサキだった。

牛6号の頭のうえには、ヌアザ神とケリドウェン神の姿も見える。


「・・・皆さんお揃いで、どうしたんですか?」

「ああ、わしが声をかけて残ってもらったんじゃよ。」

「おいじじい。何企んでやがる?」クドラトが声のトーンを下げる。

「カラカラカラ。まあ落ち着いて。それよりジョーガサキくん。何か成果はあったかのう?」

「・・・なんのことですか?」

「クドラトくんとダリガくんと計画した作戦は、うまく行きそうかときいておるんじゃが?」

「じじい黙れ!」


いきり立つダリガ。だがジナイダは気にする素振りも見せない。


「ダリガくん。嬢ちゃんたちも結末を知りたいじゃろうよ。そもそもこの迷宮騒動をもってきたのは、彼女たちなんじゃからのう。」

「ちょっとちょっと!話が見えません!どういう集まりですかこれは?」

「んむ。まあ順番に説明するから聞いておくれ。」


意味がわからないと騒ぐアルマをジナイダがなだめ、話し出す。


それは、今回の作戦の最後の「要」についてだった。


迷宮がいつ成長するかわからない状況では、冒険者たちの行動を制限することは難しい。

だから、ジョーガサキはまず、避難誘導役として妖怪を仕立てることを考えた。

そして次に考えたのは、「迷宮の成長をいかに早く終わらせるか」ということだ。


「ジョーガサキくんは、自らの固有スキルである【育種】を使うことを考えた。」

「・・・・・なぜそれを?」ジョーガサキが不機嫌そうに言う。

「ヌアザ様とのやり取りを聞いてなんとなく、かのう。」

「え?え?どういうこと?」


【育種】は対象の生長を促すスキル。

それを使えば、迷宮の成長を早々に終わらせることができるかもしれない。うまくいけば、ジョーガサキの思いを強く反映した形で。

それが、ジョーガサキがクドラトとダリガに話した計画のすべてだ。


「あ~。だからジョーガサキくん、昨日は珍しく弓なんか持ってたのね~。」

「ジョーガサキくんの【育種】が発動する条件は、対象に餌を与えることじゃろう?じゃから、魔物を殺した。じゃが、籠城戦ではスキルは発動せんかった。」

「おっしゃる通りですね。私のスキルは、迷宮には通用しないようです。」

「いや違う。もう一つの条件が満たされておらんかったからじゃ。それは、『対象の名前を呼ぶこと』じゃろう。」

「・・・・・。」

「じゃから、ジョーガサキくんは今の時間まで迷宮内を駆けずり回っておった。恐らく、最下層にまで行ったかな?じゃが、ヌアザ様やケリドウェン様の御力をもってしても、迷宮の真名を知ることは叶わんかった。」

「え?昨日からずっと?あ!だから宴の時はいなかったの?」


ジョーガサキは嫌そうな顔をさらにしかめる。


「だとしたら、なんだと言うのですか?」

「わしは知っておるよ。」

「え?」

「この迷宮の真名じゃろ?わしが知っとる。」

「教えていただけるのですか?」

「もちろんじゃ。じゃがひとつ、条件がある。」

「・・・・なんでしょう?」

「迷宮の餌には、ここにいるわしら村人を使うてほしい。」

「え?え?ちょっと、おっちゃん何言ってるの?だめだよそんなの!」


迷宮の餌となるのは、人の血や肉、そして魂。さらには魔物や魔石なども含まれる。ジョーガサキは、今回の籠城戦で集めた魔石を使うつもりでいた。

それは、クドラトやダリガにも伝えてある。


「それじゃだめじゃよ。」

「なにがだめなんですか?」

「前に話したじゃろう。迷宮は、吸収したものの『思い』を強く反映する。ただ魔石を使ってもダメ。魔物を討伐しまくってもダメじゃ。人を思う心をもった者を餌にせんとなあ。」

「だ、だからってそんな。おっちゃんたちが犠牲になる必要はないよ!」


食い下がるアルマに、ジナイダは笑顔で答える。


「ありがとう嬢ちゃん。じゃがな、わしらはもう十分に生きた。ジョーガサキくんのおかげで、最後に多くの者たちが家族に会うことすらできた。思い残すことはもう、何もないんじゃよ。」

「だからって!」

「それになあ。このまま永らえても、わしらはいずれまた自我を失う。中には、孤独に耐えかねて悪霊になってしまう者もでるかもしれん。今、まさに今が終わりの時なんじゃよ。」

「そんな・・・。」

「こうやって魂を使ってもらえるのなら、それこそ、今までここで永らえた意味があるというものじゃ。ここにいる皆、その思いでここにおる。」

「だって、なんか他の方法だって・・・」

「アルマはん。それ以上は言うたらあかんよ。」


ヌアザ神が、優しくアルマを制した。

誰も言葉を発することはできなかった。

だがやがて、クドラトががしがしと頭をかいて、口を開く。


「ジョーガサキ。ギルドマスター命令だ。彼らを送ってやれ。」


そして村人たちに向き直り、深く頭を下げた。


「すまん。あなたがたの命、使わせていただく。」


お読みいただきありがとうございます!

ブックマーク&評価をいただけると嬉しいです。

あとほんのちょっとだけ、3章は続きます。

週末に書き上げられればと思っております。頑張ります!


※誤字修正しました・・・

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