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3-18 件

※後書きに補足をついかしました。

迷宮の成長期には、凶兆を知らせる妖怪が現れる。


そんな噂が、ある日を境に冒険者たちの間で(まこと)しやかに囁かれるようになった。

それは、「迷宮が成長期に入る可能性がある」という注意喚起が冒険者ギルドから出された日からだ。


曰く、

人面牛身の妖怪、クダン。

人面猿身の妖怪、アマヒコ。

人面鳥身の妖怪、アマビエ。

その姿は異なれど、これらはいずれも凶兆を知らせてくれる妖怪であり、討伐してはならない。もし現れたら、彼等の忠告に従うべし。


もちろんこの噂は、ジョーガサキが指示し意図的に広めたものだ。

ジョーガサキの知識にある妖怪とは多少特長が異なるが、そんな妖怪はこの世界にいないので仕方ない。

討伐すべき「魔物」と、討伐してはいけない「妖怪」。

その線引きができれば、ジョーガサキとしてはそれで良かった。

ちょうどギルドの注意喚起と時期が重なったこと、そして、あえて姿の異なる3種類の妖怪の噂を流したことで話題に上る機会が増え、その噂は瞬く間に広がっていった。


そして、現在。迷宮の浅層部では。


「おい、なんかさっきから魔物の数が多くないか?」

「ああ。それに突然強くなったような気がする。」

「今日はやけに震動も多いしな。て、あれはなんだ!」

「人面の・・・猿?」

「我はアマヒコ。冒険者よ。この迷宮でまもなく大きな(わざわい)が起きるだろう。今すぐ立ち去れい。さもなくば、我がとって食うぞ!」

「うわああ!妖怪だ!妖怪が出たああ!」


迷宮の中層部では。


「どの魔物も異常に強くなってやがるぞ!どうなってやがる!」

「これって、迷宮が成長期に入ったってことじゃないの?」

「ああ、たぶんな。だがどうする?俺たちの力じゃ戻ることもできないぞ。」

「おい!あれはなんだ!」

「我はクダン。冒険者よ、我について参れ。ケガ人は我の背に乗せよ。」

「え?クダンって、あの噂の?ほ、本当にいたのか!」

「だが、ありがてえ。これで出られるぞ!」


また、迷宮の深層部では。


「うわああ!冗談じゃねえぞ!こんな奴に勝てるかああ!」

「逃げろ!撤退だ、ケガ人に手を貸せ!」

「無理だ!逃げ切る前に追いつかれるぞ!」

「俺が時間を稼ぐ。その隙に・・・て、あれはなんだ!」

「と、鳥の群れが魔物を襲ってる?」

「違うよく見ろ。あれは人面鳥だ!アマビエだ!」

「我はアマビエ。冒険者たちよ。我らの背に乗るが良い。安全な場所まで送ってやろう。」

「鳥がしゃべったあああ!!」


浅い層にいた冒険者たちはアマヒコの誘導でそのまま出口へ。

中層と深層にいた冒険者たちは、クダンとアマビエの誘導で迷宮の村へ。

こうして、迷宮内にいる冒険者たちは、次々と安全な場所へと誘導されていった。


それは、当初からジョーガサキの計画に含まれていたものだった。

迷宮の魔物を使えば、パニックになった冒険者に討伐されてしまう。

ジョーガサキの飼育する牛を使えば、コミュニケーションが取れない。

そこでジョーガサキは、冒険者の避難誘導役として「妖怪」をでっちあげることにした。


では、妖怪役をどこから連れてくるか。

ジョーガサキはまず、おっさん幽霊ジナイダに聞き取り調査を行った。そして、かつて自我を持っていた亡霊の名前や特徴を聞きだし、その子孫を探すことにしたのだ。

血縁者と面会させることで記憶を刺激し、亡霊たちの自我を取り戻させるのが狙いだ。

ラスゴーの町を離れた血縁者も多いだろうが、まだ町にいるのであればすぐに見つけ出せる。

何故ならジョーガサキは、ラスゴーの町の住民のほとんどを記憶しているからだ。

ジョーガサキは血縁者の調査と交渉を3日で終わらせた。


そして4日目。

集まってもらった血縁者とともに、迷宮の村へ。


自我を失った亡霊が、血縁者との接触により再び自我を取り戻すかは賭けだった。

念のために記憶を刺激する薬草サリムサクまで用意したが、もしダメだった場合は、ジナイダ、ヌアザ、ケリドウェンに頑張ってもらうことになる。

幸いなことに、賭けには勝った。

血縁者の呼びかけが功を奏したのか。あるいは迷宮が「動いた」ことで彼らも活性化したからか。とにかく亡霊たちの多くが自我を取り戻したのだ。


だがそこで、予想外の事態が起こる。

迷宮が大きく震動をはじめたのだ。

ある男が「迷宮に血と肉を捧げた」ことによる人為的なものだということが、ケリドウェン神からヌアザ神を介して、ジョーガサキに伝えられる。


「喜ばしい出会いに水を差して申し訳ありませんが、緊急事態です。いま、この迷宮は成長期に入りつつあり、迷宮内にはまだ多くの冒険者がいます。そこで、皆さんにやっていただきたいことがあるのです。」


ジョーガサキが亡霊たちに説明する。

それは、迷宮の森周辺にいる魔物に憑依して「妖怪」となり、冒険者たちを誘導するというものだった。


こうして、「妖怪」たちは迷宮の各所へと動き出す。

どの階層にどのくらいの人数の冒険者がいるかはジョーガサキがおおよそ把握している。

もちろんそれはおおよそでしかないし、ギルドに報告を出していない冒険者もいる。

そこでジョーガサキはアルマたちの元へジナイダを向かわせる。

彼等にさまざまな階層にバラけてもらい、ヌアザ神とケリドウェンの中継を通じて状況を把握するのだ。


「タルガットさんは25階層、アルマさんは20階層。シャムスさんは15階層、マイヤさんは5階層、ランダさんは2階層へ。」


そして、各階層から続々と冒険者たちが集められ。

そこで彼らは大量の倒木が城壁のように積み上げられた、迷宮の村を目の当たりにすることになる。

その冒険者たちのなかには、町の下水溝から駆け付けたダリガとエリシュカの姿もあった。

2階層の従業員通路を抜けて、崖の上からヴクブ・カキシュに運んでもらったのだ。


「一体、何事なのだこれは・・・。」

「うふふ、ジョーガサキくんらしいわ~。」


ダリガたちは混乱しながらもギルドマスターのクドラトとジョーガサキの下へ向かう。


「だっはっは!よおし、作戦はうまくいっているようだな!」

「声が大きい。あと近いです。」

「よおし!そんじゃあ始めようか!籠城戦だ!ケガ人と戦えない者は町へ戻れ!遠距離攻撃ができる者は防壁代わりの倒木の上へ!回復魔法ができる奴は村の中央へ!それ以外は村の入り口だ!」


クドラトが矢継ぎ早に指示を飛ばし、魔物たちとの戦いが始まる。

クダンとアマヒコが魔物たちを村へと誘導する。

戦えなくなった者はヴクブ・カキシュならぬアマビエの搬送で迷宮2階層へ運ぶ。

同時に冒険者ギルドからは新たな戦力が送り込まれる。


なかでも一際奮闘しているのは、ギルドマスターのクドラト。

そしてサブマスターのダリガであった。

防壁の上から弓での攻撃を行いながら、エリシュカがジョーガサキに言う。


「うふふ~。ダリガったら、久しぶりにマスターと一緒に戦えるもんだから、はりきっちゃって~。」

「張り切るのはいいですが、配分を考えてもらいたいものです。まだまだ魔物は来ますし、迷宮の成長がこれで止まるとも思えません。」

「そっちも何か対策を考えてあるんでしょ~?」

「ええまあ。そうだ、エリシュカさん。念のため、数人の冒険者を連れて2階層へ回ってください。」

「2階層?」

「そこでランダさんに結界を張ってもらいます。皆さんが見つけた、新しい通路です。」

「ああ、なるほど~。そこが下水溝につながりそうなのね~?」

「はい。」


エリシュカと別れたジョーガサキは、ヌアザ神とケリドウェン神を通じて指示を飛ばす。


「タルガットさんはそのまま魔物を引き連れ、村まで誘導を。アルマさん、シャムスさん、マイヤさんは魔物は無視して残された冒険者の捜索をお願いします。ランダさんは結界の準備を。」


そしてジョーガサキは弓を構える。


「これで足りればいいのですが・・・。まったく、これだから冒険者は嫌なのです。」


その後も、籠城戦は安定して進められた。

籠城と言っても疲弊すればすぐ冒険者ギルドに戻れる。また、冒険者ギルドからの増援も次々とやってくる。精神的な負担は少ない。

と、その時、人面牛に乗ったタルガットが魔物の群れを引き連れて現れた。

その群れの中に、ひときわ目立つ魔物がいる。


「ミノタウロスだ!ミノタウロスがでたぞ!」


誰かが叫ぶ。

ミノタウロスは25階層に現れる。30階層からなるラスゴーの迷宮ではかなり上位の魔物だ。

牛頭人身。だが身の丈は大人2人ほどもあり、尋常ならざる膂力(りょりょく)を持つ。

そして鋼のような肉体は、物理攻撃にも魔法攻撃にも強く、生半可な攻撃では傷一つつけられない。


「がははははっ!まっとたぞおおお!」


クドラトが叫ぶ。

ミノタウロスの討伐。それがジョーガサキがクドラトに頼んだ「もう一つの頼み」だった。

迷宮が成長期に入って魔物が強力化した場合、もっとも脅威になるのがこのミノタウロスだとジョーガサキは考えていた。

なぜなら26階層より下の魔物は体格が大きすぎて、浅い層には上がってこれないからだ。

本来なら迷宮が成長期に入る前に討伐してしまいたかったのだが、こうなっては仕方ない。

もちろん策はある。


「どいてくれ!」


タルガットが人面牛に乗ったまま、町の中へ入る。

すぐさまクドラトとダリガが入り口の前に立ち、迫りくる魔物たちに向かい合う。

だがジョーガサキは、ケリドウェンを通じて別の指示を出す。


「アルマ・フォノンさん、今です。お願いします。」

「アルマはん。ほないくで!」

「ほ、本当にやるんですか?」


そこで冒険者たちは見た。

人面牛の群れを。そして、その群れの先頭で一際巨大な人面牛に乗る少女を。

その絵面は強烈で、つい先ほどタルガットが人面牛に乗っていたことを忘れさせるほどだった。


「なんかこれ、絵面的にヤバイ気がするんですけど!!!」

『ぶははは!いいじゃねえか!お前、最高に輝いてるよ!』


牛頭人身の魔物ミノタウロスvs人頭牛身の妖怪クダンの軍団。

その勝敗は一瞬でついた。


「グモォオオオオオ!」


圧倒的な物量で襲い掛かるクダンの群れにミノタウロスは手も足も出ず、周囲の魔物諸共にあっという間にその群れに飲みこまれてしまう。

ミノタウロスの登場を今か今かと待ち構えていたクドラトはその様子を呆然と見つめ、そして叫ぶ。


「何じゃそらああああ!!」


こうして迷宮の村での籠城戦はわずか一日で、ミノタウロスの轢死で幕を閉じたのだった。


お読みいただきありがとうございます!

昨日の時点で半分ネタバレしていたようなものですが。。。


ブックマーク&評価、ありがとうございます!

うれしいです。本当に、モチベーションにつながっております!

もっともっと面白くしていきますので、応援よろしくお願いします!


※※※補足※※※

本編中にでてくる妖怪は、実際に伝承に残されているものとはずいぶん容姿が異なっております。

ジョーガサキさんはあくまで名前を使っただけという認識のようですが、一応補足しておきます。


クダン(クダベ)は表記通り人面牛身の妖怪ですね。

人+牛=件だそうです。なるほどー。

アマヒコ(アマビコ)は猿のような容姿の、3本足の妖怪。

みんな大好きアマビエさんは鳥のような嘴とサカナのような体。

いずれも諸説あるそうです。

他にも神池姫とか白澤とかほうねん亀とか、妖怪にも色々あるんですねー。


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