表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/155

3-17 シャムス

初めて会った時からマイヤのことは気に入らなかった。

タルガットに憧れていることを隠そうともせず、タルガットのようになるためにひたむきに努力して、自分自身のことなど(かえり)みない。


それはまるで、かつて姉の様になりたいと願った、もう一人の自分を見ているようだった。


巫女としての高い才能を認められていたランダは、村の子どもたちの憧れだった。

幼い頃から厳しい修行を課され、同じ日に生まれた双子でありながらもランダは姉という立場になった。両親もまた事あるごとにランダをたてた。

だがそんなことは気にならなかった。シャムスもまた、ランダを誇りに思っていたから。

自分も姉さまのように誰からも認めれる存在になりたい。そう思うこともあったが、ランダになることはできなかった。


だから、ランダを守れる戦士になろうと思った。

そのために、努力もした。

だが村は魔物に襲われ、自分は戦うことすらできずに村は滅んだ。


無力さを思い知らされ、心を失いかけた時に助けてくれたのは、ランダだった。

姉さまはやっぱりすごい。そう思った。


次に目指したのは、魔獣から自分たちを助けてくれたタルガットだった。

戦士になるための修行だけでは足りない。足りない分を補いたかった。

だが、学べば学ぶほどに、力量と経験の差を見せつけられた。

必死に自分の在り方を探して、ようやく自分の役割が見えてきたかと思った頃、ランダがケガを負った。


だがランダは、それを自分のせいだと言ってシャムスに謝った。

自分は弱い人間なのだと、その心に深く残る傷跡をさらけ出して見せた。


その時にすべてが変わった。

姉さまも私とおんなじなんだ。できることもあれば、できないこともある。

思えば私は、自分に足りない部分だけを見て、卑屈になり、ふらふらと生きてきた。

姉さまに憧れ、戦士を夢見て、冒険者をめざして。


だけど。


その中でもずっと変わらない思いもあった。

それは、目の前にいるこの人と並び、この人を守ることだ。


だから。


今。この場で。かつての自分に示してやらねばならない。

今の自分の在り方を。今の自分の生き方を。


『アルマ!お前の攻撃じゃ胴体は大したダメージにならねえ!目か尻尾を狙え!』

「あいあいさー!」

(ほぎ)()えよ。()(すず)なる(まな)()二十重(はたえ)の羽羽矢となりて(あだなえ)を討て。」

「尻尾気を付けろ!来るぞ!」


パーティのメンバーが必死に戦っている。そこにシャムスが加わる。


「おらああああ!」


シャムスが黒雷蛇の鱗を砕く。砕く。砕く。

黒雷蛇は激しくのたうち、尻尾を振るう。だがシャムスは避けようともしない。


「くそっ!聖盾!」


マイヤの生み出した盾が黒雷蛇の尻尾の軌道を変化させる。

続けざまに黒雷蛇が大口を開けて襲い掛かる。シャムスがそれを躱したところで、アルマがその目を狙って攻撃する。


「ジュラアアアア!」

「おいマルテ!得意の音真似攻撃がねえぞ!」


タルガットが盾を拾いながら叫ぶ。


『ああ?蛇にゃ耳はねえだろが!』

「蛇は全身が耳の代わりだ。音には人間よりも敏感だぞ!」

『そうなのか?へへへ、そういうことならいっちょ・・・』


地鳴り、風、火、黒雷蛇自身が放つ威嚇音・・・マルテは黒雷蛇の反応を伺いながらさまざまな音を出し、翻弄する。

その隙をついて、全員で少しずつ黒雷蛇にダメージを与えていく。

目まぐるしく変化する状況についていけなくなった黒雷蛇が、苦し紛れに魔法の矢を生み出す。アルマとシャムスが咄嗟に位置を変える。


「聖盾!」


マイヤが盾を生み出して特に危険そうな攻撃を防ぐ。

そこでマイヤは気づく。

黒雷蛇の攻撃が「ちゃんと見えている」ことに。

それはアルマ達前衛陣が、マイヤやランダの位置をきちんと把握してくれているからなのだと。

自分を信用し、自分に役割を与えてくれているのだと。


「マイヤ!いくっすよ!」


そして、シャムスは黒雷蛇めがけて走り出す。


「ゆらゆらと(ふる)え水の竜。どうどうと唸れ土の竜。その根源たる力は信。我が信念に従い、堅牢なる枷となれ。」


泥縄が三度、黒雷蛇の体を拘束する。

マイヤは最大限の魔力をその泥縄へと注ぎ込む。


シャムスは走る。その手に力が入る。

その瞬間、シャムスの腕が光を発して変化する。

それは獣人の中でも、戦士と呼ばれるものだけが手にする力。人族からは獣身化と呼ばれ、シャムスのいた村では精霊降ろしと呼ばれる技。

その効果は、ステータスの上昇。体の一部を獣の様に変化させることで、わずかの時間、力が大幅にあがるのだ。


「死ねええ!!」


シャムスが左手の斧で黒雷蛇の頭部を穿つ。深く刺さった斧は、それでもまだ命には届かない。


「これでどうだああ!!」


右手の斧で頭部に刺さった斧を打ち付ける。三度。四度。

ビクンと黒雷蛇が激しく震え、その反動で泥縄ごとシャムスが弾き飛ばされる。


最後の力を振り絞り、黒雷蛇が大きく身を起こしシャムスを()めつける。

タルガットがシャムスの前に躍り出て、大楯を構える。

そこに響くのは、緊張感をそぐような間の抜けた掛け声。


「マルテちゃん、いくよー!そりゃあああ!」

「ちょ、馬鹿!し、シュー!!」


アルマが投げた槍マルテが、黒雷蛇の残された目に突き刺さる。


「ジュラアアアア!!!」


両眼をつぶされた黒雷蛇は激しく威嚇音を出しながら大きく天を仰ぎ、そして、音を立てて大地にその身を投げうち、息絶えた。

勝ったのだ。アルマ達は黒雷蛇の討伐に成功した。


「やったか・・・?」


まだ緊張を解いてないタルガットをよそに、アルマが叫ぶ。


「やったああああ!倒したあああ!マルテちゃんすごいよ!」

『テメェ、馬鹿娘!後で説教だ!』

「え!なんで!」

「こっちもっすよアルマ!何おいしいとこもっていってんすか!私の見せ場だったっしょ!」

「ええええ、シャムスちゃんも!てか、シャムスちゃん最後のなに?超かっこよかったんですけど!」

「そのかっこいいの台無しにしたのはアルマっすよ!」

「え!毛深い!シャムスちゃん手が毛深いよ!!」


直前までの緊張感などなかったかのように騒ぎ出すアルマとシャムス、マルテ。

その様子を呆気にとられた表情で見つめるマイヤ。

そのマイヤの元にランダが近寄る。


「なんとも締まらない終わり方でしたけど。無事、討伐できました。支援、ありがとうございます。」

「ランダ・・・。いや。礼を言うのはこっちだ。迷惑かけてごめん。助けてくれてありがとう。それと。」

「なんでしょう?」

「お前ら全員、めちゃくちゃかっこよかった。パーティってすげえな!」

「ふふふ、ありがとうございます。でも最後のはアルマさんとシャムスに言っちゃだめですよ?調子に乗りますから。」


そしてランダとマイヤは、握手を交わした。

最後まで緊張を保っていたタルガットはその様子をみて、ようやく緊張を解くと、ため息をひとつ。


だが、これで終わりではなかった。

再び迷宮全体を激しい震動が襲ったのだ。

咄嗟に姿勢を低くして身構える一行。今回の鳴動では、大きな変化はないようだ。黒雷蛇が蘇るような気配もない。

しかし、震動が起きる間隔は次第に短くなっている。安心するわけにはいかない。


「どうもヤバいな。迷宮が成長期ってやつに入りかけてんじゃねえのか?」

「えええ!まずいですよね?」

「そういえば、アルマさん、ジナイダさんは憑りついてないんですか?」

「あ、そういえば村に置いてきちゃったかも。」


と、その時。まさにそのおっさん幽霊ジナイダの声が聞こえてきた。


「おおい、嬢ちゃん!大変じゃあ!」

「おっと噂をすれば・・・て、あれ?牛6号?」


声がする方を振り返る一同。だが、そこで一同が見たものはものすごい勢いで迫りくる牛の群れだった。

その先頭を走る巨大牛はジョーガサキが飼育する牛6号のようにみえる。そこに、肝心のジナイダの姿は見えない。

だがその理由は、牛たちの姿がはっきり見えるにつれて明らかになる。


「嬢ちゃん!迷宮が成長期に入るぞお!」

「って、おっちゃん、その姿どうしたの!」


そこにいたのは、牛6号の巨大な体躯におっさん幽霊ジナイダの顔を持つ、「人面牛」であった。


お読みいただきありがとうございます!

すみません!なんかこんな展開ですみません!


それでも、ちょっとでも面白いと思われたらブックマーク&評価をお願いいたします!

※誤字修正いたしましたー!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ