3-16 反撃
数十秒にも及ぶ迷宮の震動。
それと同時に、何か黒い靄のようなものが黒雷蛇へと集まるのをマイヤは見ていた。
そして、黒い靄が黒雷蛇に吸収されるのに伴って、その存在感が大きく増すのを。
「なんだったんだ、今の?」
「ギルドで張り紙が出てたろ、迷宮が成長期に入るかもってよ。」
「やべえな。とっとと黒雷蛇仕留めて町に戻った方が良さそうだ。」
男たちが何か話しながら黒雷蛇に近づく。
いけない、そっちに行ってはいけない!
マイヤが注意する間もなかった。
バツンッ!
黒雷蛇を拘束していた泥縄は、いともたやすく弾け飛んだ。
「うわっ!こ、拘束が解けたぞ!」
「てめえ!ハメやがったな!」
「ちがう!あたしじゃない!」
「いいから早く!もう一回拘束しろ!」
「ゆらゆらと奮え水の竜。どうどうと唸れ土の竜。その根源たる力は信。我が信念に従い、堅牢なる枷となれ。」
先ほどのよりも更に多く、強力な泥縄が現れ黒雷蛇を拘束する。
男たちがそれぞれの武器で拘束された黒雷蛇を攻撃する。
さすがにマイヤよりもはるかに強い攻撃。だが、それでも鱗を破り、わずかに肉を抉るのみ。
「なんだこいつ!めちゃくちゃ固えぞ!」
「とにかく削れ!削れ!」
「ジュラアアアアッ!!」
体が動かないと見るや、黒雷蛇は雷の矢を生み出した。
「あぶない!!」
マイヤが叫ぶ。男たちに遮られていて、魔法の矢を確認するのが遅れてしまった。
「ぐあああ!」
黒雷蛇の魔法を受け、男が一人吹き飛ぶ。
かろうじて盾で受けたように見えたが、吹き飛ばされた男はピクリとも動かない。
「馬鹿野郎!支援もまともにできねえのか!」
「う・・・あ・・・。」
男に叱咤され、マイヤは委縮する。
どうしよう自分のせいだ。自分のせいであの人は・・・。
だが、マイヤの思考を男の悲鳴が遮る。
見れば新たな魔法の矢が男を狙っていた。
「おい盾だ!早くしろ!」
「くっ!聖盾!」
マイヤはなんとか聖盾を生み出して魔法の矢を防ぐ。
自分がなんとかしなければ。マイヤは必死に魔法とスキルを操作する。
「ひぃいいい!こ、こんなのやってられるかよ!」
「おい待て!ずりぃぞ!」
恐慌状態に陥って逃げ出す冒険者二人。予想外の動きに、マイヤの集中が乱れる。
バツンッ!
再びはじけ飛ぶ泥縄。
自由を取り戻した黒雷蛇がその尻尾を大きく振り回し、逃げ出そうとした冒険者をまとめて吹き飛ばす。
「ジュラアアアア!!」
再び対峙するマイヤと黒雷蛇。
「うあ・・・・。」
ああダメだ。マイヤは黒雷蛇の双眸に射すくめられてしまったかのように動けない。
黒雷蛇はマイヤの心を見透かすかのようにジッと見つめ。
そして妙にゆっくりと、グバッとその口を開き。
何の予備動作もなく、突然マイヤを丸呑みにしようと襲い掛かる。
ああ、死んだ。
だが、その瞬間。マイヤの顔のすぐ横を掠めて、何かが黒雷蛇に飛んでいく。
そしてその物体は、一つが黒雷蛇の目に。もう一つはその口の中へと飛んでいく。
「ジュラアアアア!!!!」
「何をボケっとしてるんすか!」
「え?あ・・・」
それは投斧と投げナイフだった。
振り返ると同時に通り過ぎる人影。それはシャムスだった。
「マイヤ!無事か!」
「あ・・・タ、タルガット?」
「話はあとだ!アルマ、シャムスを手伝え!ランダ支援だ!」
「「はい!」」
「あ・・・あ・・・。」
「よく持ちこたえたな。いいから落ち着け。深呼吸しろ。」
「タルガット・・・あ、あたし・・・」
「いい、何も言うな。俺が悪かった。悪いのは俺だ。」
「でもあたし・・・あたし・・・」
「だから謝るな。今は一緒に黒雷蛇を倒すんだ。できるな?」
「え?でもあたしの魔法じゃ・・・。」
「問題ない。俺たちが一緒だ。いいか?よし、じゃあまずは聖援を全員にかけろ。」
「う、うん。」
そう言うとタルガットはアルマ達の元へと走り出す。
謝ってる場合じゃない。後悔してる場合じゃない。今、あたしにできることをしないと。
「聖援!」
マイヤが全員に聖援をかけ、魔法防御力を高める。
「シャムス!アルマ!よく抑えた。おらあああ!」
タルガットが突進する勢いのまま、渾身の力を込めて剣を振るう。その剣は鱗を断ち割り、深く黒雷蛇の体に食い込む。だがタルガットの一撃ですらその胴体を断ち切るには足りない。
「ジュラアアアア!」
『アルマ下がれ!』
「了解―!こいつ固すぎ!」
「祝給えよ。五鎮なる真火、二十重の羽羽矢となりて敵を討て。」
「ついでにこいつを食らえっす!」
タルガットが、アルマが、ランダが、シャムスが次々と黒雷蛇に攻撃を加えていく。だが、それでも、黒雷蛇の命には届かない。そして、その激しい攻防に、マイヤだけがついていけない。
黒雷蛇が大口を開けてタルガットに襲い掛かる。
タルガットは大楯をその口に押し込み、つっかえ棒にする。
異物を口に押し込まれて激しく黒雷蛇がのたうち、雷の矢をあたりかまわず射ちはじめる。
「マイヤ!聖盾だ!」
「え?あ、はい!」
だが雷の矢を射つ速度が速く、マイヤは対応が追い付かない。タルガットたち前衛はのたうち回る黒雷蛇に近づくこともできない。
「マイヤ!聖盾はいい!さっきの拘束魔法をもういっかいだ!」
「え?で、でも・・・」
マイヤは動けない。一瞬にして拘束を解かれ、男たちが吹き飛ばされたのがまだ脳裏に焼き付いているのだ。
それを見て、シャムスが動き出す。
「タルガットさん!ちょっとだけ時間くださいっす!」
「お?おう!」
そしてシャムスはマイヤの前に立つ。
咄嗟にマイヤは殴られるのかと思って身構える。
だがシャムスは殴ることなく、マイヤに話しかける。
「マイヤ。」
「・・・・・。」
「このパーティで、マイヤが前衛をすることはないっす。なぜなら、あたしもアルマも、マイヤに負けるわけにはいかないから。あたしたちには、体を張ることしかできないからっす。」
「・・・・え?」
「だから。支援役は、マイヤ。マイヤに任せる。」
「で・・・でも、あたしは・・・。」
「ここからあたしの防御は、全部マイヤに任せるっす。」
「ちょ、何言ってんだ!あたしの魔法じゃ・・・」
「止めるのは一瞬でいい。防ぐのも全部じゃなくていい。マイヤの思うとおりにやったらいいすよ。」
「でも、あたしは・・・。」
「そしたらあたしが、必ずあいつを仕留めてやるっす。」
シャムスはそれだけ言うと、再び黒雷蛇に向き合う。
黒雷蛇は口をふさいだ大楯を吐き出し、今はタルガットと向き合っていた。
「おい待てシャムス!あたしじゃ・・・」
「獣人の、戦士の力、よおく見てるんすよ!」
マイヤの言葉を聞くことなく、シャムスは再び黒雷蛇の元へと走り出す。
お読みいただきありがとうございます!
あと数話と言いながら、なかなか進みません、ごめんなさい。
一緒に楽しんでいただけるといいのですが。。。
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