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3-15 急襲

早朝。ラスゴーの町の北西のはずれ。職人が多く住むエリアの空き家前には、今5人の冒険者たちが集まっていた。

いずれもこの町では珍しい、金級のベテラン冒険者だ。


そこに冒険者ギルドのサブマスターであるダリガ・ソロミンが、道具屋の主人エリシュカを連れてやってくる。


「状況は?」

「ついさっき、二人の男が大きな袋を担いで入っていった。袋の中身は、富裕街に住む商店主の娘。庭で水やりをしているところを狙われた。」

「間違いないか?」

「ああ、俺がこの目で見た。」


ダリガの質問に簡潔に答えるのは、バリ・ウテムラト。ダリガが冒険者時代に率いていたパーティのメンバーで、現在はリーダーだ。


「中には何人いる?」

「1階に一人。油断してるようで今は酒をくらって寝てるな。2階以上には人気はなし。だが、昨日の夜から都合24人が中に入っていったはずなんだが出てきた痕跡がねえ。恐らく地下に集会場みたいな空間があるはずだ。」

「町の外に出た可能性は?」

「外はラカルゥシェカのパーティが張ってる。外に出てきた奴はある程度泳がせてから捕まえるように言ってあるし、何か異変があったら知らせてくるはずだ。」

「ほかになにか気になる点は?」

「ひとりだけ、強いのか弱いのかよくわからない奴はいたな。最後に入った奴だ。だが他は、せいぜいがコソ泥か、冒険者崩れだ。商人風の奴らもいたが、俺らの相手になるようなやつはいねえ。」

「わかった。では、潜入する。先頭はシャヒダが頼む。いいか、こちらに危害が及ばない限り、極力流血沙汰はなし。無力化させる方向で頼む。」


名前を呼ばれた獣人の女性は返事をすることもなく、音もなく空き家に近づいていく。彼女もまた、ダリガのかつての仲間だ。

シャヒダは玄関前で建物内の様子を伺っていたが、すっと音もなく扉を開け中へ。

わずかの間をおいて、再び顔を出すと、ダリガ達を手招きした。


空き家の中には報告通り男が一人。手足を縛られた状態で床に転がされているが、今のわずかな時間でシャヒダがやったのだろう。相手が無抵抗だったとはいえ、恐るべき早業だ。

当のシャヒダはといえば、すでに奥の部屋の探索をはじめていた。この階のどこかから地下へと行けるはずなのだ。


ほどなくして、シャヒダが食堂のテーブルの下、敷物に隠された地下通路への扉を発見する。


「下に地下室。人はいない。地下室の壁に細工がしてあって、下水溝に続いてる。そこから先はまだ見ていないけど、人影はなかったよ。」


やや時間を置いて戻ってきたシャヒダが言う。

それを聞いたダリガがエリシュカに尋ねる。


「城壁の外に出口があるんだからそっちに向かえばいいんだよな?」

「ん~、そうね。たぶん、下水溝の壁のどっかからその抜け道にでられるはず。その途中に隠し部屋があるはずだから~。」

「よし、じゃあみんなそれで、シャヒダは引き続き先頭を頼む。」


一行は地下へと降りる。地下は予想以上に広く、宿泊施設になっているようだった。だが、人の気配はない。

いくつかある部屋の中で一番広いエントランス風の空間の壁には本棚が置かれており、それを除けると下水溝へ通じる穴があけられていた。

その穴を抜けて、一行は下水溝へ。真っ暗なので、エリシュカが魔法で小さな灯りを生み出し、その灯りを頼りに進む。

下水溝の北側はすぐ壁になっていたが、その一部が自然崩落したかのように崩れていた。だがそれはカモフラージュなのだろう。崩れた壁の向こう側には通路がつくられていて、その入り口は格子戸でふさがれていた。

その向こう。通路の右手に扉が見える。おそらくそこが隠し部屋なのだろう。


「鍵がかかってる。壊せないことはないが、恐らく気づかれる。どうする?」

「ん~。出口はふさいであるんだし、こうなったら強硬突破しかないね~。一気に向こうの扉も破壊して突入。あ、できるだけ流血沙汰は抑えて捕縛する方向で~。それと、誰か一人はそのまま通路を抜けて、向こうのパーティに状況を知らせて~。」

「あたしが、そのまま向こうまで走ろう。」

「扉の破壊は俺に任せろ。」


この段になって隠密行動はもはや意味がないので、エリシュカは灯りを大きくして視界を確保する。

シャヒダが短刀でカギを破壊し、そのまま伝令として通路の奥へと走り去る。

さらに後続として控えていたバリが手に持つ長剣を一閃し、通路途中にある扉を破壊。

その瞬間に扉の奥から2人の男が襲い掛かってくる。

だが、バリは二人の首元に剣の峰を当て、瞬く間にその意識を奪う。

そして4人の冒険者とダリガ、エリシュカが一気に扉の奥へと踏み入る。

エリシュカは一瞬で内部の状況を把握する。

50人は入れそうな広い空間。横の壁は人工的に積み上げられた石の壁。その奥には檻。檻の中にいるのがさらわれた子供だろう。報告では1人だったが、5人の姿が見える。

檻の手前には商人風の男が数人。人買いだ。さらにそれぞれの人買いの周りに数人の護衛が見える。


「ラスゴー支部冒険者ギルドサブマスター、ダリガ・ソロミンだ!全員動くな!動けば容赦はしない!」


ダリガが叫ぶ。

その間に、エリシュカが呪文を唱える。


「どうどうと唸れ土の(くちなわ)。その根源たる力は(れん)。我が憐憫(れんびん)の写し身よ、堅牢なる枷となれ。」


無数の土の蛇が現れ、中にいた者たちを拘束していく。護衛として来ていた者たちの多くはその拘束を逃れたが、彼らもあっという間に冒険者たちの手でその意識を刈り取られていく。


「よおし、全員拘束しろ。」


だが、冒険者たちが動き出したその瞬間。一人の男が突然エリシュカの魔法による拘束を解くと、落ちていた剣を拾い上げて、そばにいた冒険者の一人に襲い掛かった。


「危ない!」


エリシュカの声で気づいた冒険者は咄嗟(とっさ)にその場を離れる。だが、男は冒険者を追うこともなく、その場に昏倒する護衛の男、そしてエリシュカの魔法で拘束されていた人買い商人を次々と切り捨てていく。


「なっ!」

「そいつを止めて!」


男の目的に気づいたエリシュカが叫び、ダリガが切りかかる。その剣を(かわ)した男を冒険者たちが包囲する。


「諦めろ!お前に勝ち目はないぞ!」

「ふふふ。金級の冒険者に加えて、狂刀ダリガとアールブルの弓箭姫(きゅうせんき)までが相手では確かに分は悪い。」


かつての二つ名で呼ばれたエリシュカがわずかに眉を(ひそ)めながらも、相手を観察する。

金色の髪に赤い瞳。端正な顔立ちに、貴族風の上等な服装。年齢は30歳前後といったところか。だが、なぜか年齢以上の年輪を感じさせる。

こいつは逃がすわけにはいかない。エリシュカは集中力を高めながらも、そのことを感じさせないよう挑発する。


「私のことまで知ってるなんて、随分とこの町に詳しいのね~。」

「それはもう。随分と時間をかけて準備をしましたからね。」

「へえ~。その努力が今日無駄になるわけね~。」

「いいえ、私の目的はすでに果たしました。まもなく状況は動き出しますから。」

「何人か、血を流させちゃったものね~。でも、そっちの方ももう対処済みって言ったら~。」

「・・・ほほう。私の狙いをご存じだったとは。」

「可哀想に~。時代に取り残されて、焦ったばかりに失敗するなんて~」

「そのような軽い挑発に、私が乗るとでも?」

「挑発って思っちゃうあたり、すでに乗せられてるんじゃな~い?」

「・・・ふふふ。まあ、いいでしょう。ではお手並み拝見ということで、ここはひとまず退散させていただきましょうか。」

「すでに出口も包囲している。諦めろ。」ダリガが口を挟む。

「なるほどなるほど。」


その時だった。突然、地響きをあげて地下全体が大きく震えだす。


「な、なんだこれは!」


ダリガが叫ぶ。その一瞬のスキをついて、男が手に持つ剣を投げつける。

エリシュカがダリガに体当たりするようにしてその剣を躱す。だが、その剣はまだ息のあった人買い商人の胸に刺さり、その命を奪う。


「そいつを捕まえて!」


エリシュカが叫び、冒険者たちが一斉に男に迫る。

男はすでに魔法の矢を発動していた。冒険者たちは易々とそれを躱すが、魔法の矢が向かう先にはまだ拘束されたままの人買い商人やその護衛がいる。

エリシュカが魔法で土壁をつくり、その矢を防ぐ。

魔法は防げたが、それによって冒険者たちの動きも制限される。その間に、男は壁際へと走り寄った。

そして次の瞬間。男が壁を操作すると、そこに新たな隠し通路が現れた。


「くっ。いちいち無駄に人を狙いやがって!」ダリガが叫ぶ。

「ふふふ、皆さん本当に優秀だ。確かに、出口が一つだったら私も危なかった。だが、この町で私のするべきことは終わりました。追ってこられるのは困るので、皆さんにはこいつのお相手でもしていただきましょう。」


そして男は壁の向こうに消える。と同時に隠し通路の奥から現れたのは、全身を赤黒く染めた巨人。

オーガと呼ばれる大鬼だ。


「な、オーガだと!」


バリが叫ぶ。オーガはラスゴーの迷宮でも深層に現れる強力な魔物だ。男はすでに通路の向こうに姿を消した。追いかけたいところだが、人手を減らして対処できる魔物ではない。


「くそっ、お前ら気を抜くなよ。とにかくまずこいつを仕留める。」


そして、バリ達のパーティ4人とダリガ、エリシュカが共闘してオーガとの戦闘が始まる。

人の倍近くの巨体を誇るオーガは強靭な肉体と高い膂力(りょりょく)を持つ。そしてその皮膚は固く、魔法にも斬撃にも強い。

だが、さすがは金級の冒険者たち、オーガの強力な一撃をかいくぐり、着実にダメージを与えていく。

中でもダリガは現役冒険者と比べても遜色ない動きで、オーガを翻弄する。

エリシュカはその支援をしながら、まだ息のある人買い商人やその護衛を魔法を使って後方へと移動させる。巻き添えにならないようにするためだ。

そして、なんとかオーガを倒したその瞬間。

その血肉が最後のきっかけになったかのように、再び地下道全体が大きく揺れる。


「あ~らら。こいつを倒すのも計算のうちか。やられたわね~」

「エリシュカ?どういうことだ?」ダリガが問い詰める。

「ん~。ちょっと説明してる時間はないかな~。ダリガ、何か聞いてない?」

「な、なにをだ?」

「不測の事態が起きたらなんかしろってジョーガサキくんから言われてない~?」

「あ!そ、そうだ。そ、その。ケリドウェン様を呼べと。」

「ああ、なるほど~。ケリドウェン様~、いらっしゃいます~?」


突然虚空に向けて呼びかけるエリシュカ。

するとエリシュカの頭の上に、生協の守護神、ケリドウェンが現れた。

あっけにとられるバリ達一行。

それを無視して、エリシュカはケリドウェンを自分の掌に乗せて。


「エリシュカはん、呼んだかいな?」

「ケリドウェン様、状況は把握できてますよね~?」

「うん、ちょうどいまヌアザに伝えたとこやで!あたしもこれから、ランダちゃんとこ行ってくるわぁ。」

「ランダちゃん?」

「迷宮の2階へな。内側からふさぐみたいやなあ。」

「ああ、なるほど~。じゃあこっちは、それが失敗したときの保険てことですね?」

「せやせや。エリシュカはん、よぉわかっとるなぁ。ほな、後はよろしゅう!」


そう言って、ケリドウェンは消えた。

訳が分からないダリガがエリシュカに詰め寄る。


「エリシュカ、説明しろ!」

「ん~、とりあえず迷宮が成長期に入りました~。」

「な、なんだと!」

「成長が進むと、たぶんこの部屋が迷宮につながりま~す。そうなると、下水溝を通って迷宮の魔物が町にあふれま~す。」

「お、おいふざけんなよ。」

「なので~。そこの人買いやら護衛やらは死んだのも含めて外に移動をお願いします、ここに置いとくと、迷宮の餌になっちゃうので。その後、皆さんはここに待機。万が一迷宮がつながっちゃったら、ここで魔物を抑えてくださ~い。」

「お、お前はどこ行くんだよ!てか、あの男はどうすんだよ!」

「あいつはどうせもう追いつかないから放置かな~。あたしは迷宮へ~。」

「まて!私もいくぞ!」

「でもここが・・・あ~、うん。多分いけるかな。じゃあ、ダリガは迷宮へ~。皆さんは申し訳ないけど、さっき言った通りでお願いします~。」


意味が分からないながらも動き出す一同。

そしてエリシュカとダリガは、迷宮へ向かって走り出した。


お読みいただきありがとうございます!

ちょっと場面があっちいったりこっちいったり、ややこしくてすみません!

あと数話、3章完結まで頑張って面白くしていきたいと思います!

ブックマーク&評価をお願いいたします!


※誤字報告いただいたので修正いたしました!ありがとうございます!

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