3-13 マイヤ・アールブル
マイヤ・アールブルは混乱の最中にあった。
自分の感情を、どう捉えればいいのか。もはやわからなくなっていた。
タルガットに憧れ、タルガットの様になりたいと願い、そのために我流で修練を積んできた。
里の仲間は、誰も理解してくれなかった。
魔法に長けたエルフがなぜ剣などを持つ必要があるのか。まして支援魔法に才能の片鱗を見せていたマイヤがなぜ、と。
だがそんな声は気にならなかった。
冒険者にさえなれば。タルガットの元で、彼に指導を仰ぐことができれば。
今、その願いは叶った。
だが、タルガットに与えられた役割は、やはりパーティの支援役だった。
悔しくて、認められたくて、シャムスに勝負を挑んだりしてみたが、結果は変わらない。むしろ自分の長所を見つめ直せと説教までされる始末。
そして自分自身を見つめ直せば、前衛としての才能のなさが、支援役としての適性がまざまざと明らかになるのだ。
それでも、自分の在り方を変えるつもりはなかった。
その気持ちに変化があったのは、宝箱から出たワンドを渡されたときだった。
もうこのパーティではお前が前衛になることはないぞと、他ならぬタルガットに告げられたような気がした。
その夜、パーティのリーダーであるアルマが話しかけてきた。
形ばかりのリーダーの言葉などに何の説得力も感じるものかと思った。だが、アルマの話は思いがけないものだった。
それは、シャムスとランダの話だった。
二人の村がかつて魔物に襲われて滅んだこと。
その時に彼女たちを救ったのが、恐らくタルガットだということ。
彼女たちがその時の心の傷に苦しみながらも、タルガットに憧れ、冒険者を続けているということ。
「多分、シャムスちゃんもランダちゃんも、最初はタルガットさんみたいになりたいって思ってたんですよね。でも、おんなじにはなれないですから。」
「それで?あいつらはあきらめたんだろ?あたしはあきらめない。」
「うーん。あきらめたっていうのとはちょっと違うと思うんですよね。タルガットさんになるんじゃなくて、タルガットさんと肩を並べられる冒険者になることを選んだんじゃないかなって思うんです。」
「・・・・・。」
「どこか一つでもいいから、ここはお前に任せるって、そう言ってもらえるように。それは、タルガットさんとエリシュカさんとの関係がそうだから。二人を見ているうちに、自然とそうなっていったんだと思います。・・・て、何にも任せてもらえてない私が言うのもどうなんだって感じですけどね。」
アルマの話を聞いて、マイヤは自分がひどく幼稚なことにこだわっているように感じた。
タルガットとまったく同じには、なれない。それはもう痛いほどわかっている。
そしてもうひとつ。
タルガットとエリシュカの関係は、幼い頃のマイヤにもまぶしく見えていた。
もしかしたら自分は、本当はエリシュカになりたかったのだろうか。
エリシュカのあの位置で、タルガットと共に冒険をしたかったのだろうか。
一体自分はどうなりたいのか。自分自身がわからなくなって、マイヤは迷宮の村を出た。
わからないまま、10階層へ。わからないからこそ、自分を試したかった。自分にはこんなことができるんだぞと、アルマ達に示したかった。
最初の戦闘で、すぐに後悔した。
現れたのは兎の魔物。だが、動きが素早すぎて、マイヤの剣は当たらない。当たっても、針のような毛皮に阻まれて攻撃が通らない。何度も何度も攻撃を重ねて、最後は殴り殺すような形でかろうじて倒しきった。
たった一匹でこんな調子では、群れに見つけられたらもう手には負えないだろう。だが、今更戻ることもできない。マイヤはとにかく魔物に見つからないように進むことしかできなかった。
そこで、3人の冒険者に声をかけられた。
下品で、粗野で、見るからに嫌いなタイプだった。だが彼らは鉄級の冒険者で、生協の組合員であると言ってきた。マイヤのことも、生協の売店で見かけたことがあるという。さらにマイヤが黒雷蛇を狙っていると聞くと、彼らはニヤニヤと笑いながら、共闘を申し出てきた。
普段であれば絶対に断るところだ。だが、この階層の魔物はまだ自分の手には負えない。マイヤは共闘の提案を受け入れた。
そして。
マイヤと3人の冒険者たちは、黒雷蛇に出会う。
丁度その頃。
アルマ達が村長宅の寝室で起きだしていた。
「アルマさん。アルマさん、起きてください。」
「おはよ~。ん?ランダちゃんどうしたの?」
「マイヤさんがいないんです。」
「え?ほんとだ。先に顔洗いに行ったのかな。て、あれ?マルテちゃんは?」
「マイヤがもっていったんすかね?」
「ええ?」
不審に思いながらも、アルマ達は顔を洗うために小川へと向かい、そこでマルテを発見することになる。そして、マイヤが夜中にマルテをここまで運び、そのまま村を出たということを聞かされた。
「マルテちゃんなんで止めないの!」
『止めたって聞くかよ。お前らに知られないように、わざわざあたしをここまで運んできたくらいだぞ。』
「それで、どこへ行ったかはわかりますか?」
『さあ、冒険者に向いてないことがわかって、町にもどったんじゃねえか?』
「とにかく、タルガットさんに知らせるっすよ。」
ちょうど起きだしてきたタルガットに状況を伝え、全員でおっさん幽霊ジナイダにマイヤのことを聞いた。ジナイダは結界を張ったアルマ達の寝室には入れないので、夜の間は元の骸骨に憑りついているのだ。
「そういえば、夜中に『ちょっと出てくる』て行ったきりじゃのう。」
「どこ行ったかわかる?」
「さあのう。」
「おっちゃんのポンコツ!」
「・・・・・。」
アルマ達は村はずれの森にいるおっさん神ヌアザを呼び出す。
「ああ、マイヤはんなら10階層におるなぁ。」
「今どうしてるかわかる?ケガとかしてない?」
「大きくて黒い蛇と戦っとるみたいやなぁ。なんや知らん冒険者たちと一緒に。」
「あの馬鹿野郎が!」
「ったく、勘弁してほしいっす。」
『同感だ。』
ともあれ居場所はわかった。恐らくマイヤは黒雷蛇と戦っているのだ。そしてそれは、前衛としての己の力をアルマ達に示すためだ。
放っておくわけにはいかない。他の冒険者と一緒とはいえ、その冒険者たちの実力もわからないのだ。
「とにかく、急いで追いかけるぞ。準備しろ!」
「「「はい!」」」
アルマ達は急いで装備を整えると、10階層の従業員通路へと向かった。
そしてアルマ達が10階層へと向かう頃。
ラスゴーの町では、エリシュカの店に向かう冒険者の姿があった。
冒険者は、店に着くなり、休んでいた冒険者たちに言う。
「起きろ!空き家で動きがあったぞ!」
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最近なんだか反応が乏しかったので。。。
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