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3-12 きざし

マイヤが迷宮の村から姿を消した日の夜。

殺鼠剤の精製に追われるエリシュカの店を、ある人物が訪れた。


「はいは~い。申し訳ないけど、今日はもう店じまい・・・て、なんだ、ダリガじゃない。」


それは冒険者ギルドのサブマスター、ダリガ・ソロミンであった。


「遅くにすまねえな。ちょっと話があるんだ。ついでに、悪いけど食事させてもらえねえかと。お前の分もある。」


ダリガは市場で買ってきた料理を見せる。


「今殺鼠剤を大量につくってるところだから、匂うわよ~」

「あ?ああ、別に気にしない。」

「そう?じゃあ入って~。私も一息つきたかったところだから、ちょうどいいわ~」


ダリガは店の奥にあるテーブルに買ってきた料理を次々と並べる。その間にエリシュカがお茶を用意する。


「それで~?なんかあったの~?」

「ああ、例の迷宮がらみでな。この近所に空き家があるだろう?そこを見張れとジョーガサキに言われたんだ。」

「んんん~?」

「意味わからんだろう?まあ、順番に説明する。とりあえずあいつは、おそらく何某(なにがし)かの犯罪組織がその空き家を根城にしてるだろうって言いやがったんだよ。そんで、迷宮の話を聞いた後から今日まで、交代で張り込んでたんだけどな。」

「まってまって。それ、あたしが聞いちゃっていいのかな~。」

「構わんぞ。というか、犯罪組織が本当にいた場合は、エリシュカにも伝えろって言われてる。それで来たんだ。」

「ジョーガサキくんがそう言ったの?」

「ああ。」

「ということは、見つけちゃったわけね~?」

「ああ。それもとんでもないのが引っ掛かった。」


そこでダリガは食事の手を止め、説明を始めた。

きっかけはもちろんジョーガサキだ。彼は「犯罪組織が根城にしている可能性がある」と言った。そして「もしも犯罪組織が実際に根城にしているならば、それはきっと人さらいの類だろう」とも。

ジョーガサキはさらに、「場合によっては廃屋の地下から防壁を越えて、町の外に通じる地下道があるかもしれません」とまで言っていた。


ジョーガサキの言っていることはまったく理解できなかったダリガだが、ギルドマスターに言われている手前、「空き家を監視しろ」というジョーガサキの指示を無視するわけにはいかない。

それは、ジョーガサキが上げた「やってもらいたいこと」の1つだからだ。

ちなみにダリガがやるべきもう一つは、ある噂を冒険者の間で広めること。それはもう、手配が終わっている。


仕方なくダリガは、信頼できるかつての冒険者仲間に声を掛け、空き家の監視をはじめた。すると、空き家の割には妙に多くの人の出入りがあることがすぐにわかった。

一見すると不動産の管理人か、空き家の所有者のようにも見える。だが、明らかにおかしい。

出入りする人間を追跡させたところ、散歩を装って富裕層の住むエリアや獣人が多く住むエリアを頻繁(ひんぱん)に歩き回っていることを確認。

いずれも、人さらいから狙われやすい人々だ。


さらに、防壁の外側にある隠し通路の出入口も発見した。

その出入口はラスゴーの迷宮入り口からさらに西に進んだ辺り。小さな林の中にあった。

冒険者に見つかりそうな気もするが、町の出入り口はラスゴーの迷宮の東側。

わざわざ迷宮の西側に行く者はまずいない。

恐らくその辺にあるだろうと、これもジョーガサキから聞いていた通りだった。


「じゃあやっぱり人さらいだね~。町から安全に連れ出すために、抜け道をつくってるのも納得。もう捕まえたの?」

「いや、さすがにそれは証拠が少なくて無理だ。だが、見張りは続けている。奴らが動いたらその場で踏み込めるよう、段取りはできている。」

「ふむ。じゃあなんの問題もないじゃない。なんでそんな不機嫌なの~?」

「人さらいだぞ?随分前から、この町でも問題になってたことは知ってるだろう?」

「ん~?」

「それをたったの一日、いや、迷宮の話を聞いてから何時間もたってない。そんな短時間で何がわかるんだ?てか、迷宮が成長するっつう話が、どうやったら人さらい組織につながるんだよ?意味がわからん!」

「あ~。つまり、町の長年の問題をジョーガサキくんがあっさり解決しちゃって、しかもなぜジョーガサキくんがその答えに辿り着いたのかわからないが悔しいのね~」


そこでエリシュカも考える。

確かに迷宮の話と犯罪組織の話はかけ離れすぎている。だが、ジョーガサキはそこになんらかの因果関係を見つけたのだ。それは何か。

今ある情報だけではエリシュカにもわからない。では別の方向から考えてみよう。ジョーガサキはわざわざダリガを使って、エリシュカにそのことを伝えてきた。それはどういうことか。

ああ、そうか。エリシュカは気づいた。逆から考えればいいんだ。


「ジョーガサキくん、その組織についてはなんか言ってた~?」

「ん?いや、かなり大掛かりな組織だろうとは言っていたが?」

「な~るほど。じゃあジョーガサキくんは気づいてないのかな?それか、知らないのかな~?」

「な、なんだ?何かわかったのか?」

「ん~、もしかしたらだけど、その組織、結構手ごわいかも。踏み込むなら、対人戦に強い冒険者を集めた方がいいかな~。そんでもって、なるべく流血沙汰は避けた方がいいかな。」

「ど、どういうことだよ。」

「確証はないし、説明はしにくいな~。てか、私も手伝うよ。あ、ジョーガサキくん、そうさせたかったのかも?」

「ぜ、全然わからんが、いいのか?殺鼠剤は?」

「あ~、多分。今できてる分以上は必要ないんじゃないかな。うん。それもあって、私に知らせてくれたんだと思うよ~。」

「よくわからんが、人手が増えるのは助かる。あと、ちょっとでもジョーガサキの考えが分かるのもな。」

「そんじゃあそういうことで~。あ、じゃあこのお店使ってよ。監視してる人たち、交代制でしょ?休憩場所にしたらいいよ~。」


こうしてエリシュカは、ダリガたちと行動を共にすることになった。

監視対象となる空き家が近いのは好都合ということでダリガも即座に了承して、見張りを続ける冒険者に伝えるために出ていった。


しばらくして、ダリガが戻ってきたので改めてお茶を入れ直して、食事を再開。

あとはもう、気づかれないように慎重に監視を続けて、事態が変化するのを待つだけだ。

食事を終えた頃、見張りを終えた冒険者が二人やってきたので、エリシュカたちはテーブルを空けて彼らに譲る。

その後、つくりかけの殺鼠剤などを片付け、作業場を臨時の宿泊スペースにしてから、エリシュカとダリガは住居スペースへと移った。


だが翌日。思いの他早く、事態は激変することになる。

そしてもう一つ。

ダリガ班とは別に、ギルドマスターであるクドラトの班でも、ひとつの作戦が動き出す。

ジョーガサキがクドラトに頼んだ「やってもらいたいこと」を実行するためだ。


「おぅ、全員揃ったようだなぁ!」

「ええ。というか、朝からうるさいです。あと近いです。」

「だっはっは。気にすんな!」

「はあ・・・もういいです。では、参りましょうか、ラスゴーの迷宮に。」


クドラトに答えるのは、いつもと変わらない仏頂面の平職員。


ジョーガサキである。


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