3-11 築城
「ほいじゃあおっさん、あとよろしくー。」
「ほいほい。そっちもおきばりやすー。」
ヌアザ神に現状を報告して、アルマ達は今日も迷宮の調査に向かう。
本日は8階層からだ。
「それにしても神さまとは・・・わしも長いこと亡霊やっとるが初めて見たわい。お嬢ちゃん変わっとるのう。」
「えへへ。それほどでも。」
『褒めてねえからな。一応言っておくけど。』
「いやしかし、お嬢ちゃんたちに会えたのは僥倖じゃよ。こうして、異変を事前に知らせることもできるしのう。まさに神のお導きじゃな。」
ヌアザ神は、信徒の減少とともにその力のほとんどを失った。
だが、完全に力を失ったわけではなく、今でもいくつかの奇跡を起こすことができる。
その一つは、他の神との交信。
ヌアザ神はこの力を使って、ギルド生協売店の神棚に御座すケリドウェンと連絡をとれるため、アルマ達はいちいちギルドに戻らずとも調査の状況をジョーガサキたちに知らせることができるのだ。
それをさせているのは、もちろんジョーガサキである。
要するにジョーガサキは、恐れ多くも生協の守護神を遠距離通信手段として活用しているのだ。
そしてもう一つは、場所を問わず、信徒の前に顕現できること。
現在、ギルド生協の組合員は十数人程度しかいないが、その組合員たちは生協の売店を利用する際になんとなく神棚に安全を祈願したりする。
つまり彼らの多くは、知らずヌアザの信徒となっているのだ。
ヌアザ神は彼らを利用してこっそりと顕現し、独自に迷宮の情報を集めていた。
これもまたジョーガサキの指示であるが。
そんな便利なヌアザが積極的にジョーガサキの手伝いをしてくれているので、アルマ達は心置きなく迷宮調査と探索を続けられているというわけだ。
「ほいじゃ、アルマはんたちに負けんよう、こっちも頑張ろうか。」
「ブモォォ!」
ヌアザが村の入り口に集まった魔物たちに声をかける。その魔物の群れを束ねているのは巨大な体躯を誇る一頭の牛であった。
ドーン。
ドーン。
ドーン。
ズ・・・ズズズ・・・ズズズ・・・
ザザザザザー。
「ところであれ、一体何やってるんすかね・・・」
「シャムスちゃん・・・世の中、知らなくていいこともあると思うんだ。」
「あ・・・そっすね。」
ヌアザ神が一体何をやっているのか、アルマ達も詳細は聞かされていない。
指示を出しているのはおそらく、というか間違いなくジョーガサキだ。であれば、下手に聞くと面倒なことに巻き込まれかねない。
迷宮の変動に対する備えは彼らに任せて、自分たちは自分たちの探索を続けたほうが良い。
アルマはそう判断していた。
一定間隔で聞こえはじめた轟音を背に、アルマ達は従業員通路を抜け、8階層へ。
だが、この日の探索も順調とは言えなかった。
前日に狂った歯車は未だかみ合わず、彼女たちに微妙な影響を与えていたのだ。探索も戦闘も思った通りには進まず、その事実が彼女たちの空気を重くする。
そんな空気を引きずりながらも、一行はついに9階層へと到達する。
この階層を超えれば、ついに次は10階層。黒雷蛇がいる。
黒雷蛇はかなり強い。挑めるかどうかはタルガットの判断次第だ。なんとかこの階層で、しっかり連携の形を取り戻しておきたい。
この階層で現れる魔物は8階層と同じく、蛇と兎、狼だ。
だがここでは蛇の魔物が魔法を使うという。それに対抗するため、マイヤが全員に【聖援】をかける。主に魔法防御力が上がるスキルだ。
【聖援】の効果は非常に高かった。これで少しはパーティの空気もよくなるかもとアルマは思った。だが予想に反して、マイヤはなぜか気に入らないようだ。
そんなパーティの空気を読まず、ジナイダが言う。
「そういえば、この階にも宝箱があるぞい。行くかね?」
「行きます行きます!」アルマが即答する。
そして、おっさん幽霊ジナイダの案内で、宝箱の元へ向かう一行。
と、その途中で迷宮が大きく震えだした。
「全員体勢を低くしろ!」
タルガットの指示に従い、全員が身を低くして異変に備える。
震動は今までよりも長く、十数秒ほど続いた。
「今のは長かったな。全員無事だな?」
「無事でーす!」
「問題ないっす。」
「問題ありません。」
「あたしも問題なしだ。」
「ジナイダ。今のはどうみる?」
「間違いなく成長期に入る前の予兆じゃな。だが、まだしばらく猶予はあるじゃろう。」
「そうか・・・よし、それじゃあ行くぞ。」
小さな震動は、昨日も今日も散発的に起きていた。だが、ここまで大きな震動はなかった。
アルマ達はそのことを不安に思ったが、まだ猶予があるとジナイダが言うのならそうなのだろう。
一行は気を取り直して、宝箱をめざして再び進む。
ジナイダに案内された辿り着いたのは、前の階層と同じく、エリアのはずれにニョッキリ生えた塔型の岩だった。だが、岩の天辺には宝箱らしきものは見えない。
「こっちじゃ。下、下。」
ジナイダが指さす方を見てみると、塔型の岩の根元の辺りに小さな岩が積み重なっていた。
その岩を取り除いていくと、宝箱が現れる。
「こんなの、言われなきゃわかんねえな。」
「そうじゃろう?感謝してくれていいんじゃよ?」
「もしかしたらこの宝箱も最初から隠されてたわけじゃなくて、迷宮が『動いた』結果埋もれたのかもしれねえな。」
言いながら、タルガットが宝箱を開け、シャムスが真剣なまなざしでそれを見る。
こういうところでシャムスは学習意欲が極めて高い。
今回は宝箱を開けると矢が飛び出す仕掛けになっているようで、タルガットはわずかにフタを開けた状態でシャムスに罠の解除の仕方を教えていた。
宝箱の中から出てきたのは金属の棒に何かの石がはめられた短い杖だった。
「これ、なんですか?」アルマが尋ねる。
「ワンドだな。【神官のワンド】。支援系の魔法の効果があがるみたいだ。これはマイヤが使え。」
「え!こ、こんなの持ってたら剣が使えないぞ。」
「このパーティでのマイヤの役割は支援だろ?お前が持つのが一番だ。」
「うんうん。マイヤさん、遠慮なく使ってください!」
「え、遠慮なんかしてねえよ!」
「このパーティにいる限りマイヤが前衛に入ることはないっすよ。きちんと自分の役割に専念してもらった方がありがたいっす。」
「ランダのことは謝ったし、そのあとはちゃんとやってるだろうが!」
「マイヤやめろ。とにかく、今はお前が支援なんだからこれ使え。必要なけりゃ、あとで売るなりなんなり、アルマ達と相談して決めろ。」
「・・・わかったよ。」
しぶしぶワンドを受け取るマイヤ。
その後、幾度かの戦闘を経てこの日の探索は終わった。
神官のワンドはかなり良い武器だったらしく、マイヤの聖援の効果は大きくあがった。
それにより、戦闘もかなり安全にこなせるようになっていた。
だが、パーティの空気は重かった。
微妙な空気を引きずりながら、一行は迷宮の村へと戻る。
小川のほとりで夕食の準備をし、皆で夕食を食べ、それぞれに武器の手入れをしたり、体を洗ったりした後、村長宅へ移って就寝。
そして、翌日。
いつものように朝稽古のために早くから起きだすアルマ達。
だがそこに、マイヤの姿はなかった。
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