3-6 従業員の村へ
「まったく、お前はどうしてこう、変なものばかり見つけてくるんだ・・・。」
「うふふ~。やっぱりアルマとの冒険は楽しいわ~」
「アルマさんの特殊能力には驚くばかりです・・・。」
「姉さま、正直におっしゃってください。」
「・・・少々呆れました。」
「なんというか、面目ない。」
『おう猛省しろ馬鹿娘、人をツルハシのように使いやがって。』
アルマが偶然発見してしまった従業員通路を前に、パーティの面々がそれぞれに感想を述べる。
「よし、そんじゃあ、行くか。」
タルガットが宣言し、一同がうなずく。唯一声をあげたのはマイヤだった。
「まってまって!え?行くの?この通路?いやだって、こんなの里でも聞いたことないんだけど?こういうの迷宮ではよくあることなの?」
「いや俺も初めて見た。けどまあ、アルマだからなあ。」
タルガットの言葉に「うん、アルマだから。」とうなずく一同。当のアルマは、なぜか照れくさそうにモジモジしている。誰もほめてはいないのだが。
マイヤは理解が及んでいないようで、エリシュカが声をかける。
「戦うばかりじゃない。こういうハプニングも冒険者の醍醐味よ~。アルマはこのパーティのワクワク担当だから、これはもう行くしかないのよ~」
「そ、そうなのか・・・」
他の冒険者パーティのことなど知らないマイヤは、冒険者とはそういうものなのかと納得する。そんなわけはないが。
そしてアルマは「ワクワク担当っ!」と小さく呟いて目を輝かせている。語感が気に入ったのだろう。冷静に考えれば、あまり褒められていないと気づくはずなのだが。
ともあれ一同は従業員通路を進んでみることにした。ランダがネズミの雪さんを召喚し。先導する。
そこはどうやら、自然発生した洞窟を活用したもののようだ、だが明らかに人の手が加えられ、床面はだいぶ歩きやすくなっている。
壁には、さまざまな絵や文字が刻まれていた。アルマ達に読めるものもあれば、読めないものもある。
ゆるやかな下り道。その向こう側に明かりが見える。あれが出口なのだろう。
「ちちちち。ちちちち。」
先導していた雪さんが小さく鳴く。どうやら何かを見つけたようだ。
「気を付けろ、俺が先頭で行く。」
タルガットが先導を代わり、出口へ。
「な、なんだこれは。」
向こう側の景色を見たタルガットが警戒を忘れたかのように呆然と立ち尽くす。
「タルガット~?どうした・・・こ~れはまた、意外な展開ね~」
タルガットと同じように立ち尽くすエリシュカ。
そして、一同は洞窟の出口に辿り着き、その向こう側の景色を目の当たりにすることになる。
洞窟の出口は、すぐ崖のようになっていた。その断崖にそって、緩やかな下り坂が延びている。そこから下に降りることができそうだ。
崖の高さは、下に5階層分はあるだろうか。かなり高い。
上を見上げればさらに3階層分くらいの高さに崖の切れ目がある。そちらにも崖沿いの緩やかな坂を上っていけそうだ。
さらにその上には、なぜか空があった。ということはここは迷宮の外なのか。しかし、ラスゴーの町付近にこんな地形の場所はない。
だとすると迷宮か。迷宮では階層によって異なる世界の様になる場所もあるという。ここがそうなのだろうか。
そしてさらに驚くべき点がある。それは、崖を下ったその先。
そこには小さな林と湖と、そして人の暮らす村のようなものがあった。
「なななな!なんと!人の村がある!」
『さすがにこれは驚いたな。』
予想外の光景に皆が絶句するなか、アルマが見たままの感想を言う。パーティの中では最も長い時を永らえてるはずのマルテでも驚きだったらしい。
「とりあえず、あそこまで行ってみよう。」
再びタルガットが先導し、村をめざす一行。
崖を削ってつくられた道はかなり細く、ところどころ崩れていたりして危険だ。だが、上空には鳥型の魔物も見える。あれが襲い掛かってくる前に安全な場所まで移動したい。
と、そんなことを願うときほど、逆のことが起こるもので。
「鳥型来ます!数8!」
ランダが叫ぶ。
ランダは知らなかったが、それはヴクブ・カキシュと呼ばれる魔物だった。さすがに鳥が相手ではシャムスの投斧とタルガットの投げナイフは分が悪い。数に限りがあるうえ、当たっても外しても武器が回収できないからだ。
エリシュカが弓で、サカナのシノさんが水弾で牽制。
「アルマとシャムスは下に走れ!マイヤは盾で二人を守れ!」
「「「はい!」」」
エリシュカとシノさんの牽制で手ごわいと思ったのか、鳥の魔物は積極的には襲い掛かってこないが、しつこくまとわりついてくる。
翼を広げるとアルマより大きく、体全体が金色や銀色に煌めいている。さらによくよく見れば嘴の中には無数の牙のようなものが見える。その足もかなり鋭そうだ。
ヴクブ・カキシュが積極的には襲ってこないのを見ると、シノさんは誘導するように上空へと上がっていく。シノさんを追いかけて鳥の群れとの距離ができたタイミングでエリシュカたちも下へと駆ける。
そして、ヴクブ・カキシュとの距離が十分に離れたところでランダがシノさんの召還を解除。
しばらくはそのままで様子を伺っていたが、どうやらヴクブ・カキシュはアルマ達には興味を失ったようでそのまま上空へとあがっていった。
「どうやら・・・助かったようだな。」
「そうね~、ちょっとひやひやしたわ~」
それから一行は、森を抜けて村らしき場所へ向かった。
周囲には魔物の気配が感じられたが、襲われることはなかった。
どうも遠くから様子を伺っているかのようで、不思議な感じだ。
そして。一行は村に到着した。
村の入り口から見る光景は、ごくごく普通の村のようだった。
子どもたちが走り回り、家々の前では老人たちが椅子を持ち寄って日向ぼっこをしている。
おかみさん方は洗濯をしたり、井戸の前で話し合ったり。
だが、なぜか音がしない。匂いがしない。生活感がない。
「マルテちゃんこれって・・・どうなってるの?」
『あたしに聞くな馬鹿。』
「これは・・・死者・・・いえ、なんでしょう・・・」
「姉さまでもわかりませんか?」
「ごめんなさい・・・死者ともちがうような・・・よくわからない。」
「とりあえず、敵意はないようだし。はいってみよう。」
恐る恐る歩を進める一行。次第に村人たちの様子がはっきりとするにつれ、違和感は大きくなる。
相変わらず音がしない。そして、村人たちは何か透き通っているように見える。
と、小さな男の子たちが駆けてきて、マイヤにぶつかりそうになる。
「わ!あぶ・・・な・・・いい?」
マイヤにぶつかりそうになった男の子たちは、そこにマイヤが存在しないかのようにそのままマイヤの体を通り抜けて走り去ってしまった。
「な、なんなんだよ一体。」
「さあね~。とりあえず、あそこ、いってみましょ~」
エリシュカが指さしたのは村で一番大きな家。村長と呼ばれる存在がもしもいるのなら、その家はその者のものだろう。そこにいけば何かわかるかもしれない。
一行は村長宅へ向かう。
村人たちは彼らに一切関心を向けることがない。まるでアルマ達の方が幽霊になってしまったかのような感覚に陥ってしまう。
そして、村長宅と思しき家の玄関前。
タルガットが扉に手をかけようとした瞬間に。
まるで彼らを招くように、扉がひとりでに開いた。
そして奥から声が響く。
「ようこそ、お客人。危害を加えるようなことはないから、安心して入ってくだされ。」
それはしわがれた老人のようだった。
「・・・行くぞ。」
ごくりと息をのむ一同を見回し、タルガットが言う。
そして一同はその家へと踏み入り、家の主と対面する。
そこには、立派な椅子に座る一体の骸骨の姿があった。
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