3-4 4階層へ
マイヤが支援に専念することを決めたので、一同は改めてパーティの役割を再確認することにした。
まず、斥候役はランダが使役するネズミの雪さんと、サカナのシノさん。この2匹は戦闘時の牽制役も兼ねる。
次に、前衛はアルマとシャムス。主にアルマが引きつけ、シャムスが倒すというのが基本のスタイルだ。
そして、司令塔兼後衛はランダ。戦闘開始時に魔物との距離がある場合は魔法での先制攻撃も行う。また、状況によっては、ランダが魔法でトドメを刺す。
最後に、支援役がマイヤ。
マイヤのもう一つの固有スキルである【聖援】は主に魔法攻撃に対する防御力を高めるものだが、身体能力を向上させる効果もある。また、身体強化魔法とも重複できる。マイヤはこの【聖援】を中心に、状況に応じて【聖盾】で戦闘をサポートし、ケガを負ったメンバーの回復も担当する。
タルガットは特に役割を定めず、足りない箇所を補う役割だ。
役割を確認したところで、まず迷宮の3階層でその連携を試していく。
だが、その役割分担もすぐにうまく機能するわけではない。
マイヤが生み出した聖盾がかえって攻撃の邪魔をすることもあれば、前衛陣の視界を塞いでしまうこともある。
特に複数の魔物を相手にすると、状況の変化についていけず、支援が偏ってしまうようだった。
さらにもうひとつ問題点が発覚する。
「おいアルマ!今のお前が決められただろ!あたしの盾で抑えるタイミングに合わせろよ!周り見ろ!」
「えええ!私怒られてる!」
『お前が周りを見てないのは事実だけどな』
「ぐぬぬぬっ!」
「そういうマイヤこそもう少し周り見てほしいっす。盾ジャマっす。」
「な、なんだと!今のうまくやっただろうが!それより、ランダだ。お前あんなスゴイ魔法あるならもっとバンバン撃てよ。ビビってんのか?」
「えっとその、私は・・・」
「姉さまを悪く言うのは許さないっすよ!」
マイヤは自分が直接攻撃できない鬱憤を晴らしたいのか、アルマ達に色々と注文を付け始めた。そして、もっともその被害にあっているのはアルマだった。
戦闘ごとにこうしたやり取りが始まるので、探索の効率は前日よりもむしろ落ちているかもしれない。
だが、パーティ内の空気は前日よりもだいぶ良い。今は互いに文句もあるだろうが、それぞれがきちんと役割を理解すれば、良いパーティになるだろう。
タルガットは、彼女たちのやりとりをぼんやりと眺めながら思う。
「あー、ちょっといいか。とりあえず、マイヤの盾を使うのは基本的に牽制だけにしよう。いいか?敵の攻撃を防ぐんじゃなくて、相手の視界をさえぎったり、押し付けて動きをジャマしたりって感じだ。どいつを狙うのかはランダが指示。前衛役は今まで通り。防御に関しては各々が自分でなんとかしろ。」
「わかりましたー!」
「了解っす。」
「了解いたしました。」
「任せとけ!タルガット、ちゃんと見ててくれよな!」
こうして、粗削りながらもパーティの連携の形ができていく。
アルマとシャムスのことを良く知るランダが指示を出し始めたことで、戦闘時に混乱することはほとんどなくなった。
ただし、ランダの指示は予想外に細かく、戦闘後にも反省点の洗い出しなどが続くため、探索の効率はさほど上がらなかったが。
「ランダちゃんて、思っていた以上に細かいところ気にするんだね。」
「姉さまは怒ると笑顔で、理詰めで、相手を徹底的に追い詰めるタイプです。意外と、マイヤのやり方に一番ストレスを感じていたのは姉さまかもっすね。」
『陰険すぎるぞ巫女そこない。』
なんて会話も挿みつつ。
ともあれ、最低限の連携の形は整ったので、タルガットが許可を出し、このパーティとしては初めて4階層へと挑むことになった。
4階層へ至る階段の手前で遅めの昼食と休憩を経て、いよいよ4階層へ。
「おお、広い!」
アルマが見たままの感想を口にする。4階層も樹木エリアだ。3階層と違うのはその広さ。3階層はいくつかの大広間で構成されているのに対して、4階層はフロア全体がひとつの大きな空間となっている。
見た感じは岩場が目立つが、小さな林や草原、川などもあるらしい。天井は高く、全体が薄く発光しているため、薄曇りの日といった印象となっている。
この階層で最初に出会った魔物はパイアと呼ばれる猪だった。
攻撃的な性格で素早く、走り出すと手が付けられなくなる。また、猪の魔物は定期的に沼田場と呼ばれる泥たまりで泥を体になすりつける習性がある。そのため、全身の毛が固く絡まり合っていて斬撃が通りにくい。
「アルマは足を、シャムスは頭を狙え!マイヤ、走り始めか止まったところを狙え!突進させるな!」
矢継ぎ早に指示を飛ばすタルガット。経験のない魔物との戦闘では、こうして戦い方を示してくれる。特に注意するべきことがあれば事前に伝えるが、一度は自由にやらせるのがタルガット流だ。
突進を封じ、弱らせたところでランダが火矢を打ち込んで倒しきった。
「いいだろう。この辺はまだいいが、奥に行くと群れで出てくることもある。気を緩めるなよ。」
タルガットから一応の合格点をもらい、歩を進める一行。
と、2回パイアとの戦闘を経たところで、突然タルガットが足を止めた。それに気づいたマイヤが声を掛ける。
「タルガット、どうしたんだ?」
「ん?ああ、ここを見ろ、亀裂が入ってるだろ?」
タルガットが指差したのは足場を構成する大きな岩の層だった。見ればタルガットが言うように、縦に大きく亀裂が入っている。
「これがどうしたんだ?」
「以前来た時には、こんな亀裂はなかった。こういうのはな、迷宮が「動く」ときにできるんだよ。」
迷宮は定期的に形を変える。その際に地盤そのものが動くことがあり、それによってこうした亀裂が生まれるのだという。
「迷宮が動くことなんて、珍しくないんじゃねえのか?里ではそう聞いたぞ?」
「まあ珍しくはない。だが、迷宮が活動期にはいった場合にもこういう兆候はあるからな。ギルドへの報告案件になるんだよ。一応、情報料も出る。」
「情報料!?」
現金を渇望するアルマが会話に加わり、タルガットは苦笑する。
「まあ今日は様子見だからな。戦闘は経験できたし、ちょっと早いがここで引き返そう。そのついでに、他の階層でも「動いた」形跡がないか確認してギルドに報告するぞ。」
タルガットの判断に一同は従い、元来た道を戻っていく。
改めて見てみると、3階層でも、大広間をつなぐ通路などでわずかに「動いた」痕跡が見つかった。
さらに2階層では、さほど長くはないものの、これまでなかったはずの通路が見つかった。
「なんか、壁がキラキラしてる気がする!」
「ここの壁、わずかですが金剛石が含まれていると思います。」
アルマが見たままを口にしている横で、ランダが気付いた点を報告する。
「金剛石?」
「はい。巫術で使う道具は金剛石でつくるんです。私も修行中に何度か触らせてもらったことがあります。その時の感じに良く似ている気がします。」
「それじゃあ、この壁削って持って帰ったら、ランダちゃんの武器ができるかな?」
「いえそれは・・・たぶん物凄い量を削らないと足りないんじゃないかと。」
「そっかー。残念。」
その後は特に変わったところが見つかることもなく、一行は冒険者ギルドへ向かい、いつもの如く冒険者の並んでいないジョーガサキの受付で報告を行った。
「ジョーガサキさん!情報料ください!」
「アルマ・フォノンさん。情報料は、その情報の重要度によって支払われる額が決まりますので、今すぐにはお支払いできません。」
「なんと!」
「そんで、今後の調査はどうするよ?」
「皆さんは引き続き迷宮に行かれるのでしょう?でしたら、調査も並行して行ってください。別件をお願いしたかったのですが、そちらは他の冒険者にお願いすることにします。」
「ん?別件てなんだよ?」
「街の下水溝で鼠の魔物が増えているという報告がありまして、その調査です。」
「え?それって、以前私が罠を設置した奴ですか?」
アルマが尋ねる。以前、生協の指名依頼でアルマがネズミ除けの罠を設置したことがあったのだ。
「そうです。ですので、お願いしようと思ったのですが。」
「まあ、そっちはすぐ終わるだろうから、誰でもいいだろう。そんじゃあ俺たちは引き続き迷宮調査ってことで。」
「はい。お願いいたします。」
報告を終えた一行はギルドを出る。明日からは本格的に迷宮を進むため、その確認を行って解散となった。
嬉々として飲み屋へと向かうタルガット見送る一同。だが、マイヤは立ち去らず、ニヤリと笑ってこう言った。
「お前ら一緒に暮らしてるんだろ?今日、あたしも泊めてくれよ!」
「えええ?いいけど、寝る場所ないよ?」
「そんなの床でもどこでもいいって!このパーティ組んだきっかけとか、タルガットに教えてもらった内容とか、タルガットと一緒に行った冒険の話とか、タルガットの昔の話とか教えてくれよ!」
「ほぼタルガットさんの話じゃないですか・・・。」
「うぜえっす。」
こうしてマイヤは初めて、アルマたちの家にお泊りすることになった。
お読みいただきありがとうございます!
昨日、ブックマークが増えたところでいちいち騒がないと書きましたが。。。あれは嘘だ!
ブックマークが増えましたよー!わほーい!
て、すみません。今後はもういちいち騒がないようにします。
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