3-3 シャムスとマイヤ
迷宮の中、アルマ達の声が響く。
「アルマ!右から2頭来るぞ!」
「マルテちゃん!」
『ゥアオオオオォン!』
「ナイス、とりゃああ!」
マルテの音真似に驚いた灰狼が身を固くしたところで、アルマが一頭に槍を打ち下ろして仕留める。
残った一頭がすぐに飛びかかろうとするが、今度はそこにランダの声が響く。
「雪さん、お願いします!」
「トドメはお任せっすよ!」
ネズミの雪さんが針を飛ばして灰狼の視界を奪ったところで、その首にシャムスが右手の斧を振り下ろす。何度も戦ってきた相手だけに、危なげなく、戦闘は終了した。
ここは、ラスゴー迷宮の3階層。森林のようなエリアだ。
タルガットは新たに加わったマイヤは戦闘に参加させずに後方で他のメンバーの動きをよく見るようにと命じていた。
「み、みんな、結構やるんだな・・・。」
ネズミの雪さんとサカナのシノさんは、もうすでにパーティの連携に組み込まれており、アルマやシャムスもその前提で動けている。
『はっはっは!見たか今の!』
「マルテちゃん最高です!」
槍のマルテは、泉の迷宮で身に付けた「音真似攻撃」にはまっていた。元々人をだまして喜ぶような性格だったためか、音で相手をかく乱させるのが楽しくてしょうがないらしい。
そして音真似攻撃は、特に狼を相手にするときには真価を発揮する。かつての狼の長・朱牙の咆哮を真似するとほぼ確実に相手の動きが止まるからだ。
しかし、マイヤはただ見ているだけの状況は耐えられないようで。
「次!次はあたしにもやらせてくれよ!」
「わかった。だが、アルマやシャムスのジャマをするなよ。周りをよく見ろよ。」
「あ、あたしの方がレベルは上なんだぞ!ジャマなんかするかよ!」
どうやらこれはわかっていないなあ、と思いタルガットはひそかにため息を吐く。だが、問題点があるなら早めに洗い出した方がいいと、そのまま黙ってやらせてみることにした。
しばらく進むと、ネズミのシノさんが「ち。ち。ち。」と小さく鳴いて魔物の存在を知らせてくる。
「奥の草陰に3頭です。」
「おっしゃ!あたしに任せろ!」
マイヤが制止する間もなく、突進する。慌てて飛び出す灰狼。その一頭に向け長剣をふるうマイヤ。だが、やはり彼女の腕力で長剣は重過ぎるのだろう。その剣はあっさりと躱される。
と同時に、横合いから他の2頭が飛びかかる。
「せ、聖盾!」
慌てて盾を生み出して片方は防ぐが、もう片方は防げない。咄嗟に左手の盾で防ぐが吹き飛ばされてしまう。
「シノさん水弾を!」
倒れたマイヤに飛びかかろうとする狼にサカナのシノさんが水弾を飛ばして牽制。距離を空けさせたところでタルガットが突っ込み、一頭を仕留める。
その間に、アルマとシャムスは他の2頭に向かう。
「マルテちゃん!」
『ゥアオオオオォン!』
「もらったっす!」
マルテが音真似で狼の動きを封じたところでアルマとシャムスがそれぞれ一頭ずつを仕留める。
そして呆然と見ていたマイヤに向かって、タルガットが一言。
「ジャマはするなと言ったな。周りをよく見ろとも。」
「~~~~っ!!!つ、次だ!次こそ必ず!!」
だが、その後もうまくはいかなかった。
マイヤはなんとかいいところを見せようとして、その気持ちだけが空回りしている。動きはさらに雑になり、アルマやシャムスの動きをジャマする機会も増えていく。
その状況に最初に耐えられなくなったのはシャムスだった。
「いい加減にするっす!その長剣は重過ぎてマイヤには扱えないっすよ!」
「な、なんだと!あたしはもうずっとこれを使って来たんだ!あたしはこれがいいんだよ!あたしの思いも知らないで、勝手なことを言うな!」
「全然使いこなせてないっすよ。あと振り回されるとジャマっす。」
「ひ、一人だったら倒せるんだよ。お前らこそジャマすんな!」
結局、この日はこんな調子でろくに連携もできないままで探索を終えた。
素材の数こそいつもより多かったものの、それも頭割りで考えたらいつもと大差はない。
そして翌日。
この日も3階層で連携の確認を行った。ある程度の形ができないことには先に進むことはできないというタルガットの判断だった。
だが結果は同じ。むしろ前日よりもひどくなっているようでシャムスもマイヤも次第に苛立ちを隠さなくなり、パーティの空気は悪くなる一方。シャムスもマイヤも、爆発寸前といった状態だった。
アルマは珍しくパーティのリーダーとして二人をいさめたりしたが、そもそも形ばかりのパーティリーダーであるアルマの言うことなどシャムスもマイヤも聞くはずがない。
アルマはひっそり打ちひしがれ、それをマルテが笑い、ランダが慰める。
そんなことをしているうちに2日目も終わってしまった。
変化があったのは3日目だった。
マイヤが来てからはタルガットが担当することになっていた朝練に、エリシュカがマイヤを伴ってやってきたのだ。
「みんな、おはよう~。ちょっといいかな~。」
エリシュカの言葉に反応して、動きを止める一同。
対戦形式で稽古をするアルマ達を見て、マイヤは驚いたようだった。だが、エリシュカに促されると、意を決したように前に出た。
「シャムス!あたしと勝負だ!」
「はえ?」
「な、なんすか?」
『まためんどうなことを言い出したなおい。』
「あたしが勝ったら、今日はあたしがアタッカーだ!いいな!」
「なんで私なんすか?」
「お前がこのチームのエースだろ?」
「・・・シャムス、お相手してあげたら?」
「姉さま・・・私が勝ったらどうするんすか?」
「サポート役やってやるぜ!」
「・・・わかったっす。」
突然の申し出ではあったが、シャムスが受け入れ、対戦することになった。
マイヤは前日までと同じく剣と盾。シャムスは両手に斧を持ち対峙する。審判はタルガットだ。
「そんじゃあ、お互いに致命傷になるような攻撃は禁止な。いざとなったら俺が止める。判定も俺がするかな。それじゃあ、はじめ!」
タルガットと同時に動いたのはシャムスだった。
右手の斧を左手に持ち替えると、腰に入れた投斧を取り出し投擲する。
「聖盾」
マイヤはそれを固有スキルの盾でガード。その一連の動きをシャムスはじっとその場に留まって見ていた。
「もう一回いくっすよ。」
「なめんな!」
「なめてるのはどっちすか。」
シャムスは再び投斧を投擲。再びマイヤはそれを聖盾で受け止めた。
だが今度は、その間にシャムスは走り出していた。そして大きく飛び上がると、体重を乗せて両手の斧をその聖盾に打ち下ろした。斧は盾に阻まれる。
しかしシャムスの攻撃はそこで止まらなかった。斧を阻んだ盾に両足を乗せさらに高く飛び上がると再度盾に向かって全力で斧を振り下ろす。
すると、マイヤが作り出した盾はその衝撃に耐えかねて砕け散ってしまった。
「なあっ!!」
シャムスは着地すると低い体勢から右手の斧を振り上げる。
展開にまったくついていけないマイヤは慌てて左手の盾を構えるが、斧に弾かれて大きく体勢を崩した。その首にシャムスの左手の斧が迫り。
「そこまで!」
ピタリとマイヤの首元で止まる斧。あっという間に、シャムスの勝ちが決まった。
「おおおお、シャムスちゃん強っ!」
呆然と斧を見ていたマイヤ。だが、ようやく事態を理解したのか、シャムスを鋭い視線で見て、だが口調は抑えて。
「・・・あたしは、何がだめなんだ?」と尋ねた。
その目をじっと見つめるシャムス。だが何も答えない。
「シャムス。」
ランダに促され、シャムスは短く息を吐くと、一息にまくしたてた。
「マイヤの盾は強い。でもその盾で相手を崩したときのことしか考えていない。防いでも相手が崩れないことはある。防げず盾が壊れることもある。そもそも、魔法の盾に頼るつもりなら、その左手の盾はいらないし、頼る気がないなら、左手の盾の使い方を覚えるべき。その長剣も魔法の盾で崩した瞬間を狙うには大きすぎる。マイヤは自分の長所をまったく理解してないし生かしてない。自分の短所を補う努力をまったくしていない。そして、他の人間の長所や短所を全く見ていない。すべてが独りよがり。パーティでの役割もまったく頭にない。そんなのには負けない。たぶんアルマでも負けない。」
「~~~~っ!!!!」
「ちょっとなんか最後に、微妙に失礼なセリフが聞こえたような?」
『褒められたんだろ。喜んどけ。』
「あ、そうなの?わーい」
『・・・・良かったな』
シャムスに言いたいように言われたマイヤは顔を真っ赤にして、プルプルと震えながらうつむいていた。だが、意を決したように顔を上げてこう言った。
「よくわかった。当面は、支援に専念する。お前らのことももっとよく見て、パーティに貢献できるように努力する。だがな!これから毎日、あたしも朝練に参加する!お前に勝ったら、そんときはあたしがエースだ!」
「な、なんすかそれ?めんどくさいんすけど・・・
こうして、マイヤは初めてパーティでの自分の在り方を模索するようになる。
新たなパーティでの、3日目の攻略が始まる。
お読みいただきありがとうございます!
ブックマークが増えました!て、いちいち騒ぐのウザいすかね・・・?
今後はあんまり言わないようにします。でもうれしいのです。
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※誤字修正いたしました。